私って何者なの

根鳥 泰造

文字の大きさ
上 下
15 / 56
第二章 チーム『オリーブの芽』の躍進

正夢じゃないよね

しおりを挟む
 明け方、リンは悪夢を見て、目を覚ました。
 なんて怖い夢をみたんだろう。どんな展開でこんな事態になったかまでは、覚えていないけど、竜の様な巨大な魔物が、あたり一面に、口から火を吐き、リンさんまでもが、焼き殺されてしまう夢。
 それ以前を覚えていないけど、他の仲間も全員、その竜に殺されていたと思う。
 また私は、一人ぼっちになってしまったと、嘆いていたから。

 正夢の様な嫌な予感がしたので、夢の事を相談しようと起き出すと、その竜の姿すら曖昧になっていた。
 三メートル以上ある巨大な竜にやられた筈なのにのに、思い出そうとすると、竜だったのかすら、分からなくなる。
 これでは、笑われるだけで相談なんてできない。リンさんは、私の予感を信じてくれているけど、魔物狩りを中止してもらう為の根拠が薄すぎる。その魔物に出くわしたら、一目散に逃げてと警戒を促すことすらできない。
 嫌な夢でも、もっとしっかり記憶に刻み付けておくんだったと、激しく後悔した。

 そんな夢を見たこともあり、今日のメグは、元気がなく、仲間の皆から、酷く心配された。その度に、何度も夢の話を打ち明けようと思うが、やはり言えない。
 幸いにも、この日も強い魔物の気配を感ずることなく、日没が近づいてきた。
「仕方がない。今回は、運に恵まれなかった。キース村に戻るよ」
 メグはホッとして、独り元気を取り戻し、五人で帰路に着いた。
 他の四人は、意気消沈。今日も、C級八体と多数のD級、E級と戦闘を繰り広げ、傷口は塞がっているものの、身体はボロボロ。身体強化の影響で、筋肉疲労も半端ない。
 メグは、そんな皆に元気を出してもらおうと、歌まで歌い出して、先頭を切って歩いていた。
「歩くこ♪、歩るこ♪、私は元気♪、歩くの大好き~、どんどん行こう♪」
「なんだそれ」
 つい、前世の歌を口ずさんでしまった。
「私が考えたの歌。元気がでるでしょう」
「本当に、メグがいると、飽きないよ」
 皆も元気を取り戻してくれて、本当によかった。

 そして、もうB級なんていない筈の森の出口付近まで来た時、強い魔物の気配がしてきた。
 当たりは既に真っ暗で、夜目が利かないこちらが不利な上、既に皆、力尽きた様に疲れ切っている。
 どうして、こんな時にB級魔物なんかと出くわすんだろう。もしかして、夢に出てきた竜じゃないよね。
 メグは急に怖くなった。
「メグ、どうした。急に立ち止まったりして。お前、震えているのか」
「リンさん、私、今朝、怖い夢を見たんです。皆が魔物に殺される夢」
「そんな事にはならない。魔物の気配を感じたんだな。フィジカルブーストを頼む」
「俺たちは、そんなヘマはしない。俺にも掛けてくれ」
「心配しなくとも、大丈夫よ。A級魔物にでも遭遇しなければ、死んだりなんてしないから」
「お前の勘は、確かに認めるが、夢は夢に過ぎないさ。次は俺に掛けてくれ」
 そして、全員に身体強化魔法を掛けると、慎重にフォーメーションを組んで、その魔物の気配がする方に、歩みを進めた。

 見えてきたのは、今まで見た事もない程の巨大な大蛇。C級魔物を丸のみしようとしている最中だった。
「本当にいやがった」
「初めて見た魔物だね。でも、B級に違いない。狩るぞ」
 リンとジンとモローの三人が、食事中の隙を見て、背後から攻撃を開始した。
 メアリは、見晴らしのいい高所から、毒矢を打ち込むために、近くの木の上に上る。

 その大蛇は、リン達の気配に気づき、頭を上げて警戒態勢を取った。
 コブラの様な大蛇で、その高さは三メートル程。首の開いた形は、竜に見えなくもない。
 やはり、この大蛇が、夢にみた竜なのかもしれない。
 だとすると、口から火を吐くかもしれない。
「口から、ものすごい高熱の炎を吐くかもしれない。警戒して」
「了解」
 でも、その蛇は、高所から素早く噛みつき攻撃してくるだけで、火は吐かなかった。
「くそ。思いのほか硬いし、素早い」
 メアリの毒矢を余裕で交わし、当たっても、身体を覆う鱗に守られ、刺さらない。
 モローのナイフも、ジンの剣も、鎧の様な鱗の前に、傷をつけられない。
 唯一、通用するのが、リンの斧攻撃だったが、一発当たっただけで、その後は交わし続けて当たってくれない。
 メグも、鎌鼬やつらら攻撃を出すが、嫌がってはいるが、ほとんど効果がない。

 しかも、大蛇は尻尾攻撃を振り回して攻撃してきた。
 その尻尾攻撃は素早く強烈で、モローは何とか交わしたが、リンとジンの二人は、直撃をくらい吹っ飛ばされた。
 メグは、すぐさま駆け寄って、大蛇を注視しながら、治癒魔法を掛ける。
「くそ、あの鱗が厄介だ。なんとか剥がさないと、ダメージを与えられない」
 ジンは、まだダメージが残っている筈なのに、再び、その蛇に向かって切りかかって行った。
 それを見て、メグは、遂に魔法解禁を決める。物理攻撃が効かないのなら、炎で火傷させればいいだけの話。
 メグは、攻撃陣の邪魔にならない位置に素早く回り込んで、火炎放射フレイムスロワを放った。
「なんだ。そんな魔法も覚えてたのか。隠してないで、昨日のホーネットの時から使えよな」
 モローに怒られてしまった。
「メグいいぞ。火は効いてる。ファイアは出せないのか」
 リンのリクエストで、火球を披露し、ついでに火柱インフェルノも出した。
 火球の方は、交わされてしまったが、火柱はかなり効いたみたいだ。
 ジンも、剣で体当たりするようにして突けば、刺し傷を与えられると気づいた。
 遊撃のモローは、ナイフ攻撃は効果がないと判断して、大蛇に大ダメージを与えられるようなトラップの準備を始める。

 強烈な尻尾攻撃に、苦戦しながらも、二人同時に攻撃を繰り出せば、どちらかの攻撃を当てることができると、攻略法を見出し、少しずつ、ダメージを与えられるようになっていく。
 勿論、クールタイムが過ぎると、メグも火属性魔法で、大蛇を弱らせていく。
 モローの杭打ちトラップは、残念ながら交わされたが、それでも、コツコツとダメージを積み上げていき、大蛇の動きが次第に遅くなっていく。
 そして、リンの斧による渾身の一撃で、尻尾に大ダメージを与えると、蛇は、突然、逃走を始めた。
「追うぞ」
「折角の獲物、逃がすかよ」
 二人は、すぐさま追撃に入ったが、大蛇は、急に振り向き、頭を高く上げると、大きく口を開け、身構えた。
「来るよ」
 メグが警戒を発するまでもなく、リンが指示を出し、さっと間合いをとり、警戒する。
 でも、大蛇が口から出したのは火ではなく、毒液だった。リンに向けて吐きかけてきたが、彼女はさっと、飛び退いて、交わした。
 良かった。夢はあくまで夢にすぎず、正夢なんかじゃなかった。
 そう思って、二人の攻撃を見守っていたら、リンの様子がおかしい。何もいない大地に斧を振り下ろしていた。
「ジン、注意して。毒液の所のガスを浴びると、目が見えなくなって、身体が痺れる」
 そう警告を発したリン目掛けて、蛇は、噛み殺そうと、口を開けて襲い掛かってきた。
 そこにジンが飛び込んで、間一髪のところで、彼女を救い出した。
 メグは、すぐさまリュックから毒消し薬を取り出して、彼女の許に急ぐ。
「すまん、俺にもくれ。目が見えん」
 その毒液攻撃は、思いのほか厄介だった。毒液の直撃を避けても、そこから霧の様なガスが発生していて、その毒ガスの場所を通過すると、身体が痺れ、視覚神経までやられるらしい。
 毒消しを飲んでも、視界はぼやけたままで、既に暗闇なので、どこから攻撃が飛んでくるのかや、毒液がどこに吐かれているのかが、分からない状態らしい。
「ジン、右から牙攻撃」
 メアリは、ほとんど視界が利かなくなっている二人に、適格な指示をだして、攻撃を受けない様に回避させた。
「リン、ストップ。目の前にガスだ」
 次のトラップ準備をしていたモローまで、状況に気づき、誘導を始めた。
 それでも、交わしきれず、ガスを浴びたり、大蛇の攻撃を受けたりしてしまう。
 メグは、火属性魔法のクールタイムが終わる度、大蛇に近づき、火魔法を浴びせ、ついでに、前衛二人に、毒消しを渡したり、治癒魔法を掛けたりするを繰り返した。
 どうやら、毒霧は一分程で、効果がなくなるらしい。毒液を浴びない様にして、その毒液を吐いた辺りに、一分間は近づかない様にすればよいと、次第に攻略法も分かってくる。
 
 戦いは、一時間近い死闘の長期戦になり、毒消しも底をついてしまったが、モローのトラップで口を開けられなくして、毒液を吐けなくしてからは、一方的。
 全員ふらふらになりながら、勝利に歓喜した。
「密かに、サラマンダーと契約して、火属性魔法まで習得していたか。大したもんだ」
 メグが本当の事を打ち明けようとする前に、ジンからそう言われて、言い出せなくなった。
 でも、これからは火魔法も使えるので、良しとしよう。
 そう独りで納得していると、魔結晶を持って、モローが近づいてきた。
「ほい。これで最後だから」
「いや、もう三十キロはあるんじゃないか。これはあたいが持つよ」
 メグのリュックに、入れようとしていたモローから、リンが魔結晶を奪い取った。
 本当に、優しいリーダーだ。
 
 その日は、キース村で一泊し、翌日の早朝、乗ってきた馬で、王都への帰路に着いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

【完結】ちびっこ錬金術師は愛される

あろえ
ファンタジー
「もう大丈夫だから。もう、大丈夫だから……」 生死を彷徨い続けた子供のジルは、献身的に看病してくれた姉エリスと、エリクサーを譲ってくれた錬金術師アーニャのおかげで、苦しめられた呪いから解放される。 三年にわたって寝込み続けたジルは、その間に蘇った前世の記憶を夢だと勘違いした。朧げな記憶には、不器用な父親と料理を作った思い出しかないものの、料理と錬金術の作業が似ていることから、恩を返すために錬金術師を目指す。 しかし、錬金術ギルドで試験を受けていると、エリクサーにまつわる不思議な疑問が浮かび上がってきて……。 これは、『ありがとう』を形にしようと思うジルが、錬金術師アーニャにリードされ、無邪気な心でアイテムを作り始めるハートフルストーリー!

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

【完結】 元魔王な兄と勇者な妹 (多視点オムニバス短編)

津籠睦月
ファンタジー
<あらすじ> 世界を救った元勇者を父、元賢者を母として育った少年は、魔法のコントロールがド下手な「ちょっと残念な子」と見なされながらも、最愛の妹とともに平穏な日々を送っていた。 しかしある日、魔王の片腕を名乗るコウモリが現れ、真実を告げる。 勇者たちは魔王を倒してはおらず、禁断の魔法で赤ん坊に戻しただけなのだと。そして彼こそが、その魔王なのだと…。 <小説の仕様> ひとつのファンタジー世界を、1話ごとに、別々のキャラの視点で語る一人称オムニバスです(プロローグ(0.)のみ三人称)。 短編のため、大がかりな結末はありません。あるのは伏線回収のみ。 R15は、(直接表現や詳細な描写はありませんが)そういうシーンがあるため(←父母世代の話のみ)。 全体的に「ほのぼの(?)」ですが(ハードな展開はありません)、「誰の視点か」によりシリアス色が濃かったりコメディ色が濃かったり、雰囲気がだいぶ違います(父母世代は基本シリアス、子ども世代&猫はコメディ色強め)。 プロローグ含め全6話で完結です。 各話タイトルで誰の視点なのかを表しています。ラインナップは以下の通りです。 0.そして勇者は父になる(シリアス) 1.元魔王な兄(コメディ寄り) 2.元勇者な父(シリアス寄り) 3.元賢者な母(シリアス…?) 4.元魔王の片腕な飼い猫(コメディ寄り) 5.勇者な妹(兄への愛のみ)

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...