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戦いと救援と
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ナタンとフェリクスは殺人蔦に向かって斬りかかった。
殺人蔦は即座に反応し、本体から伸ばした何本もの触手で、彼らを捕らえようとする。
しかし、リリエが魔法で発生させた風――空気の流れに感覚を狂わされているのか、触手の命中精度は著しく低下しており、回避するのは容易だった。
襲いかかる触手を斬り払いながら、ナタンとフェリクスは殺人蔦の柱の如き本体に接近した。
フェリクスの刀が水平に一閃し、殺人蔦の本体が真っ二つになる。
斬り落とされた本体の上半分は力を失って地面に転がったが、地下の根に繋がっているであろう株の側から、新たな触手が発生した。
「聞いてはいたけど、しぶといな!」
次々と湧き出る触手を薙ぎ払いながら、ナタンは呟いた。
それでも、やがて殺人蔦はナタンとフェリクスによって再生が追い付かない程に切り刻まれ、その動きを止めた。
「念の為、焼いておきましょう」
リリエが呪文を唱えると、殺人蔦の残骸は炎に包まれた。
「炎が一点に集中してる……あれも、君が呪文で制御してるの?」
「はい……周囲の木々に燃え移ると、大変なので」
ナタンが尋ねると、リリエは頷いた。
「それにしても、リリエは見かけによらず肝が据わっているな」
フェリクスが、感心した様子で言った。
「いえ……一人だったら、怖くて動けなかったと思います……皆さんと一緒だから、冷静に考えることができました」
真っ赤になって頭を振るリリエが可愛く見えて、ナタンは微笑んだ。
「でも、あんな奴がウジャウジャしてるなんて、『帝都跡』って別世界みたいだね」
ナタンは、燃えている殺人蔦の残骸に目をやった。
「あれだけ大型の個体を維持するには、餌になる動物もそれだけ必要になります。この周辺には、もういないと思いたい……ですね」
リリエは少し不安げな顔で、ナタンの傍に寄り添うように立った。
一方で、セレスティアは、殺人蔦に追われていた男の傷を、治癒能力で手当てしていた。
「他に、痛むところはありませんか?」
「もう大丈夫だ。あんた、すごいな」
男はセレスティアに礼を言うと、自力で立ち上がった。
「あんたたち、昨日、うちの隊長が絡んでた人たちだろ?」
ナタンは男の言葉に一瞬首を傾げたが、前日に「帝都跡」の入り口で出会った、リリエの大学の同期だというクルト・ユンカースのことを思い出した。
「もしかして……クルトさんたちの隊が殺人蔦に襲われたんですか?」
リリエが、はっとした表情を見せた。
「そうなんだ……不意打ちを食らって対応が遅れた所為で、負傷者も出てる……こんなこと頼むのは、図々しいとは思うが……」
男は、申し訳なさそうな顔で口籠った。
「他に怪我をしている方がいるのなら、手当が必要ですね」
セレスティアが言って、リリエを見た。
「そうですね。……あの、クルトさんたちの救助に向かいたいと思うのですが、皆さん、よろしいでしょうか?」
リリエが、力強く言った。
ナタンも、困っている者を助けるのに異存はなかったが、リリエが嫌そうな様子を毛ほども見せないのに感心した。
――俺だったら、一言くらいイヤミを言ってしまいそうだけど……やっぱり、リリエは優しいな。
ギードと名乗る男の案内で、ナタンたちは茂みをかき分けながら、クルトの隊がいるという場所に向かった。
茂みを抜けると、クルトの護衛の一人と思われる男が、足を引きずりながら近付いてきた。
「無事だったのか! 『奴』は、どうした? 撒いたのか?」
周囲には、負傷しているらしき者たちが数人横たわっている。
「……この人たちに助けられたんだ。こっちのお嬢さんは、治癒の力を持つ『異能』で、怪我も治してもらった」
ギードがナタンたち一行を指し示すと、護衛の男は目を見張った。
「か、彼らは……」
どうやら、護衛の男も、前日のことが記憶に残っていた様子だ。
「怪我をしている方は、あなたを含めて、これで全員でしょうか? 私が手当てします」
セレスティアの言葉に、護衛の男が何度も頷いた。
「クルトさん?!」
リリエが、少し離れた場所に倒れているクルトに気付いて駆け寄った。
ナタンも、慌ててリリエを追った。
目を閉じ、仰向けに倒れているクルトの首筋に手を当ててみたナタンは、規則正しい脈拍を感じた。
見たところ、目立つ外傷も特にない様子だ。
「……呼吸も正常だし、気を失っているだけみたいだね」
ナタンが言うと、リリエは安堵したのか溜め息をついた。
と、クルトが低く呻いて、薄らと目を開けた。
「……ば、『化け物』は……?!」
小さく叫んで、ばね仕掛けの人形のように跳ね起きたクルトは、ナタンとリリエの姿を認めると、目を剥いた。
「な、何故、君たちが?!」
クルトに見据えられたリリエが、思わず身を竦ませるのを、ナタンは感じた。
「あんたの隊の人の案内で来たんだ。殺人蔦に襲われて負傷者が出たと聞いてね」
ナタンは、リリエの代わりに答えた。
「そうだった……みんなは、どうしているんだ?!」
クルトは立ち上がり、周囲を見回した。
「皆さんの手当は済みました。命に関わるほど重傷の方がいなかったのは幸いでしたね」
屈んで負傷者たちの手当てをしていたセレスティアが、振り向いて言った。
「殺人蔦は始末しておいたから、心配ないぞ」
フェリクスの言葉に、クルトは再度目を見張った。
「君たちの隊だけで……『奴』を?」
呟いて、クルトはリリエを見た。
「はい……ナタンさんたちが一緒だったので、何とかなりました」
リリエが、少しだけ誇らしげに微笑んだ。
殺人蔦は即座に反応し、本体から伸ばした何本もの触手で、彼らを捕らえようとする。
しかし、リリエが魔法で発生させた風――空気の流れに感覚を狂わされているのか、触手の命中精度は著しく低下しており、回避するのは容易だった。
襲いかかる触手を斬り払いながら、ナタンとフェリクスは殺人蔦の柱の如き本体に接近した。
フェリクスの刀が水平に一閃し、殺人蔦の本体が真っ二つになる。
斬り落とされた本体の上半分は力を失って地面に転がったが、地下の根に繋がっているであろう株の側から、新たな触手が発生した。
「聞いてはいたけど、しぶといな!」
次々と湧き出る触手を薙ぎ払いながら、ナタンは呟いた。
それでも、やがて殺人蔦はナタンとフェリクスによって再生が追い付かない程に切り刻まれ、その動きを止めた。
「念の為、焼いておきましょう」
リリエが呪文を唱えると、殺人蔦の残骸は炎に包まれた。
「炎が一点に集中してる……あれも、君が呪文で制御してるの?」
「はい……周囲の木々に燃え移ると、大変なので」
ナタンが尋ねると、リリエは頷いた。
「それにしても、リリエは見かけによらず肝が据わっているな」
フェリクスが、感心した様子で言った。
「いえ……一人だったら、怖くて動けなかったと思います……皆さんと一緒だから、冷静に考えることができました」
真っ赤になって頭を振るリリエが可愛く見えて、ナタンは微笑んだ。
「でも、あんな奴がウジャウジャしてるなんて、『帝都跡』って別世界みたいだね」
ナタンは、燃えている殺人蔦の残骸に目をやった。
「あれだけ大型の個体を維持するには、餌になる動物もそれだけ必要になります。この周辺には、もういないと思いたい……ですね」
リリエは少し不安げな顔で、ナタンの傍に寄り添うように立った。
一方で、セレスティアは、殺人蔦に追われていた男の傷を、治癒能力で手当てしていた。
「他に、痛むところはありませんか?」
「もう大丈夫だ。あんた、すごいな」
男はセレスティアに礼を言うと、自力で立ち上がった。
「あんたたち、昨日、うちの隊長が絡んでた人たちだろ?」
ナタンは男の言葉に一瞬首を傾げたが、前日に「帝都跡」の入り口で出会った、リリエの大学の同期だというクルト・ユンカースのことを思い出した。
「もしかして……クルトさんたちの隊が殺人蔦に襲われたんですか?」
リリエが、はっとした表情を見せた。
「そうなんだ……不意打ちを食らって対応が遅れた所為で、負傷者も出てる……こんなこと頼むのは、図々しいとは思うが……」
男は、申し訳なさそうな顔で口籠った。
「他に怪我をしている方がいるのなら、手当が必要ですね」
セレスティアが言って、リリエを見た。
「そうですね。……あの、クルトさんたちの救助に向かいたいと思うのですが、皆さん、よろしいでしょうか?」
リリエが、力強く言った。
ナタンも、困っている者を助けるのに異存はなかったが、リリエが嫌そうな様子を毛ほども見せないのに感心した。
――俺だったら、一言くらいイヤミを言ってしまいそうだけど……やっぱり、リリエは優しいな。
ギードと名乗る男の案内で、ナタンたちは茂みをかき分けながら、クルトの隊がいるという場所に向かった。
茂みを抜けると、クルトの護衛の一人と思われる男が、足を引きずりながら近付いてきた。
「無事だったのか! 『奴』は、どうした? 撒いたのか?」
周囲には、負傷しているらしき者たちが数人横たわっている。
「……この人たちに助けられたんだ。こっちのお嬢さんは、治癒の力を持つ『異能』で、怪我も治してもらった」
ギードがナタンたち一行を指し示すと、護衛の男は目を見張った。
「か、彼らは……」
どうやら、護衛の男も、前日のことが記憶に残っていた様子だ。
「怪我をしている方は、あなたを含めて、これで全員でしょうか? 私が手当てします」
セレスティアの言葉に、護衛の男が何度も頷いた。
「クルトさん?!」
リリエが、少し離れた場所に倒れているクルトに気付いて駆け寄った。
ナタンも、慌ててリリエを追った。
目を閉じ、仰向けに倒れているクルトの首筋に手を当ててみたナタンは、規則正しい脈拍を感じた。
見たところ、目立つ外傷も特にない様子だ。
「……呼吸も正常だし、気を失っているだけみたいだね」
ナタンが言うと、リリエは安堵したのか溜め息をついた。
と、クルトが低く呻いて、薄らと目を開けた。
「……ば、『化け物』は……?!」
小さく叫んで、ばね仕掛けの人形のように跳ね起きたクルトは、ナタンとリリエの姿を認めると、目を剥いた。
「な、何故、君たちが?!」
クルトに見据えられたリリエが、思わず身を竦ませるのを、ナタンは感じた。
「あんたの隊の人の案内で来たんだ。殺人蔦に襲われて負傷者が出たと聞いてね」
ナタンは、リリエの代わりに答えた。
「そうだった……みんなは、どうしているんだ?!」
クルトは立ち上がり、周囲を見回した。
「皆さんの手当は済みました。命に関わるほど重傷の方がいなかったのは幸いでしたね」
屈んで負傷者たちの手当てをしていたセレスティアが、振り向いて言った。
「殺人蔦は始末しておいたから、心配ないぞ」
フェリクスの言葉に、クルトは再度目を見張った。
「君たちの隊だけで……『奴』を?」
呟いて、クルトはリリエを見た。
「はい……ナタンさんたちが一緒だったので、何とかなりました」
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