上 下
25 / 44

第25話:狂聖女の襲来

しおりを挟む
 オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。
お姫様のマリエルと、猫獣人の少女ミーケ、三人で同居しながらパーティーを組む。
オレのキタエルでの生活は、今のところは平和で順調だった。



そんなある日、隣クラスの転入生が、教室に怒鳴り込んでくる。

「ここに“ハリト”って、豚のような生徒がいるんでしょ! どこにいるのよ⁉ 出てきなさい、ハリト! いるのは分かっているのよ!」

怒鳴りこんできたのは、金髪の女剣士。
オレの幼馴染である『聖女』エルザだった。

「え……エルザ……?」

まさかの幼馴染の襲来に、オレは心臓が止まりかける。

同時に疑問も浮かびあがる。

いったい彼女は、どうしてこんな北の辺境に?

あの様子だと、オレを探してきたのか。でも、なぜわざわざ転入する必要があるんだ?

そして一番の疑問は、半年前から彼女が変貌してしまったこと。
怒鳴り来んできたエルザは、まるで別人のようにすたれていたのだ。

あの美しかった金髪は、今は薄汚れてバサバサになっている。

健康的で真っ白だった肌も、今はボロボロに。

健康的な魅力があった顔も、今は痩せてしまっている。

あと格好もみすぼらしい。
王都で身につけていた聖女の法衣と、宝剣が見当たらない。

(それに、あの乱暴な口調……オレ以外の前で、あんなに乱暴じゃなかったのに……)

王都にいた時のエルザは、外面は良かった。
聖女して礼儀正しく、丁寧な口調だった。

だが怒鳴り込んできたエルザは、かなり乱暴な口調。
まるで全ての見栄や地位を失ったかのように、何かにイラついている。

本当にどうしたのだろうか。

「あのー、あなたはどちら様ですか? いきなり怒鳴り込んできて? ウチのクラスに、あなたの探している人物はいませんけど?」

エルザに対して、クラスの委員長が対応する。
彼は剣士の腕が高く、人格者でもある。
エルザの横暴を見かねて、対応してくれたのだ。

「ふん! 情報は割れているのよ! このクラスには“ハリト”って低能な生徒がいるんでしょ! 豚のように丸々と太って、剣もまともに触れない、クズな奴よ! 隠したって無駄よ! 物置かどこかに、隠しているんでしょ⁉ 早く出しなさい、あの豚野郎を!」

「え……だから、そんな人は、うちのクラスにはいないです。これ以上、騒ぐなら先生に報告しますよ?」

「はっ! 先生が何よ? こうなったら実力を使ってでも、見つけてやるんだから!」

あ……あれは、まずい。

エルザは腰の剣に手をかたのだ。

「まって!」

オレは自分の席から、飛び出していく。
入り口でギラついている、幼馴染の元に向かう。

「エルザ……久しぶり。でも、こんなところで剣を抜いたら、マズイよ。だから落ち着いてよ」

こうなったら仕方がない。
エルザの前に顔を出す。
興奮している幼馴染を説得する。

「はぁ? あんた、誰? というか、何で私の名前を知っているの? もしかして、あんたも、邪魔する気なの、豚ハリトを探す!」

ん?

何やらエルザの様子がおかしい。

オレを目の前にして、まだ探している。

『ハリトの野郎はどこにいるのか!』って叫んでいる。

もしかしたらエルザの探しているハリトは、同姓同名なだけでオレとは別人なのか?

それとも記憶喪失で。オレも顔を忘れてしまったのだろう?

とにかく確認してみないと。

「えーと、エルザ。生まれ故郷のサダの村のことを覚えている。ほら、小さな湖のほとりにある? 幼い時は、いつも一緒に遊んだでしょ?」

「なっ⁉ なんで、お前みたい奴が、私たちの故郷のことを知っているの⁉ もしかして、アンタ私のストーカー⁉ もしくは、あの豚ハリトから、私の話を聞いて、混乱させるつもなのね! もう騙されないんだか!」

「いや、騙すとかじゃなくて、オレがハリト本人だよ。ほら、王都の三丁目の屋敷で一緒に住んでいた……」

「はぁ⁉ どうせ、その話も、あの豚野郎から聞いたんでしょ⁉ 時間稼ぎのつもり! こうなったら、実力行使で見つけ出してやるわ!」

あっ、マズイ。
エルザが剣を本気で抜こうとする。

このままだと近くの委員長が危険だ。

でも、言葉での説得は難しい。
どうすればいいのか?

あっ、そうだ!
言葉ではない方法で、説得をすればいいのか。

(よし……【走馬灯そうまとうモード・壱の段】発動!)

直後、周囲の時間がゆっくり流れる。

剣の抜こうとするエルザも、スローモーションで動いていく。

(よし、彼女の右腕を!)

エルザの右腕を、オレは両手で掴む。

そのまま指圧……マッサージしていく。

直後、走馬灯モードが切れる。

「なっ⁉ アンタ、私の動きを止めた⁉ それに……このマッサージに仕方は……」

狂犬のようだったエルザが急変。
オレの顔を見ながら言葉を失っている。

「ああ、オレだよ。エルザの幼馴染のハリトだよ!」

「えっ……そんな、でもなんで、そんな格好になっているの……ああ、でも、このマッサージは、間違いけど……」

エルザは複雑な表情になる。
怒りと喜び、悲しみと懐かしさ、孤独と慕情。

何かを吐き出しそうな表情だ。

だが直後、また態度が急変する。

「くっ……私は、絶対に、あんたを許さないんだから!」

教室を飛び出していく。
そのまま校舎の外へと消えていった。

「エルザ……」

何が彼女を、ああも変えてしまったのだろうか。

オレは幼馴染が立ち去った後を、見ているだけしか出来なかった。



その後は、カテリーナ先生が来て、普通に授業が始まった。

休み時間の噂によると、隣クラスにもエルザは戻ってないらしい。

生徒のバックレは学園では、たまにあること。

だから先生たちもあまり騒いでなかった。

学校側も彼女が『聖女』の称号持ちだとは、知らない雰囲気だった。

(エルザ……大丈夫かな……)

その日の休み時間、オレも一応彼女を探してみた。

だが敷地内はいなかった。

もしかしてきキタエルの街を離れたのであろうか?

一応は幼馴染だから、無事でいて欲しい。



だが、その日の放課後、エルザは舞い戻ってきた。

オレたち三人の帰宅路で、待ち伏せしていたのだ。
先ほどの同じように狂犬のような殺気を発して。

「ハ、ハリト、さっきはよくも私を騙してくれたわね! 今までの恨みを、ここで晴らしてやるんだから!」

「エルザ……」

こうして危険な幼馴染と、オレは真っ正面から対峙するのであった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長

ハーーナ殿下
ファンタジー
 貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。  しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。  これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

勇者パーティーをパワハラ追放された【自己評価の低い】支援魔術師、実は魔神に育てられた最強の男でした

ハーーナ殿下
ファンタジー
 支援魔術師ハリトは「お前みたいな役立たずなんて邪魔だ」と勇者パーティーをパワハラ追放されてしまう。自分の力不足をなげきつつ、困っていたBランク冒険者パーティーを助けていくことにした。  だが人々は知らなかった。実はハリトは生まれた時から、魔神ルシェルに徹底的に鍛えられた才人であることを。  そのため無能な勇者パーティーは段々と崩壊。逆にハリトの超絶サポートのお蔭で、Bランクパーティーは手柄を立てどんどん昇格しいく。  これは自己評価がやたら低い青年が、色んな人たちを助けて認められ、活躍していく物語である。「うわっ…皆からのオレの評価、高すぎ……」

ひだまりを求めて

空野セピ
ファンタジー
惑星「フォルン」 星の誕生と共に精霊が宿り、精霊が世界を創り上げたと言い伝えられている。 精霊達は、世界中の万物に宿り、人間を見守っていると言われている。 しかし、その人間達が長年争い、精霊達は傷付いていき、世界は天変地異と異常気象に包まれていく──。 平凡で長閑な村でいつも通りの生活をするマッドとティミー。 ある日、謎の男「レン」により村が襲撃され、村は甚大な被害が出てしまう。 その男は、ティミーの持つ「あるもの」を狙っていた。 このままだと再びレンが村を襲ってくると考えたマッドとティミーは、レンを追う為に旅に出る決意をする。 世界が天変地異によって、崩壊していく事を知らずに───。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

処理中です...