99%断罪確定の悪役令嬢に転生したので、美男騎士だらけの学園でボッチ令嬢を目指します

ハーーナ殿下

文字の大きさ
上 下
2 / 57

第2話:乙女ゲームのことを思い返す

しおりを挟む
前世の記憶が覚醒した翌朝になる。

「おはようございます、マリアンヌお嬢様」

侍女に声をかけられ、私はベッドの上で目を覚ます。

ふう……いよいよか。
心の中で思わずため息をつく

ゲームのメイン場所である“聖剣学園”に、入学する日がやって来たのだ。

今の私は一晩経って、ようやく冷静さを取り戻していた。

それにしても昨夜は、本当に大事件だったな。

“自分がやり込んでいた乙女ゲームの世界に転生した”

そんなラノベのような事件が、本当に起きたのだから。

『一晩明けたら、実は夢でした!』そんなオチは無かった。
本当に私はゲーム中のキャラに、貴族令嬢マリアンヌ=バルマンに転生していたのだ。

でも、どうしてゲームキャラに転生しちゃったのかな?

やっぱり『つらい現世の全てを捨てて、異世界に転生したい! できればイケメンだらけの乙女ゲームの世界に!』って毎日、部屋で叫んでいたのが原因かな?

それともツイッ○ーの裏アカで、いつも転生願望を呟いていたからかな?

うーん。でもそれなら私と同じような、日本中のオタクプレイヤーが消えているはずだ。

原因はとにかく不明だな。
とりあえず今は令嬢としての、朝の生活をしていこう。

朝の準備を終えて部屋を出ると、切れ長のイケメン執事がいた。
私専任の若執事ハンスだ。

「マリアンヌお嬢さま、おはようございます。昨夜はぐっすり熟睡だったようで。朝食の後の今日のスケジュールは、次の通りです……」

今日の私の一日のスケジュールを、ハンスは告げてくる。

私は令嬢らしく頷いて、聞いていく。

でも、待って。

なんで昨夜、私が爆睡だったのを、ハンスが知っているの?

もしかしたら隣の侍女部屋まで、私のイビキが聞こえていたのかな。
侍女からハンスに報告がいったとか?

だとしたら凄く恥ずかしい。
こんなイケメンに『熟睡だったようで』なんて、言われたら赤面ものだ。

でも今は貴族令嬢として冷静に、振る舞わないと。

「ええ、スケジュールの方はよくてよ、ハンス」

貴族令嬢マリアンヌこと私は、自信満々な笑みで答える。
日本にいた時の私は、何の取り得のない普通のポンコツ女子。

でも“このマリアンヌの身体”は違う。
幼い時から、家庭教師たちによって、完璧な令嬢の作法やスキルが身についている。

だから私も本物の令嬢のように、こうして振る舞えるのだ。

まぁ……でも油断は大敵。
だって本当の中身は、普通の日本人。気を抜いたら、ボロがでちゃう。

あと『自分が異世界から転生者』だという事実は他人に、絶対にバレないようにしよう。

そんな事がバレてしまったら、頭の危ない子として、山奥の貴族療養所に強制送還されちゃうからだ。

『異世界からの転生者であることは、誰にもバレないようにする』

よし、とりあえず第一方針は、これで決まりだ。


その後も順調に、令嬢としての朝をこなしていく。

全ての準備を終えてから、私の出発の時間になる。
外出用のドレスに着替えて、私は屋敷の玄関に向かう。

若執事のハンスが、待ち構えていた。

「マリアンヌお嬢さま、馬車は玄関前に用意してございます」

ハンスはまだ若いが、有能な執事。
私のことは全て取り仕切ってくれる。

「ええ、それでは参りましょう、ハンス」

バルマン家の家紋の入った専用の馬車に、私は乗り込む。
このバルマン家の別邸から、目的の聖剣学園までは近い。

だが上級貴族である侯爵家ともなれば、少しの距離でもこうして馬車を使う。
つまり今の私は、どこにも逃げ出すことが出来ない身分なのだ。

「「「いってらっしゃいませ、マリアンヌお嬢さま」」」

大勢の召使いと執事に見送られながら、馬車は動き出す。
こうして私は運命の聖剣学園に向かうであった。

  ◇

しばらくして目的の都市に到着した。

「ここが学園都市ファルマなのですね……」

馬車が到着したのは、高い城壁に囲まれた城塞都市。
正式名所は“学園都市ファルマ”という街だ。

走る馬車の小窓から、外を確認していく。
西洋風ファンタジーのような街並み。

石畳の大通りを、多くの馬車と市民が行き交っている。
すごく楽しそうな繁華街だ。

「そして、あの建物が“聖剣学園”……」

進行方向の小高い丘に、ひときわ大きな建物が見えてきた。

街の三分の一の敷地を占める聖剣学園。
今回の私の目的地であり、ゲームの中でのメーンステージだ。

ああ……ついに来たのか、この場所に……

近づいてきた聖剣学園の建物。
ついに《聖剣乱舞》が開幕するのだと、思わず感慨にふける。



乙女ゲーム《聖剣乱舞せいけんらんぶ

ひと言で説明すると《美男騎士+育成+恋愛=乙女ゲーム》である。

ストーリーは乙女ゲームによくあるパターン。

主人公の庶民の少女がある日、聖剣学園に入学する。
学園期間は三年間、自分の指揮能力を磨き、戦力となる騎士たちを集めて育成。

戦闘フェーズでは主人公は、騎士を率いて敵と戦っていく。
敵は妖魔ヨームと呼ばれる悪の軍団。

最終的な目標は、大陸に平和を取り戻す話だ。

ちなみに戦闘シーンはオートモードで簡略化。私たち女子でも簡単。
だから戦闘はあくまでサブ。

メインはイケメン騎士たちの『恋愛ストーリー』だ。

学園にいる色んなタイプの騎士を、主人子が攻略して仲間にしていく。
数々の学園的イベントを乗り越えて、愛の絆を深める恋愛ゲームが本質なのだ。

ちなみに主人公とライバル女子たちも何人もいる。
彼女たちも主人公と同じ指揮官の役割。

あと部下であり仲間である騎士たちは、全員イケメン男性。
指揮官を守ってくれるという最高な設定。

とにかく戦闘よりも、恋愛の方がゲームなのだ。(重要なので二回言う)

展開的には主人公の周りには、どんどんイケメンな美男騎士たちが集い、複雑な恋愛模様が繰り広げられていく。
片想いあり、三角四角関係ありだ。

あと出てくる男子のレパートリーも広い。
貴族騎士やイケオジ様にショタ君、それに王子様やオラオラ男子も登場しちゃう。

そんな夢のような乙女ゲームに、配信当日から私がズッポり、はまったもんだ。

『うぉー! 最高だ! こんな甘い展開、現実じゃありあないだろうー!』

そんな感じで深夜に叫びつつ、当初の私もハマっていた記憶。(遠い目)

あとエンディングが多彩なのも、このゲームの魅力。
プレイ(変な意味じゃないよ)の進め方によっては、意中の騎士とハッピーエンド結ばれるのだ。

私は学生の頃から乙女なゲーマー。

全ての男子の攻略に熱中。
スペシャル動画を見るために日々、頑張っていた。

あの時の私は睡眠時間を削って、本当にゲーム内に感情移入していたな。

だから、そんな大好きな《聖剣乱舞》の中に転生したことは、本来は万歳三唱の歓喜ものである。

――――でもこの私の登場人物だけは、マズイのだ

“真紅の戦乙女”マリアンヌ=バルマン

彼女は《聖剣乱舞》の主人公のライバルであり、展開によってはラスボスになる悪役令嬢だ。

詳細は省くけど、マリアンヌは聖剣学園では、本当に嫌な立ち位置。
主人公のライバルであり、プレイヤーからの憎まれ役である。

彼女の設定は、最初から強い位置にある。
設定も侯爵令嬢という高位の家柄を持ち。
更には初期値での指揮官としての能力も、主人公よりも高い。

何度も言うが、そんな彼女マリアンヌ転生だけは困る。
なぜならこの《聖剣乱舞》の中で、マリアンヌは“唯一死亡”してしまうキャラ。

ご都合主義で主要キャラが、誰も死なないこの優しいゲーム。
そんな中で唯一無二の死亡者なのだ。

彼女は順調にストーリーを進めていけば、三年生の卒業式の前の決戦で死ぬ。

あと場合によっては二年時の、緊急イベントでも死ぬ。

最難関のルートなら、最短の一年の秋に死ぬ。

どんなルート選択でいっても、マリアンヌは必ず死ぬ存在なのだ!(全ルート確認済み)

私マリアンヌにとって、《聖剣乱舞》の世界は過酷な運命しかないのだ。

「絶対に死亡フラグだけは、回避していこう!」

だからこそ私は心の中で叫ぶ。

そして誓う。
どんな手段を使っても、生き残ることを。

――――今の私に“唯一の一つの希望”があった。

開発者がインタビュー記事で言っていた『実はマリアンヌ=バルマンが生き残る可能性は、1%だけあるんですよ。まぁ、運要素もありますが』という微かな希望。

だからその裏ルートを絶対に見つけて、私は最後まで生き残ってやるんだ!



そんな事を考えていたら、場所は目的の場所に到着する。

「お嬢さま、入学式の会場に到着しました」

ハンスの声で現実に戻ってきた。
ゲームと同じ外観の聖剣学園の建物が、目の前に並んでいる。

ついに到着したのだ、この場所に。

「絶対に生き残ってみせますわ……」

ハンスに聞かれないように、今度は実際の声に出して誓う。

必ず三年間の学生生活で生き残ることを。

全ての死亡フラグを消していって、まだ見ぬ裏ルートを絶対に探索して。

こうして私の99%の危険な学園生活が、幕を開けるのであった。




――――あっ、でも……憧れの美男騎士がいる学園生活も、満喫していきたいな。ちょっとでもいいから。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる
恋愛
不憫系男子をこよなく愛するヒロインの恋愛ストーリーです。 私は確か、日本人のおばさんだったはずなんですが、気がついたら西洋風異世界の貴族令嬢になっていました。 せっかく美しく若返ったのだから、人生勝ち組で楽しんでしまいましょう。 そう思っていたのですが、自分らしき令嬢の日記を見ると、クラスメイトの男の子をいじめていた事が分かって……。 正義感強いおばさんなめんな! その男の子に謝って、きっとお友達になってみせましょう! 画像はフリー素材のとくだ屋さんからお借りしました。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ

春ことのは
恋愛
深夜、高熱に魘されて目覚めると公爵令嬢エリザベス・グリサリオに転生していた。 エリザベスって…もしかしてあのベストセラー小説「悠久の麗しき薔薇に捧ぐシリーズ」に出てくる悪役令嬢!? この先、王太子殿下の婚約者に選ばれ、この身を王家に捧げるべく血の滲むような努力をしても、結局は平民出身のヒロインに殿下の心を奪われてしまうなんて… しかも婚約を破棄されて毒殺? わたくし、そんな未来はご免ですわ! 取り急ぎ殿下との婚約を阻止して、わが公爵家に縁のある殿方達から婚約者を探さなくては…。 __________ ※2023.3.21 HOTランキングで11位に入らせて頂きました。 読んでくださった皆様のお陰です! 本当にありがとうございました。 ※お気に入り登録やしおりをありがとうございます。 とても励みになっています! ※この作品は小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...