99%断罪確定の悪役令嬢に転生したので、美男騎士だらけの学園でボッチ令嬢を目指します

ハーーナ殿下

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第22話:お花見でトラブル

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 ファルマ学園は三学年制度だ。

 現代の学校とは違い、ここは年齢による規則はない。
入学時の年齢にも規定はなく、同級生が年下だったり逆もある。

 慣例的には騎士や乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダー才能ある子は、十四、十五歳くらいになると、ファルマ学園に入学する。

 入学してから三年生間、厳しい訓練や勉学の日々。
卒業後は大陸の守るために、各地へ巣立ってゆくのだ。

 確率的に貴族や武家の家に、騎士と乙女指揮官の先天性な才能ある子は生まれる。
 それ故に学園には貴族・令嬢が多く通う。

 基本的に学園には入学している間は、生徒たちは皆平等である。
 身分や年齢・性別に関係なく生徒は、大陸の平和を守るために切磋琢磨して、互いに技と力を競い合う。

――――だが"学年”に関して例外であった。
 
学園内では上級生に対して、ある程度の礼節を重んじるように、教師から教えられている。

『下級生は上級生を敬い、また上級生は下級生を守るべし』

 これは学園の創始者の教えの一つである。
 故に学園の中では、暗黙のルールがあった。

“上級生には逆らってはいけない”

 狭い廊下では上級生に対して、そっと道を譲り、席も譲る。

 そう――――学年による上下関係は、この学園には確かに存在していたのであった。



 そんな上級生の令嬢軍団に、ヒドリーナさんは取り囲まれていた。

「エリザベス様の席なのよ、そこは! 分かっているの、貴女⁉」

「これだから無知な新入生がいる新学期は、憂鬱ゆううつなのよね!」

 彼女を取り囲んでいるのは、怖そうな上級生の貴族令嬢の軍団。
全部で五人くらいかな。
 
 なんで上級生と分かるかといえば、身につけている"色布しきふ”が違うから。
この学園では令嬢に制服はなく、私服のドレスが制服代わり。
"色布しきふ”よって学年が判別できるのだ。

 うん、確かに近くで見ても、あの軍団は上級様だ。

 それにしても、いったい何が起きているのであろうか?

 私が一人で散歩に出かけていたのは、ほんの数分の短い時間。
その間にこの状況になったのだ。

よし、他の野次馬令嬢たちの話を聞いて、情報を仕入れてみよう。
 
……「何でもあそこは、"あの”エリザベス様の特等席という話ですわ……」

……「噂では、あの騒動は、何も知らない新入生に対する、毎年の恒例とも……」

……「巻き込まれたドルム家の彼女も可愛そうに……」

 遠巻きにひそひそ話をしている、令嬢の皆さんの解説では、こんな感じだった。
 
 なるほど。
 どうやら、あの席は空席だった訳ではなく、先約があったらしい。

 それを知らずに私たちが座ってしまった。
今はヒドリーナさんが言いがかりを、受けている最中なのであろう。
 
 しかも毎年恒例のドッキリ、イジメみたいな感じなのかな、これ? 
 なんか分からないけど、陰険な罠だ。
 
 それにしても、こんな嫌らしい罠に引っかかるなんて、私たちは運がない。
今日はラッキーデーだと思っていた、数分前の自分が恥ずかしい。

今、攻撃を受けているのは、今はヒドリーナさん。
前回に引き続き、さすがは“トラブルメーカ”なのかもしれない。
凶星の運命の下に生まれた彼女だ。

 おっと、ボーっとしてないで、ヒドリーナさんを助けに行かないと。
 
ここは穏便に過ごすために、令嬢軍団に素直に謝って、違う席に移ろう。

私は意を決して、ヒドリーナさんに近づいていく。

「遅くなりましたわ、ヒドリーナ様」

「マ、マリアンヌ様……! す、すみません、この席は……」

「どうやら私たちの、早とちりだったようですわね。さあ、別のテーブルに移動しましょう」

「うっ……マリアンヌ様……」

 近くに来て見ると、彼女は真っ青な顔をしていた。
原因は令嬢軍団からの、異様な圧力だろう。

 上級生のお姉さま方は、近くで見るとかなり迫力がある。
みんな豪華に着飾っているし、あと目つきとかも少しキツイ。

ヒドリーナさんは腰が抜けている感じだ。
でも早くここから撤収しないと。

彼女のトラブルメーカ体質だと、更なる事件が起こりかねない。
 
ヒドリーナさんを立たせるのを、手伝ってあげよう。
よいしょっと。

――――そんな時、向こうのリーダー格風な令嬢が、私の存在に気がつく。

「あら? 今来た、あちらの方はどなたかしら?」

この令嬢は……確か周りから『エリザベス様』と呼ばれていた人だ。

直接、私に尋ねずに、周りの取り巻きの人たちに聞いている。
なんか、かなり風格がある人だ。

 それにしても『エリザベス』?
うーん、どこかで聞いたような名だ。

しかも彼女は、かなり上級な貴族の令嬢なのだろう。
着ているドレスやアクセサリーも、他の軍団メンバー段違いに高そうだ。

「エリザベス様、あちらの方は、バルマン侯爵家の……“あの”マリアンヌ……様でございます」

「“あの”……真紅血クリムゾン・レッドの令嬢?」

「はい、そうでございます……エリザベス様」

 ん?
 なんか上級生たちはこそこそと小声で、私のことを噂しているのかな。

 アノとか意味深だ。
 それに真紅血クリムゾン・レッドとか、聞こえたような気がするけど?

いや、それよりも今は退避することが先決。

「さあ、ヒドリーナ様。一緒に皆様に謝って、向こうの席に行きましょう」

「マリアンヌ様がおっしゃるのであれば……」

立ち上がったヒドリーナさんは、深く息を吸い込む。
令嬢軍団に向かって、謝り始める。

「上級生の皆さま、この度は無知とはいえ、この席をとってしまい、まことに申し訳ございませんでした……」

ヒドリーナさんは席を譲り、上級生たちに謝罪する。
私も合わせて一緒に謝る。

 なんか悔しいけど、ここで波風を立てても仕方がない。
 
なんといっても今日は花見会。
めでたい席なんだし、この後は気分を切り替えていこう。

 ヒドリーナさんも、早くここから離れて、別の場所でワイワイ楽しみましょう!

――――だが、そんな謝った後だった。

「あら? お逃げになるのですか、ドルム家のお嬢さま?」

 この場から去ろうとするヒドリーナさんに、向こうのリーダー格……エリザベスさんが挑発をしてくる。

わざと挑発した口調だ。
うわ……なんか本当に面倒くさいな、この人は。
 
 でも我慢だよ、ヒドリーナさん。
ここで相手の挑発にのったら、こちらの負けで。

何しろ相手は上級生。
こんな公の場で上級生に逆らったら、今後が大変になる。

私とヒドリーナさんの学園生活に、支障をきたしてしまうのだ。

「うっ……」

よし、ヒドリーナさんは耐えてくれた。
はやく、ここから離れよう。

――――だが相手は追撃を仕掛けてきた。

「あら、これだけ言われても、何も言い返してこないのね? さすがは“媚《こ》び伯爵”として有名な、ドルム伯爵の娘さんであること。オッホホホ……」

 ヒドリーナさんのことに関して、エリザベスさんは何か馬鹿にしてきた。
合わせて取り巻きの人も嘲笑している。
 
 とても嫌な感じだ。
でも我慢だよ、ヒドリーナさん。

それにしても“び伯爵”って、何のことだろう?

――――あっ! もしかしてヒドリーナさんのお父さんのことを、今馬鹿にしたの⁉
 
 そう思いながら、視線を隣にむける。
ヒドリーナさんは、涙を流していた。

軍団に気がつかれないように、令嬢扇で顔を隠しながら泣いている。
身体を小さく震わせて、口元を食いしばっていた。
 
(ああ……ヒドリーナさん……)
 
彼女は悔しい涙を流していた。
自分の愛する父親、ドルム伯爵のことを、侮辱されても我慢していたのだ。

「オッホホホ……それなら“び令嬢”というのはどうかしら、あの子の新しいあだ名は?」
 
「流石です、エリザベス様!」
 
そんなヒドリーナさんに対して、相手は更に口撃をしてきた。
言ってはいけない言葉で。

そんな時だった。

――――ブチン!

 私の頭の中で“何か”がキレた音がした。


「上級生の皆さま、今の言葉を訂正して下さい!」

キレてしまった私は、振り返る。
令嬢軍団に向かって、強い言葉と叩きつける。

「「「えっ…………」」」
 
突然のことに相手は絶句する。
凍り付いたように静まっていた。

「ダ。ダメです、マリアンヌ様! あちらにいらすエリザベス様は、公爵家の令嬢様で、王族の御親類の……」

 キレてしまった私を、ヒドリーナさんが止めにかかる。

そうかエリザベスさんは公爵家の令嬢だったのか。
だからヒドリーナさんのも我慢していたんだね。

 でも先に言っておく。
ヒドリーナさん、ごめんね。

ここは譲れないし、許せないの、私は!
絶対に退く訳にいかないのよ。
 
「今すぐヒドリーナ様に謝って下さい! 彼女と、そして大事な家族を、あざ笑った事に対して!」

 私はこの身がバカにされることは、いくらでも我慢できる。

 でも、仲間の……大事な親友であるヒドリーナさんを、泣かせたことは、絶対に許すことはできない。

 例え相手が公爵家の令嬢だろうが、王族の親戚だろうが、絶対に。
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