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初めての野営そして異変
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「……『異能』の人同士の戦いって、すごいんですね。剣を打ち合わせている音は聞こえましたけど、お二人が何をしているのか、私には見えませんでした」
ナタンとフェリクスの手合わせを見ていたリリエが、驚きと感嘆の入り混じった表情で言った。
「二人と一緒なら、安心ですね」
セレスティアの言葉に、ナタンは面はゆい気がして、頭を掻いた。
休憩を終えた一行は、再び目的地に向かって歩き出した。
「帝都跡」は、崩壊した建物の間を草木が埋め尽くす中、時折、鳥や虫の鳴き声が聞こえてくる程度で、至って静かなものだ。
「今のところ、『化け物』の気配は無いみたいだね。出会わないに越したことはないけど」
「やはり、『化け物』と言われる生物たちも、人の行き来の多い場所は避けるのだろう。山に棲む熊なども、人間を避けるものだからな」
ナタンの言葉に、フェリクスが答えた。
やがて、日が傾いてきたのか、辺りが薄暗くなってきた。
「夜までに目的地へ辿り着くことも、できなくはなさそうですが……」
セレスティアが、気遣うようにリリエの顔を見た。
「もう少し早く着くと思っていたのですが……私が歩くのが遅い所為で、遅れてしまいましたね」
そう言って、リリエが肩を落とした。
「リリエも疲れているようだし、この辺りで一泊して、目的地には明日着くようにするのはどうかな? 食料も余分に持ってきているから、時間的な余裕はあると思うけど」
ナタンの提案に、リリエは安堵の表情を浮かべた。
「そうしてもらえると、助かります……正直言うと、足が棒のようです」
一行は、天幕を設置できそうな平らな場所を見つけた。
ナタンとフェリクスが天幕を設置する間に、リリエとセレスティアが食事の準備をすることになった。
携帯用の焜炉を前に、セレスティアが荷物を探っている。
「この辺りに、燐寸を入れておいたのですが……」
「この焜炉に点火すればいいんですね?」
リリエが、焜炉に右手をかざして、短く呪文を詠唱した。
次の瞬間、ポッと音を立てて焜炉に火が点る。
「へぇ、リリエは、呪文を詠唱して魔法を発動させられるのか。すごいね」
ナタンが言うと、リリエは、大したことないですと、顔を赤らめた。
この世界における「魔法」は、どこにでも存在すると言われる「マナ」と呼ばれる物質を、呪文の詠唱により空間から取り出して様々な形に変えるというものである。
「魔法」の仕組みを理解し、呪文を正確に詠唱しなければ「魔法」を発動させることはできない。
「魔導絡繰り」は、この呪文の詠唱の過程を自動化して、誰もが「魔法」の恩恵を受けられるようにする為のものだ。
現在、ある程度「魔導絡繰り」が普及したことにより、呪文の詠唱によって「魔法」を発動できる者は、一部の専門家のみに留まっている。
更に、リリエが空の鍋に向かって呪文を詠唱すると、鍋の中は水で満たされた。
「なるほど、火種と水には困らないという訳か。リリエがいれば、災害時なども心強いな」
フェリクスも感心した様子で言った。
鍋を火にかけ、湯が沸騰した頃に携帯食のスープの素を溶かす。そこに干し肉を加えて煮込めば、一品の完成だ。
長期保存できるように水分を少なめにして焼かれた固いパンも、とろみのあるスープに浸すと丁度良い食感に変わる。
簡易ではあっても、温かいものが腹に入れば安心するものだと、ナタンはスープを味わいながら思った。
ここは、まだ帝都跡入り口から左程離れていない為、「化け物」が現れる可能性は低い。
とはいえ、万一を考えて、ナタンはフェリクスと交代で就寝中の見張りをすることにした。
リリエとセレスティア、そしてフェリクスが天幕の中で休んでいる間、ナタンは交代の時間まで焚き火をしながら見張りについていた。
聞こえるのは虫の声と、梟と思しきホウホウという鳴き声、そして風が起こす葉擦れの音くらいの、静かな夜だ。
ふと見上げると、木々の間には無数の星が輝いている。
街中とは違い、光源がほぼない場所の為、夜空がより美しく見えるのだ。
――人間がいない場所のほうが綺麗だなんて、何だか皮肉だ……
そんなことを思いながらナタンが眠い目を擦っていると、天幕からフェリクスが出てきた。
「そろそろ時間だ。あとは俺に任せて、ゆっくり休んでくれ」
「うん、あとはよろしく」
フェリクスの言葉に欠伸をしながら答えて、ナタンは天幕の中に用意した寝袋に潜り込んだ。
「――あ、あの、そろそろ起きたほうが……」
リリエの遠慮がちな声に、ナタンは目を開けた。
――さっき横になったところだと思ったんだけど?!
寝袋に潜り込んだと思った瞬間、ナタンは眠りに就いていたらしい。
慌てて起きたナタンは、天幕から飛び出した。
天幕の外では、フェリクスとセレスティアが朝食の用意をしていた。
焜炉にかけられた鍋からは、スープの旨そうな匂いが立ち昇っている。
「起きたのか」
「よく眠っていましたね」
二人は、にこにこしながらナタンを見た。
「俺、もう一度見張りを交代する筈だと思ったんだけど……」
「あぁ、疲れている様子だったから起こさなかった」
あたふたするナタンを前に、フェリクスが何食わぬ顔で言った。
「だって……フェリクスは、あれから、ずっと起きてるんだろ?」
「俺は、それほど長く眠る必要がないんだ。だから、問題ないぞ」
「でも……自分で言うのも変かもしれないけど、甘やかし過ぎは良くないと思うよ」
ナタンの言葉に、フェリクスはハッとした様子を見せた。
「そうか……けじめは付けなければいけないか。これからは気を付けよう」
二人の様子を見ていたリリエが、フフと笑った。
「……フェリクスさんって、ナタンさんには過保護気味なんですね。でも、守ってあげたくなるの……少し分かる気もします」
リリエの言葉に、ナタンは少なからず衝撃を受けた。
――俺、リリエには頼りないって思われてるのか……? 考えてみれば、信用できるとは言って貰えたけど、頼れるとは言われなかったかもしれない……
複雑な気分になったナタンだったが、空腹ではあったので朝食は残さず平らげた。
食事を終えた後、天幕など野営に使った道具を片付けて、一行が出発しようとした時だった。
少し離れた場所から、茂みの中を何かが激しく動き回る音が聞こえてきた。
「何かいる……ナタン、剣を抜け。リリエとセレスティアは俺たちの後ろに」
そう言って、フェリクスは自らも抜刀した。
「この辺りは、『化け物』の目撃情報は殆ど無かった筈じゃないのか?」
剣を鞘から抜きながら、ナタンは言った。
「相手は生き物だ。『絶対』ということは無いだろう」
やや緊張した面持ちで、フェリクスが答えた。
ナタンとフェリクスの手合わせを見ていたリリエが、驚きと感嘆の入り混じった表情で言った。
「二人と一緒なら、安心ですね」
セレスティアの言葉に、ナタンは面はゆい気がして、頭を掻いた。
休憩を終えた一行は、再び目的地に向かって歩き出した。
「帝都跡」は、崩壊した建物の間を草木が埋め尽くす中、時折、鳥や虫の鳴き声が聞こえてくる程度で、至って静かなものだ。
「今のところ、『化け物』の気配は無いみたいだね。出会わないに越したことはないけど」
「やはり、『化け物』と言われる生物たちも、人の行き来の多い場所は避けるのだろう。山に棲む熊なども、人間を避けるものだからな」
ナタンの言葉に、フェリクスが答えた。
やがて、日が傾いてきたのか、辺りが薄暗くなってきた。
「夜までに目的地へ辿り着くことも、できなくはなさそうですが……」
セレスティアが、気遣うようにリリエの顔を見た。
「もう少し早く着くと思っていたのですが……私が歩くのが遅い所為で、遅れてしまいましたね」
そう言って、リリエが肩を落とした。
「リリエも疲れているようだし、この辺りで一泊して、目的地には明日着くようにするのはどうかな? 食料も余分に持ってきているから、時間的な余裕はあると思うけど」
ナタンの提案に、リリエは安堵の表情を浮かべた。
「そうしてもらえると、助かります……正直言うと、足が棒のようです」
一行は、天幕を設置できそうな平らな場所を見つけた。
ナタンとフェリクスが天幕を設置する間に、リリエとセレスティアが食事の準備をすることになった。
携帯用の焜炉を前に、セレスティアが荷物を探っている。
「この辺りに、燐寸を入れておいたのですが……」
「この焜炉に点火すればいいんですね?」
リリエが、焜炉に右手をかざして、短く呪文を詠唱した。
次の瞬間、ポッと音を立てて焜炉に火が点る。
「へぇ、リリエは、呪文を詠唱して魔法を発動させられるのか。すごいね」
ナタンが言うと、リリエは、大したことないですと、顔を赤らめた。
この世界における「魔法」は、どこにでも存在すると言われる「マナ」と呼ばれる物質を、呪文の詠唱により空間から取り出して様々な形に変えるというものである。
「魔法」の仕組みを理解し、呪文を正確に詠唱しなければ「魔法」を発動させることはできない。
「魔導絡繰り」は、この呪文の詠唱の過程を自動化して、誰もが「魔法」の恩恵を受けられるようにする為のものだ。
現在、ある程度「魔導絡繰り」が普及したことにより、呪文の詠唱によって「魔法」を発動できる者は、一部の専門家のみに留まっている。
更に、リリエが空の鍋に向かって呪文を詠唱すると、鍋の中は水で満たされた。
「なるほど、火種と水には困らないという訳か。リリエがいれば、災害時なども心強いな」
フェリクスも感心した様子で言った。
鍋を火にかけ、湯が沸騰した頃に携帯食のスープの素を溶かす。そこに干し肉を加えて煮込めば、一品の完成だ。
長期保存できるように水分を少なめにして焼かれた固いパンも、とろみのあるスープに浸すと丁度良い食感に変わる。
簡易ではあっても、温かいものが腹に入れば安心するものだと、ナタンはスープを味わいながら思った。
ここは、まだ帝都跡入り口から左程離れていない為、「化け物」が現れる可能性は低い。
とはいえ、万一を考えて、ナタンはフェリクスと交代で就寝中の見張りをすることにした。
リリエとセレスティア、そしてフェリクスが天幕の中で休んでいる間、ナタンは交代の時間まで焚き火をしながら見張りについていた。
聞こえるのは虫の声と、梟と思しきホウホウという鳴き声、そして風が起こす葉擦れの音くらいの、静かな夜だ。
ふと見上げると、木々の間には無数の星が輝いている。
街中とは違い、光源がほぼない場所の為、夜空がより美しく見えるのだ。
――人間がいない場所のほうが綺麗だなんて、何だか皮肉だ……
そんなことを思いながらナタンが眠い目を擦っていると、天幕からフェリクスが出てきた。
「そろそろ時間だ。あとは俺に任せて、ゆっくり休んでくれ」
「うん、あとはよろしく」
フェリクスの言葉に欠伸をしながら答えて、ナタンは天幕の中に用意した寝袋に潜り込んだ。
「――あ、あの、そろそろ起きたほうが……」
リリエの遠慮がちな声に、ナタンは目を開けた。
――さっき横になったところだと思ったんだけど?!
寝袋に潜り込んだと思った瞬間、ナタンは眠りに就いていたらしい。
慌てて起きたナタンは、天幕から飛び出した。
天幕の外では、フェリクスとセレスティアが朝食の用意をしていた。
焜炉にかけられた鍋からは、スープの旨そうな匂いが立ち昇っている。
「起きたのか」
「よく眠っていましたね」
二人は、にこにこしながらナタンを見た。
「俺、もう一度見張りを交代する筈だと思ったんだけど……」
「あぁ、疲れている様子だったから起こさなかった」
あたふたするナタンを前に、フェリクスが何食わぬ顔で言った。
「だって……フェリクスは、あれから、ずっと起きてるんだろ?」
「俺は、それほど長く眠る必要がないんだ。だから、問題ないぞ」
「でも……自分で言うのも変かもしれないけど、甘やかし過ぎは良くないと思うよ」
ナタンの言葉に、フェリクスはハッとした様子を見せた。
「そうか……けじめは付けなければいけないか。これからは気を付けよう」
二人の様子を見ていたリリエが、フフと笑った。
「……フェリクスさんって、ナタンさんには過保護気味なんですね。でも、守ってあげたくなるの……少し分かる気もします」
リリエの言葉に、ナタンは少なからず衝撃を受けた。
――俺、リリエには頼りないって思われてるのか……? 考えてみれば、信用できるとは言って貰えたけど、頼れるとは言われなかったかもしれない……
複雑な気分になったナタンだったが、空腹ではあったので朝食は残さず平らげた。
食事を終えた後、天幕など野営に使った道具を片付けて、一行が出発しようとした時だった。
少し離れた場所から、茂みの中を何かが激しく動き回る音が聞こえてきた。
「何かいる……ナタン、剣を抜け。リリエとセレスティアは俺たちの後ろに」
そう言って、フェリクスは自らも抜刀した。
「この辺りは、『化け物』の目撃情報は殆ど無かった筈じゃないのか?」
剣を鞘から抜きながら、ナタンは言った。
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