大好きだけど

根鳥 泰造

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第三話 真っ直ぐな愛と歪んだ愛

牛蛙 重ねて打ち消せ彼の声

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 今朝、来夢から「安君と婚約解消したから」と、報告を受けた。
 仕方ないので、私が連絡役になった。
 金曜日の朝食の後、磯川さんと夕実に報告。婚約解消となった理由も話すつもりだったけど、「そうか」とだけ言って、ふざけたりもせず、何も言わなかった。
 未来には出社してから、婚約解消となった事を理由も含めてすべて伝えた。
「来夢ったら、何を考えてるの」と、凄く不満そうだったけど、それでも「彼女自身で決めた事なら、文句もいえないわね」と理解してくれた。
 後は、夫の昴だけ。私が無理やり婚約させたようなものなので、やはりと馬鹿にされそうな気がして、敢えて伝えることを避けてきた。
 今はまた昴部屋で生活しているけど、二人になっても、やはり言いずらい。
 寝物語に伝えるのが、簡単で、生理のため一週間してないので、丁度いい気がして、夜まで伸ばしてしまった。
 人物確認の意味も兼ね、先ずは経緯から話し、最後に結論を話した。
「二人で相談して婚約解消することに決めたみたい」
「あいつら、なんて頭が悪いんだ」
 予想外の反応で、私を置いて、パジャマを整え、来夢の部屋に乗り込んで行った。
 そして、暫くして戻ってからも、完全に私を無視。
 ノートPCを起動して、何かをし始めた。
 きっと、いつものようにすべてが丸く収まるようなシナリオを練っているんだと思うけど、昴の行動はいつも私の理解を超えている。

 土曜日の朝の朝食づくりは、私達の番だったけど、昴は遅くまでPC作業をしていたので、私一人で頑張って準備していた。
「裕ちゃん、私だけ先に朝食取りたいんだけど」
 皆を呼ぶ前に、来夢が一番でやってきた。
 でも、その目は充血していて、目の下に隈まで作っていた。
 一晩中、泣いていたとしか思えない。
「昨晩、昴があなたの所に行ったでしょう。何を言ったの?」
「私の決心を散々貶して、間違ってるって、だから最後に、けじめだけはつけろと言われた」
 詳細を話してくれなかったけど、きっと酷い事を言ったに決まっている。でも、ケジメって何だろう。
 その後、二階に向かって食事の準備ができたと伝えてから、昴を起こしに行った。
 来夢に何を言ったのか問い詰めたかったが、料理当番をすっぽかしたことをしきりに詫びてきて、何も訊けなかった。
 でも、ケジメの意味は、居間に戻って直ぐに分かった。
「今日、安君に休暇を与えて頂けませんか。彼と最後にデートしておきたいんです」
 来夢が、家族で一番にやってきた磯川さんの許に行き、そんなお願いをしたからだ。
 でも、昴の意図が全く分からない。
 そんなことするとますます別れがつらくなるとしか思えないから。
 いや、もしかして、それが目的? 昨日の反応も、二人が結婚すると確信していたからあんな反応をした。でも、どうしようと言うの。一緒になれば、必ず誰かが犠牲になり、幸福にはなれない。
 この場で、昴を問い詰める訳にもいかないので、今晩、その話はじっくり聞くことにした。

 でも、いつもは直ぐに飛んでくる安君がまだ食事に降りてこない。
 きっと、昨晩、昴が安君の所にも行って、酷いことを言ったに違いない。
 今日は休暇に決まったから、ゆっくりさせてあげても良かったけど、片付けもしないとならないので、仕方なく、彼の部屋まで起こしに行った。
 安君はやはり寝ていたみたいで、直ぐに行きますと返事が返ってきた。
 いろいろと訊きたいことが有ったけど、そのまま立ち去り、戻るともう来夢がいなくなっていた。

 便利屋昴の方は、すっかり回復し、今日も予約の相談者が沢山いて、嬉しい悲鳴。
 安君に早く復帰してもらいたいところだけど、人手不足のため、今は極力仕事を受けない様にして、深刻な依頼以外は、断る様にしている。

 今日も飛び込みの相談者まできて、残業になったけど、私だけ一人で帰宅すると、二人がいなかった。
 夕実さんに訊いてみると、夕方頃に戻って来て、最後に一緒にお風呂に入って、その後、二人とも深刻な顔をして、部屋に籠ってるのだとか。
 明日の午前中の便で、来夢は帰ってしまうのに、逆に関係が悪くなっていた。
 昴に任してしまったことを酷く後悔した。あの人は、時々、単なる大馬鹿ものになるのを忘れていた。

 夕食の時間になり、二人が現れたけど、やはり険悪ムード。安君は、来夢のことばかり気にしていたけど、来夢は一言も口を利かず、笑顔も見せず、深刻に何かを考えて続けている。
 二人に何かがあったのは間違いない。それに、病院の予定日は来週の木曜日の筈なのに、安君の胸のギプスが取れていて、驚く事ばかり。
「御馳走様」来夢は早々に食事を切り上げ、部屋に戻って行った。

 それを見て、私の勘違いかもとふと思った。
 来夢が、安君を好きなのは間違いないし、それでも別れなければいけないので、苦しんでいると思っていたけど、違うような気がしてきた。
 なにか別の事で頭が一杯で、安君のことすら今は忘れているような気がしたのだ。
 安君は相変わらずだけど、昴の魔法で、来夢は安君の事をそれほど意識しないまでに立ち直ったということになる。
 最後にデートをさせるなんて、なんて無茶苦茶な事をさせると思ったけど、二人が気持ちよく別れられる方向へと進んでいる様に思えてきた。

 昴が帰宅したのは、十時過ぎだった。その後、お風呂に入り、寝室に戻って来た時はもう十一時になろうとしていた。
 昨日はお預けを食らったので、今日こそするつもりでブラも付けずに待っていたけど、この時間だと流石につらい。今日も疲れているし、明日も日曜日で大変なので、今日はしないことにした。

「ねぇ、来夢と安君との結婚が無くなったじゃない。で、安君を養子にしたいんだけど」
 ベッドにもぐりこんできた昴の方を向いて、話しかけた。
「その必要はないよ。来夢と結婚する事になるから」
 昴は、二人を円満に別れさせようとしてたのではなく、二人を結婚させるための、起死回生のとんでもないシナリオを考えているみたい。
「どうして、あの子も私と同じで頑固だよ」
「女は好きな男にレイプされたら、大人しく男に従う様になるんだよ」
 そういって、人物確認もできていないのに、私に襲い掛かってきた。
「ちょっと、今日はしないから」
 本当にする気はないので、必死に抵抗した。、
「そういっても、好きな男なら、拒めないものさ」
 こいつ、本当に最低なダメ人間だ。
 そして、私も最低な女。先週もそうだったけど、レイプされていると言うのに、彼を受け入れてしまいそうになる。
 もしかして、来夢は、安君にレイプされて、あんなに険悪になったのと言うの。
 こいつ、女心が全く分かっていない。
 それに、これじゃ、もう一人の裕子とセックスすることになりかねない。
 少し、反省させないと、どんどん頭に乗って、これからもレイプで誤魔化そうとするようになる。
「ううっ」
 私は、彼の股間に思いっきり、膝蹴りを食らわせてやった。
「レイプすれば、なんでも思い通りになるなんて思わないで。少しは反省しなさい。セックスは来週の火曜日までお預け。それより、あなた、二人に何を言って、何を考えてたの」
 その後、昴から全てを打ち明けられて、呆れてしまった。
 先週、昴があんな強引に襲ってきたのは、来夢の提案だったのだとかで、その仕返しに、安君に来夢をレイプさせることにしたんだとか。
 本当に、昴は最低な男だけど、それでもやはり凄い人。
 結局、その夜も愛し合ってしまった。

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