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変身(挿し絵有り)
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捌いた鴨を川でよく洗って、丁度見つけた大きな葉で包み、焼けた石と焚き火の間で蒸し焼きにする。
やがて、脂の焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。
頃合いを見て火から取り出すと、程よく焼けた鴨肉が姿を現す。
食べやすい大きさに切って木の枝に刺した鴨肉を、フェリクスはセレスティアに差し出した。
「体力を維持する為にも、できるだけ食べておいたほうがいい。調味料は塩しかなくて物足りないかもしれないが」
「これ、どうやって頂けば……?」
肉を受け取ったセレスティアは、やや戸惑った様子を見せた。
「そのまま、かぶりつけばいいのさ。姫様からすれば野趣あふれ過ぎだろうけどさ」
アーブルが、そう言って笑った。
「ところで、これからのことだけど。姫様をどうするか考えないとだよな」
食事を終えたところで、アーブルが切り出した。
「彼女は王族でもあるし、誰か権力のある者に保護してもらったほうがいいのではないか?」
「でも、現状で姫様を守れそうな『力のある者』が、地上に存在するかどうか……」
アーブルの言う通り、帝国からセレスティアを守れる者など、もはや存在を望めないかもしれないと、フェリクスも思った。
「まず、帝国に見つからないようにするのが先だと思うぜ。このままじゃ目立ちすぎて、あっという間に見つかりそうだし」
「たしかに……」
「とりあえず、髪を切ってもらって、その服も換えよう」
「服はともかく、髪も切るのか?」
フェリクスは、思わずアーブルの提案に異議を唱えた。
「だって、そのままじゃ目立つし、髪を短くしておけば、女の子と思われない可能性も上がるじゃないか」
至極当然だろう、という顔で、アーブルが答えた。
「しかし……髪は女の命だと、シルワも言っていた……」
フェリクスは呟きながら、セレスティアを見た。
「お気遣いありがとうございます」
セレスティアが、フェリクスを見つめ返して、微笑んだ。
「私なら、大丈夫です。このままでは、あなた方に迷惑をかけてしまうということも分かります……そのナイフを、貸して頂けますか」
そう言って、彼女は、フェリクスの腰のベルトに差してあるナイフを見た。
フェリクスがナイフを渡すと、セレスティアは、その美しい白に近い金髪を首の後ろで束ね、次の瞬間、ざっくりと切り落とした。
「これで、いかがでしょう」
切り落とされた髪が、はらはらと舞い落ちる。
あまりの潔さに、フェリクスだけではなく、アーブルも度肝を抜かれた様子だった。
「あ……うん、完璧だと思いマス」
更に、ドレスから、フェリクスが予備で持っていた男物の服に着替えると、セレスティアの外見は、遠目には王族とは思えないものとなった。
「……ぶかぶかですね」
着替えた服の袖を捲りながら、セレスティアが言った。
彼女とフェリクスとでは、背丈が頭一つ分は違う為、仕方のないことだ。
「そのうち、もうちょっとマシなものを調達するから、少しの間は我慢してくれよ」
アーブルが言って、肩を竦めた。
「いえ、私は、このままでも……」
セレスティアは、ちらりとフェリクスの顔を見上げて、頬を染めた。
彼女を見ていたフェリクスは、胸の奥に、何だかむずむずする感じを覚えた。
それは初めての感覚であったが、決して不快ではない、何か不思議なものだった。
やがて、脂の焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。
頃合いを見て火から取り出すと、程よく焼けた鴨肉が姿を現す。
食べやすい大きさに切って木の枝に刺した鴨肉を、フェリクスはセレスティアに差し出した。
「体力を維持する為にも、できるだけ食べておいたほうがいい。調味料は塩しかなくて物足りないかもしれないが」
「これ、どうやって頂けば……?」
肉を受け取ったセレスティアは、やや戸惑った様子を見せた。
「そのまま、かぶりつけばいいのさ。姫様からすれば野趣あふれ過ぎだろうけどさ」
アーブルが、そう言って笑った。
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「まず、帝国に見つからないようにするのが先だと思うぜ。このままじゃ目立ちすぎて、あっという間に見つかりそうだし」
「たしかに……」
「とりあえず、髪を切ってもらって、その服も換えよう」
「服はともかく、髪も切るのか?」
フェリクスは、思わずアーブルの提案に異議を唱えた。
「だって、そのままじゃ目立つし、髪を短くしておけば、女の子と思われない可能性も上がるじゃないか」
至極当然だろう、という顔で、アーブルが答えた。
「しかし……髪は女の命だと、シルワも言っていた……」
フェリクスは呟きながら、セレスティアを見た。
「お気遣いありがとうございます」
セレスティアが、フェリクスを見つめ返して、微笑んだ。
「私なら、大丈夫です。このままでは、あなた方に迷惑をかけてしまうということも分かります……そのナイフを、貸して頂けますか」
そう言って、彼女は、フェリクスの腰のベルトに差してあるナイフを見た。
フェリクスがナイフを渡すと、セレスティアは、その美しい白に近い金髪を首の後ろで束ね、次の瞬間、ざっくりと切り落とした。
「これで、いかがでしょう」
切り落とされた髪が、はらはらと舞い落ちる。
あまりの潔さに、フェリクスだけではなく、アーブルも度肝を抜かれた様子だった。
「あ……うん、完璧だと思いマス」
更に、ドレスから、フェリクスが予備で持っていた男物の服に着替えると、セレスティアの外見は、遠目には王族とは思えないものとなった。
「……ぶかぶかですね」
着替えた服の袖を捲りながら、セレスティアが言った。
彼女とフェリクスとでは、背丈が頭一つ分は違う為、仕方のないことだ。
「そのうち、もうちょっとマシなものを調達するから、少しの間は我慢してくれよ」
アーブルが言って、肩を竦めた。
「いえ、私は、このままでも……」
セレスティアは、ちらりとフェリクスの顔を見上げて、頬を染めた。
彼女を見ていたフェリクスは、胸の奥に、何だかむずむずする感じを覚えた。
それは初めての感覚であったが、決して不快ではない、何か不思議なものだった。
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