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一の姫
十一、葵の君
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葵にとって、噂に聞く頭中将は、最初からいけ好かない男だった。
家柄もよく、帝からの信任も篤い。さらに眉目秀麗、そのうえ和歌や管弦の才にさえ恵まれているときた。物語から出てきたと言われても信じられるほど、彼は完璧だと人々は言った。
彼は色好みとしても有名だったが、実際彼ほど光り輝くような才能を持っていれば、貴族の姫君たちが放っておかないだろう。だからこそ、葵は彼のような人間が好きではなかった。
――まるで、だれからも望まれているような気がして。
葵とて、大納言の娘として、これまで求婚されてきた回数は数知れず。恋文の数々にケチをつけては返事も書かずに捨てる葵のことを、父や母は花や蝶よと溺愛した。
「葵なら、もっと素敵な殿方がいるさ」
「そうよそうよ。葵はこんなに素晴らしい姫君なのだから」
そう言われ続けて早八年。
葵はすっかり嫁ぎ遅れと言われる年になってしまった。
今だって、全盛期と比べて量は減ったとはいえ、あれやこれやと色んな貴族から声がかかる。
それでも、昔より選り好みできる身分かと言われたら、難しいのが事実だった。
とはいえ、一度断った縁談を今さら了承するというのもプライドが許さない。
大納言の娘として、それぐらいの気概は持っている。
これだけ求婚を断り続けたのだもの。
どんなに時間がかかってもいいから、自分に似つかわしい素敵な殿方を。
それが葵の一番の願いだった。
そんな矢先に現れたのが、頭中将という男だった。
葵が頭中将に初めて出会ったのは、貴船神社へ参詣しに行ったときのことだった。
***
「貴船神社には、恋愛に秀でた神様がいらっしゃるそうですよ」
悩める葵に救いの手を差し伸べたのは、新たに葵に仕えることになった新人の女房だった。
くるくると表情が変わる快活な彼女は、葵と同い年だと言う。
元来の彼女の性格もあってか、すぐに打ち解け、恋愛の話になった。
なんと、彼女が愛しの旦那に出会ったのは、貴船神社に参詣してからであると。
彼女は声を潜めて葵にささやいたのであった。
目の前に恋愛成就を叶えた女房がひとり。しかも、彼女は貴船神社のご利益を心から信じている。
これは、絶対にご利益があるに違いない……!
猫の手にも縋りたい気持ちであった葵は、話を聞いてすぐ、参詣のために京を旅立ったのである。
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――まるで、だれからも望まれているような気がして。
葵とて、大納言の娘として、これまで求婚されてきた回数は数知れず。恋文の数々にケチをつけては返事も書かずに捨てる葵のことを、父や母は花や蝶よと溺愛した。
「葵なら、もっと素敵な殿方がいるさ」
「そうよそうよ。葵はこんなに素晴らしい姫君なのだから」
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それでも、昔より選り好みできる身分かと言われたら、難しいのが事実だった。
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