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◆ある狂科学者の独白
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私は一人の魔導技術研究者だ。
名前など、研究に比べれば些末なもので、無くても困ることはないだろう。
恵まれた環境と、持って生まれた才能で、私は数十年もの間、研究者として順風満帆の人生を歩んできた。
アルカナム魔導帝国において、生命科学の最高峰と言われる研究機関で、私は遺憾なく、その能力を発揮した。
私が特に魅せられたのは、「生命を操作する」技術だった。
「生命を複製する」技術は、既に完成していた。
「智の女神」様より与えられる知識が、それらを可能にした。
金に糸目をつけない富裕層であれば、病や事故で使い物にならなくなった身体の一部を、自分の細胞から新たに複製した、異常のない臓器や四肢に置き換えて健康を取り戻すことすら可能なほどに、生命操作の技術は発展していた。
我々が次に目指したのは、一から生命を設計して生み出す段階だ。
もとから存在する生命を複製するのではなく、生命の設計図たる塩基の配列から組み上げて生命を作り出す――これは、いわば「神」の領域に足を踏み入れるのに等しい。
「智の女神」様は、過去の研究成果から導き出した、これから生み出すべき生命体の「設計図」を組み上げた。
この「設計図」は、確実に「異能」――それも、頑強な肉体と優れた身体能力、そして超常の力を持ち合わせた超人を生み出す為のものだった。
自然に任せるだけであれば、「異能」の人間が誕生する確率は不確定であるというのが、長きに渡る経験と研究から得られた結論だった。
しかし、確実に「異能」を生み出せるなら、我が国は、より強い力を得ることができる。
何より、生まれ出る生命を、設計段階から制御できるようになれば、我々は「神」の力すら手に入れることになるのだ。
また、通常の生物は、如何に技術が発展しようと、その寿命を延ばすことはできても、「老い」からは逃れられなかった。
だが、「智の女神」様が組み上げた「設計図」から生まれた個体は、理論上「老いる」ことがないという。
老いることのない超人……正に、伝説の「マレビト」のようではないか。
この計画の存在は、国内外を問わず、一般人に知られるには時期尚早だとして、研究機関の中でも限られた者以外には極秘とされた。
私は、このような研究に携われることに、歓喜していた。
「不死身の人造兵士」と名付けられた実験体は、「智の女神」様の中枢部近くに作られた、高度な研究や実験の行われる施設で育成されることになった。
「設計図」を組み込んだ胚は、培養槽の中で順調に増殖し、やがて人――青年の形をとっていった。
言語の他、生存に必要と思われる基本的な知識も、「智の女神」様の指導により、脳に「焼き付ける」という形で与えた。
いよいよ実験体たちが目覚めるところを、この目で見られる――そう思った矢先に、「智の女神」様の下した決定は、私にとって非情なものと言えた。
彼らは然るべき時に目覚めさせる。それまでは、休眠状態を維持すること――然るべき時、とは、いつのことなのか。
私は焦っていた。何故なら、私自身の寿命が迫っていた為だ。
健康には人一倍気を遣い、少しでも不調を感じれば即座に検査をして病を寄せ付けないようにしていても、「老化」だけは如何ともしがたいものだ。
たとえ、若い体を複製して脳を移殖したとしても、脳自体の寿命は変わらない。
私は、老いて思考力が低下してしまう前に、人生で最大の、そして最高の研究成果を、自らの目で確認したかった。
「智の女神」様の指示は絶対――だが、私自身の内なる声が激しく心の扉を叩き続けた。
心血を注いできた研究成果を確かめたい……とうとう、私は、好奇心と欲望の前に敗れた。
ある日、私は十体分ある培養槽の一つを「覚醒」状態にするべく操作した。
もちろん、「事故」に見えるよう細工も施した。私が操作したことは、誰にも分からない筈だ。
脳に目覚めを促す信号が送られると、眠っていた実験体が目を開けた。
同時に、培養槽から培養液が排出されていく。
実験体は、無表情に周囲を見回すと、培養槽の強化硝子に手を伸ばした。
次の瞬間、魔導兵器の破壊光線さえ防ぐ強度の硝子が、飴細工の如く破壊された。
その様を監視装置で見ていた私は興奮に打ち震えた。
そして、この「異変」が気付かれない訳はなく、非常事態を知らせる警告音が響き渡る。
「異能」の身体能力を持つ実験体は、本能的なものなのか、彼を捕獲しようとする研究所の職員たちの手を掻い潜り、施設内を逃げ回った。
「そっちは不味いぞ――――!」
職員の一人が、殆ど悲鳴のような声で叫んだ。
実験体は、追われるうちに、起動実験中の「空間転移装置」が置かれた区域に入り込んでいた。
止める間もなく、実験体は「空間転移装置」の力で、どこへともなく消えてしまった。
一連の出来事は「事故」として極秘に処理され、私は何らかの処分を受けることもなかった。
行方不明になった実験体について、「智の女神」様は「私を主人と認識させてあるので、生存しているなら、いずれ戻ってくる。生存能力の実証実験と考えよう」と仰った。
私は、自らの手で一から作り出した生命が生きて動いているところを見ることができて満足していた。
願わくば、外界で様々な事柄を学習して戻った実験体と再び対面し、どのように成長したのかを確かめたいものだ。
名前など、研究に比べれば些末なもので、無くても困ることはないだろう。
恵まれた環境と、持って生まれた才能で、私は数十年もの間、研究者として順風満帆の人生を歩んできた。
アルカナム魔導帝国において、生命科学の最高峰と言われる研究機関で、私は遺憾なく、その能力を発揮した。
私が特に魅せられたのは、「生命を操作する」技術だった。
「生命を複製する」技術は、既に完成していた。
「智の女神」様より与えられる知識が、それらを可能にした。
金に糸目をつけない富裕層であれば、病や事故で使い物にならなくなった身体の一部を、自分の細胞から新たに複製した、異常のない臓器や四肢に置き換えて健康を取り戻すことすら可能なほどに、生命操作の技術は発展していた。
我々が次に目指したのは、一から生命を設計して生み出す段階だ。
もとから存在する生命を複製するのではなく、生命の設計図たる塩基の配列から組み上げて生命を作り出す――これは、いわば「神」の領域に足を踏み入れるのに等しい。
「智の女神」様は、過去の研究成果から導き出した、これから生み出すべき生命体の「設計図」を組み上げた。
この「設計図」は、確実に「異能」――それも、頑強な肉体と優れた身体能力、そして超常の力を持ち合わせた超人を生み出す為のものだった。
自然に任せるだけであれば、「異能」の人間が誕生する確率は不確定であるというのが、長きに渡る経験と研究から得られた結論だった。
しかし、確実に「異能」を生み出せるなら、我が国は、より強い力を得ることができる。
何より、生まれ出る生命を、設計段階から制御できるようになれば、我々は「神」の力すら手に入れることになるのだ。
また、通常の生物は、如何に技術が発展しようと、その寿命を延ばすことはできても、「老い」からは逃れられなかった。
だが、「智の女神」様が組み上げた「設計図」から生まれた個体は、理論上「老いる」ことがないという。
老いることのない超人……正に、伝説の「マレビト」のようではないか。
この計画の存在は、国内外を問わず、一般人に知られるには時期尚早だとして、研究機関の中でも限られた者以外には極秘とされた。
私は、このような研究に携われることに、歓喜していた。
「不死身の人造兵士」と名付けられた実験体は、「智の女神」様の中枢部近くに作られた、高度な研究や実験の行われる施設で育成されることになった。
「設計図」を組み込んだ胚は、培養槽の中で順調に増殖し、やがて人――青年の形をとっていった。
言語の他、生存に必要と思われる基本的な知識も、「智の女神」様の指導により、脳に「焼き付ける」という形で与えた。
いよいよ実験体たちが目覚めるところを、この目で見られる――そう思った矢先に、「智の女神」様の下した決定は、私にとって非情なものと言えた。
彼らは然るべき時に目覚めさせる。それまでは、休眠状態を維持すること――然るべき時、とは、いつのことなのか。
私は焦っていた。何故なら、私自身の寿命が迫っていた為だ。
健康には人一倍気を遣い、少しでも不調を感じれば即座に検査をして病を寄せ付けないようにしていても、「老化」だけは如何ともしがたいものだ。
たとえ、若い体を複製して脳を移殖したとしても、脳自体の寿命は変わらない。
私は、老いて思考力が低下してしまう前に、人生で最大の、そして最高の研究成果を、自らの目で確認したかった。
「智の女神」様の指示は絶対――だが、私自身の内なる声が激しく心の扉を叩き続けた。
心血を注いできた研究成果を確かめたい……とうとう、私は、好奇心と欲望の前に敗れた。
ある日、私は十体分ある培養槽の一つを「覚醒」状態にするべく操作した。
もちろん、「事故」に見えるよう細工も施した。私が操作したことは、誰にも分からない筈だ。
脳に目覚めを促す信号が送られると、眠っていた実験体が目を開けた。
同時に、培養槽から培養液が排出されていく。
実験体は、無表情に周囲を見回すと、培養槽の強化硝子に手を伸ばした。
次の瞬間、魔導兵器の破壊光線さえ防ぐ強度の硝子が、飴細工の如く破壊された。
その様を監視装置で見ていた私は興奮に打ち震えた。
そして、この「異変」が気付かれない訳はなく、非常事態を知らせる警告音が響き渡る。
「異能」の身体能力を持つ実験体は、本能的なものなのか、彼を捕獲しようとする研究所の職員たちの手を掻い潜り、施設内を逃げ回った。
「そっちは不味いぞ――――!」
職員の一人が、殆ど悲鳴のような声で叫んだ。
実験体は、追われるうちに、起動実験中の「空間転移装置」が置かれた区域に入り込んでいた。
止める間もなく、実験体は「空間転移装置」の力で、どこへともなく消えてしまった。
一連の出来事は「事故」として極秘に処理され、私は何らかの処分を受けることもなかった。
行方不明になった実験体について、「智の女神」様は「私を主人と認識させてあるので、生存しているなら、いずれ戻ってくる。生存能力の実証実験と考えよう」と仰った。
私は、自らの手で一から作り出した生命が生きて動いているところを見ることができて満足していた。
願わくば、外界で様々な事柄を学習して戻った実験体と再び対面し、どのように成長したのかを確かめたいものだ。
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