上 下
34 / 39

第34話:介入する者

しおりを挟む
愚かな大賢者レイチェル=ライザールへの、無限ループ拷問中。

(ん? これは……)

心が折れかけていたレイチェル=ライザールの周囲に、ボクは“違和感”を発見。勇者刻印が段々と薄れていくのだ。

「ついに来たか……女神の力が!」

ボクは思わず歓喜の声を上げてしまう。
前回のバーナード=ナックルの時は、何者か……おそらく女神の力が勇者刻印を奪っていき、見逃してしまったのだ。

だから今回は絶対に見逃さない。
いや、ここだけの話、レイチェル=ライザールへの復讐ですら布石。勇者刻印を奪う存在を暴くために、今回は作戦を練ってきたのだ。

「ベルフェ。今だ、やれ!」
「はっ!」

怠惰たいだのベルフェ》が特殊能力を発動。第二地獄のルールが更に反転させる。
物地攻撃とも魔法攻撃も使用可能となる。

「さて、どこだ?」

ボクは魔眼まがんの一つを発動。レイチェル=ライザールの周囲を観察する。

「いた、そこか! 狼藉者め! 《暗黒束縛ダーク・バインド》!」

目には見えない人影を発見。束縛式の術を発動する。

シュ――――ィン!

四重の暗黒束縛錠が“透明な何か”を捕獲。大きさは人と同じくらいだ。

「さて、観念して姿を見せたら、どうだ、侵入者よ? まだ足掻くなら、こちらで強制的に出させてやろうか?」

「ふう……いや、結構だよ」

その言葉と共に、拘束具の中に人が姿を現す。
出現したのは白い髪の少年。歳は十四歳でボクと同じくらいだろうか。

「ほほう、その姿は人族か? もしや勇者の一人か? レイチェル=ライザールを助けにきたのか?」

今代の勇者は全員が二十歳以上。だが外見の見た目など、いくらでも改造できる。
あえて間違った質問で、相手から情報を引き出す。

「人族? 勇者? そんな下等種と一緒にしてほしくないな。ほいっ!」

そう言い放ち、白髪の少年は片手で《暗黒束縛ダーク・バインド》を解除する。

「――――っ⁉ ライン様のあの術を、ああも簡単に⁉」

隣で《怠惰たいだのベルフェ》が言葉を失っていた。何しろボクの《暗黒束縛ダーク・バインド》は七大魔人ですら拘束可能。
今の解除方法だけ白髪の少年の実力が、普通ではないことを測っていたのだ。

だがボクは動じない。何気なく会話をしながら、相手の情報を更に引き出していく。

「なるほど、勇者ですら下等種呼ばわりか。つまり女神の仲間ということか?」

「ご名答だよ、ライン君。オレ様はダークス……“女神の使徒”さ」

白髪の少年は“女神の使徒”ダークスと名乗ってきた。

「“女神の使徒”だと?」

初めて耳にする言葉。第二階層で知識として得た情報にも、そんな単語は出てこなかった。

「ま、まさか……“女神の使徒”が実在していたとは……⁉」

だが隣のベルフェは身体を震わせていた。
何事も動じないこの男が、ここまで動揺するのは初めて目にする。ということは、魔族にとってかなり危険な存在なのであろう。

「ふむ、“女神の使徒”様か。おおかた、“女神の使いっ走り”といったところだろう。コソコソと姿を消して、勇者刻印を回収に来たのだろう?」

だがボクは平然とした態度で、ワザと相手を挑発する。
たしかに不気味なオーラと威圧感を、相手ダークスは放ってくる。

だが、こうした対峙では臆した方が、圧倒的に不利。あえて不遜な態度を、逆に相手に押しつけるのだ。

「そうだね、ライン君。オレ様はたしかに“女神の使いっ走り”さ。まったく嫌になっちゃうよね。こんな使えない雑魚の勇者のために、刻印を回収係だなんてさぁ……はぁ」

グシャ!

そう言いながらダークスは、レイチェル=ライザールの頭を踏みつぶす。あまりの早業で、一レイチェル=ライザールは悲すら上げられなかった。

(……む?)

直後、驚いたことが起きる。
いや正確には“何も起きなかった”のだ。

死亡したレイチェル=ライザールの肉体が、いつまで経っても再生されない。《七大地獄セブンス・ヘル》の“肉体不死のルール”が発動されないのだ。

(なるほど。ヤツは特殊な力を持っている、ということか)

今のでおおよそを理解した。
ダークスは何かの力を有している。種類の判別には、もう少し時間がかかるが、間違いなくかなり危険な能力だ。

「いいのか? “女神の使徒”様が勇者を殺して? 勇者は女神の力の代弁者なんだろう?」

だが、またボクはあえて強気でいく。
相手の力が未知な時ほど、こちらの弱気を見せないことが大切なのだ。

「うーん、そうだね。たしかに女神様にとって、勇者は大事な存在。でもオレ様にとっては、どうでもいい存在なんだよね。ライン……キミのような“イレギュラー”が出現したからね」

ボクの顔を見ながらダークスは、嬉しそうにしている。まるでイレギュラーな存在を、この相手は待ち望んでいたかのようだ。

「ボクの存在がイレギュラーだと?」

「ああ、そうだ。歴代の魔族の中でも最強と目されていた王女リリスを母に持ち、“あの男”を父親に持ち“究極の存在”になる可能性がある者……それがイレギュラーな存在であるキミだよ、ライン!」

「…………」

初めて動揺する感情を、ぐっと押し殺す。

何故なら“自分の父親”のことを、ボクはまったく知らない。
母リリスに聞いたことはあるが、優しく微笑むだけで教えてくれなかったからだ。

だがダークスは明らかに何かを知っていた。ボクの知らない父親のことを。しかも“あの男”と訳ありで呼んできたのだ。

(まさか母さんがボクに、何かを隠していたのか? いや、そんな馬鹿な……)

――――そう迷いが生じた瞬間だった。

「あっ、『隙あり』だね、ライン!」

その言葉と共に、ダークスの姿が消える。

シュン!

いや、消えたのではない。
凄まじい超高速で、ボクに突撃してきたのだ。

「ライン様、危ない! ぐふっ……!」

立ちはだかったのは《怠惰たいだのベルフェ》。腹から血を噴き出しながら、ボクのことを守ってくれたのだ。
ダークスの手刀がベルフェを貫いている。

「ベルフェ、大丈夫か⁉」

驚愕のダークスの攻撃に、ボクは思わず声を上げる。
この《怠惰たいだのベルフェ》の周囲には、常に十二層の防御障壁が展開されている。

このボクですら手こずった障壁を“発動させず”に、ダークスの手刀はベルフェの身体を貫いたのだ。

「おや? 邪魔が入ったね? でも次は外さないよ、ライン」

「ダークス……キサマぁあ!」

七大魔人の一人ベルフェを……大事な仲間を傷つけられ、ボクは魂の奥から激しい感情があふれ出てきた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜

海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。 そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。 しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。 けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

最古のスキル使い―500年後の世界に降り立った元勇者―

瀬口恭介
ファンタジー
魔王を倒すも石にされてしまった勇者キール。スキルが衰退し、魔法が発達した500年後の世界に復活したキールは、今まで出来ることのなかった『仲間』という存在を知る。 一見平和に思えた500年後の世界だったが、裏では『魔王候補』という魔族たちが人間界を我がものにしようと企んでいた。 それを知ったキールたちは魔族を倒すため動き始める。強くなり、己を知るために。 こうして、長いようで短い戦いが始まる。 これは、一度勇者としての役目を終えたキールとその仲間たちが自らの心象を探し求める物語。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。 ※元勇者のスキル無双からタイトル変更しました。 ※24日に最終話更新予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...