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第三話 真っ直ぐな愛と歪んだ愛
虎が雨 泣きたき夜を隠しけり
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木曜日の深夜に、来夢がパジャマ姿でやってきた。また、下の世話に来てくれたらしい。
この間は、つい見栄を張り我慢したが、今は無性に彼女を抱きしめたい。
あの後、俺なりにいろいろと考えた。仕事が好きなのも、会社への責任がある事も、良く分る。だが、だからと言って、アメリカ人になって永住する必要なんてない。単に、齢の差の負い目と、責任感とから、そんな馬鹿げた事を考えたに決まっている。
それに最初は怪我をさせた贖罪だと言っていたが、最後には、俺を真剣に考え、身も心も差し出すつもりだと言っていた。
なら簡単だ。互いに愛し合っている同志。思いっきりセックスして、愛し合えば良い。
俺は半人前で、まだ来夢を幸せにする資格はないが、彼女を思い直させるには、その方が良い。そうすれば、俺と一緒に成りたいという気持ちが強くなり、アメリカ人になるなんて馬鹿な考えを改め、俺との結婚を真剣に考えてくれる。
そう結論を出した。
なのに、今日はベッドには入ってこないで、机の椅子をベッド脇に持って来て、それに腰掛けた。
「大事な話があるの。私の本当の気持ちを話すから、何も言わないで聞いてくれる?」
俺はベッドを降りながら頷き、彼女の前に移動して、ベッドの端に座った。
「私、あなたを一目見た時から好きになり、今では心の底から愛している。世界中で一番、おそらく私の生涯の中で一番好き。最初は、年齢差を気にして、お姉さんとして付き合おうなんて考えたりした。けど、今は違う。もう年の差は関係ない。あなたに抱かれたい。抱きしめて欲しい。あなたと結婚したいと、素直に思っている」
だから、俺もそれに答えてプロポーズした。
「でも、あなたと結婚したら、アメリカには戻れない。あなたにアメリカに来てもらうなんて横暴だし、あなたにはここで頑張って働いて欲しい。でもね、結婚して、あなたの子供を育てて、幸せな家庭を築けたとしても、好きな研究をあきらめた事を絶対に後悔する。それがはっきりと分ったの。結婚よりも、好きな研究に、一生を捧げる事の方が、私にとって大切だと確信した。例え、一生独身で終っても、好きな研究を続けられたら、きっと幸せ。後悔はしない。そりゃあ、結婚して幸せな家庭を持ち、更に研究開発ができたら最高だけど、少なくともあなたとは無理。だから、結婚はできない。御免なさい。これが私の本当の気持ち。お願い、婚約を無かったことにして下さい」
なんで、突然、そんな飛躍しちゃうんだろう。あと二年か三年、好きな研究に没頭して、それにケリをつけてから、俺と結婚すればいいだけじゃないか。
一つの研究に、一生を捧げるなんて、馬鹿げてる。
「嫌だ。婚約は解消しない。絶対に君と結婚する。一緒に生活したい」
「分かってよ。今の研究をしたくて、共同出資者を集めて、会社を立ち上げ、双葉商事も辞めた。私は好きな研究をするために、全て賭けたの。今の会社を辞めるなんて絶対に嫌。どんな事があっても、アメリカに帰って、研究を続ける。分ってよ。婚約を解消して。お願い」
きっと、一生懸命に悩んでの結論なんだろう。なら、もう諦めるしかない。
「分かった。君を不幸にするのは本意ではないから」
「ありがとう。じゃあ、これ」
来夢は、ポケットから指輪ケースを取り出し、俺に返して来た。
婚約発表の後に、自分の全貯金をはたいて買ったダイヤの指輪だ。一度だけ指にはめてくれたけど、その後、一度も嵌めてくれず、遂に返却されてまった。
「それから、あの約束も無しにして。清い関係の友人として分れたいの。いいよね」
「確かに前回拒否したのは俺だし、ここは諦めると言うべきなんだろう。けど、君の気持ちが分らない。結婚する気はないのに、なんであの時、俺とセックスしようとしたの」
「あの事件とは関係ないと言ったら嘘になるけど、結婚する気は無くても、あなたの事は大好き。だから、真剣に愛し合って、あなたとの想い出を作りたかっただけ」
彼女は、なぜか急に天井を見上げ、暫く何も言わなかったが、また話はじめた。
「私の所為で、あなたに怪我をさせてしまい、今更、アメリカに戻るので、さようならも、無いでしょう。だから、最初は償いの意味もあった。でも、あなたの事を考えたら、償いや遊びではいけないと思った。あの事件が無かったとしても、私はあなたとセックスしたかった。真剣に愛し合って、最後の恋として、あなたとの思い出を胸に、一生独身で研究に冒頭しようと考えて、あの日に臨んだの」
同情でのセックスは嫌だったが、真剣に愛し合うつもりだったのなら、それに答えて、思いっきり抱けばよかったと後悔した。
「でも、それも止める。私は、その方が幸せでも、あなたに、少なからず影響が残り、将来の足かせになってしまいかねないから。あなたと私は、単なる友人の方が、互いにきっと良い。都合がいい自分勝手は分ってるけど、お願い。清い関係のまま別れましょう」
正直、来夢を抱きたい。今、彼女をベッドに押し倒してでも、セックスしたい。
でも、ここは我慢して、何もせず、彼女を送り出してやるのが男というものだ。
「君の気持ちは分かった。結婚もセックスも諦める。でも、一言だけ言わせて欲しい。俺は来夢が大好きだ。君に出会って、人を好きになると、こんな幸せな気持ちになれるのかと初めて知った。有難う。君との事は一生忘れない」
「じゃあ、帰るね」
彼女は、そういって慌てて立ち上がり、深々と頭を下げ、逃げる様に扉に向かった。
気づかれない様に、隠したつもりの様だが、目から涙があふれ、こぼれるのが見えてしまった。
「本当に、御免ね。安田翔さん」
彼女は、向こうをむいたまま、もう一度謝って、部屋を出て行った。
この間は、つい見栄を張り我慢したが、今は無性に彼女を抱きしめたい。
あの後、俺なりにいろいろと考えた。仕事が好きなのも、会社への責任がある事も、良く分る。だが、だからと言って、アメリカ人になって永住する必要なんてない。単に、齢の差の負い目と、責任感とから、そんな馬鹿げた事を考えたに決まっている。
それに最初は怪我をさせた贖罪だと言っていたが、最後には、俺を真剣に考え、身も心も差し出すつもりだと言っていた。
なら簡単だ。互いに愛し合っている同志。思いっきりセックスして、愛し合えば良い。
俺は半人前で、まだ来夢を幸せにする資格はないが、彼女を思い直させるには、その方が良い。そうすれば、俺と一緒に成りたいという気持ちが強くなり、アメリカ人になるなんて馬鹿な考えを改め、俺との結婚を真剣に考えてくれる。
そう結論を出した。
なのに、今日はベッドには入ってこないで、机の椅子をベッド脇に持って来て、それに腰掛けた。
「大事な話があるの。私の本当の気持ちを話すから、何も言わないで聞いてくれる?」
俺はベッドを降りながら頷き、彼女の前に移動して、ベッドの端に座った。
「私、あなたを一目見た時から好きになり、今では心の底から愛している。世界中で一番、おそらく私の生涯の中で一番好き。最初は、年齢差を気にして、お姉さんとして付き合おうなんて考えたりした。けど、今は違う。もう年の差は関係ない。あなたに抱かれたい。抱きしめて欲しい。あなたと結婚したいと、素直に思っている」
だから、俺もそれに答えてプロポーズした。
「でも、あなたと結婚したら、アメリカには戻れない。あなたにアメリカに来てもらうなんて横暴だし、あなたにはここで頑張って働いて欲しい。でもね、結婚して、あなたの子供を育てて、幸せな家庭を築けたとしても、好きな研究をあきらめた事を絶対に後悔する。それがはっきりと分ったの。結婚よりも、好きな研究に、一生を捧げる事の方が、私にとって大切だと確信した。例え、一生独身で終っても、好きな研究を続けられたら、きっと幸せ。後悔はしない。そりゃあ、結婚して幸せな家庭を持ち、更に研究開発ができたら最高だけど、少なくともあなたとは無理。だから、結婚はできない。御免なさい。これが私の本当の気持ち。お願い、婚約を無かったことにして下さい」
なんで、突然、そんな飛躍しちゃうんだろう。あと二年か三年、好きな研究に没頭して、それにケリをつけてから、俺と結婚すればいいだけじゃないか。
一つの研究に、一生を捧げるなんて、馬鹿げてる。
「嫌だ。婚約は解消しない。絶対に君と結婚する。一緒に生活したい」
「分かってよ。今の研究をしたくて、共同出資者を集めて、会社を立ち上げ、双葉商事も辞めた。私は好きな研究をするために、全て賭けたの。今の会社を辞めるなんて絶対に嫌。どんな事があっても、アメリカに帰って、研究を続ける。分ってよ。婚約を解消して。お願い」
きっと、一生懸命に悩んでの結論なんだろう。なら、もう諦めるしかない。
「分かった。君を不幸にするのは本意ではないから」
「ありがとう。じゃあ、これ」
来夢は、ポケットから指輪ケースを取り出し、俺に返して来た。
婚約発表の後に、自分の全貯金をはたいて買ったダイヤの指輪だ。一度だけ指にはめてくれたけど、その後、一度も嵌めてくれず、遂に返却されてまった。
「それから、あの約束も無しにして。清い関係の友人として分れたいの。いいよね」
「確かに前回拒否したのは俺だし、ここは諦めると言うべきなんだろう。けど、君の気持ちが分らない。結婚する気はないのに、なんであの時、俺とセックスしようとしたの」
「あの事件とは関係ないと言ったら嘘になるけど、結婚する気は無くても、あなたの事は大好き。だから、真剣に愛し合って、あなたとの想い出を作りたかっただけ」
彼女は、なぜか急に天井を見上げ、暫く何も言わなかったが、また話はじめた。
「私の所為で、あなたに怪我をさせてしまい、今更、アメリカに戻るので、さようならも、無いでしょう。だから、最初は償いの意味もあった。でも、あなたの事を考えたら、償いや遊びではいけないと思った。あの事件が無かったとしても、私はあなたとセックスしたかった。真剣に愛し合って、最後の恋として、あなたとの思い出を胸に、一生独身で研究に冒頭しようと考えて、あの日に臨んだの」
同情でのセックスは嫌だったが、真剣に愛し合うつもりだったのなら、それに答えて、思いっきり抱けばよかったと後悔した。
「でも、それも止める。私は、その方が幸せでも、あなたに、少なからず影響が残り、将来の足かせになってしまいかねないから。あなたと私は、単なる友人の方が、互いにきっと良い。都合がいい自分勝手は分ってるけど、お願い。清い関係のまま別れましょう」
正直、来夢を抱きたい。今、彼女をベッドに押し倒してでも、セックスしたい。
でも、ここは我慢して、何もせず、彼女を送り出してやるのが男というものだ。
「君の気持ちは分かった。結婚もセックスも諦める。でも、一言だけ言わせて欲しい。俺は来夢が大好きだ。君に出会って、人を好きになると、こんな幸せな気持ちになれるのかと初めて知った。有難う。君との事は一生忘れない」
「じゃあ、帰るね」
彼女は、そういって慌てて立ち上がり、深々と頭を下げ、逃げる様に扉に向かった。
気づかれない様に、隠したつもりの様だが、目から涙があふれ、こぼれるのが見えてしまった。
「本当に、御免ね。安田翔さん」
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