15 / 116
咆哮
しおりを挟む
村を出たフェリクスは、夜の森を一人とぼとぼと歩いていた。
溜め息をつく度に、視界が白くなる。気温が、かなり下がっているのだろう。
フェリクスは、歩きながら、短い間だが自分を本当の息子のように可愛がってくれた、モンスとシルワのことを思った。二人と過ごした日々を思いだすうち、彼の目に、再び涙が浮かんだ。
初めて味わう、悲しみと孤独が、フェリクスの胸を締め付ける。
本当は、今すぐにでも引き返して、モンスとシルワの元に戻りたかった。
しかし、二人に迷惑をかけたくないという理由で村を出た以上、それは許されないことだと、彼は必死に堪えた。
突然、静寂に包まれていた森の空気を、微かな爆発音が震わせた。
フェリクスは、音の聞こえた方角を振り返った。間違いなく、先刻までいた村のほうだ。
更に、森の木々の向こうが、ぼんやりと赤く光っている。
火事だとすれば、家の一件や二件という規模でないことは、フェリクスにも分かった。
ただ事ではない――そう判断した瞬間、彼は村に向かって走りだしていた。
落ち葉を巻き上げながら、疾風の如く森を駆け抜け、フェリクスは村に辿り着いた。
そこで彼が見たのは、見慣れていた筈の村の景色が一変した様だった。
家々は原型を留めない程に破壊されて瓦礫と化しているか、そうでなければ燃えているという状態――文字通りの焼野原だ。
一目見て、生存者がいるなどとは思えない惨状である。
それでも、一縷の望みを胸に、フェリクスは、モンスとシルワの家のあった辺りへ向かって走った。
だが、彼の目に映ったのは、家があった筈の場所に残る、砲弾が直撃した跡であろう大きな穴だけだった。
フェリクスは何も考えることができなくなり、呆然と立ち尽くした。
数時間前まで一緒に過ごし、言葉を交わしていたモンスとシルワが、もう存在しないという事実を、彼は受け入れられなかった。
その時。
「小隊長、掃討は完了したであります」
「よし、じゃあ撤収だ」
声のしたほうを、フェリクスは、ぼんやりと見た。
瓦礫の向こう、数人の男の姿が燃え盛る炎に照らし出されている。
戦闘服姿で小銃を手にしているところを見ると、彼らは兵士だと思われた。
何が起きたのかを、フェリクスは全て理解した。
同時に、彼は、身体の中心から、これまでに感じたことのない、熱く、どす黒い何かが突き上げてくる感覚を覚えた。
その不快さに、フェリクスは咆哮した。言葉にならない叫びが迸った。
溜め息をつく度に、視界が白くなる。気温が、かなり下がっているのだろう。
フェリクスは、歩きながら、短い間だが自分を本当の息子のように可愛がってくれた、モンスとシルワのことを思った。二人と過ごした日々を思いだすうち、彼の目に、再び涙が浮かんだ。
初めて味わう、悲しみと孤独が、フェリクスの胸を締め付ける。
本当は、今すぐにでも引き返して、モンスとシルワの元に戻りたかった。
しかし、二人に迷惑をかけたくないという理由で村を出た以上、それは許されないことだと、彼は必死に堪えた。
突然、静寂に包まれていた森の空気を、微かな爆発音が震わせた。
フェリクスは、音の聞こえた方角を振り返った。間違いなく、先刻までいた村のほうだ。
更に、森の木々の向こうが、ぼんやりと赤く光っている。
火事だとすれば、家の一件や二件という規模でないことは、フェリクスにも分かった。
ただ事ではない――そう判断した瞬間、彼は村に向かって走りだしていた。
落ち葉を巻き上げながら、疾風の如く森を駆け抜け、フェリクスは村に辿り着いた。
そこで彼が見たのは、見慣れていた筈の村の景色が一変した様だった。
家々は原型を留めない程に破壊されて瓦礫と化しているか、そうでなければ燃えているという状態――文字通りの焼野原だ。
一目見て、生存者がいるなどとは思えない惨状である。
それでも、一縷の望みを胸に、フェリクスは、モンスとシルワの家のあった辺りへ向かって走った。
だが、彼の目に映ったのは、家があった筈の場所に残る、砲弾が直撃した跡であろう大きな穴だけだった。
フェリクスは何も考えることができなくなり、呆然と立ち尽くした。
数時間前まで一緒に過ごし、言葉を交わしていたモンスとシルワが、もう存在しないという事実を、彼は受け入れられなかった。
その時。
「小隊長、掃討は完了したであります」
「よし、じゃあ撤収だ」
声のしたほうを、フェリクスは、ぼんやりと見た。
瓦礫の向こう、数人の男の姿が燃え盛る炎に照らし出されている。
戦闘服姿で小銃を手にしているところを見ると、彼らは兵士だと思われた。
何が起きたのかを、フェリクスは全て理解した。
同時に、彼は、身体の中心から、これまでに感じたことのない、熱く、どす黒い何かが突き上げてくる感覚を覚えた。
その不快さに、フェリクスは咆哮した。言葉にならない叫びが迸った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ
neonevi
ファンタジー
運命に連れられるのはいつも望まない場所で、僕たちに解るのは引力みたいな君との今だけ。
※この作品は小説家になろうにも掲載されています
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった
根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!
【完結】獅子の威を借る子猫は爪を研ぐ
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
魔族の住むゲヘナ国の幼女エウリュアレは、魔力もほぼゼロの無能な皇帝だった。だが彼女が持つ価値は、唯一無二のもの。故に強者が集まり、彼女を守り支える。揺らぐことのない玉座の上で、幼女は最弱でありながら一番愛される存在だった。
「私ね、皆を守りたいの」
幼い彼女の望みは優しく柔らかく、他国を含む世界を包んでいく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/20……完結
2022/02/14……小説家になろう ハイファンタジー日間 81位
2022/02/14……アルファポリスHOT 62位
2022/02/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる