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雇用と信用
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負傷していたクルトの隊の者たちも、セレスティアの能力で治療され、全員が動けるようになった。
「さすがはセレスティアだな。みんな回復したみたいだし、俺たちも目的地に向かおうか」
「そうですね。誰も亡くなったりしなくて、良かったです」
ナタンの言葉に、リリエも頷いた。
「待ちたまえ」
出発しようとしたナタンたちを、クルトが制止した。
「君たちを優秀な人材と見込んで、僕の護衛として雇いたい。報酬は、言い値で払おう」
両手を腰に当て、尊大な調子でクルトは言った。
「はあぁ?」
あまりに想定外の事態に、ナタンは、一瞬ぽかんとした。
一方、リリエは何か言いたそうだったが、上手く言葉が出てこないのか、落ち着きなくナタンとクルトの顔を交互に見ている。
フェリクスとセレスティアは固い表情でナタンを見つめ、彼が口を開くのを待っている様子だ。
クルトの隊の者たちも、驚いた様子で彼に注目している。
「……俺たちの能力を買ってくれるのは嬉しいよ」
ナタンは、クルトを見据えて言った。
「そうか! では……」
「それとこれとは別だけどね」
クルトの言葉を遮って、ナタンは続けた。
「何故、あんた一人だけが掠り傷も負っていないのか分からないのか? あんたの護衛たちが、身を挺して守ったからじゃないのか? ギードさんが囮になって、殺人蔦を誘導していなければ、あんたは食われていたかもしれないんだぞ。それなのに、礼の一つも言わないって、ちょっと酷いんじゃないか? 俺たちを誘うより、そっちが先だろ?」
「僕は、彼らにも十分な報酬を払っているつもりだが?」
ナタンの返事が思ったものではなかったらしく、クルトが苛立ちの表情を見せた。
「……リリエは、俺のことを『信用できる』と言ってくれた。俺も、リリエのことを信用してる。彼女は、優しくて公平で、いつも他人のことを気遣う子だ。だから、俺も彼女を守りたいと思ってる。でも、あんたのように他人を道具くらいに考えてる奴に対しては、そんな風に思える気がしない。金を積まれても、譲れないものはあるんだよ」
そこまで言うと、ナタンはリリエのほうに向き直った。
「という訳で、話は終わったよ。……フェリクスとセレスティアも、それでいいだろ?」
ナタンの言葉を聞いて、リリエは安堵した様子だった。
フェリクスとセレスティアも、その表情を和らげて頷いた。
地図で現在位置を確認した後、呆然としているクルトと、ざわついている彼の隊の者たちを残して、ナタンたちは歩き出した。
「……ナタンさんが、クルトさんの誘いを受けたらどうしようって……どきどきしてしまいました」
少し歩いてから、リリエが口を開いた。
「えぇ……俺、そんなに信用ないかなぁ」
ナタンは眉尻を下げて言った。
「そ、そんなことないです……! でも、お金を積まれても譲れないものがあるとまで言ってくれて……」
リリエは頬を染めた。
「でも、私が思っていたことを、ナタンが全部言ってくれたので、すっきりしました」
言って、セレスティアは微笑んだ。
「もしナタンが、あの男の誘いを受けたなら殴ってやろうかと思っていたが、余計な心配だったな」
フェリクスが、冗談とも本気ともつかない口調で言った。
「いや、フェリクスに殴られたら、俺も死んじゃうと思うから、勘弁してくれよ」
ナタンは、からからと笑った。
「さすがはセレスティアだな。みんな回復したみたいだし、俺たちも目的地に向かおうか」
「そうですね。誰も亡くなったりしなくて、良かったです」
ナタンの言葉に、リリエも頷いた。
「待ちたまえ」
出発しようとしたナタンたちを、クルトが制止した。
「君たちを優秀な人材と見込んで、僕の護衛として雇いたい。報酬は、言い値で払おう」
両手を腰に当て、尊大な調子でクルトは言った。
「はあぁ?」
あまりに想定外の事態に、ナタンは、一瞬ぽかんとした。
一方、リリエは何か言いたそうだったが、上手く言葉が出てこないのか、落ち着きなくナタンとクルトの顔を交互に見ている。
フェリクスとセレスティアは固い表情でナタンを見つめ、彼が口を開くのを待っている様子だ。
クルトの隊の者たちも、驚いた様子で彼に注目している。
「……俺たちの能力を買ってくれるのは嬉しいよ」
ナタンは、クルトを見据えて言った。
「そうか! では……」
「それとこれとは別だけどね」
クルトの言葉を遮って、ナタンは続けた。
「何故、あんた一人だけが掠り傷も負っていないのか分からないのか? あんたの護衛たちが、身を挺して守ったからじゃないのか? ギードさんが囮になって、殺人蔦を誘導していなければ、あんたは食われていたかもしれないんだぞ。それなのに、礼の一つも言わないって、ちょっと酷いんじゃないか? 俺たちを誘うより、そっちが先だろ?」
「僕は、彼らにも十分な報酬を払っているつもりだが?」
ナタンの返事が思ったものではなかったらしく、クルトが苛立ちの表情を見せた。
「……リリエは、俺のことを『信用できる』と言ってくれた。俺も、リリエのことを信用してる。彼女は、優しくて公平で、いつも他人のことを気遣う子だ。だから、俺も彼女を守りたいと思ってる。でも、あんたのように他人を道具くらいに考えてる奴に対しては、そんな風に思える気がしない。金を積まれても、譲れないものはあるんだよ」
そこまで言うと、ナタンはリリエのほうに向き直った。
「という訳で、話は終わったよ。……フェリクスとセレスティアも、それでいいだろ?」
ナタンの言葉を聞いて、リリエは安堵した様子だった。
フェリクスとセレスティアも、その表情を和らげて頷いた。
地図で現在位置を確認した後、呆然としているクルトと、ざわついている彼の隊の者たちを残して、ナタンたちは歩き出した。
「……ナタンさんが、クルトさんの誘いを受けたらどうしようって……どきどきしてしまいました」
少し歩いてから、リリエが口を開いた。
「えぇ……俺、そんなに信用ないかなぁ」
ナタンは眉尻を下げて言った。
「そ、そんなことないです……! でも、お金を積まれても譲れないものがあるとまで言ってくれて……」
リリエは頬を染めた。
「でも、私が思っていたことを、ナタンが全部言ってくれたので、すっきりしました」
言って、セレスティアは微笑んだ。
「もしナタンが、あの男の誘いを受けたなら殴ってやろうかと思っていたが、余計な心配だったな」
フェリクスが、冗談とも本気ともつかない口調で言った。
「いや、フェリクスに殴られたら、俺も死んじゃうと思うから、勘弁してくれよ」
ナタンは、からからと笑った。
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