上 下
18 / 39

第18話:二人目の勇者

しおりを挟む
今後の方針を決めた日の、翌日になる。
今日はミナエル学園に、一人の教師が戻って来る日だ。

「ふう、アンタたちが今年の新入生? どう見ても使えそうなのは、少ないわね」

ボクたちのクラスの初の授業の時間。
初対面の教師は、いきなり毒を吐いてきた。

「最初に言っておくけど、アタシはあんた達、クズ候補生に最初から何も期待してないわ! 魔術授業のレベルも会わせる気もないわ。覚えておきなさい!」

厳しい口調な教師は女。
白衣に眼鏡の女教師だった。

「「「えっ……」」」

まさか横暴な発言に、クラス中が言葉を失う。
だが誰も反論すらしない。
何故なら彼女は、普通の教師ではない。

「悔しかったら、その低能が頭で良く考えることね!」

この女教師は《大賢者》エルザ=ライザール。
正真正銘の六人“真の勇者”の一人なのだ。

(ふう……この素晴らしい女性が、《大賢者》レイチェル=ライザール様か……)

そんな横暴な白衣の女教師を、ボクは授業を受けながら観察していた。
だが怪しまれないように、視線は最小限にしておく。
あと勇者魔法を警戒して、頭に浮かべる思考も“常に敬意”を払う。

勇者魔法はかなり厄介な存在。
【鑑定】や【敵意感知】など特殊なものが多い。
だからこうして別の意識で、相手をゴマかすのだ。

(バーナード先生も素晴らしかったけど、レイチェル先生も素晴らしいな)

前回のバーナード=ナックルは、ボクたちの思考まで読むことは出来なかった。
だが今回の相手は《大賢者》の称号を持つ者。
間違いなくバーナード=ナックルよりは、優れた勇者魔法を使ってくるはず。

だからボクもレヴィも最初は徹底して、心の仲間で優等生を演じているのだ。

(――――ん?)

その時だった。
レイチェル=ライザールから“何かの魔法”が飛んできた。
間違いなく【鑑定】や【精神感知】系の探知魔法だ。

(ほほう、これは凄い)

有亭は複数の魔法を、平行発動してきた。
しかも対象をクラス全員に対して、全体発動して調べてきたのだ。

(たいしたものだ……)

今まで出会ってきた魔法使いの中でも、トップクラスの魔法の精度とレベルの高さだった。
下手したら《怠惰たいだのベルフェ》と互角の魔法の練度だ。

(性格も“凄く良い”先生なので、これは“今後が楽しみ”だな……)

相手の強大さを知って、ボクは思わず笑みを浮かべてしまう。

今回の相手は、明らかにバーナード=ナックルよりも格上。
戦闘能力はもちろん用心深さや、精神的な強さも段違いだった。

この女への復讐が、本当に楽しみになってきたのだ。

(さて、授業はちゃんと真面目に受けていかないとな……)

その日の授業は、優等生ラインとして受けていく。
レイチェル=ライザールの専門は魔法各種。
今までの教師とは段違いの、ハイレベルな授業だった。

「――――では、これで今日の授業を終わる。課題は必ずやってこい。質問は一切受け付けない。以上だ」

「「「ふう…………」」」

恐ろしいほどの緊張感の授業。
レイチェル=ライザールが立ち去り、教室の誰もが長い息を吐き出していた。

彼らの気持ちも分からなくはない。
何しろここには剣士や盾職など、前衛タイプの者もいる。

それなのにレイチェル=ライザールは高度な魔法知識を、全員に対して要求してきたのだ。
理由は『たとえ前衛タイプでも知識があれば、高度な魔族に対応できる』という理論らしい。


(まぁ……間違いではない理論だな)

たしかに前衛タイプは普通は、それほど高い魔法は求められていない。
だが知識となると別の次元。
前衛タイプでも勉強が必要なのだ。

その悪い例が、前回のバーナード=ナックルだ。
奴は確かに剣士としては、人族でも高い部類に入るだろう。

だが奴には頭を使えなかった。
何も考えずに、自分の性欲のために行動。

その結果がボク罠にハマり、敵の本拠地にある魔界に誘拐されてしまう。
本来の実力を出すことさえできず、あんな無様な姿を見せたのだ。

もう少し奴にまともな頭があったら、魔族レベル3,000の魔族にも勝てていただろう

授業終了後、そんなことを考えていたら、一人の少女が近づいてくる。
銀髪褐色のエッチな制服姿……仲間の《嫉妬しっとのレヴィ》だ。

「ライン様、先ほどの女教師が次のターゲットですよね。あれは人族としては、大丈夫なのですか? 少しおかしく感じたのですが」

「そうだな。まぁ、普通の候補生は、そう感じるのかもな」

最近のレヴィは見事に、人族の候補生を演じている。人族として感情表現していた。
この分ならレイチェル=ライザールにも、見破られる心配ななさそう。

まぁ、至高の存在たる魔人の一柱が、普通の女生徒に馴染んでいるのも、どうかと思うが。

ちなみにレイチェル=ライザールは既に教室を去っているので、ボクたちは普通に思考しても大丈夫。
また会話も特殊な発音をしているので、クラスメイトにも雑談にしか聞こえていない。

「そういえば今回は女教師が相手ですが、どうやって情報集していきますか? また前回と同じく、私とライン様でやりますか?」

「いや、今回は別の策がある。もうすぐ、相手の方からアプローチがあるはずだ」

今回の相手は用心深い。
前回のように簡単にはいかないだろう。
焦らずにエサを垂らして、相手の動きを待つのだ。



それから数日後。
ターゲットから反応がある。

「それでは今日の授業を終わる。なおライン一回生とベルフェ一回生の二名は、放課後に私の部屋に来るように。今回のテストの結果の件で、大事な話がある」

女教師レイチェル=ライザールから呼び出しがあった。

呼び出されたのは超難関のテストで、唯一の満点を取った二人。
ボクと《怠惰たいだのベルフェ》だ。

「はい、分かりました、レイチェル先生」

こうして用心深い《大賢者》と対峙するのであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜

海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。 そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。 しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。 けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

最古のスキル使い―500年後の世界に降り立った元勇者―

瀬口恭介
ファンタジー
魔王を倒すも石にされてしまった勇者キール。スキルが衰退し、魔法が発達した500年後の世界に復活したキールは、今まで出来ることのなかった『仲間』という存在を知る。 一見平和に思えた500年後の世界だったが、裏では『魔王候補』という魔族たちが人間界を我がものにしようと企んでいた。 それを知ったキールたちは魔族を倒すため動き始める。強くなり、己を知るために。 こうして、長いようで短い戦いが始まる。 これは、一度勇者としての役目を終えたキールとその仲間たちが自らの心象を探し求める物語。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。 ※元勇者のスキル無双からタイトル変更しました。 ※24日に最終話更新予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました

平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。 しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。 だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。 まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。

処理中です...