大好きだけど

根鳥 泰造

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第三話 真っ直ぐな愛と歪んだ愛

ごろごろでもストライクとれた 立夏最高

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 木曜日の朝、起きると、デビットからメールが入っていた。

 来夢へ
 デビットだ。漸く、釈放された。やはり、あのホテルへアクセスが不味かったみたいだ。FBIが慎重に調査をすすめていたのに、俺たちが侵入したことで、証拠を全て消されたらしい。パスワードハックの詳細や、仕様書、プログラム、一切全て提出させられて、何日も説教された。反省文まで書かされ、今後一切、パスワードハックをしようしないという誓約書にサインさせられた。
 来夢にも同じように、洗脳するように説教しつづけ、反省文や誓約書を書かせるつもりみたいだから、後、ニ、三か月は、日本で大人しくしていろ。
 それから、当分、俺らは完全に監視される。このメールもチェックされている。だから、今後の連絡は、会社の必要な要件だけになる。
 毎日、メールは出せないので、俺の事を忘れても構わない。俺も関係をリセットするのに賛成だ。
 もともと、単なる共同経営者にすぎないし、これからの話は、三か月後に再び会ってからにしたい。お互い、その間に、何があるかはわからないだろう。
 互いに、なにもなければ、その時、改めて今後を考えたい。
 最後に、経営会議にオンライン参加してもらうから、そっちのPCのアドレスを教えてくれ。

 デビットは、もっと、私の事を愛してくれていると信じていたのに、少し残念。いや、FBIにチェックされているので、無理しているだけかもしれない。
 でも、その方が、気兼ねなく、安君と付き合える。

 私としても、デビットにいろいろと言いたいことが有ったけど、このメールも他人が読むことになるので、簡単に素っ気なく返信した。
 すると、設定完了の短い連絡が帰って来ただけ。
 なにか、プライベートの話ができる手段を考えなくてはならない。
 ともあれ、これで、会社のサーバーにアクセスして仕事ができる。
 けど、こういう時に限り、いろいろとしなければならないことがある。

 実は昨晩、凄い話をダッドから聞き、ハッキングの仕事を頼まれた。
 裕ちゃんが誘拐された事件の調査が行き詰っていると訊いてはいたけど、とんでもない事件に巻き込まれていた。IR、統合型リゾート施設開発計画に関わる国家機密。
 日本の情報には疎く、よく知らなかったげ、IRは、現在、大阪ベイエリアにリゾート施設を設置する方向で進んでいるのだそう。でも、予定より大幅遅延していて、開発は難航している。
 そこで、少額予算で、大きな利益が見込める別のIR計画がすすめられている噂があるのだとか。
 カジノ施設等のリゾート施設を持つ豪華客船を、国で作って運営するという計画。
 これだと、特定地区に所属しない国有施設となり、主要各地を転々と移動して収益を上げられるし、IR構想に反対している知事の拒否権も適用されない。
 裕ちゃんとダッドと磯川さんは、その運営利権絡みの事件に巻き込まれた可能性が高いのだそう。
 あくまでも推察にすぎないが、その利権絡みの情報を盗まれ、それを取り戻すため、二人を誘拐し、その争奪戦で、広域暴力団同士での抗争まで起きた可能性があるのだとか。
 国もそれが外部に漏れないように、必死なっていて、磯川さんに冤罪を着せてまで、その件に首を突っ込ませない様にしたのではないかという説明だった。

 ただ、それは永田町の噂に過ぎず、そんな計画が実在する証拠は一切ない。
 だから、その証拠をつかみたいので、私に国家機密を盗み出せと言ってきた。

 勿論、そんなのはファイアウォールの内側からアクセスしないと絶対に無理。国家機密は、何重にも厳しいプロテクトがとられていて、外部アクセスは困難になっていると説明し、諦めてもらった。

 それならばと、今度は、別のハッキングを頼まれた。

 そもそも、母を誘拐してまで取り戻したかったものは、往凶会の理事長が保有していたアタッシュケースの中身。その書類が渡った先の予想がついているので、その者の会社のサーバーにハッキングして、それらしき資料の電子化コピーを盗み出して欲しいと言ってきた。
 大手企業のサーバーにハッキングするのも、相当に至難だが、これなら不可能でないので、ダッドの話を訊くことにした。

 そのアタッシュケースは、男装した女子高生が盗み出し、地下鉄に飛び乗り、トイレで着替えて、女子高生の姿に戻り、往凶会の追手を完全に撒いて逃走した。
 昴システムで、彼女の家がある降車駅を特定し、それを往凶会幹部に報告したことで、彼女は往凶会の連中、及び、それを阻止しよう駆けつけた警視庁の警官等を交え、必死の逃亡撃を繰り広げられることになる。
 だが、彼女は、帰宅する前に、既に、国会議事堂前駅でとあるイケメン男性に、アタッシュケースを渡していた。
 その男は、財務省秘書課の男で、それを受け取ると直ぐ、国会議事堂前のB6出口に消えて行った。
 B6出口は、ザ・キャピトルホテル東急という5つ星ホテルに直結している。
 その後は、その日の昴システムに、彼が映ることはなく、ホテルに宿泊していないことから、車を使って帰宅したものと思われるが、そのホテルの宿泊客にアタッシュケースの中身が渡った可能性が高い。
 財務省秘書課の男のその日の行動を徹底的に調べていくと、ボディーガードらしき白人男性数名と地下鉄でそのホテルに出入りしているとわかり、白人ボディーガードの線から、とあるアメリカ人の要人が浮かび上がった。
 その人は、なんとカジノ王アデルソン。ダニエル達が逮捕される切っ掛けになったザ・ベネチアンのオーナーだ。
 私への依頼とは、ザ・ベネチアンのサーバーにアクセスし、それ絡みの情報を盗み出せないかというものだった。
 それは、まさに私たちが、しようとしていた事。おそらく、あのTOKYOというフォルダに、その計画に関する情報資料が保続されていた可能性が高い。

 勿論、ダッド達には、無理だと説明した。
 アクセス可能な場所に保存されていた電子資料のコピーは、全て消去された筈だし、内部サーバーのオリジナルには、国家機密並みにプロテクトされているからだ。

 そんな訳で、そのハッキングも諦めて貰ったが、今度は、行方不明になっている女子高生の今の所在地を探すように依頼された。彼女からいろいろと聞き込みしたいらしい。
 彼女は、無事、世田谷警察署に保護され、暫くは警察に護衛されて、高校に通っていたらしいが、その後転校したらしく、今は昴システムに全く引っかからなくなっているのだそう。
 彼女が以前いた高校は分かっているので、どこに転校したかもわかるだろうと言われた。

 確かに、高校内にあるサーバーなら、簡単にアクセスはできるが、情報を精査してチェックしていくのは大変だし、その関係書類が、電子ファイル化されているとも限らない。
 運よく、転校先が分かったとしても、住所まで特定するとなると、その高校のサーバーにアクセスしなくてはならず、そこからも大変だ。
 
 それに、もう一つ気になることがある。その女子高生が、暴力団員に取り囲まれ、忍者のように彼らを翻弄して警察署に逃げ込む動画をみせてもらったのだが、彼女をどこかで見た気がしてならなかった。
 そして、昨晩、思い出した。定かではないが、パルクールのアメリカ選手権に出場していた女子大生の様な気がしたのだ。
 アメリカの女子大生が、日本の高校に通っているのはおかしいが、彼女の素性調査の一環として、詳しいオタクの友達とコンタクトを取って確認したいとも思っている。
 そんなわけで、仕事ができる環境になっても、遣ることが沢山あり、大変なのだ。


 それからの四日間は、仕事とハッキングを半々くらいにして彼女の調査をつづけたが、いろいろな事が判明した。
 その件の報告会は、水曜の夜におこなわれるが、私はどうしても皆に報告したくて、月曜の夜、ダッドと磯川さんが、夜の七時前に帰って来たので、臨時に調査報告会をさせてもらった。
 
 彼女は、一昨年の全米パルクールで、女子で断トツだったのに決勝を棄権した日系アメリカ人レミ加藤。当時は、UCLAの学生だった。オタクの知り合いに動画を見せて、確認したので、間違いない。
 当時十九歳だったので、今は二十一歳となるが、日本人の女子高生に成りすましていた。
 彼女の高校に保管されている個人データを確認すると、彼女は、藤峰麗美十七歳となっていた。
 転入してきたのは去年の十一月二十日で、両親が事故死し、父方の親戚を頼って、カルフォルニアのスチーブンソンという私立の高校から転入したことになっていた。
 その身元保証人が、彼女の従兄の藤峰純一郎三十歳。
 勿論、すべて偽造だが、藤峰純一郎という男は実在した。ネット検索して出てきた男は、財務大臣官房秘書課勤務のあのアタッシュケースを受けとった男だったのだ。
 つまり、彼女はCIAの諜報員で、藤峰純一郎に協力するため、派遣された可能性が高い。

 因みに、レミ加藤の出入国記録を確認すると、観光ビザで、入国し、既に帰国したことなっていた。
 今後、また日本に来る可能性もあり、休学となっているが、いまはアメリカにいるということだ。

 そして、藤峰純一郎という人物に関しては、ネット検索した限り、経歴が全くの謎だったが、磯川さんが詳しく知っていた。
 アタッシュケースを受けっとった男は、三十歳位の若造だったので、下っ端だと判断して、その名前までは、調べなかったらしい。藤峰純一郎を検索していれば、直ぐに分かった筈なのに、アタッシュケースを受けとった男が、藤峰純一郎と知らなかった。

 磯川さんによると、その藤峰純一郎は、かつて天才高校生探偵と呼ばれ、江戸川コナンの工藤新一そのものという感じの男だった。
 磯川さんが刑事になった頃、話題になり、同期の仲間から、常に情報を貰っていて、卒業後の経歴を詳しく知っていた。

 彼は、プリンストン大学の経済学部を三年で卒業し、大蔵省調査査察部に入る。それからは、二年で転々と、職場を移動。公安調査庁、法務省調査室、財務大臣官房秘書課と異動を繰り返し、今年の四月からは、内閣官房情報調査室に入ってる。
 まさに、日本のスパイのエリート街道をまっしぐらに歩んでいる人だった。
「まさかあいつだったのか。なら、俺が必ず真相を暴いてやる」
 義兄はリベンジに燃えていて、私の出番はないようなので、私の仕事は、ひとまずこれにて終了。
 私としては、凄く面白くなってきたので、もっと首を突っ込みたいけど、研究開発に専念することにした。
 もっとも、また協力をお願いすることになるかもしれないとは言われたので、喜んでと応えておいた。

 そして解散となった時、安君にはくれぐれも内密にと言われてしまった。
 彼を除け者にするつもりはないが、今は一人前になろうと必死に仕事を覚えている時なので、こんなとんでもない事件の捜査までつき合わせて、混乱させたくないということらしい。
 私としては、こんな面白い話、安君に話して聞かせたいけど、秘密にすることを約束した。

 その安君だけど、先週のデート以来、おかしくなってしまった。
 私の事を大好きになってくれたみたいだけど、私の事をいつも見つめているのだ。
 木曜日の朝食の時にそれ気づいて、目を合わせたら、今度は視線をそらさず、にっこりとほほ笑んできた。
 以来、私の方が、ドキドキしてしまい、彼と目を合わせられなくなってしまった。
 しかも、あんな嗜好のど真ん中の男に、毎日、大好き光線を浴びせられ続けると、私もおかしくなってくる。
 彼とのセックスは全く考えられなかったのに、私の潜在意識は彼に抱かれたがっているらしい。
 昨晩なんて、安君とのエッチな夢を見て、朝、パンツがぐっしょに濡れていた。
 まだ、一回しかデートしてないのに、セックスさせてあげてもいいかなと思ってしまう程に、私は、彼の事が、大好きになってしまった。
 そこまですると、デビットを裏切ることになると自分に言い聞かせても、悪魔の私が、デビットだって、一旦リセットしようと言ってるじゃないと、囁きかけてくる。
 デビットの話なら、後二か月はこっちで過ごさないとならないことになるけど、一刻も早く帰らないと、本当に一線を越えてしまいそう。

 そして、今日は、安君と二回目のデート。
 今日は彼が、リードして、悪さしていた頃の地元の街、池袋を案内してくれることになっている。
 今日も、朝一番に、その安君が、今日のデートコースの検索を始めた。
 おそらく、今日もラブホの検索をするとは思うけど、今日は、磯川義兄さんが、ネット接続したので、それどころではない。
 急いで、PCの情報を全コピーさせてもらおうとしたけど、残念ながらiPad。それでも、何をするのか注目していたら、籐峰純一郎について調べ始めた。
 今日の自由時間は、家族で外出すると言っていたけど、ついでに何かを調べに行くみたい。
 ダッドが全面的に信頼しているだけあって、本当に仕事熱心な人。

 そして、この日は、家事の時間にトレーナーに着替え、運動タイムになると直ぐダンスルームに顔を出した。ランニングマシンは人気で、皆が使うので、早く行かないと使えなくなるからだ。
 一番のりしたつもりだったのに、既に、裕ちゃんはレオタード姿で、ホームジムで胸筋を鍛えていた。
「あれ、今日はスカートじゃないの?」
「あんなこといわれた~ら……、もうパンツ穿くしかないでしょ~っ」
「大丈夫なの、体調は?」
「ダぁ~い丈夫のわけないでしょう。でぇ~も、がんばるしかないの」
 本当に悪いことしたなと、反省し、私はランニングマシーンを使わせてもらった。
 暫くすると、安君が来て、母は、マシンを譲って、柔軟体操を始めた。
 そして、安君がホームジムのウエイトを調整して、胸筋を鍛え始めた。
 本当に逞しい胸や腕をしていて、ますます彼に抱かれたくなってしまった。

 その後、大ちゃんと一緒に磯川さんが来て、義兄は安君と格闘技の特訓を始めることになった。
 私もランニングを終りにし、二人の練習を見させてもらった。
 自然体の磯川さんに、レスリングスタイルで突っ込む安君。なのに、一瞬で、地面に寝そべる。
 話には、聞いてたけど、義兄は元組対四課の刑事だけあって、飛んでもなく強い。
 何度も挑むものの瞬殺。安君が弱すぎるのかもしれないけど、子供の様にあしらわれている。
 でも、必死な表情や、悔しがる姿が、またかわいい。

 母もダッドとダンスの練習を始めたので、私も大ちゃんと遊ぶことにした。
 今日は、新たに高い高いホイホイと言う空中業にもチャレンジ。
 大ちゃんと遊ぶだけで、十分にトレーニングになる。

 そして、午後は安君とのデート。池袋の西口をメインに案内してもらいながら、半ぐれ集団に所属していた時の話をいろいろと訊かせてもらった。
 彼が尊敬する兄貴分の人と、よくナンパしたというボーリング場や、ビリヤード場、ゲームセンター等に案内してもらい、初めてパチンコも体験した。
 彼が、それとなく手を繋いできて、私から恋人繋ぎにしたら、何を誤解したのか、ラブホ街へと歩き出した。
 その時は、真剣に悩んだ。
 でも、結局、彼は誘ってこず、キスすらしようとしてこなかった。
 それが逆に、私の事を真剣に愛してくれているんだと実感することになり、ますます大好きになった。

 帰りの電車のなかでは、来週は、ディズニーランドに行きたいねと、二人で朝から外出する作戦を練った。
 浦安まで出向くとなると、朝から出かけざるを得ず、夜も遅くなり、夕食も外食となる。
 お酒を飲んで、その勢いで……。
 彼もしたいのは明らかだし、私ももう抱かれてもいいと思っている。十分に有りえる展開だ。
 私はアメリカに帰るので、彼との結婚は有りえないけど、彼の事は大好きで、彼も私を愛してくれている。
 セックスするとすると、それは遊びとなるだけに、悩んでしまうけど、大切な思い出を作るのは悪くない。
 キスまでにするか、セックスまでするか、真剣に悩んで、来週までに結論をだす。
 そう決心した。

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