上 下
16 / 116

慟哭

しおりを挟む
「まだ生きている奴がいるぞ!」
「逃がすな!」
 兵士たちも、フェリクスの存在に気付き、発砲してきた。
 考えるよりも早く、フェリクスの身体は動いた。
 飛んでくる光弾が身体をかすめめるのにも構わず、フェリクスは跳躍し、一瞬で兵士たちに肉薄した。彼の思わぬ動きに、兵士たちは虚を突かれた格好だった。
 フェリクスの拳が、一人の兵士の顔面を捉える。
 兵士は、肉が千切れ、骨の砕ける音と共に倒れて動かなくなった。
 仲間の変わり果てた姿を目にした別の兵士の喉から、下手な笛のに似た悲鳴が漏れる。
 次の瞬間、フェリクスの閃光の如き前蹴りが、その兵士の胴に突き刺さった。
 吹き飛ばされ、燃え残っていた壁に叩きつけられた兵士の身体が、どさりと地面に落ち、やはり動かなくなる。
「あいつ、『異能いのう』だ!」
「聞いてねぇぞ!」
「早く殺せ!」
 状況に気付いた他の兵士たちも、フェリクスを狙って次々に発砲した。
 彼らの装備している小銃は、最新の魔法技術が用いられた高出力のもので、発射された光弾が人体を直撃すれば、重傷あるいは死を免れることはできない。
 しかし、常人の反応速度でフェリクスの動きを捉えるのは不可能だった。
 如何いかに高性能な武器でも、的に当たらなければ意味がないのだ。
「距離を取れ!奴は丸腰だ!」
 兵士たちは後退し、再度発砲した。
 光弾をかわしつつ、フェリクスが、一瞬、頭上に上げた右手を素早く振り下ろす。
 同時に、次々と兵士たちの身体が両断されていき、直後に爆音が生じた。
 フェリクスの、音速を超える動きによって引き起こされた衝撃波が、兵士たちを襲ったのだ。
 周囲に動くものがなくなったことに気付き、フェリクスは我に返った。
 辺りを見回した彼は、自らの行動の結果におののいた。
 兵士たちが、最初からフェリクスを殺すつもりだったことは明白だ。
 抵抗しなかったなら、彼自身が死んでいただろう。
 それでも、自分が他者の生命を奪ってしまったという事実が、フェリクスの精神を苛んだ。
 何より、反射的に、そのような行動をとった自分が恐ろしかった。
 記憶に存在しない過去にも、このようなことがあったのではないか……本当は、自分は凶悪な人間なのではないか……
 様々な感情がないぜになり、処理しきれなくなったフェリクスは、うずくまって嘔吐えずいた。
 吐き出すものなど何もなかった代わりに、彼の両目から涙が溢れた。
 ふと、フェリクスは新たな人間の気配を感じ、慌てて立ち上がった。
 生き残った村人か、それとも――
 振り向いた彼の目に映ったのは、先刻まで交戦していた兵士たちと同じ戦闘服に身を包んだ、赤毛の若い男だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

スキル【海】ってなんですか?

陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
スキル【海】ってなんですか?〜使えないユニークスキルを貰った筈が、海どころか他人のアイテムボックスにまでつながってたので、商人として成り上がるつもりが、勇者と聖女の鍵を握るスキルとして追われています〜 ※書籍化準備中。 ※情報の海が解禁してからがある意味本番です。  我が家は代々優秀な魔法使いを排出していた侯爵家。僕はそこの長男で、期待されて挑んだ鑑定。  だけど僕が貰ったスキルは、謎のユニークスキル──〈海〉だった。  期待ハズレとして、婚約も破棄され、弟が家を継ぐことになった。  家を継げる子ども以外は平民として放逐という、貴族の取り決めにより、僕は父さまの弟である、元冒険者の叔父さんの家で、平民として暮らすことになった。  ……まあ、そもそも貴族なんて向いてないと思っていたし、僕が好きだったのは、幼なじみで我が家のメイドの娘のミーニャだったから、むしろ有り難いかも。  それに〈海〉があれば、食べるのには困らないよね!僕のところは近くに海がない国だから、魚を売って暮らすのもいいな。  スキルで手に入れたものは、ちゃんと説明もしてくれるから、なんの魚だとか毒があるとか、そういうことも分かるしね!  だけどこのスキル、単純に海につながってたわけじゃなかった。  生命の海は思った通りの効果だったけど。  ──時空の海、って、なんだろう?  階段を降りると、光る扉と灰色の扉。  灰色の扉を開いたら、そこは最近亡くなったばかりの、僕のお祖父さまのアイテムボックスの中だった。  アイテムボックスは持ち主が死ぬと、中に入れたものが取り出せなくなると聞いていたけれど……。ここにつながってたなんて!?  灰色の扉はすべて死んだ人のアイテムボックスにつながっている。階段を降りれば降りるほど、大昔に死んだ人のアイテムボックスにつながる扉に通じる。  そうだ!この力を使って、僕は古物商を始めよう!だけど、えっと……、伝説の武器だとか、ドラゴンの素材って……。  おまけに精霊の宿るアイテムって……。  なんでこんなものまで入ってるの!?  失われし伝説の武器を手にした者が次世代の勇者って……。ムリムリムリ!  そっとしておこう……。  仲間と協力しながら、商人として成り上がってみせる!  そう思っていたんだけど……。  どうやら僕のスキルが、勇者と聖女が現れる鍵を握っているらしくて?  そんな時、スキルが新たに進化する。  ──情報の海って、なんなの!?  元婚約者も追いかけてきて、いったい僕、どうなっちゃうの?

収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい

三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです 無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す! 無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!

司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。  ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

荒野で途方に暮れていたらドラゴンが嫁になりました

ゲンタ
ファンタジー
転生したら、荒れ地にポツンと1人で座っていました。食べ物、飲み物まったくなし、このまま荒野で死ぬしかないと、途方に暮れていたら、ドラゴンが助けてくれました。ドラゴンありがとう。人族からエルフや獣人たちを助けていくうちに、何だかだんだん強くなっていきます。神様……俺に何をさせたいの?

鍛冶師×学生×大賢者~継承された記憶で、とんでもスローライフ!?~

かたなかじ
ファンタジー
 盗賊の罠にはまり、崖から落ちた鍛冶師ユーゴは過去の記憶を取り戻す。  前世の記憶、地球の大学二年の優吾は事故で亡くなっている。  前前世は勇者の仲間であった大賢者ユーゴ。  二つの記憶を継承したユーゴは、鍛冶師としての腕前、地球の記憶、そして大賢者の魔法。その三つを持って新たな人生を生きていく。  軽い気持ちで作ったポーション、試しに作ったナイフ。  これらがとんでもないものになるとは、作った時のユーゴは思いもしなかった。  彼が動くと、何かが起こる--!

処理中です...