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◆剣とドレスと1

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 物心がついた頃、彼女は既に一人だった。
 身の回りの世話をしてくれる者たちは存在していた。
 世話係たちに、彼女はエリカと呼ばれていた。
 エリカが着せられていた衣服は、いつも清潔だったし、栄養に配慮された十分な食事や、甘い菓子類も与えられてはいた。
 しかし、エリカの胸の中は、常に隙間風が吹いているかのように、空虚だった。
 ずっと後になって、それが「寂しい」という感情であると、彼女は知った。
 遊び相手もいないエリカの慰めになったのは、華やかな絵の描かれた、何冊もの古びた絵本だった。
 綺麗なドレスを着た、お姫様の出てくる絵本が、彼女のお気に入りだった。
 大きくなったら、自分も、こんな風になれるだろうか――そう思いながら絵本を眺めている時は、エリカも寂しさを忘れていた。
 ある時、エリカは、自分以外の子供には、「親」というものがいることに気付いた。
 世話をしてくれる者に、自分の「親」は、どこにいるのかと彼女は尋ねた。
「エリカ様のお母上は、遠いところで、お星様になりました」
 世話係が幼いエリカを気遣って、そう答えたのだと、「母親」とは、もう会えないのだと、彼女は悟った。
 「父親」については、世話係たちも言葉を濁して答えてくれなかった。
 聞いてはいけないことだったのだ、と思ったエリカは、それ以後、「親」について口に出すことはなくなった。
 そんな、ある日。
 突然、エリカのもとに「父親」が訪れた。
 彼女は、「父親」に、自分が「戦士型の異能いのう」なのだと教えられた。
「お前には、才能がある。戦う方法を覚えて、我がベルンハルト家の跡継ぎになるのだ」
 戦うなんて、怖い――幼いエリカは、そう思ったものの、初めて会いに来てくれた「父親」が、自分を必要としてくれるのが嬉しくて、彼の言う通りにしよう、と心に決めた。
 自分が、「帝国十二宗家ていこくじゅうにそうけ」という特別な家の一つの生まれだということも、彼女は、この時知った。
 武術を重んじ、皇帝守護騎士インペリアルガードを何人も輩出している名家の当主として、また自身も「異能いのう」である「父親」は、跡継ぎの男子――それも「異能いのう」の子が欲しかった。
 だが、数人生まれた子が全て女の子だった為、彼は正妻以外にも数人の女性との間に子を成した。
 しかし、生まれたのは、いずれも女の子だった上に、「異能いのう」の子はいなかった。
 そもそも「異能いのう」の子が生まれる確率は、あくまで不確定であり、両親が「異能いのう」であるか否かも無関係だ。
 エリカは、妾の一人との間に最後に生まれた子であったが、やはり女の子だという理由で、使用人たちに養育を丸投げされていたというのが真相だった。
 ところが、エリカが「戦士型の異能いのう」であることが判明した為、「父親」は彼女を戦士として育て、跡継ぎに据えようと考えたのだ。
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