74 / 116
◆剣とドレスと1
しおりを挟む
物心がついた頃、彼女は既に一人だった。
身の回りの世話をしてくれる者たちは存在していた。
世話係たちに、彼女はエリカと呼ばれていた。
エリカが着せられていた衣服は、いつも清潔だったし、栄養に配慮された十分な食事や、甘い菓子類も与えられてはいた。
しかし、エリカの胸の中は、常に隙間風が吹いているかのように、空虚だった。
ずっと後になって、それが「寂しい」という感情であると、彼女は知った。
遊び相手もいないエリカの慰めになったのは、華やかな絵の描かれた、何冊もの古びた絵本だった。
綺麗なドレスを着た、お姫様の出てくる絵本が、彼女のお気に入りだった。
大きくなったら、自分も、こんな風になれるだろうか――そう思いながら絵本を眺めている時は、エリカも寂しさを忘れていた。
ある時、エリカは、自分以外の子供には、「親」というものがいることに気付いた。
世話をしてくれる者に、自分の「親」は、どこにいるのかと彼女は尋ねた。
「エリカ様のお母上は、遠いところで、お星様になりました」
世話係が幼いエリカを気遣って、そう答えたのだと、「母親」とは、もう会えないのだと、彼女は悟った。
「父親」については、世話係たちも言葉を濁して答えてくれなかった。
聞いてはいけないことだったのだ、と思ったエリカは、それ以後、「親」について口に出すことはなくなった。
そんな、ある日。
突然、エリカのもとに「父親」が訪れた。
彼女は、「父親」に、自分が「戦士型の異能」なのだと教えられた。
「お前には、才能がある。戦う方法を覚えて、我がベルンハルト家の跡継ぎになるのだ」
戦うなんて、怖い――幼いエリカは、そう思ったものの、初めて会いに来てくれた「父親」が、自分を必要としてくれるのが嬉しくて、彼の言う通りにしよう、と心に決めた。
自分が、「帝国十二宗家」という特別な家の一つの生まれだということも、彼女は、この時知った。
武術を重んじ、皇帝守護騎士を何人も輩出している名家の当主として、また自身も「異能」である「父親」は、跡継ぎの男子――それも「異能」の子が欲しかった。
だが、数人生まれた子が全て女の子だった為、彼は正妻以外にも数人の女性との間に子を成した。
しかし、生まれたのは、いずれも女の子だった上に、「異能」の子はいなかった。
そもそも「異能」の子が生まれる確率は、あくまで不確定であり、両親が「異能」であるか否かも無関係だ。
エリカは、妾の一人との間に最後に生まれた子であったが、やはり女の子だという理由で、使用人たちに養育を丸投げされていたというのが真相だった。
ところが、エリカが「戦士型の異能」であることが判明した為、「父親」は彼女を戦士として育て、跡継ぎに据えようと考えたのだ。
身の回りの世話をしてくれる者たちは存在していた。
世話係たちに、彼女はエリカと呼ばれていた。
エリカが着せられていた衣服は、いつも清潔だったし、栄養に配慮された十分な食事や、甘い菓子類も与えられてはいた。
しかし、エリカの胸の中は、常に隙間風が吹いているかのように、空虚だった。
ずっと後になって、それが「寂しい」という感情であると、彼女は知った。
遊び相手もいないエリカの慰めになったのは、華やかな絵の描かれた、何冊もの古びた絵本だった。
綺麗なドレスを着た、お姫様の出てくる絵本が、彼女のお気に入りだった。
大きくなったら、自分も、こんな風になれるだろうか――そう思いながら絵本を眺めている時は、エリカも寂しさを忘れていた。
ある時、エリカは、自分以外の子供には、「親」というものがいることに気付いた。
世話をしてくれる者に、自分の「親」は、どこにいるのかと彼女は尋ねた。
「エリカ様のお母上は、遠いところで、お星様になりました」
世話係が幼いエリカを気遣って、そう答えたのだと、「母親」とは、もう会えないのだと、彼女は悟った。
「父親」については、世話係たちも言葉を濁して答えてくれなかった。
聞いてはいけないことだったのだ、と思ったエリカは、それ以後、「親」について口に出すことはなくなった。
そんな、ある日。
突然、エリカのもとに「父親」が訪れた。
彼女は、「父親」に、自分が「戦士型の異能」なのだと教えられた。
「お前には、才能がある。戦う方法を覚えて、我がベルンハルト家の跡継ぎになるのだ」
戦うなんて、怖い――幼いエリカは、そう思ったものの、初めて会いに来てくれた「父親」が、自分を必要としてくれるのが嬉しくて、彼の言う通りにしよう、と心に決めた。
自分が、「帝国十二宗家」という特別な家の一つの生まれだということも、彼女は、この時知った。
武術を重んじ、皇帝守護騎士を何人も輩出している名家の当主として、また自身も「異能」である「父親」は、跡継ぎの男子――それも「異能」の子が欲しかった。
だが、数人生まれた子が全て女の子だった為、彼は正妻以外にも数人の女性との間に子を成した。
しかし、生まれたのは、いずれも女の子だった上に、「異能」の子はいなかった。
そもそも「異能」の子が生まれる確率は、あくまで不確定であり、両親が「異能」であるか否かも無関係だ。
エリカは、妾の一人との間に最後に生まれた子であったが、やはり女の子だという理由で、使用人たちに養育を丸投げされていたというのが真相だった。
ところが、エリカが「戦士型の異能」であることが判明した為、「父親」は彼女を戦士として育て、跡継ぎに据えようと考えたのだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
神様のお楽しみ!
薫
ファンタジー
気がつくと星が輝く宇宙空間にいた。目の前には頭くらいの大きさだろうか、綺麗な星が一つ。
「君は神様の仲間入りをした。だから、この星を君に任せる」
これは、新米神様に転生した少年が創造した世界で神様として見守り、下界に降りて少年として冒険したりする物語。
第一章 神編は、三十三話あります!
第二章 婚約破棄編は、二十話しかありません!(6/18(土)投稿)
第三章 転生編は、三十三話です!(6/28(火)投稿)
第四章 水の楽園編(8/1(月)投稿)
全六章にしようと思っているので、まだまだ先は長いです!
更新は、夜の六時過ぎを目安にしています!
第一章の冒険者活動、学園、飲食店の詳細を書いてないのは、単純に書き忘れと文章力のなさです。書き終えて「あっ」ってなりました。第二章の話数が少ないのも大体同じ理由です。
今書いている第四章は、なるべく細かく書いているつもりです。
ストック切れでしばらくの間、お休みします。第五章が書き終え次第投稿を再開します。
よろしくお願いしますm(_ _)m
Valkyrie of Moonlight~月明りの剣と魔法の杖~
剣世炸
ファンタジー
【不定期更新】
魔法が禁忌とされる世界。
自警団の長を務める村長の息子アコードの村は、コボルトの襲撃を受けてしまう。
圧倒的に不利な状況下の中、幼馴染と共にコボルトの襲撃をどうにか凌いでいた彼の元に突然現れたのは、銀色の鎧に身を包み月明りのようにほのかに輝く不思議な剣を携えた、禁忌とされる魔法を使う金色の髪の乙女アルモだった。
アルモの旅の目的とは?そして、アコードが選択する運命とは?
世界を牛耳るワイギヤ教団と、正史を伝えるという三日月同盟との抗争に巻き込まれながらも、自らの運命と向き合うアコードの旅が、今始まる…
原案:剣世 炸/加賀 那月
著 :剣世 炸
表紙:さくらい莉(Twitter:@sakurai_322)
※旧題:月明りの少女
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!
アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。
思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!?
生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない!
なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!!
◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇
ウロボロス「竜王をやめます」
ケモトカゲ
ファンタジー
100年に1度蘇るという不死の竜「ウロボロス」
強大な力を持つが故に歴代の勇者たちの試練の相手として、ウロボロスは蘇りと絶命を繰り返してきた。
ウロボロス「いい加減にしろ!!」ついにブチギレたウロボロスは自ら命を断ち、復活する事なくその姿を消した・・・ハズだった。
・作者の拙い挿絵付きですので苦手な方はご注意を
・この作品はすでに中断しており、リメイク版が別に存在しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる