上 下
37 / 44

第37話:決勝戦、そして

しおりを挟む
キタエル学園の一大イベント【学内選抜戦】が開幕。
オレはお姫様マリエルと猫獣人ミーケの三人で挑み、決勝戦まで進む。

だが二人は謎の異変に襲われて、敗退。
二人の想いを受けて、オレは大将戦に一人で挑むのであった。



『それではこれより大将戦を行います!』

司会者のアナウンスが響き渡る。

0勝2敗で、もはや勝負は決まっていた。
だが修練の場でもある選抜戦は、最後の一試合まで行うのだ。

「審判、オレは“今大会の大将の権利”を行使して“勝ち抜き戦”への移行を申請する」

審判団に向かって宣言する。

実は選抜戦には、ある“特殊なルール”が一つあった。

今大会は三対三の団体戦。
だが最後の大将だけは自己申告で、勝ち抜き戦に移行をできるのだ。

今回はその権利を審判に申請する。

「おや、本気ですか? 今から三連勝するつもりですか、あなたは?」

審判長の司祭長は、呆れた顔で訊ねてきた。
何しろハリト団は、今のところ二連敗中。

つまり勝利を勝ち取るためには、大将のオレが三人抜きをする必要があるのだ。

「本気です。それに三人抜きだと、時間がかかる。だから“三対一の変則マッチ”でいい。特に問題はないでしょう?」

「ほほう……正気ですか、あなたは?」

「最後くらいは、オレに花を持たせてください」

「なるほど、そういうことですか……面白い余興になりそうですな、これも」

オレの提案に、司祭長はいやらしい笑みを浮かべる。

よし、引っかかってくれた。

(これで……策は通った)

今のオレの頭の中は、怖いくらいに冷静。
大事な仲間マリエルとミーケを、卑怯な手で傷つけられた。

だからこそ冷静沈着に、司祭長を騙してやったのだ。

『これより大将戦を行います! なおハリト団側からの提案で、三対一の変則マッチとなります!』

神官長からの報告を受け、アナウンスが響き渡る。
大将戦に特殊ルールが適用されたと。

直後、会場は今までないくらいにザワつく。

「おい、負けている方が、勝ち抜き戦を申請だとよ⁉」

「本当か? 二連敗して自棄になったのだな……」

「しかも三対一の変則マッチとは、最後に面白い余興になりましたな……」

観客席の誰もが、オレの無謀さを冷笑していた。
今までキタエル学園の選抜戦の歴史の中で、大将が三人抜きした記録はない。

しかも三対一は誰が見ても、圧倒的な不利な条件。
オレが自殺行為の玉砕だと思っているのだ。

そんな中、全く違う反応の一団もある。

「ハリト……頼むぜ……」

「オレたちの仇を討ってくれ……」

「キタエル学園の一年の代表として、奇跡を起こしてくれ……」

それは同級生の連中。

天に祈るように、オレに声援を送っていた。
彼らも最後の奇跡を信じているのだ。

『それでは決勝戦を行います! 剣士教団学園チームの三名も準備を』

そんな独特の雰囲気の中。
司会に促されて、相手の三人が開始線に立つ。

その顔にはゲスな笑みが浮かんでいる。

「へっへへ……こいつ、さっきの銀髪の女よりも、弱そうなチビだな?」

「ああ、そうだな。まぁ、あの女たちも大したことなかったがな。くっくっく……」

「キタエル学園など、所詮は三流だったという証拠だな……」

「おい、こいつは直ぐに場外にしないで、半殺しにして遊ぶぞ、お前たち」

「ああ、そうだな」

三人とも完全に、オレのことを舐めている。
圧倒的に他者を見下した、最悪の性格の奴らなのだ。

「…………」

そんな三人と対峙しても、オレは口を開くことしなかった。

何故なら今は大事な時間。
マリエルとミーケの剣を、両手に握りしめていた。
二人の想いを、心で感じている最中なのだ。

下種な連中に、開く口など持ち合わせていない。

『それでは大将戦、はじめ!』

審判の声は響き渡る。
会場がザワつく中、大将戦が幕を上げた。

「オレは右からいくぜ!」

「ならオレ様は、左だな!」

開幕と同時、相手の二人が動く。
左右からオレを挟撃するために、一気に回り込んできたのだ。

「いくぜぇええ! 剣術技【第二階位】三の型……【骨砕き】!」

「おらぁああ! 剣術技【第二階位】四の型……【大蛇降ろし】!」

二人はいきなり剣術技を発動。
先ほどマリエルとミーケを吹き飛ばした大技だ。

(マリエル……ミーケ……)

そんな瞬間でも、オレは冷静だった。

右手にあるミーケの細身剣。
左手に握るマリエルの片手剣。

二人の剣の感触を確かめていた。

(こんなにも、使い込んで、いたのか、二人……)

剣の柄布は、血と汗がにじみ、ボロボロだった。
今まで二人の努力で、ここまで使い込まれていたのだ。

「死ねぇ! チビがぁ!」

「潰れろ、雑魚がぁあ!」

そんな時、勝ちを確信している相手の顔が、左右から目の前に迫って来た。
そして巨大な刃先も、オレの首元に迫る。

(ふう……二人の、この力……借りるぞ)

時は満ちた。
二人の想いを、今こそ剣に宿す。

「いくぞ……剣術技【飛風斬ひふうざん】! 【地針斬ちしんざん】!」

左右の二対の剣。
オレは別々の剣術技を同時に発動。

これはマリエルとミーケの得意技。
二刀流の応用で、全く違う型の剣術技を、同時に発動させたのだ。

なぜ二人の技を発動できたか、自分でも分からない。
だが今のオレは発動できる……そう確信して打ったのだ。

グヤァアア!

ガザァーン!

二人の想いが籠った斬撃が、相手の二人に直撃。

「なっ⁉ ぐべへへへへへ!」

「あがっ⁉ グガぁあああ!」

無様な顔で、相手は同時に吹き飛んでいく。
吹き飛んでいく時、二人とも目を見開いていた。

自分が攻撃を受けたことすら、把握していなかったのだ。

「ぐヴぇっ!」

「うがっ!」

二人とも蛙が潰れたように、場外に落ちていく。
全身をピクピクさせながら、白目を向いて口から泡を吹きだしていた。

かなり本気の一撃を喰らわせてやった。

死んではいないが、数日は動けないであろう。
回復の魔道具を使っても、しばらく後遺症は残るかもしれない。

さて、残るは一人だ。

「なっ……なっ……何が……起きたんだ⁉」

残る一人は目を見開き、絶句していた。
オレの動きが、まったく見えなかったのであろう。

何が起きたか、まだ理解できずにいるのだ。

「お前には一生理解できないだろうな。マリエルとミーケが、この剣に込めた想いは……」

「な、なんだと⁉」

「この剣への想いは……あの二人は、お前たちの何倍も強い。医務室に行っても、覚えておけ」

「な、何を分けのことを⁉ くそっ! 死ねぇ! 剣術技……【第二階位】五の型、【烈火斬り】!」

最後の一人は突進しながら、剣術技を発動。
無防備なオレの頭に、斬りかかってきた。

「来世では精進するんだな! 『空を舞い、切り替えせ』……剣術技【第一階位】二の型、【雷燕らいえん返し】!」

オレは剣術技を発動。
カウンター攻撃で相手に食らわす。

「うがらぁああ!」

相手の大将は、声にならない絶叫で吹き飛んでいく。
そのまま場外でグシャリと落下。

仲間と同じように全身をピクピクさせながら、白目を向いて口から泡を吹きだしていた。

「おい、審判長。終わったぞ」

「なっ……」

唖然としている神官に、声をかける。
何が起きたか、理解できていないのだ。

一瞬で三人とも場外負けだと、教えてやる。

「な……なっ……なんだと⁉」

司祭長は口をパクパクさせている。
自分が不正をして勝たせていた生徒が、一瞬で場外負け。

何が起きたか、理解が追いつかないのであろう。

「いや……なぜ……なぜ……絶対に我々は、負けないはずなのに……」

まだ現実を直視できないのであろう。
司祭長は顔面蒼白のまま、棒立ちになっていた。

「このままで済むと思うなよ。不正は必ず暴いてやるからな」

小声で神官長を脅す。
今のオレは最高に頭にきていた。

どんな手段を使っても、今回の不正を明るみに出すつもりでいたのだ。

「おい、何が起きたんだ……」

「あの剣士教団の生徒が負けただと……?」

「でも、どうやって……?」

「この試合、どうなるんだ?」

会場がザワつき始めてきた。
観客たちは誰も、オレの攻撃が見えていなかっただろう。

だから何が起きたか。理解できていないのだ。
審判である神官長に、観客席の全ての視線が集まる。

「ひっ! わ、私は悪くない! 私は指示された通りに……ひっ!」

正気を取り戻した神官長は、いきなり駆け出した。
外へ繋がる通路に向かって、逃げ出そうとする。

「ちっ、逃がすか!」

もちろん逃走なんて、させるつもりはない。
オレはすぐに後を追う。

「ぐへっ⁉」

その時だった。
逃げ出そうとした神官長が、血を吐き出す。

「口封じ、か? いや、血じゃないぞ、あれは……」

神官長が吐き出したのは血ではない。
どす黒い、瘴気のような塊だった。

(何だ、アレは……⁉ いや、アレは……見たことがあるぞ⁉)

その瘴気の塊に見覚えがあった。

あれは確か……。
キタエル学園に入学する前の道中。

あの白昼夢で……⁉

――――その時だった。

闘技場の上空から、何かが来る⁉

――――これはオレを狙った斬撃だ!

オレは咄嗟に回避。

ズッシャァアア!

直後、闘技場の一部が吹き飛ぶ。
反応すら出来ずにいた神官長は、粉々に吹き飛んでいた。

くっ……酷い。

いったい誰が⁉
斬撃の発射元に視線を向ける。

「なんだ……あれは?」

上空にいたのは、“人のよう”であり、“人ではない存在”。
コウモリのような禍々しい羽を、背中に生やしている。

全身の皮膚が赤褐色で、鱗のように波打っていた。
顔は……この世の者とは思えない邪悪な形相だ。

「あれは……まさか、魔族⁉」

闘技場の上空にいたのは、邪悪の根源たる魔族。
かつて復活した魔王の直属の手下であり、かつて地上を荒廃させた元凶だ。

間違いない。
図鑑で見た姿と酷似している。

そして魔族は口を開き、言葉を発してきた。

『今の攻撃を、よく回避できたわね、“ハリト”』

えっ……なぜ、オレの名前を知っている。

というか、この声に聞き覚えがある。

聞き忘れはずがない、幼い頃から一緒にいた少女の声を。

「エルザ……なのか?」

『ええ、そうよ……ハリト、殺してあげるわ』

魔族化したエルザによって、選抜戦の会場は狂気に満たされるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...