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情報を制する者
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フェリクスは、セレスティア、そしてアーブルと共に、「指令室」へと向かっていた。
公安警察と「不死身の人造兵士」たちは退けたが、こちらが反抗する意思を見せた以上、新手が送り込まれてくるのは時間の問題だった。
その為、「リベラティオ」の頭領であるカドッシュに、今後の方針について確認する必要があると考えたのだ。
普段は静かな地下通路を、構成員たちが忙しく走り回っている。
と、フェリクスたちの背後からグスタフが声をかけてきた。
「指令室に行くのだろう? 僕も同行する」
「休んでいなくて、大丈夫なのか」
「傷も治してもらったし、こんな時に寝てなんかいられないさ。帝国側の動きが、あれで止まるとは思えないからね」
フェリクスの言葉に、グスタフが力強く答えた。
指令室に着いた四人を、カドッシュが迎えた。
「どうなることかと思いましたが、よく戻ってくれましたね」
彼の、仮面で覆われていない口元は、些か強張っているかに見えた。
「フェリクスくん、その姿は……」
「気付いたら、こうなっていた」
「これは、私の推測に過ぎませんが……今の状態が、フェリクスくん本来の姿なのかもしれませんね」
「本来の姿?」
カドッシュの言葉に、フェリクスは首を傾げた。
「君と同じ姿で色違いの個体が九体いたと思いますが、おそらく、個体識別の為に髪や瞳の色を変えてあったのでしょう」
「ま、そのうち、見慣れるさ」
アーブルが、軽口を叩くような調子で、口を挟んだ。
「今のフェリクスも、綺麗ですよ。グスタフさんも、そう思いませんか?」
そう言ってセレスティアが微笑むと、グスタフは、やれやれと肩を竦めた。
「……俺が恐ろしいのか?」
依然、顔を強張らせているカドッシュに、フェリクスは言った。
「何とも思っていない、と言えば、嘘になりますね。念動力などとも呼ばれる、『マナ』に頼らずに超常の現象を起こす『異能』も存在しますが、君の能力は、そんなものとは比べ物にならないくらい、常軌を逸していますから」
「…………」
「しかし、君が、我々『人間』と敵対するようなことはないと、信じていますよ」
カドッシュは、強張った笑みを浮かべた。
「言われずとも、そのつもりだ」
フェリクスが答えると、カドッシュは少し安堵した様子だった。
一方で、フェリクスは、指令室が緊迫した空気に包まれているのを感じていた。
数十台は設置されている机型の情報端末には、組織の構成員たちが張り付き、それぞれが緊張した面持ちで作業を行っている。
「本部周辺の空間歪曲式防護壁展開、完了しました」
「第三支部より、作業完了との報告あり――」
「――帝国軍総司令部の中枢部は掌握済み、一時的に、ここ以外との接続を遮断します」
構成員たちの会話からは、只事ではない何かが起きていることが読み取れた。
「カドッシュ、あなたたちは、今、何をしているんだ?」
フェリクスは、カドッシュに向かって問いかけた。
「――我々の最終目標である『智の女神』を機能停止に追い込むための作戦を決行中です。少々予定が早まりましたが、向こうも、この時点で、こちらが仕掛けるとは思っていなかったでしょうね」
「機能停止……だと? 一体、どうやって……」
カドッシュの言葉に、グスタフが目を剥いた。
「簡単に説明させてもらいますが……現在、情報通信網を通じて、軍や警察、その他の主な省庁の機能を司る『思考する魔導絡繰り』を、こちら側で掌握しつつあります。我々の邪魔をされたくありませんので」
「『思考する魔導絡繰り』? 『智の女神』の他にも、そのようなものがあるのですか?」
セレスティアが、不思議そうな顔をした。
「『思考する魔導絡繰り』と言っても、『智の女神』と異なり、それらは『自我』を持ちません。面倒な計算や情報処理などを行う為のものですが、現在では、それらに大部分の業務を任せている状態なのです」
「つまり、『思考する魔導絡繰り』を使えなくすれば、一時的にでも軍や警察が動けなくなるということか」
フェリクスは頷いた。
「更に、戦争で軍の殆どが国外に出払っている今は、絶好の機会とも言えますね。最終段階では、国内にある全ての支部から、直接、『智の女神』に演算処理ができなくなる程の過剰な負荷をかけて機能停止させ、更に『彼女』の情報を書き換える予定です」
「待て、『智の女神』の情報処理能力は桁違いだ。生半可なことでは、歯が立たないかもしれないぞ」
眉根を寄せるグスタフに、カドッシュが答えた。
「我々が開発した、莫大な量の情報を圧縮して送り込む呪文を使います」
「もし、もしもだけどさ、失敗したら、どうするんだ?」
アーブルが、少し不安げに言った。
「その時は、物理的に破壊するしかないでしょう。もちろん、その手立ても用意してあります。使わずに済めば、それに越したことはありませんが」
――彼らの作戦通りに事が進めば、人的被害を出さずに目的を達成できるという訳だ。しかし、俺も、物理的破壊が必要になった場合に備えたほうがいいだろう……
カドッシュの説明を聞きながら、フェリクスは、思考を巡らせた。
「――頭領、最終作戦、いつでも始動可能です」
構成員の一人が言った。
「では、これより最終作戦を開始します」
カドッシュの号令と共に、指令室の壁一面に嵌め込まれている光る板が、淡い輝きを放ち始めた。
公安警察と「不死身の人造兵士」たちは退けたが、こちらが反抗する意思を見せた以上、新手が送り込まれてくるのは時間の問題だった。
その為、「リベラティオ」の頭領であるカドッシュに、今後の方針について確認する必要があると考えたのだ。
普段は静かな地下通路を、構成員たちが忙しく走り回っている。
と、フェリクスたちの背後からグスタフが声をかけてきた。
「指令室に行くのだろう? 僕も同行する」
「休んでいなくて、大丈夫なのか」
「傷も治してもらったし、こんな時に寝てなんかいられないさ。帝国側の動きが、あれで止まるとは思えないからね」
フェリクスの言葉に、グスタフが力強く答えた。
指令室に着いた四人を、カドッシュが迎えた。
「どうなることかと思いましたが、よく戻ってくれましたね」
彼の、仮面で覆われていない口元は、些か強張っているかに見えた。
「フェリクスくん、その姿は……」
「気付いたら、こうなっていた」
「これは、私の推測に過ぎませんが……今の状態が、フェリクスくん本来の姿なのかもしれませんね」
「本来の姿?」
カドッシュの言葉に、フェリクスは首を傾げた。
「君と同じ姿で色違いの個体が九体いたと思いますが、おそらく、個体識別の為に髪や瞳の色を変えてあったのでしょう」
「ま、そのうち、見慣れるさ」
アーブルが、軽口を叩くような調子で、口を挟んだ。
「今のフェリクスも、綺麗ですよ。グスタフさんも、そう思いませんか?」
そう言ってセレスティアが微笑むと、グスタフは、やれやれと肩を竦めた。
「……俺が恐ろしいのか?」
依然、顔を強張らせているカドッシュに、フェリクスは言った。
「何とも思っていない、と言えば、嘘になりますね。念動力などとも呼ばれる、『マナ』に頼らずに超常の現象を起こす『異能』も存在しますが、君の能力は、そんなものとは比べ物にならないくらい、常軌を逸していますから」
「…………」
「しかし、君が、我々『人間』と敵対するようなことはないと、信じていますよ」
カドッシュは、強張った笑みを浮かべた。
「言われずとも、そのつもりだ」
フェリクスが答えると、カドッシュは少し安堵した様子だった。
一方で、フェリクスは、指令室が緊迫した空気に包まれているのを感じていた。
数十台は設置されている机型の情報端末には、組織の構成員たちが張り付き、それぞれが緊張した面持ちで作業を行っている。
「本部周辺の空間歪曲式防護壁展開、完了しました」
「第三支部より、作業完了との報告あり――」
「――帝国軍総司令部の中枢部は掌握済み、一時的に、ここ以外との接続を遮断します」
構成員たちの会話からは、只事ではない何かが起きていることが読み取れた。
「カドッシュ、あなたたちは、今、何をしているんだ?」
フェリクスは、カドッシュに向かって問いかけた。
「――我々の最終目標である『智の女神』を機能停止に追い込むための作戦を決行中です。少々予定が早まりましたが、向こうも、この時点で、こちらが仕掛けるとは思っていなかったでしょうね」
「機能停止……だと? 一体、どうやって……」
カドッシュの言葉に、グスタフが目を剥いた。
「簡単に説明させてもらいますが……現在、情報通信網を通じて、軍や警察、その他の主な省庁の機能を司る『思考する魔導絡繰り』を、こちら側で掌握しつつあります。我々の邪魔をされたくありませんので」
「『思考する魔導絡繰り』? 『智の女神』の他にも、そのようなものがあるのですか?」
セレスティアが、不思議そうな顔をした。
「『思考する魔導絡繰り』と言っても、『智の女神』と異なり、それらは『自我』を持ちません。面倒な計算や情報処理などを行う為のものですが、現在では、それらに大部分の業務を任せている状態なのです」
「つまり、『思考する魔導絡繰り』を使えなくすれば、一時的にでも軍や警察が動けなくなるということか」
フェリクスは頷いた。
「更に、戦争で軍の殆どが国外に出払っている今は、絶好の機会とも言えますね。最終段階では、国内にある全ての支部から、直接、『智の女神』に演算処理ができなくなる程の過剰な負荷をかけて機能停止させ、更に『彼女』の情報を書き換える予定です」
「待て、『智の女神』の情報処理能力は桁違いだ。生半可なことでは、歯が立たないかもしれないぞ」
眉根を寄せるグスタフに、カドッシュが答えた。
「我々が開発した、莫大な量の情報を圧縮して送り込む呪文を使います」
「もし、もしもだけどさ、失敗したら、どうするんだ?」
アーブルが、少し不安げに言った。
「その時は、物理的に破壊するしかないでしょう。もちろん、その手立ても用意してあります。使わずに済めば、それに越したことはありませんが」
――彼らの作戦通りに事が進めば、人的被害を出さずに目的を達成できるという訳だ。しかし、俺も、物理的破壊が必要になった場合に備えたほうがいいだろう……
カドッシュの説明を聞きながら、フェリクスは、思考を巡らせた。
「――頭領、最終作戦、いつでも始動可能です」
構成員の一人が言った。
「では、これより最終作戦を開始します」
カドッシュの号令と共に、指令室の壁一面に嵌め込まれている光る板が、淡い輝きを放ち始めた。
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