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第27話:学園の最大の行事
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オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。
お姫様のマリエルと、猫獣人の少女ミーケ、三人で同居しながら平和で順調な日々だった。
だが、そんなある日、幼馴染のエルザが学園に現れた。
情緒不安定なエルザを説得しようとしたが、彼女は放心状態で消えてしまう。
◇
エルザが消えてから一週間が経つ。
未だに彼女は見つかっていない。
「エルザ大丈夫かな……タフで強いから、きっと大丈夫。そう思うしかないよな、今は。よし、今週も授業を頑張るとするか!」
気持ちを切り替えていく。
何故ならオレは剣士学園の生徒。
まずは未熟な自分を、鍛えていくのが先決なのだ。
朝一、部屋で制服に着替える。
よし、今日も一日、頑張っていくぞ。
「ハリト様、私たちも準備が終わりました」
「さぁ、行くにゃん!」
マリエルとミーケも制服に着替えていた。
三人で屋敷を出て、校舎に歩いていく。
「そういえばハリトたんは、毎日、早起きにゃんね?」
「そうかな? 早起きは、嫌いじゃないからね」
オレは昔から早く寝て、早起きるタイプ。
朝日が昇る前に、毎日目が覚めてしまうのだ。
だから、この二人を起こす係りだ。
「さすがハリト様です、私たちも見習わなくては……」
「それならマリエルも、もうちょっと早起きするニャン! あと寝事でいつも『ハリト様~、ハリト様~』って言うもの、直した方が、いいニャン?」
「ちょ、ちょっと、ミーケ! それはハリト様の前では、言わない約束でしょう!」
「あっはっは……二人とも、朝から元気だね」
そんな感じで雑談しながら、校舎に向かう。
「ハリト様、いつも起こしていただき、本当にありがとうございます。お蔭で私も昔に比べたら、少しだけ早起きは出来るようになりました」
「えっ、昔はもっと朝は苦手だったの?」
「はい……王都にいた時から、朝だけは、どうしても……」
マリエルは顔を赤くして説明してくる。
どうやら幼い時から朝が苦手らしい。
完璧そうに見えて、実は抜けているところもあるのだろう。
「そんなに悩まなくても大丈夫だよ。何しろ睡眠は身体を成長させるために、大事な要素だからね」
「えっ……睡眠で、成長が、ですか?」
「そう。前に読んだ専門書によると。特に成長期は質の良い睡眠が必須らしい。十分に睡眠時間を確保しないと、身体が適切に成長していかないんだ」
オレは昔から、一人前の剣士になりたかった。
だから強くなるために、色んな知識を勉強してきたのだ。
「なるほど……質の良い睡眠は、成長に大事……ですか」
マリエルは言葉の意味を噛みしめている。
強くなるために、剣技を鍛えるだけは駄目。
更なる高みを目指すために、マリエルも意識を変えていた。
「そうだニャン。ちゃんと寝ないと、マリエルの胸も大きくならないニャン! ミーみたいに!」
ミーケは自分の胸に手を当てながら、笑っていた。
そう言われてみれば、胸はミーケの方が大きい。
一方で細身なマリエルは、“ちょうどいい可愛い大きさ”だ。
「ちょ、ちょっと、ミーケ! ハリト様に聞こえてしまいますわ!」
「大丈夫にゃん。だってハリトたんは、いつもマリエルたんの、胸を見ているニャン! あっ、でもミーの胸も見ているニャン? つまりハリトたんは、どんな大きさの胸でも発情するから、大丈夫ニャン!」
朝から凄いことを連発している。
オレは気まずいので距離をとる。
小走りで、さっさと教室に向かっていく。
「あっ、お待ちください、ハリト様! 急ぎますわよ、ミーケ」
「そうだニャン!」
二人も雑談を止めて、追いかけてくる。
何とも朝から元気の良いことだ。
◇
教室に到着。
今日の午前中は座学。
長い椅子の教室で、先生の話を聞くスタイルだ。
「今日も、三人で並んで座るニャン!」
「ですわね。“ハリト団”の団結のためにですわ!」
「席はいいけど、その“ハリト団”って、何かな?」
「昨日、マリエルと二人で考えたニャン。三人のパーティー名ニャン!」
「我ながら見事な名だと思います。ハリト団……きっと大陸に名を響かせていく予感がします」
「そ、そうなだ……」
何やら三人のパーティー名が、勝手に決まっていた。
多数決の原理で、オレは頷くしかできない。
それにしても“ハリト団”か……ちょっと恥ずかしいな。
「よし、今日は、この席にするニャン」
「そうですわね」
三人に並んで座る。
長椅子にサンドイッチ状態で、席に着く。
真ん中はオレの定位置になってしまい、両脇に女性陣。
三人で座るには、けっこう狭い長椅子。
マリエルの真っ白な太ももと、ミーケの胸が、どうしてもオレにぶつかってしまう。
(ふう……仕方がないな……)
オレは基本的には孤独を愛する。
だが今は二人に頼まれたら断れない。
クラスメイトを刺激しないように、上手くやっていくしかない。
よし、今日も頑張って勉強していくぞ。
◇
その日も順調に、午前と午後の実技が終わる。
充実した一日だった。
今は帰宅前の、帰りのホームルーム。
担任のカテリーナ先生から、今後のスケジュールの連絡があった。
「来月の上旬に“学内選抜戦”を行います。先日も説明しましたが、詳しい内容は、この掲示物で各自に確認しておいてください」
先生は教室の横に、大きな掲示物を張り出す。
内容は“学内選抜戦”について書いてあるという。
「それでは今日の授業は、ここまで」
「「「先生、ありがとうございました!」」」
終礼の挨拶を是認でして、先生は教室を去っていく。
今日の授業は終わり。
生徒は寮の自室に戻る流れだ。
だが教室内がザワついていた。
「ついに“学内選抜戦”があるのか……」
「いよいよか……」
クラスメイト誰一人として、教室を去っていない。
みんなで掲示物に群がり、真剣な表情になっている。
「ん? “学内選抜戦”?」
オレは首を傾げる。
何しろ初めて聞く内容の単語。
一体に何を行う、行事なのだろうか?
「えっ、ハリトたん。二日目の“学内選抜戦”の話を、聞いていなかったニャン?」
「もしかして、ハリト様は、ここ数日、忙しかったので、前回の掲示物を見逃していた、かもですね」
そうか……そういえばエルザ捜索で、最近のオレはバタバタしていた。
だから二日前の啓示物を、オレは見逃していのだ。
「とりあえず、一回見てくるね」
少し時間が経ったので、掲示物の人混みも緩和されていた。
オレは内容を確認していく。
「ふむふむ……これは。つまり、キタエル学園の一年生が、全員で模擬戦をして、一年の代表を決めるのかな? この選抜チーム? こっちは何のことだろう?」
読み込んでみたが、表現が曖昧で、いまいちよく分からない。
文章が全体的に遠まわしなのだ。
「ハリト様、その学内選抜戦は剣士学園の中でも、一、二を争う重要な行事でございます!」
「そうだニャン。一年の中で優勝できたら、“一人前の剣士”に近づくチャンスにゃん!」
「あっ……そうなんだ、知らなくて、ごめん」
マリエルとミーケは、かなり興奮していた。
というか興奮し過ぎて、少し怖い。
だが興奮しているのは、二人だけはなかった。
まだ教室に残る、他のクラスメイトも興奮している。
「この学内選抜戦を勝ち抜いて、キタエル一年の代表になれたら……」
「ああ、称号持ちになれる、確率が一気にアップだな……」
「どんなことをしても、絶対に勝ちぬかないとな……」
皆はかなり興奮している。
鼻息が荒い者もおり、学内選抜戦の重要さが伺える。
(それほど、一大イベントなのか……とりあえず、もう一回ちゃんと、読み込んでみるか……)
今度はメモをとりながら、学内選抜戦の概要を確認していく。
それによると詳細は、次のような感じだった。
――――◇――――◇――――
《キタエル学園学内選抜戦》
・一年生は三人一組のチームを作る。
・選抜戦は学園内の闘技場で行う。
・トーナメント方式の勝ち抜き戦を行っていく。
・チーム対抗戦で一対一の個人戦を、三回行う。より多く勝ち星があるチームが、勝ち抜け。
(一勝一敗一分け、などで同点の時は、延長試合で決定。他にも特別ルールあり)
・優勝チームには褒美の武器を与える。
・優勝チームは王都で行わる、学園対抗戦の出場権利を与える。
・なお優勝できなくても、剣士への道が閉ざされる訳ではない。その後は授業も続いていく。
――――◇――――◇――――
だいたいこんな感じの内容だった。
(ふーん。つまり三人一組でチームを作って、一年の中で最強チームを決める……のか?)
大まかに説明するなら、こんな感じだろう。
早い話が、腕自慢大会みたいな感じだ。
(優勝の特典は、褒美の武器か……)
これはかなり魅力的な賞品。
だからクラスメイトも、あんなに目を輝かせているのだろう。
(でも“王都で行われる学園対抗戦の出場権”……これって、何だろう?)
これまた初めて聞く単語である。
何と何が対抗して、戦うのであろうか?
「ハリト様、“学園対抗戦”は、王国内にある五つ学園で行う対抗戦ですわ」
首を傾げているオレに、マリエルがそっと耳打ちしてくれる。
王女である彼女は、王国内の行事について詳しいのだ。
「へー、そうか。ありがとう」
王国内には全部で、五個の学園がある。
東西南北に一カ所ずつ。
あとは王都に一個、剣士学園がある。
「あっ、そうか。王都学園は、マリエルが……」
「はい、そうでございます。私は王都学園の元生徒でした……」
王都学園の話になって、マリエルは急に眉をひそめる。
先日のオレに話してくれたこと。
王都学園時代の事件を、彼女は思い出しているのであろう。
「“あの者”は必ず王都学園の代表として、学園対抗戦に出てきます。だから私も負ける訳いないのです。今回の学内選抜戦は……」
マリエルはいつになく真剣な表情だった。
王都のライバルに負けたのが、よほど悔しかったのであろう。
下唇をぐっと噛みしめている。
あまりの力に血が染み出している。
「マリエルたん、大丈夫にゃん? これハンカチにゃん」
「ありがとう、ミーケ。ごめんなさい、みっともないところを見せて……」
「気にすることないニャン。マリエルたんは本気で強くなりたから、そこまで真剣なんだニャン。ミーも負けてられないニャン!」
ミーケは純粋で優しい性格。
思いつめているマリエルに共感していた。
「うん……ありがとう、ミーケ。一緒に頑張りましょう」
「ちょ、ちょっと、ミーまで、もらい泣きしちゃうニャン」
二人の少女はやや涙目になりながら、ギュッと抱き合う。
同じパーティーとして選抜戦で、勝ち進むことを誓い合っている。
(学内選抜戦か……でも、このルールだと、少しばかり面倒かもな……)
そんな中、オレは掲示物を読みこみながら、あることに気が付く。
(『三対三の個人戦によるポイント制で……トーナメント方式か……』
気になったのは、学内選抜戦のルールについて。
(普通に考えたら、マリエルとミーケで一勝ずつ。オレが負けても、何とかなりそうだけど……)
現時点の一年の中でマリエルの総合力は、一人だけ飛びぬけている。
さすがは【薔薇の剣姫】の二つ名持ち。
不安な要素といえば実戦経験が、まだ少ないこと。
あと性格的に、たまにポカをやらかす部分。
でも、よほどの大失敗さえなければ、マリエルによる一勝は固い。
あとミーケも一年生の中では、けっこう強い。
猫獣人としての身体能力の高さ。
剣士としての技術も、ぐんぐんと急成長している。
他のクラスのトップにさえ気を付ければ、なんとか勝ち星は狙えそうだ。
(問題はオレはか……)
正直なところ、まだオレは自信がない。
たしかに三人での特訓を始めてから、自分の戦闘力は急成長している。
だが、あくまでの“最初のハリト”に比べての成長。
学年の中で、どのくらいの位置にあるのか、実感できていないのだ。
(まぁ、心配しすぎかな、オレ? マリエルとミーケで二勝したら、オレは負けででも、チームは勝ちぬけるからな……)
選抜戦ともなれば、参加者はヒートアップしてしまうのであろう。
とにかく大きな怪我をしないように、選抜戦は安全で楽しくいきたい。
「あのう……ハリト様、大丈夫ですか?」
「へっ? あっ、うん。話は聞いていたよ!」
考え事していたから、変な声が出てしまった。
急いで意識を現実に戻す。
「学内選抜戦のことだよね? そうだね。三人で力を合わせて頑張っていこう!」
どうせ負けても退学になる訳ではない。
それなら安全で楽しく対抗戦に参戦だ。
あっ……でも、やっぱり、どうせ参加するのなら、いけるところまで勝ち進みたい。
よし、そのためには選抜に向けて、対策もしていかないとな
二人に提案してみよう。
「ねぇ、明日から特別訓練をしていかない? 選抜戦で、勝ち進むために? 二人とも大丈夫かな?」
オレたち三人は今まで、対魔物の実戦稽古が多かった。
だが学内選抜戦は対人戦だけ。
練習プログラムを少し変えて、対人戦を多くしてきたいのだ。
「もちろん大丈夫です、ハリト様。厳しい鍛錬は、私も望むところです!」
「ミーも大丈夫ニャン! 三人で強くなるニャン!」
二人の了承は得られた。
これで今日からの訓練は、選抜戦に特化していける。
「よし、三人で頑張っていこう! とりあえず目指せ、優勝かな?」
「もちろんだニャン! 目指せ優勝だニャン!」
「ハリト様、よろしくお願いします!」
◇
こうしてオレたち三人は、選抜戦に向けて鍛錬をスタートする。
かなり厳しい内容だったが、二人とも脱落することなく付いてきてくれた。
また他の一年生たちも選抜戦に向けて、各チームで特訓をしていたようだ。
一年生の全員が、とにかく異様な熱気に包まれていた期間。
全員が優勝を目指して、選抜戦まで精進していたのだ。
◇
そして日が経ち、月が明ける。
キタエル学園内の最大の行事。
ついに学内選抜戦の当日の朝がやってきたのだ
お姫様のマリエルと、猫獣人の少女ミーケ、三人で同居しながら平和で順調な日々だった。
だが、そんなある日、幼馴染のエルザが学園に現れた。
情緒不安定なエルザを説得しようとしたが、彼女は放心状態で消えてしまう。
◇
エルザが消えてから一週間が経つ。
未だに彼女は見つかっていない。
「エルザ大丈夫かな……タフで強いから、きっと大丈夫。そう思うしかないよな、今は。よし、今週も授業を頑張るとするか!」
気持ちを切り替えていく。
何故ならオレは剣士学園の生徒。
まずは未熟な自分を、鍛えていくのが先決なのだ。
朝一、部屋で制服に着替える。
よし、今日も一日、頑張っていくぞ。
「ハリト様、私たちも準備が終わりました」
「さぁ、行くにゃん!」
マリエルとミーケも制服に着替えていた。
三人で屋敷を出て、校舎に歩いていく。
「そういえばハリトたんは、毎日、早起きにゃんね?」
「そうかな? 早起きは、嫌いじゃないからね」
オレは昔から早く寝て、早起きるタイプ。
朝日が昇る前に、毎日目が覚めてしまうのだ。
だから、この二人を起こす係りだ。
「さすがハリト様です、私たちも見習わなくては……」
「それならマリエルも、もうちょっと早起きするニャン! あと寝事でいつも『ハリト様~、ハリト様~』って言うもの、直した方が、いいニャン?」
「ちょ、ちょっと、ミーケ! それはハリト様の前では、言わない約束でしょう!」
「あっはっは……二人とも、朝から元気だね」
そんな感じで雑談しながら、校舎に向かう。
「ハリト様、いつも起こしていただき、本当にありがとうございます。お蔭で私も昔に比べたら、少しだけ早起きは出来るようになりました」
「えっ、昔はもっと朝は苦手だったの?」
「はい……王都にいた時から、朝だけは、どうしても……」
マリエルは顔を赤くして説明してくる。
どうやら幼い時から朝が苦手らしい。
完璧そうに見えて、実は抜けているところもあるのだろう。
「そんなに悩まなくても大丈夫だよ。何しろ睡眠は身体を成長させるために、大事な要素だからね」
「えっ……睡眠で、成長が、ですか?」
「そう。前に読んだ専門書によると。特に成長期は質の良い睡眠が必須らしい。十分に睡眠時間を確保しないと、身体が適切に成長していかないんだ」
オレは昔から、一人前の剣士になりたかった。
だから強くなるために、色んな知識を勉強してきたのだ。
「なるほど……質の良い睡眠は、成長に大事……ですか」
マリエルは言葉の意味を噛みしめている。
強くなるために、剣技を鍛えるだけは駄目。
更なる高みを目指すために、マリエルも意識を変えていた。
「そうだニャン。ちゃんと寝ないと、マリエルの胸も大きくならないニャン! ミーみたいに!」
ミーケは自分の胸に手を当てながら、笑っていた。
そう言われてみれば、胸はミーケの方が大きい。
一方で細身なマリエルは、“ちょうどいい可愛い大きさ”だ。
「ちょ、ちょっと、ミーケ! ハリト様に聞こえてしまいますわ!」
「大丈夫にゃん。だってハリトたんは、いつもマリエルたんの、胸を見ているニャン! あっ、でもミーの胸も見ているニャン? つまりハリトたんは、どんな大きさの胸でも発情するから、大丈夫ニャン!」
朝から凄いことを連発している。
オレは気まずいので距離をとる。
小走りで、さっさと教室に向かっていく。
「あっ、お待ちください、ハリト様! 急ぎますわよ、ミーケ」
「そうだニャン!」
二人も雑談を止めて、追いかけてくる。
何とも朝から元気の良いことだ。
◇
教室に到着。
今日の午前中は座学。
長い椅子の教室で、先生の話を聞くスタイルだ。
「今日も、三人で並んで座るニャン!」
「ですわね。“ハリト団”の団結のためにですわ!」
「席はいいけど、その“ハリト団”って、何かな?」
「昨日、マリエルと二人で考えたニャン。三人のパーティー名ニャン!」
「我ながら見事な名だと思います。ハリト団……きっと大陸に名を響かせていく予感がします」
「そ、そうなだ……」
何やら三人のパーティー名が、勝手に決まっていた。
多数決の原理で、オレは頷くしかできない。
それにしても“ハリト団”か……ちょっと恥ずかしいな。
「よし、今日は、この席にするニャン」
「そうですわね」
三人に並んで座る。
長椅子にサンドイッチ状態で、席に着く。
真ん中はオレの定位置になってしまい、両脇に女性陣。
三人で座るには、けっこう狭い長椅子。
マリエルの真っ白な太ももと、ミーケの胸が、どうしてもオレにぶつかってしまう。
(ふう……仕方がないな……)
オレは基本的には孤独を愛する。
だが今は二人に頼まれたら断れない。
クラスメイトを刺激しないように、上手くやっていくしかない。
よし、今日も頑張って勉強していくぞ。
◇
その日も順調に、午前と午後の実技が終わる。
充実した一日だった。
今は帰宅前の、帰りのホームルーム。
担任のカテリーナ先生から、今後のスケジュールの連絡があった。
「来月の上旬に“学内選抜戦”を行います。先日も説明しましたが、詳しい内容は、この掲示物で各自に確認しておいてください」
先生は教室の横に、大きな掲示物を張り出す。
内容は“学内選抜戦”について書いてあるという。
「それでは今日の授業は、ここまで」
「「「先生、ありがとうございました!」」」
終礼の挨拶を是認でして、先生は教室を去っていく。
今日の授業は終わり。
生徒は寮の自室に戻る流れだ。
だが教室内がザワついていた。
「ついに“学内選抜戦”があるのか……」
「いよいよか……」
クラスメイト誰一人として、教室を去っていない。
みんなで掲示物に群がり、真剣な表情になっている。
「ん? “学内選抜戦”?」
オレは首を傾げる。
何しろ初めて聞く内容の単語。
一体に何を行う、行事なのだろうか?
「えっ、ハリトたん。二日目の“学内選抜戦”の話を、聞いていなかったニャン?」
「もしかして、ハリト様は、ここ数日、忙しかったので、前回の掲示物を見逃していた、かもですね」
そうか……そういえばエルザ捜索で、最近のオレはバタバタしていた。
だから二日前の啓示物を、オレは見逃していのだ。
「とりあえず、一回見てくるね」
少し時間が経ったので、掲示物の人混みも緩和されていた。
オレは内容を確認していく。
「ふむふむ……これは。つまり、キタエル学園の一年生が、全員で模擬戦をして、一年の代表を決めるのかな? この選抜チーム? こっちは何のことだろう?」
読み込んでみたが、表現が曖昧で、いまいちよく分からない。
文章が全体的に遠まわしなのだ。
「ハリト様、その学内選抜戦は剣士学園の中でも、一、二を争う重要な行事でございます!」
「そうだニャン。一年の中で優勝できたら、“一人前の剣士”に近づくチャンスにゃん!」
「あっ……そうなんだ、知らなくて、ごめん」
マリエルとミーケは、かなり興奮していた。
というか興奮し過ぎて、少し怖い。
だが興奮しているのは、二人だけはなかった。
まだ教室に残る、他のクラスメイトも興奮している。
「この学内選抜戦を勝ち抜いて、キタエル一年の代表になれたら……」
「ああ、称号持ちになれる、確率が一気にアップだな……」
「どんなことをしても、絶対に勝ちぬかないとな……」
皆はかなり興奮している。
鼻息が荒い者もおり、学内選抜戦の重要さが伺える。
(それほど、一大イベントなのか……とりあえず、もう一回ちゃんと、読み込んでみるか……)
今度はメモをとりながら、学内選抜戦の概要を確認していく。
それによると詳細は、次のような感じだった。
――――◇――――◇――――
《キタエル学園学内選抜戦》
・一年生は三人一組のチームを作る。
・選抜戦は学園内の闘技場で行う。
・トーナメント方式の勝ち抜き戦を行っていく。
・チーム対抗戦で一対一の個人戦を、三回行う。より多く勝ち星があるチームが、勝ち抜け。
(一勝一敗一分け、などで同点の時は、延長試合で決定。他にも特別ルールあり)
・優勝チームには褒美の武器を与える。
・優勝チームは王都で行わる、学園対抗戦の出場権利を与える。
・なお優勝できなくても、剣士への道が閉ざされる訳ではない。その後は授業も続いていく。
――――◇――――◇――――
だいたいこんな感じの内容だった。
(ふーん。つまり三人一組でチームを作って、一年の中で最強チームを決める……のか?)
大まかに説明するなら、こんな感じだろう。
早い話が、腕自慢大会みたいな感じだ。
(優勝の特典は、褒美の武器か……)
これはかなり魅力的な賞品。
だからクラスメイトも、あんなに目を輝かせているのだろう。
(でも“王都で行われる学園対抗戦の出場権”……これって、何だろう?)
これまた初めて聞く単語である。
何と何が対抗して、戦うのであろうか?
「ハリト様、“学園対抗戦”は、王国内にある五つ学園で行う対抗戦ですわ」
首を傾げているオレに、マリエルがそっと耳打ちしてくれる。
王女である彼女は、王国内の行事について詳しいのだ。
「へー、そうか。ありがとう」
王国内には全部で、五個の学園がある。
東西南北に一カ所ずつ。
あとは王都に一個、剣士学園がある。
「あっ、そうか。王都学園は、マリエルが……」
「はい、そうでございます。私は王都学園の元生徒でした……」
王都学園の話になって、マリエルは急に眉をひそめる。
先日のオレに話してくれたこと。
王都学園時代の事件を、彼女は思い出しているのであろう。
「“あの者”は必ず王都学園の代表として、学園対抗戦に出てきます。だから私も負ける訳いないのです。今回の学内選抜戦は……」
マリエルはいつになく真剣な表情だった。
王都のライバルに負けたのが、よほど悔しかったのであろう。
下唇をぐっと噛みしめている。
あまりの力に血が染み出している。
「マリエルたん、大丈夫にゃん? これハンカチにゃん」
「ありがとう、ミーケ。ごめんなさい、みっともないところを見せて……」
「気にすることないニャン。マリエルたんは本気で強くなりたから、そこまで真剣なんだニャン。ミーも負けてられないニャン!」
ミーケは純粋で優しい性格。
思いつめているマリエルに共感していた。
「うん……ありがとう、ミーケ。一緒に頑張りましょう」
「ちょ、ちょっと、ミーまで、もらい泣きしちゃうニャン」
二人の少女はやや涙目になりながら、ギュッと抱き合う。
同じパーティーとして選抜戦で、勝ち進むことを誓い合っている。
(学内選抜戦か……でも、このルールだと、少しばかり面倒かもな……)
そんな中、オレは掲示物を読みこみながら、あることに気が付く。
(『三対三の個人戦によるポイント制で……トーナメント方式か……』
気になったのは、学内選抜戦のルールについて。
(普通に考えたら、マリエルとミーケで一勝ずつ。オレが負けても、何とかなりそうだけど……)
現時点の一年の中でマリエルの総合力は、一人だけ飛びぬけている。
さすがは【薔薇の剣姫】の二つ名持ち。
不安な要素といえば実戦経験が、まだ少ないこと。
あと性格的に、たまにポカをやらかす部分。
でも、よほどの大失敗さえなければ、マリエルによる一勝は固い。
あとミーケも一年生の中では、けっこう強い。
猫獣人としての身体能力の高さ。
剣士としての技術も、ぐんぐんと急成長している。
他のクラスのトップにさえ気を付ければ、なんとか勝ち星は狙えそうだ。
(問題はオレはか……)
正直なところ、まだオレは自信がない。
たしかに三人での特訓を始めてから、自分の戦闘力は急成長している。
だが、あくまでの“最初のハリト”に比べての成長。
学年の中で、どのくらいの位置にあるのか、実感できていないのだ。
(まぁ、心配しすぎかな、オレ? マリエルとミーケで二勝したら、オレは負けででも、チームは勝ちぬけるからな……)
選抜戦ともなれば、参加者はヒートアップしてしまうのであろう。
とにかく大きな怪我をしないように、選抜戦は安全で楽しくいきたい。
「あのう……ハリト様、大丈夫ですか?」
「へっ? あっ、うん。話は聞いていたよ!」
考え事していたから、変な声が出てしまった。
急いで意識を現実に戻す。
「学内選抜戦のことだよね? そうだね。三人で力を合わせて頑張っていこう!」
どうせ負けても退学になる訳ではない。
それなら安全で楽しく対抗戦に参戦だ。
あっ……でも、やっぱり、どうせ参加するのなら、いけるところまで勝ち進みたい。
よし、そのためには選抜に向けて、対策もしていかないとな
二人に提案してみよう。
「ねぇ、明日から特別訓練をしていかない? 選抜戦で、勝ち進むために? 二人とも大丈夫かな?」
オレたち三人は今まで、対魔物の実戦稽古が多かった。
だが学内選抜戦は対人戦だけ。
練習プログラムを少し変えて、対人戦を多くしてきたいのだ。
「もちろん大丈夫です、ハリト様。厳しい鍛錬は、私も望むところです!」
「ミーも大丈夫ニャン! 三人で強くなるニャン!」
二人の了承は得られた。
これで今日からの訓練は、選抜戦に特化していける。
「よし、三人で頑張っていこう! とりあえず目指せ、優勝かな?」
「もちろんだニャン! 目指せ優勝だニャン!」
「ハリト様、よろしくお願いします!」
◇
こうしてオレたち三人は、選抜戦に向けて鍛錬をスタートする。
かなり厳しい内容だったが、二人とも脱落することなく付いてきてくれた。
また他の一年生たちも選抜戦に向けて、各チームで特訓をしていたようだ。
一年生の全員が、とにかく異様な熱気に包まれていた期間。
全員が優勝を目指して、選抜戦まで精進していたのだ。
◇
そして日が経ち、月が明ける。
キタエル学園内の最大の行事。
ついに学内選抜戦の当日の朝がやってきたのだ
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家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから
ハーーナ殿下
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冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。
だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。
これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。
一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~
十本スイ
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ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。
家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長
ハーーナ殿下
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貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。
しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。
これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。
巻き込まれて気づけば異世界 ~その配達員器用貧乏にて~
細波
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(3月27日変更)
仕事中に異世界転移へ巻き込まれたオッサン。神様からチートもらってやりたいように生きる…
と思ってたけど、人から頼まれる。神から頼まれる。自分から首をつっこむ!
「前の世界より黒くないし、社畜感無いから余裕っすね」
周りの人も神も黒い!
「人なんてそんなもんでしょ? 俺だって黒い方だと思うし」
そんな元オッサンは今日も行く!
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