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機転
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巨大トカゲは、縄張りへの侵入者――ナタンたちの気配を探るように、その首を、ぐるりと動かした。既知の生物との共通点がどれだけあるのか定かではないが、ナタンは、爬虫類の中には視覚や聴覚だけでなく、体温で獲物の位置を感知するものもいるのを思い出した。
「俺が奴の気を引くから、ナタンとラカニで本体を叩いてくれ。リリエとセレスティアは、ここで待機だ」
そう言うと、フェリクスが抜刀して巨大トカゲの前に躍り出た。
侵入者の姿を認めた巨大トカゲの口から、間髪を入れず破壊光線が発射されたものの、フェリクスは紙一重で躱した。
彼は、わざと目立つように動きつつ、リリエとセレスティアのいる位置が破壊光線の射程から外れるように、巨大トカゲを誘導していく。
ナタンとラカニも、巨大トカゲがフェリクスに気を取られている隙に剣で斬りかかった。
しかし、その巨体に似合わぬ素早い動きを見せるトカゲに対し、二人の攻撃は致命傷を与えるに至らず、浅いものに留まった。
「この野郎、馬鹿でかい図体してるくせに、『異能』並みに動けるぞ!」
ラカニが舌打ちすると同時に、巨大トカゲは口から破壊光線を発射しながら、頭部を左右にぐるりと回した。
光線の軌跡に沿って、周囲の草木が同心円状に薙ぎ払われていく。
威力は脅威だが、巨大トカゲの口元にさえ気を付けていれば光線は躱せる――そう考えてナタンは跳躍しようとしたものの、彼は地面に這っていた蔦状の植物に足を取られ、体勢を崩した。
一瞬、頭が真っ白になり動きの止まったナタンの身体を、フェリクスが抱えて飛び退る。
破壊光線が自分の前髪数本を焼き飛ばす様が、ナタンにはコマ送りの映像の如く見えた。
その時、ナタンは周囲の空気が振動するような感覚に包まれた。
一方、巨大トカゲが再び口を大きく開け、破壊光線を発射する体勢に入った。
ナタン、フェリクス、そしてラカニの三人は敵から距離を取って身構えた。
だが、数秒経っても光線が発射される様子はなかった。
巨大トカゲ自身も、戸惑ったかのように、少し首を傾げている。
何か異常事態が起きたのだ――ナタンは素早く巨大トカゲの正面に飛び込むと、大きく開けられた口の中に、目にも止まらぬ速さで深々と剣を突き立てた。
口腔内から剣で脳を貫かれた巨大トカゲが、断末魔の咆哮と共に、重たい音を立てて地面に倒れた。
横たわった巨大トカゲは、少しの間その巨体を痙攣させていたが、やがて事切れた。
「やったな!」
駆け寄ってきたラカニが、ナタンの背中を軽く叩いた。
「まったく、死ぬかと思ったよ」
ナタンは、巨大トカゲの口に刺さった剣を引き抜きながら言った。
「しかし、何故こいつは突然『光線』を吐けなくなったんだ?」
巨大トカゲの亡骸に近付いたフェリクスは、首を傾げた。
「大丈夫ですか?!」
「怪我は、ありませんか?」
リリエとセレスティアが、三人の元へ走ってきた。
「やはり、この生物は周囲の『マナ』を取り込んで『光線』を発射していたようですね」
巨大トカゲの傍に屈み込んだリリエが、その姿を興味深そうに見つめた。
「もしかして、リリエが何かしたの?」
先刻の、周囲の空気が振動するような感覚を思い出し、ナタンは尋ねた。
「はい……効果があるかは分かりませんでしたが、限定された空間の『マナ』を一時的に動かなくする呪文を使用してみました」
「そんな呪文もあるのか……その所為で、こいつは『光線』を吐けなくなったってことだね」
リリエの判断と機転に、ナタンは感心した。
「ただ、この呪文の効果範囲内では『マナ』が動かなくなる……つまり、一切の『呪文』や『魔導絡繰り』も役に立たなくなるので、諸刃の剣とも言えます。持続時間は既に過ぎているので、今は問題ありませんけど」
「なるほどねぇ」
ラカニも、感心したように頷いている。
「しかし、こんな奴が陣取っていたんじゃ、そりゃ通行禁止状態になるよな。今まで帰ってこなかった連中は、『光線』で灼かれたか食われたかしたってことか」
「俺たちも、リリエの呪文が無ければ、倒すのに、もっと手間取っていただろう」
フェリクスが言うと、リリエは照れたように微笑んだ。
「……この生き物も、帝国時代に実験で生み出されたものなのでしょうか……」
巨大トカゲの亡骸を見下ろしていたセレスティアが、ぽつりと呟いた。
「体内に『魔導絡繰り』と似た仕組みを持つ生物が自然発生するとは考えられませんし、おそらくは、セレスティアさんの言う通りだと思います」
そう言いながら、リリエは荷物から写真撮影機を取り出し、巨大トカゲの亡骸を撮影していった。
「でも、こいつが一匹だけとは限らないよね……身体が大きいから餌も沢山食べるだろうし、同族が密集して生きてるとは思いたくないけど」
ナタンは、木々の間から巨大トカゲが群れを成して現れる様を想像してしまい、ぞっとした。
「他の発掘人の方たちにも情報共有したほうがいいですね。街に戻ったら、ニックさんの雑貨店に行って、地図を更新してもらいましょう」
「そうだな。そうすれば、多少は死人も減るだろうさ」
リリエの言葉に、ラカニが頷いた。
「無法の町」の「表通り」で雑貨店を営むニックは、元発掘人である。彼は、現役時代から作っていた「帝都跡」の地図を、新たな情報が入る度に更新して販売しているのだ。
自分たちの行動が、僅かにでも他者の役に立つこともあるのだと、少し誇らしい気持ちになったナタンは、リリエたちと共に、再び目的地へ向かって歩き始めた。
「俺が奴の気を引くから、ナタンとラカニで本体を叩いてくれ。リリエとセレスティアは、ここで待機だ」
そう言うと、フェリクスが抜刀して巨大トカゲの前に躍り出た。
侵入者の姿を認めた巨大トカゲの口から、間髪を入れず破壊光線が発射されたものの、フェリクスは紙一重で躱した。
彼は、わざと目立つように動きつつ、リリエとセレスティアのいる位置が破壊光線の射程から外れるように、巨大トカゲを誘導していく。
ナタンとラカニも、巨大トカゲがフェリクスに気を取られている隙に剣で斬りかかった。
しかし、その巨体に似合わぬ素早い動きを見せるトカゲに対し、二人の攻撃は致命傷を与えるに至らず、浅いものに留まった。
「この野郎、馬鹿でかい図体してるくせに、『異能』並みに動けるぞ!」
ラカニが舌打ちすると同時に、巨大トカゲは口から破壊光線を発射しながら、頭部を左右にぐるりと回した。
光線の軌跡に沿って、周囲の草木が同心円状に薙ぎ払われていく。
威力は脅威だが、巨大トカゲの口元にさえ気を付けていれば光線は躱せる――そう考えてナタンは跳躍しようとしたものの、彼は地面に這っていた蔦状の植物に足を取られ、体勢を崩した。
一瞬、頭が真っ白になり動きの止まったナタンの身体を、フェリクスが抱えて飛び退る。
破壊光線が自分の前髪数本を焼き飛ばす様が、ナタンにはコマ送りの映像の如く見えた。
その時、ナタンは周囲の空気が振動するような感覚に包まれた。
一方、巨大トカゲが再び口を大きく開け、破壊光線を発射する体勢に入った。
ナタン、フェリクス、そしてラカニの三人は敵から距離を取って身構えた。
だが、数秒経っても光線が発射される様子はなかった。
巨大トカゲ自身も、戸惑ったかのように、少し首を傾げている。
何か異常事態が起きたのだ――ナタンは素早く巨大トカゲの正面に飛び込むと、大きく開けられた口の中に、目にも止まらぬ速さで深々と剣を突き立てた。
口腔内から剣で脳を貫かれた巨大トカゲが、断末魔の咆哮と共に、重たい音を立てて地面に倒れた。
横たわった巨大トカゲは、少しの間その巨体を痙攣させていたが、やがて事切れた。
「やったな!」
駆け寄ってきたラカニが、ナタンの背中を軽く叩いた。
「まったく、死ぬかと思ったよ」
ナタンは、巨大トカゲの口に刺さった剣を引き抜きながら言った。
「しかし、何故こいつは突然『光線』を吐けなくなったんだ?」
巨大トカゲの亡骸に近付いたフェリクスは、首を傾げた。
「大丈夫ですか?!」
「怪我は、ありませんか?」
リリエとセレスティアが、三人の元へ走ってきた。
「やはり、この生物は周囲の『マナ』を取り込んで『光線』を発射していたようですね」
巨大トカゲの傍に屈み込んだリリエが、その姿を興味深そうに見つめた。
「もしかして、リリエが何かしたの?」
先刻の、周囲の空気が振動するような感覚を思い出し、ナタンは尋ねた。
「はい……効果があるかは分かりませんでしたが、限定された空間の『マナ』を一時的に動かなくする呪文を使用してみました」
「そんな呪文もあるのか……その所為で、こいつは『光線』を吐けなくなったってことだね」
リリエの判断と機転に、ナタンは感心した。
「ただ、この呪文の効果範囲内では『マナ』が動かなくなる……つまり、一切の『呪文』や『魔導絡繰り』も役に立たなくなるので、諸刃の剣とも言えます。持続時間は既に過ぎているので、今は問題ありませんけど」
「なるほどねぇ」
ラカニも、感心したように頷いている。
「しかし、こんな奴が陣取っていたんじゃ、そりゃ通行禁止状態になるよな。今まで帰ってこなかった連中は、『光線』で灼かれたか食われたかしたってことか」
「俺たちも、リリエの呪文が無ければ、倒すのに、もっと手間取っていただろう」
フェリクスが言うと、リリエは照れたように微笑んだ。
「……この生き物も、帝国時代に実験で生み出されたものなのでしょうか……」
巨大トカゲの亡骸を見下ろしていたセレスティアが、ぽつりと呟いた。
「体内に『魔導絡繰り』と似た仕組みを持つ生物が自然発生するとは考えられませんし、おそらくは、セレスティアさんの言う通りだと思います」
そう言いながら、リリエは荷物から写真撮影機を取り出し、巨大トカゲの亡骸を撮影していった。
「でも、こいつが一匹だけとは限らないよね……身体が大きいから餌も沢山食べるだろうし、同族が密集して生きてるとは思いたくないけど」
ナタンは、木々の間から巨大トカゲが群れを成して現れる様を想像してしまい、ぞっとした。
「他の発掘人の方たちにも情報共有したほうがいいですね。街に戻ったら、ニックさんの雑貨店に行って、地図を更新してもらいましょう」
「そうだな。そうすれば、多少は死人も減るだろうさ」
リリエの言葉に、ラカニが頷いた。
「無法の町」の「表通り」で雑貨店を営むニックは、元発掘人である。彼は、現役時代から作っていた「帝都跡」の地図を、新たな情報が入る度に更新して販売しているのだ。
自分たちの行動が、僅かにでも他者の役に立つこともあるのだと、少し誇らしい気持ちになったナタンは、リリエたちと共に、再び目的地へ向かって歩き始めた。
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