大好きだけど

根鳥 泰造

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第三話 真っ直ぐな愛と歪んだ愛

雨降って紫陽花色をあでやかに

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 タンポンを挿入するところを見られたのは、流石に失敗だった。
 体内で吸収する方が、蒸れたり、かぶれたりせず、肌にいいし、匂いも気にしなくて済む。絶対タンポンの方が良いと思うけど、あの挿入する時の姿は、人に見せられない。
 主人の事は、つい、空気みたいに意識しない時があり、さっきも油断して酷い恰好を見せてしまった。

 その所為か、昴はこっちをずっと注視している。
 今更、恥ずかしがってもしょうがないのに、その視線が恥ずかしく、ちょっと嫌だった。

「じゃあ行ってくるから」
 時刻は、既に、零時を廻っていたが、服装を整えて、来夢の部屋のドアをノックした。
「どうぞ」
「遅くなって御免なさい。昨日は何があったの? ずっと泣いていて、心配したのよ」
「裕ちゃん?」
「娘を心配しない親はいないわ。どっちでも同じ。安君と何があったの?」
「翔が良い人過ぎて、自分がなさけなくなって……」
「バカね。安君を大切に思っているから、愛しているから、自分がなさけなく見えるの。でも、偉そうな事はいえないわね、私も昨年末から今年の初め頃まで、そうだった。こんな女じゃ、彼に似合わないって、情けなくて、情けなくて。あの時は、私が彼に与えられるものは、躰しかないって考えて、セックスばかり考えてた。それしか、彼を繋ぎとめられる手段はないと誤解していた」
「私は違うよ。私は、彼との思い出が欲しいだけ。彼を独占しようなんて思ってない」
「形は違って見えるけど本質は同じ。自分が彼には似合わないと考えて、彼の気持ちを無視して、自分勝手に結論を出し、その誤った結論で自分の行動方針を決めている。あなたの結論が何かは知らない。でも、そこに彼の気持ちは反映されているの? 自分勝手な思い込みで、誤った結論を出しているだけじゃない? そして、その結論を達成するための手段が、彼との思い出作りだったのじゃないの?」
「ママは、やっぱり、なんでもお見通しね。で、どうすればよかったの」
「正解なんてわからないわ。私の時は、こんな酷い人間になってますって、彼に全てを話して、彼に判断を委ねた。きっと、彼が最良の解を出してくれるはずだから。でも、あなたは、安君に全てを委ねるなんてできないでしょう。自分で道を決めて、空回りする人だから」
「酷い。そう育てたのはママでしょう」
「私は、そんなことしない。裕ちゃんと言う、もう一人の私。そして、その生き方は、正解でもあり、誤りでもあると思うの」
「母でも、空回りするの?」
「いつも悩んで空回りしているわよ。最近は、私みたいに、昴に判断を委ねる事が多くなったけど、自分がしっかりしなきゃと、無理して、何時も反省している。そう、この間の作戦会議の時も、無理にリーダーシップを取ろうとして、失敗していたじゃない」
「確かに、裕ちゃん、変だった」
「裕子が変になったのは私の所為なの。私にいろいろあってまともな生活が送れない時期があったでしょう。それがあって、皆が同情や軽蔑の目で見ていると被害妄想になっていて、無理に見返そうと、もがいていた。自分の身体がやっと直って、意識も昔の自分に戻ったんだから、普通にしてればいいのに、自分でなんとかしなくちゃと、空回りしていた。裕子って、冷静に、自然体で自分の得意分野だけで頑張るタイプなのに、不慣れな分野で、無理して、熱くなって、失敗ばっかり。でも、あれから、短期間で、大分成長しているわよ。流石は裕子ね」
「どうしたらいいのかなぁ」
「何があったか、話す気になった?」
 それから、来夢は、昨晩の経緯を語ってくれた。

 彼女の出した結論は、アメリカに戻って仕事に打ち込むことであり、安君との素敵な思い出を胸に、生きていくだった。そして、心も体も全てを捧げるつもりで、彼の寝室を行った。でも、結婚する意思が無いのならと、セックスを拒絶され、逆に彼を傷つけてしまった。
 彼とはこのまま別れたくなく、最高の思い出を作りたい。でも、今後、どう付き合えば良いのか、幾ら考えても解が見付からずに悩んでいると、打ち明けた。

「なら、婚約は解消しましょう。そして、彼が怪我した事件の事も忘れなさい。更に年齢差や、元ヤクザと言う情報も全て忘れましょう。そして、全て白紙にした上で、何がいいのか考えてみましょう。あなたは、アメリカでIT会社を立ち上げた副社長。彼は便利屋に入ってきたあなた好みの新米社員。で、あなたがふと日本に帰ってくると、彼がいた。付き合ってみると、良い人で、優しい人で素敵だった。彼も貴方の事を心の底から愛してくれている。でも、副社長としての責任もあり、アメリカでしたい仕事もある。さぁ、あと残り十日間。その子はどう行動すればいいと思う」
「わかんないよ」
「正解なんてないのよ。でも、思い出作りに、彼とセックスするなんてのは誤りよね。お互いに不幸だと思うもの。悩んで、悩んで、独りよがりに考えないで、二人に最も良いと信じる道を選択すればいい。後悔が残らない決断なら、きっとそれが正解だから」
「わかった。ありがとう」
「こういった相談は、もう一人の私の得意分野なんだけど、この件に関して、ちょっと訳有りなの。あなたは誤解している。さっきも言ったけど、娘の幸せを願わない親はいないから」
「その訳ありって?」
「私の口からは言えない。本人に直接訊いてみなさい。その上で相談すれば、私なんかよりも、何倍も良いアドバイスを貰えるはずよ。じゃあ、おやすみなさい」
 私はもう限界だった。最近の裕子は、私が支配権を握っていても、むりやり身体を取り戻そうと必死に抵抗してくるのだ。
「もう少し、一緒に居て」
「もう一人の私が起きようとしていて、私を保つのが辛いの。御免なさいね」
 私は急いで部屋を出た。でも、その直後に彼女が目覚めてしまい、昴の所まで辿り着けなかった。
「来夢と、話をしてきたわ」
「どうだった?」
「婚約したことが、あの子には、重荷だったみたい。婚約解消してあげた方がいいかもしれない」
「他には」
「御免。すごく疲れてるの。明日、貴方の部屋で話すから、今日は寝かせて」
「御免。君にばかり辛い思いをさせて。お休み」
 へぇ、そうきたか。やはり裕子は立派だわ。

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