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第26話:変わってしまった幼馴染

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オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。
お姫様のマリエルと、猫獣人の少女ミーケ、三人で同居しながら平和で順調な日々だった。

だが、そんなある日、幼馴染のエルザが突如現れたのだ。



ひと気のない通学路
金髪の女剣士エルザが、狂犬のような殺気を発して立ちはだかる。

「ハリト、さっきはよくも私を騙してくれたわね! 今までの恨みを、ここで晴らしてやるんだから!」

「ハリト様、あの者は……」

「ハリトたん、あいつは……」

「大丈夫。彼女はオレの知り合いだ。だから、ここは任せて」

心配してくれたマリエルとミーケを、後ろに下がらせる。
とにかく今はエルザと二人で話がしたい。

「エルザ……よかっか。無事にオレのことを思い出してくれたんだね。記憶喪失かと思って心配していたよ」

ここ数年間、彼女とは辛い思い出しかない。

でもエルザは小さな時からの幼馴染。
オレは本心で心配していた。

「はぁ? なんで、この私が、あんたなんかに心配されないといけないのよ! ちょっとくらいカッコよくなったからって、調子に乗らないでよね!」

「そっか、それはそうだね。ところで他にも心配していることがあるんだ。見た感じだと、かなり体調が悪そうだけど、大丈夫? あと聖女の法衣と宝剣も無いけど? 王都で何かあったのかな? オレで良かったら、少しは力になるよ」

「はん! 私も落ちぶれたものね! まさか、あのクズハリトに心配されるなんて! 夢にも思わなかったわ!」

エルザはかなり追い詰められている様子だった。

オレが何を言っても、まともに答えてくれない。
本当に王都で、この半年で何があったのだろうか?

「ハリト、あんたの学園のことは、少し調べさせてもらったわ。何でも、成績優秀でクラスでも人気者らしいじゃない? どうせ金かなんかで買収しているんでしょ⁉ それにクラスメイトの女の子を、いつも何もはべらせて、モテモテらしいじゃない? 

エルザは明らかに精神的に、おかしくなっていた。
オレに対して王都以上に、暴言を吐いてくる。

「どうせ、その後ろの醜い女たちも、身体目当ての連中なんでしょ? もしかしてクラスにいる娼婦の子たちかしら? これから安くさい宿屋に行って、三人で交わうつもりなんでしょ⁉」

「エルザ……オレのことは、いくら悪く言っても我慢できる。でも、マリエルとミーケ……オレの大事な仲間を侮辱するのは、許せない。訂正して謝ってくれ。二人に」

「はぁ? 何で私が、あんな薄汚い女に、謝らないといけないのよ⁉」

「あまり言いたくないけど、これはエルザのためでもあるんだ。あの銀髪の子、マリエルは王女様……マリエル・ワットソン様なんだ」

「えっ……王女様……あの国王の……まさか⁉ でも、なんで、こんな北の辺境に⁉ それに何で、クズハリトなんかと……」

マリアンヌの身分を聞いて、エルザは急に言葉を失う。

何故なら彼女に聖女の称号を与えたのは、ワットソン国王。
つまりエルザの実の父親なのだ。

たとえ才能ある聖女でも、国王と王族には逆らうことは出来ないのだ。

「私《わたくし》の名が出てきたので、少し失礼します、ハリト様」

そんな時、マリエルが一歩前に出る。
絶句しているエルザに向かって、厳しい視線を向ける。

「エルザさんと仰いましたね? 思い出しました、貴女のことを。たしか【聖女】の称号を持つ王国剣士でしたね。ですが数ヶ月前に、職務怠慢の罪で称号を剥奪、王都からも追放されたと聞いております」

えっ……エルザの聖女の称号が、はく奪されていた?

どうして?

そしてマリエルはそのことを、どうして知っていたんだろう。

あっ、そうか……女貴族であるイザベーラさんの、貴族間の情報網から聞いていたのかもしれない。

そしてエルザを糾弾する、マリエルの言葉は続いていく。

「そんな貴女が、この王女であるわたくしに向かって、なんたる暴言! たとえハリト様の知人だとしても、その罪は軽くはありません!」

「な、な、なんですって……」

エルザの顔から血の気が引いていく。

この国で王族に逆らう者は、生きてはいけない。

すぐさま、この場で平伏して、謝罪をしなければ、彼女の命すら危うい可能性もあった。

そんな時、今まで我慢していたミーケも、口を開く。

「さっきから聞いていたけど、お前の言うことは全部間違っているニャン! ハリトたんがクラスで人気者なのは、誰よりも優しくて、いつも一生懸命だからニャン! あとお前と違ってハリトたんは、本物の剣士で強いニャン! そしてマリエルたんはハリトたんの発情期……じゃなくて、二人は一緒に住んでいる夫婦にゃん!」

いや……擁護ようごしてくれるのは嬉しいけど、最後のはちょっと違うような。

たぶんミーケは言葉のレパートリーが、まだ少ないのかもしれない。

王女マリエルと猫獣人のミーケ。
二人に口撃の前に、エルザは数歩下がっていく。

「な……あの駄目ハリトが人格者で……しかも強い剣士になっていて……そのうえ王女と夫婦関係で……どういうことなのそれ……さ」

ん?

エルザの様子がおかしい。

狂犬のような殺気は消えている。

だが代わり、ドス黒い負の感情に覆われていた。

「それに比べて……私は何なのさ……唯一の取り柄の剣も……聖女の称号も失って……王都から追放されて……挙句の果てに数ヶ月も道に迷って……ようやく頼みのハリトを見つけ出したと思ったら……そのハリトが別人のようにカッコよくなっていて………私の方はこんなボロボロになって……」

「エルザ……」

幼馴染のエルザは涙を流していた。

絶望に飲み込まれながら、悲しげな涙を流している。

「そっか……分かったわ。あんたたちが……“あんた”が奪ったのね……私からハリトを……私の大事な存在だったのに」

そしてエルザは雰囲気が一変する。

狂気が再び噴出してきた。

「あんたを消したら……またハリトが戻ってきてくれる!」

「マリエル、危ない!」

エルザが剣を抜いて、マリエルに斬りかかる。

元聖女であってもエルザの剣の才能は本物。
凄まじい踏み込みだ。

「『聖なる斬撃よ、全ての存在に平等な死を』……剣術技【第三階位】四の型、【紅蓮地獄グレン・ジゴク】!」

まずい!
エルザが剣術技を発動してしまった。

「えっ……」

完璧な【第三階位】技は普通ではない。

直面しているマリエルですら、エルザに反応できない。

「マリエルたん!」

反射速度に優れたミーケも、一歩も動けずに。

最悪の状況。
このままだと間違いなく、マリエルは死んでしまう。

「くっ……全力で集中だ…………【走馬灯そうまとうモード】全力発動!」

オレは全ての力を、一気に解放。

直後、エルザの斬撃が、ゆっくりになる。

そのままマリエルの前に駆けていく。

「間に合え! 『流れる水のように、全て受け流せ』……剣術技【第一階位】三の型、【雷流らいりゅうの構え】!」

オレは受け流しの剣術技を発動。

直後、時間が動き出す。

ズシャン! ズシャン! ズシャン! ズシャン! 

うっ……凄まじい、エルザの斬撃が、オレを襲ってくる。

元聖女の放つ、【第三階位】の【紅蓮地獄グレン・ジゴク】は、尋常ではない火力の連続攻撃。

だがオレは必死で受け流していく。

「ふう……間に合ったか……」

なんとか全ての斬撃を、受け流すことに成功した。

後ろのマリエルと、横のミーケも無事。

二人とも傷一つなくて、本当に良かった。

「なっ……なっ……あ、あのハリトが剣術技を、発動できた⁉ しかも、この私の【紅蓮地獄グレン・ジゴク】を全部無効化した⁉ たかが【第一階位】の技で、この私の【第三階位】を全て……それに今の消える動きは……早過ぎて、この私でも見えなかった……」

一方でエルザは呆然としていた。

何が起きたか、理解できていないのだろう。

魂の抜けた表情で、オレのことを見てくる。

「エルザ……大丈夫? 自分の技の反動で、怪我をしているよ? 剣を置いて、ゆっくり話そうよ? 良かったら、この先にマリエルの屋敷があるから、そこでお風呂に入って、ご飯を食べて、ふかふかの布団で少し寝て、少し落ち着いてから、オレと話そうよ?」

オレは自分の剣を捨て、放心状のエルザに近づいていく。

かなり危険な行動。

だが、このまま錯乱した幼馴染は放っておけない。

「ハリト……ありがとう……」

エルザの表情が変わる。

柔らかい笑顔に……幼い頃の純真無垢な、仲良しだった時のエルザの笑顔になっていた。

「エルザ? よかった。さあ、オレの手を握って。お風呂上りに、またマッサージしてあげるから」

「私は……もう……終わりよ……さよなら……」

オレは虚をつかれた。

エルザは横の茂みの方に、逃げ去ってしまう。

「エルザ! どこにいくの!」

追いかけようにも、今は薄暗くなってきた夕方。

全力で逃亡した聖女クラスの逃亡、深い茂みの中の捜索は不可能だった。

「そんな……エルザ……」

こうして失意の幼馴染エルザは再び姿を消す

そして彼女は再びオレの前に、姿を現すことはなかった。
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