21 / 57
探索と野営に向けて
しおりを挟む
雑貨屋の主人から「帝都跡」探索について助言を受け、ナタンたちは野営に必要な物品を購入する為、「表通り」の店を巡っていた。
「帝都跡」は広大であり、とても一日で見て回れる規模ではない。探索する場所によっては、数日を現地で過ごすことも珍しくないという。
「探索って、色々と準備が要るんだなぁ」
天幕や寝袋など、増えていく荷物を担ぎながら、ナタンは呟いた。
「俺、本当に何も考えずに出てきたって感じで、ちょっと恥ずかしいや」
「なに、若いうちは、そんなものだろう」
フェリクスが言って、小さく笑った。
――フェリクスだって、せいぜいニ十歳過ぎくらいだと思うけど、何だか、自分は若くないみたいな言い草だなぁ……
ふとナタンは思ったものの、何とはなしに、口に出すのは止めておいた。
「『無法の街』って、物価は高めだけど、どの国にも属していないということは、税金も取られないってことじゃないか? だとすると、ここで商売するのって、結構いいかもしれないね」
「たしかに、あらゆるものを外部から持ち込むことになるし、その分、物価は上がるだろうな」
ナタンの言葉に、フェリクスは頷いた。
「しかし、税金は取られないかもしれないが、別の部分で費用がかかると思うぞ」
「別の部分?」
「どの国にも属しておらず、誰にも管理されていないから、いざこざが起きても警察などを頼ることはできない……大抵の店に用心棒がいたが、気付いていたか?」
フェリクスに言われて、これまでに訪れた店を思い返してみたナタンは、どの店にも厳つい見た目の男や、武装した者がいたことに気付いた。
「用心棒を雇う人件費がかかるってことか」
ナタンは、「躍る子熊亭」を思い出した。
――「子熊亭」の主人は、妻が腕の立つ元剣士である為に、用心棒代が浮くと言っていたな……
「そういうことだ。それに、法のない街は犯罪組織など裏社会の者が棲むにはうってつけだし、そういう連中に、安くない見ヶ〆料を払っている店もあるだろうな」
「そうそう『うまい話』は無いってことか……」
苦笑いしながら、ナタンは呟いた。
「……そういえば、リリエは野営なんてしたことあるの? 俺は、学校の行事で近場の山とか湖畔の野営場に行ったことはあるけど」
ナタンが問いかけると、リリエは少し不安げな表情を見せた。
「い、一応、野外で生活する際のことが書かれた文献は読んできましたが……実践経験は、ありません」
「こうして、しっかり準備をしていくなら、心配ありませんよ」
セレスティアが、不安げなリリエを力づけるかのように言った。
「セレスティアは、野営の経験があるのか?」
ナタンは目を丸くした。見るからに、どこかのお姫様という風情のセレスティアが、野営をしているところなど、彼は想像がつかなかった。
「ええ……野営というか、野宿ですけどね。でも、フェリクスと一緒でしたから、私は何も心配していませんでしたよ」
そう言うと、セレスティアはフェリクスと顔を見合わせて微笑んだ。
二人の間に何があったのか……もしかして、駆け落ちでもしてきたのだろうか――ナタンは、彼らの過去が少し気になったが、やはり、何とはなしに口に出さないほうがいいような気がして、黙っていた。
「帝都跡」は広大であり、とても一日で見て回れる規模ではない。探索する場所によっては、数日を現地で過ごすことも珍しくないという。
「探索って、色々と準備が要るんだなぁ」
天幕や寝袋など、増えていく荷物を担ぎながら、ナタンは呟いた。
「俺、本当に何も考えずに出てきたって感じで、ちょっと恥ずかしいや」
「なに、若いうちは、そんなものだろう」
フェリクスが言って、小さく笑った。
――フェリクスだって、せいぜいニ十歳過ぎくらいだと思うけど、何だか、自分は若くないみたいな言い草だなぁ……
ふとナタンは思ったものの、何とはなしに、口に出すのは止めておいた。
「『無法の街』って、物価は高めだけど、どの国にも属していないということは、税金も取られないってことじゃないか? だとすると、ここで商売するのって、結構いいかもしれないね」
「たしかに、あらゆるものを外部から持ち込むことになるし、その分、物価は上がるだろうな」
ナタンの言葉に、フェリクスは頷いた。
「しかし、税金は取られないかもしれないが、別の部分で費用がかかると思うぞ」
「別の部分?」
「どの国にも属しておらず、誰にも管理されていないから、いざこざが起きても警察などを頼ることはできない……大抵の店に用心棒がいたが、気付いていたか?」
フェリクスに言われて、これまでに訪れた店を思い返してみたナタンは、どの店にも厳つい見た目の男や、武装した者がいたことに気付いた。
「用心棒を雇う人件費がかかるってことか」
ナタンは、「躍る子熊亭」を思い出した。
――「子熊亭」の主人は、妻が腕の立つ元剣士である為に、用心棒代が浮くと言っていたな……
「そういうことだ。それに、法のない街は犯罪組織など裏社会の者が棲むにはうってつけだし、そういう連中に、安くない見ヶ〆料を払っている店もあるだろうな」
「そうそう『うまい話』は無いってことか……」
苦笑いしながら、ナタンは呟いた。
「……そういえば、リリエは野営なんてしたことあるの? 俺は、学校の行事で近場の山とか湖畔の野営場に行ったことはあるけど」
ナタンが問いかけると、リリエは少し不安げな表情を見せた。
「い、一応、野外で生活する際のことが書かれた文献は読んできましたが……実践経験は、ありません」
「こうして、しっかり準備をしていくなら、心配ありませんよ」
セレスティアが、不安げなリリエを力づけるかのように言った。
「セレスティアは、野営の経験があるのか?」
ナタンは目を丸くした。見るからに、どこかのお姫様という風情のセレスティアが、野営をしているところなど、彼は想像がつかなかった。
「ええ……野営というか、野宿ですけどね。でも、フェリクスと一緒でしたから、私は何も心配していませんでしたよ」
そう言うと、セレスティアはフェリクスと顔を見合わせて微笑んだ。
二人の間に何があったのか……もしかして、駆け落ちでもしてきたのだろうか――ナタンは、彼らの過去が少し気になったが、やはり、何とはなしに口に出さないほうがいいような気がして、黙っていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

最強勇者の夫~陰であなたを支えます。
ヨルノ チアサ
ファンタジー
最強の女勇者の夫は一般人。
そんな人間がいつも強い勇者と生活するのは大変である。
最弱の夫も勇者と暮らせば、日々鍛えられる。
そして、話は訳の分からない方向へ・・・
毎週日曜日に更新します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巻き込まれた薬師の日常
白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。
スコップ1つで異世界征服
葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。
その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。
怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい......
※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。
※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。
※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。
※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。
【草】限定の錬金術師は辺境の地で【薬屋】をしながらスローライフを楽しみたい!
黒猫
ファンタジー
旅行会社に勤める会社の山神 慎太郎。32歳。
登山に出かけて事故で死んでしまう。
転生した先でユニークな草を見つける。
手にした錬金術で生成できた物は……!?
夢の【草】ファンタジーが今、始まる!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる