自我とお薬まみれの今日を生きる

みたらしのだんご

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自我について考えて、寄り道して

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自我とはなんなのだろうか。
うつ病の診断が出て、お薬を飲むように言われて、夕食後にお薬を飲むのだ。
薬を飲む前の自分は、落ち込みが酷く顔面蒼白で外出をし吐き気に殺されそうになりながら満員電車で帰るボロボロな人間だった。
かと思えば人と話すときに大声を出しまるで威嚇をするかのように喋り続けるときもあった。
つまりは社会不適合者であったわけだ。
毎日自分について考え続け、もちろん社会とのかかわりは半分以上消え去り、哲学者気取りで死について考える。
きちんとした学問ではないから数千年前の人々がすでに悟ったことを自分が発見したかのように気ぶり、死ぬことが全てだと主張する日々。
おしまい。
死んでしまえ。
鬱の無限ループで本当に死んでしまいそうだった。
成人年齢はとっくに過ぎたのに中学二年生のような思考回路に頭を使いつぶす。
きっと数十年前ならとっくに人生が終わっていたはずなのだ。

私はたまたま優しい人間に巡り合えたから病院に行ってお薬を飲めた。
よくわからないが不安と緊張を緩めるお薬らしい。
飲んで数日で、果たして効果は現れた。
死にたいと思うことがめっきり減ったのだ。
思考の無限ループから抜け出して現実に目を向けることになった。
現実は甘くないからこそその不安は生まれて仕方なかったし不安から落ち込むことは多くなったが、それでもお薬を飲む前の無から湧き上がる不安は亡くなったのだった。
偶に希死念慮が現れた時はお医者さんに言われた通りに不安を減らす頓服薬を飲んだら落ち着いた。
自分にお薬が合っていたのかはたまた症状が軽度で助かったのかはわからない。
ともかく効いてしまったのだ。

虚無から湧き出す不安が無くなって数か月、ここで疑問が浮かぶ。
お薬を飲む前の自分とお薬を飲んだ後の自分は連続した自我なのだろうか。
性格すら変わったように思えるのに同じ自分と言えるのだろうか。
取り敢えずの結論としては、別物ということにしておく。
もはや一番落ち込んでいた時期の記憶は半分以上消え去ってしまったから別物と考える方が確実だろう。
死にたいと自分を呪うことしかできないのと、来年はどうやって食いつないでいこうか、今月は働かないと生きられなさそうだ、と考えることができるのでは傍から見ても別人だろう。

そしたらお薬で変わってしまう自我とはいったい何なのだろうか。
やはり心は脳ミソでしかないということをひたすらに実感させられる毎日にまた鬱が湧きそうになるのを頓服薬で抑える。
都合のいい、比較的いい子の自分を薬で呼び出してギリギリセーフの点数をたたき出して、脳ミソのはたらきを変えて変えて変えて変えて変えて変えて変えて変えて…。
自分とは
自分とは
自分とは
なんだっけ。

最近は記憶力と理解力がめっきり減ってしまった。
きっといい子の自分には現実が辛すぎて直視し記憶しておくにはあまりにも残酷すぎるからだろう。
自力では生きられない自分に蚕の姿を重ねてしまう。
蚕の品種によっては餌を食べようとせず逃げてばかりの奴がいるらしい。
ハッピーな心で捉えるなら、自由に生きたい子の集まりなのだろうが、この特徴は遺伝するものであるから、やはり感情も性格も全て脳ミソか体の動きか何かなのだろうと思えてしまうのだった。
蚕はきっと頭が悪いから人間がいないと生きられないとも考えられないどころか人間のことも認識できないのだろう。
かわいそうと捉えるか、虫けらだからしょうがないと考えるかは人によるだろうが、そういう生き方しかできない
ことは事実である。
蚕は殺されるために生きている。
茹でられて自分を守っていたはずの繭を奪われて捨てられるか食われるかつまりは死ぬのだ。

こうしていると死にたい自分が出てくるのだ。
それでもお薬を飲む前の、死にたい、よりかは理論的であり頭を使っている死にたいである。
こうしてまた一つ不連続である自分である証拠ができあがってしまった。
私とは何なのだろうか。
自己とは…
自我とは…
時代が時代なら哲学者になれたかもしれないが、現代社会に無駄で価値も生産性もない奴は生きる価値もない。

少しでも生産的な人間になるために今日も夕飯後にお薬を飲んでやり過ごすしかない。
不連続な自分に違和感を覚えたとしても頓服薬を飲んで生き延びるしかない。
今はまだ、解決する力も気力もないのだから…。







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