99%断罪確定の悪役令嬢に転生したので、美男騎士だらけの学園でボッチ令嬢を目指します

ハーーナ殿下

文字の大きさ
上 下
7 / 57

第7話:フラグのためなら

しおりを挟む
乙女ゲーム内に転生した私、侯爵令嬢マリアンヌ=バルマンは、今とても窮地に陥《おちい》っていた。

無事に回避したはずの、自分の死亡フラグ。
その強制イベントに、私はまき込まれてしまったのだ。
 
本当は遠くから強制イベントを、傍観しているつもりだった。
でも後ろから押されて、喧嘩のど真ん中に出ちゃったのだ。

うっ……前に出たのは、たった三歩だけだった。

でも、その三歩が、今さまに私の運命を大きく変えようとしている。

とにかく私は今、かなり際どい状況にいたのだ。

  ◇


「あの方は……マリアンヌ様よ」

「あのバルマン侯爵家のマリアンヌ様よ……」

「きっと、この場の仲介に、名乗り出たのね……」

「さすがマリアンヌ様ですわ……」

野次馬の令嬢と騎士たちは、期待の眼差しを私に向けてくる。
この騒ぎの仲裁を期待しているのだ。


え……、そんな目で見られても、困る。
何でみんな私マリアンヌに、こんなに期待をしているの? 

やっぱり位の高い侯爵家の令嬢だからかな?

でも中身の私には、仲裁の技術も話術もない。
私は日本の普通の子なんだよー。

 テレビの大岡越○みたいに、万事平等に真の悪を罰し正しき者を救う! 
 なんて出来ないんだからね。

だから、そんなに期待しないでよ。


「アナタ……誰ですか?」

うっ、主人公ジャンヌちゃんに、また質問されちゃった。

 彼女の大きな瞳は、真っ直ぐに私を見つめてくる。
 凄くキラキラした瞳。
正義感に溢れ、この世界の平和を必ず取り戻す……そんな決意が秘めた瞳だ。

 うわー、お願い、そんな純粋な瞳で、この薄汚れた心の私を見ないでー。
 
「アナタも私の敵なの?」

あっ……やばい。

私が返事を出来ずにいたら、ジャンヌちゃんは口調を変えてきた。
 明らかにこちらを警戒している。
  
このままだと、ジャンヌちゃんに敵認定されてしまう。

そうなると私の死亡フラグは、最大値まで高まる。

三年後に待っているのは私の悲しい未来。
ジャンヌちゃん成敗され、死亡しちゃう未来の私だ。

 ゲームでは分岐によっては、ジャンヌちゃんの必殺技"聖なる浄化の炎”で、ラスボ化したマリアンヌは炎上しちゃうはずよね。

 あたしゃ、嫌だよー。
生きたまま燃えたくないよー。

 ここで大死亡フラグが立つのだけは、絶対に回避しないと。

なにかゲームから応用できないかな……

あっ、そうだ。
あのセリフ使ってみよう!

よし、いくぞ。

「ふう……私が今まで無言だったのだは、呆れて言葉が出てこなかったからですわ。よろしくて、ジャンヌ様? それにヒドリーナ様も?」

「な、なにをおっしゃるのですか、マリアンヌ様⁉」

ヒドリーナさんは私のことを、味方だと思っていた。
だから私の言葉の意味が分からず、混乱している。

「呆れて……?」

ジャンヌちゃんはこっちを見つめたまま、私の次の言葉を待っている。

よし、最初の掴みは、いい感じだ。

次に私は周囲の野次馬に、視線を向けていく。

「この場にいる皆さん今、私は呆れているのです! 傍観している、皆さんに対してもです!」

「「「え……」」」

 マリアンヌの厳しい言葉に、野次馬たちはシーンとなる。
誰も私の言葉の真意に気が付いていない。

だから答えを欲するかのように、全員が私の方に注目していた。
 
「皆さんに、お聞きします。私たち乙女な指揮官、そして騎士の皆さまは、今なぜ、この場にいらっしゃるのですか? 遠き自らの故郷を離れ、このファルマ学園に集まっているのですか?」

「「「……」」」

私マリアンヌの問いかけに、誰もが自分に問いかけていた。

なぜ自分たちは、この学園に入学したのか?

だが誰も答えられない。

だからこそマリアンヌは、言葉を続ける。

「この大地は今、悪しき妖魔ヨームの大軍によって、滅亡の危機にあります。それを打ち倒すために、私《わたくし》たちは、この場に集まったのではないですか? 大事な故郷の者たちを、守るため……想い人を守るために、学園に入学したのではないですか?」

(((そうだ……)))

 誰かが心の中で賛同する。
 
 この世界は未曾有《みぞう》の危機が迫っていた。
 
人や獣の形をした異形の妖魔ヨームの軍勢。
大陸のいたるところに出現し、罪なき人々を襲っていた。

人外なる妖魔は凶暴であり、凶悪だ。
通常の武具が効きにくい、普通の兵士では歯が立たない。
 
 それに対抗できるのは、特殊な力を有した騎士だけ。
 
 そして騎士の潜在的な力を、100%引き出す事が出来るのは乙女な指揮官だけ。
神より選ばれた、乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダーだけなのだ。

 騎士と乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダー
どちらが欠けても、妖魔ヨームの軍勢には勝てない。

両者が揃い、想いを重ねてこそ、人類の希望の《聖剣》となるのだ。 

「学園の生徒の多くは貴族です。格式や身分の差も、時には大事でありましょう。ですが我々が学園でなすべき事は、本当に大切なことは、もっと他にあります! それは自らを鍛え上げ、大切な仲間を労わり、迫り来る妖魔《ヨーム》に打ち勝つこと……そうでは、ありませんか、皆さま方?」

 マリアンヌの言葉は、この場の全員の胸に突き刺さる。

いや、心に染み渡る。
そう言った方が、正しいのかもしれない。
 
今、この場にいる誰もが、胸を熱くしていた。

自分たちの本来の目的を思い出していた。

騎士と乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダーとしての使命が、魂を熱くしていたのだ。

そんな熱い静寂の中、マリアンヌはテーブルの赤ワインのグラスを手にする。

「世界を救う大義に比べたら、このようなワインの汚れなど、些細ささいなことですわ!」

そして自分自身のドレスに、赤ワイン叩きかける。

「「「マリアンヌ様⁉」」」

野次馬の令嬢たちから悲鳴が上がる。
突然の奇行に、誰もが言葉を失っていた。

だがマリアンヌは構わず、令嬢ヒドリーナさんに近づいていく。

「ヒドリーナ様、これでお揃いでございますわね、私たち。だからお気持ちを直してくださいませ」

「マ、マリアンヌ様……」

ヒドリーナさんも言葉を失っていた。
真っ赤に染まったマリアンヌのドレスを、じっと見つめている。

だが構わずマリアンヌは周囲の令嬢騎士に、視線を向けていく。

「ここにいる皆さま、お聞きください! 私は誓います!」

そして声高々に宣言する。

「このドレスは、今はまだ赤ワインの色。でも必ずや憎き妖魔ヨームどもを駆逐し、その返り血で真っ赤に染めることを! 人々の平和を守るために!」

マリアンヌの声は高く、よく響く。

静まり返っていた会場の、隅々まで響き渡っていた。

そして全ての者の魂にも、強く響いていた。

「それでは皆さま、失礼いたしますわ。オーホッホホホホ……」


 最後はマリアンヌの得意技。
高笑いを響かせながら、会場を後にするのであった。






あ――――っ!

そして会場の外に出て、ふと我に返り叫ぶ。

やってしまった、と心の底から後悔する。

ああ……なんで、あんなことを言っちゃったんだろう。

どうして全員に向かって、あんな啖呵たんかをきっちゃたの、私は?

最初はジャンヌちゃんと間に、負の溝が出来ないように、冷静に頑張っていた。

でも途中から、自分の意識がちょっと変だった。

マリアンヌさんとの意識が混濁して、豪快なセリフが自然と出てしまった感じだった。

あれは、何だんったんだろ?

まぁ、でも言ってしまったものは仕方がない。

ああ……でも何か凄く、空回りしていたよね、私?

最期には興奮しちゃって、途方もないことを宣言もしていたし。

実はゲームでの主人公ジャンヌのセリフを、私は応用するつもりだった。

シナリオの中盤あたりで、騎士と乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダーが仲たがいするイベントが起きた時。

両者をいさめるために、主人公ジャンヌが使ったセリフだったのだ、私が言ったのは。

でも私が言ったら、なんかゲームの主人公とは雰囲気が違ってしまった。

やっぱり悪役令嬢である私が、言ったのが失敗だったかもしれない。

あんなに目立って、本当にやっちゃったよー。

明日からは本格的な学園生活がスタート

あーーー私はどんな顔で、教室に入っていけばいいの……行きたくないよー。

でも変な死亡フラグが立つといけないから、頑張っていかないと……。




こうして《顔合わせ会》のイベントは無事?に終わり、いよいよ学園生活がスタートするのであった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる
恋愛
不憫系男子をこよなく愛するヒロインの恋愛ストーリーです。 私は確か、日本人のおばさんだったはずなんですが、気がついたら西洋風異世界の貴族令嬢になっていました。 せっかく美しく若返ったのだから、人生勝ち組で楽しんでしまいましょう。 そう思っていたのですが、自分らしき令嬢の日記を見ると、クラスメイトの男の子をいじめていた事が分かって……。 正義感強いおばさんなめんな! その男の子に謝って、きっとお友達になってみせましょう! 画像はフリー素材のとくだ屋さんからお借りしました。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ

春ことのは
恋愛
深夜、高熱に魘されて目覚めると公爵令嬢エリザベス・グリサリオに転生していた。 エリザベスって…もしかしてあのベストセラー小説「悠久の麗しき薔薇に捧ぐシリーズ」に出てくる悪役令嬢!? この先、王太子殿下の婚約者に選ばれ、この身を王家に捧げるべく血の滲むような努力をしても、結局は平民出身のヒロインに殿下の心を奪われてしまうなんて… しかも婚約を破棄されて毒殺? わたくし、そんな未来はご免ですわ! 取り急ぎ殿下との婚約を阻止して、わが公爵家に縁のある殿方達から婚約者を探さなくては…。 __________ ※2023.3.21 HOTランキングで11位に入らせて頂きました。 読んでくださった皆様のお陰です! 本当にありがとうございました。 ※お気に入り登録やしおりをありがとうございます。 とても励みになっています! ※この作品は小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...