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第34話:託された想い

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オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。
お姫様のマリエルと、猫獣人の少女ミーケ、三人で同居しながら平和で順調な日々。

【学内選抜戦】にオレはマリエルとミーケの三人で挑戦。
なんとか決勝戦まで駒を進めることができた



決勝戦の時間が迫ってくる。
オレたちは選手控え室で待機中。

負けてしまったチームは、観客席に移動していく。
残すは決勝戦だけ。
控え室にはオレたち三人しかいない。

『それでは、もうすぐ決勝戦が始まります。出場選手は、移動をお願いします』

司会者のアナウンスが聞こえてきた。
休憩時間が終わり、決勝戦が始まるのだ。

「いよいよだニャー……」

「そうですわね……」

待機室のミーケとマリエルは、緊張した面持ちだった。
何しろ決勝の相手は今までとは別格。
試合前から緊張しているのだ。

「二人ともそんなに心配しなくても大丈夫だよ。作戦通り、今まで通り戦ったら、必ずオレたちが勝つから!」

「今まで通り……そうだニャん、ハリトたん!」

「ですわね、ハリト様!」

二人の顔から緊張の色が消える。
ここまで来るまで、オレたち三人は頑張ってきた。

放課後の三人での自主練。

魔の森での、危険なモンスター狩りの特訓。

他の生徒たちが遊んでいる時間も、常に鍛錬を積んできた。
今思え返せば辛かった日々。

だが今となっては、全てが必然。
努力は自分たちの身体に染みつき、今の自信となっていたのだ。

「よし、それじゃ、ハリトたん! 景気づけに、例のやつお願いニャン!」

「アレか……うん、わかったよ」

とても恥ずかしい掛け声。
だが仲間の発案だから断れない。

三人で円陣を組む。

「それじゃいくよ……『ハリト団、ファイト!』」
「「「おー!」」」

気合は十分。
オレたちは待機室を出発する。

向かうは長い廊下を抜けた先。
中央の闘技場だ。

「ん?」

部屋を出て、気が付く。
廊下に、人が沢山並んでいたのだ。

「キミたちは……か」

廊下にズラリと並んでいたのは、他のクラスの人たち。
全員が無言で、オレたちを見つめてくる。

「オレたちに何か用かな?」

「「「くっ……」」」

訊ねても、誰も答えてこない。
立ち尽くす生徒たち表情は、何とも言えない複雑なもの。

皆は何かを言おうとしている。

「お、お前たちさ……」

「い、いや、何でもない……」

だが思い止まって、誰も最後まで言ってこない。

様子がおかしい。
中には歯を食いしばり、拳を握りしめている者もいた。

オレたちに“何か”を伝えようしている。
だが、何かが押し止めていた。

様々な感情が入り乱れている、変な空気だ。

(ああ……そうか。この人たち、“そういうこと”か……)

そんな空気から、オレは何かを察する。

ヒントは先ほどの、剣士教団学園の準決勝の後のこと。

観客席にいた他のクラスの人たちは、悔しさに嘆いていた。

何しろキタエル学園で、最大のイベントの一つの選抜戦。
それが大人に事情で、特別参加“剣士教団学園”の三人組によって、蹂躙されていた。

このままでは選抜戦の優勝カップは、あの横暴な三人組に、奪われてしまう可能性が高い。

だから他のクラスの人たちは、言葉をかけにきたのだ。
キタエル学園の生徒として決勝戦に挑む、オレたち三人組に。

(だが“今までのこと”があるから、言い出せないのか、この人たちは……)

まだ誰も言葉を発せずにいた。
何故ならキタエル学園では、他のクラス間はライバル同士。

いや……はっきりいって、仲は悪い。

他のクラスの人はオレのことを、“姫のヒモ”と陰口を叩いていたらしい。

ミーケのことは“猫人”と差別的な陰口を。

そして今日になり、マリエルのことを“失墜の剣姫”と、陰口を叩いていた。

だから他のクラスの人たちは罪悪感で、言い出せないのだ。

でも、このままでは時間が押してしまう。
オレは勇気を出して問いかける。

「ねぇ? 何か言いたいことが、あるんだよね?」

無言のままの生徒たちに向かって、オレは問いかける。
彼らの本心を引き出すために。

「でも、オレたちは……」

「ああ、今まで……」

「こんな時だけ、虫が良すぎる訳で……」

彼らの表情は、今までとは違う。

おそらく心のどこかで、反省しているのであろう。
今までの蔑んできた、自分たちの言動を。

そして、オレたちに対して、謝罪の言葉を発してきた。

「お前たちは、本物だったよ……」

「ああ、間違っていたのは、オレたちだった……」

「オレたちは羨ましかったんだ……」

この人たちも何か感じたのであろう。
今日の選抜戦を戦い抜いて。

オレたちと直接剣を交えて、本気で剣術技を打ち合い。
ハリト団の実力と、陰の努力を肌で感じているのだ。

「ねぇ、ハリトたん……」

「ハリト様……」

そんな彼の変化を、ミーケとマリエルも感じていた。
どうすればいいのか、オレに全てを託してくる。

「そうだな……」

はっきり言って、オレは複雑な人間関係が嫌いだった。

ずっと一人で剣の稽古をしているのが、幼い時から一番好きだった

友情や仲間意識。
そんなモノはキタエル学園に入学するまで、不要だとも思っていた。

「ふう……オレたちは優勝してくるよ。キタエル学園を代表して必ず。だから、そんな湿気た顔をしちゃダメだよ、みんな」

「「「えっ⁉」」」

そんなオレからの、まさかの言葉。

廊下に並ぶ生徒たちは全員、言葉を失う。
自分たちの耳を、疑っているのだ。

「もしかしたら分かりにくかったかな? それならみんな的に簡潔に……『あのムカつく他校生は、お前らの代わりに、オレたちがブッとばしてくる!』 だから……」

昔のオレは複雑な人間関係が嫌いで、友情や仲間意識も不要だと思っていた。
でもキタエル学園に入学してから、オレは変わった。

「だから、みんなも、いつもの調子で、応援たのむよ! そうしたら今までの分は、全部チャラにしてあげるから!」

オレは知っていた。
今日の選抜戦を見て、他のクラスの全員の努力を感じていたのだ。

そんなオレの言葉を聞いて、皆の表情が変わる。

「ああ……応援、任せてくれ、ハリト!」

「オレたちの悔しさの分まで、頼んだぞ、三人とも!」

「絶対に優勝してくれ、お前たち!」

廊下にキタエル学園の一年生……全員の叫びが響き渡る。

これは彼らの心の想い。
今まで貯めこんでいた色んな感情。

呪縛を解かれたように、一斉に溢れでしてきたのだ。

「ハリト様……」

「ハリトタン……」

「そうだね、いこう! みんなの想いを背負って、この道を!」

「はい、ですね!」

「だニャン!」

声援が鳴りやまない廊下を、オレたちは駆けていく。

ここは同級生が作ってくれた、想いの花道。

一歩ごとに誰かが、背中を押してくれる頼もしい感じ。

否が応でも、モチベーションは高まる。

(よし……皆のため……キタエル学園のために、頑張ろう!)

目指すは、ただ一つ“優勝”。

こうして託された想いを受け取り、学園代表としてオレたちは決勝戦に挑むのであった。
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