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婚約破棄は高くつくのですわ
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煌びやかなダンスホールには、着飾った人々が集まり、笑いさざめいている。
今宵は、ここ、ドコカ―ノ王国王城にて、舞踏会が催されているのだ。
それは同時に、この国の第二王子であるヴァッカ王子の婚約発表も兼ねていた。
「ヴァッカ王子の御成りである~!」
本日の主役であるヴァッカ王子が、一人の美しい女性を伴って現れた。
王子の婚約者、辺境伯令嬢のアドアステラだ。
彼女の、氷の彫像を思わせる、凛とした佇まいに人々は見とれた。
と、ヴァッカ王子が足を止めた。
打ち合わせと異なる所作に、アドアステラも、少し戸惑った様子で立ち止まった。
「アドアステラ、お前との婚約を破棄する!」
腰に手を当て仁王立ちしたヴァッカ王子は、アドアステラを指差し、高らかに宣言した。
「何の御冗談でしょうか、殿下」
突然の出来事だったが、アドアステラは気丈にも笑みさえ浮かべた。
「貴様の数々の悪行、全て分かっているぞ!」
言って、ヴァッカ王子はアドアステラを睨みつけた。
「仰る意味が分かりかねますが」
アドアステラは臆せず答えたが、さすがに、その顔からは笑みが消えている。
ヴァッカ王子は、人々の中に誰かを見付けたらしく、手招きした。
おずおずと進み出たのは、小柄で、可憐という言葉の似合う少女だった。
「アドアステラ、貴様は、このテキート男爵令嬢モブーナ殿に対し、様々な嫌がらせを働いたそうだな。そのような下劣な女を妻にすることはできん」
そして、ヴァッカ王子は、モブーナの肩を抱き寄せた。
「余が愛するのは、このモブーナだ。アドアステラ、貴様の顔など見たくない。早々に立ち去れ」
アドアステラは小さく溜息を吐いて、肩を竦めた。
「……茶番は終わりでしょうか?では、お暇いたします」
踵を返し、アドアステラは歩き去った。王子に肩を抱かれているモブーナが、嫌な感じの笑みを浮かべているのを、彼女は見逃さなかった。
アドアステラは、辺境伯である父の元に戻り、事の次第を伝えた。
身に覚えのない罪を着せられ、衆人環視の中で婚約破棄を言い渡される──当事者である彼女よりも、父の怒りは凄まじいものだった。
「誰のお陰で安寧を貪っていられるのかを思い知らせてやる」
辺境伯は配下の兵を率いて、王都に攻め入った。
日頃から外敵に備えて訓練を積み、時には実戦も経験する辺境伯の兵と、平和ボケした中央の兵とでは士気も練度も違い過ぎた。
王都は瞬く間に制圧され、王家は滅亡した。
王族たちは、生命まで奪われることはなかったものの、身包み剥がされて国外に放逐された。
「お父様は親バカですこと」
「娘が酷い目に遭ったと聞いて、つい我を忘れてしまったのだ」
「もっとも、正式に結婚する前に王子が本性を見せてくれて幸いだったとも言えますわね」
辺境伯令嬢から王女になったアドアステラは、父に向かって微笑んだ。
おわり
※注:この作品における「辺境伯」は「田舎の貧乏貴族」ではなく史実寄りのほうです(場合によっては王に匹敵する力がある)※
今宵は、ここ、ドコカ―ノ王国王城にて、舞踏会が催されているのだ。
それは同時に、この国の第二王子であるヴァッカ王子の婚約発表も兼ねていた。
「ヴァッカ王子の御成りである~!」
本日の主役であるヴァッカ王子が、一人の美しい女性を伴って現れた。
王子の婚約者、辺境伯令嬢のアドアステラだ。
彼女の、氷の彫像を思わせる、凛とした佇まいに人々は見とれた。
と、ヴァッカ王子が足を止めた。
打ち合わせと異なる所作に、アドアステラも、少し戸惑った様子で立ち止まった。
「アドアステラ、お前との婚約を破棄する!」
腰に手を当て仁王立ちしたヴァッカ王子は、アドアステラを指差し、高らかに宣言した。
「何の御冗談でしょうか、殿下」
突然の出来事だったが、アドアステラは気丈にも笑みさえ浮かべた。
「貴様の数々の悪行、全て分かっているぞ!」
言って、ヴァッカ王子はアドアステラを睨みつけた。
「仰る意味が分かりかねますが」
アドアステラは臆せず答えたが、さすがに、その顔からは笑みが消えている。
ヴァッカ王子は、人々の中に誰かを見付けたらしく、手招きした。
おずおずと進み出たのは、小柄で、可憐という言葉の似合う少女だった。
「アドアステラ、貴様は、このテキート男爵令嬢モブーナ殿に対し、様々な嫌がらせを働いたそうだな。そのような下劣な女を妻にすることはできん」
そして、ヴァッカ王子は、モブーナの肩を抱き寄せた。
「余が愛するのは、このモブーナだ。アドアステラ、貴様の顔など見たくない。早々に立ち去れ」
アドアステラは小さく溜息を吐いて、肩を竦めた。
「……茶番は終わりでしょうか?では、お暇いたします」
踵を返し、アドアステラは歩き去った。王子に肩を抱かれているモブーナが、嫌な感じの笑みを浮かべているのを、彼女は見逃さなかった。
アドアステラは、辺境伯である父の元に戻り、事の次第を伝えた。
身に覚えのない罪を着せられ、衆人環視の中で婚約破棄を言い渡される──当事者である彼女よりも、父の怒りは凄まじいものだった。
「誰のお陰で安寧を貪っていられるのかを思い知らせてやる」
辺境伯は配下の兵を率いて、王都に攻め入った。
日頃から外敵に備えて訓練を積み、時には実戦も経験する辺境伯の兵と、平和ボケした中央の兵とでは士気も練度も違い過ぎた。
王都は瞬く間に制圧され、王家は滅亡した。
王族たちは、生命まで奪われることはなかったものの、身包み剥がされて国外に放逐された。
「お父様は親バカですこと」
「娘が酷い目に遭ったと聞いて、つい我を忘れてしまったのだ」
「もっとも、正式に結婚する前に王子が本性を見せてくれて幸いだったとも言えますわね」
辺境伯令嬢から王女になったアドアステラは、父に向かって微笑んだ。
おわり
※注:この作品における「辺境伯」は「田舎の貧乏貴族」ではなく史実寄りのほうです(場合によっては王に匹敵する力がある)※
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