大好きだけど

根鳥 泰造

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第三話 真っ直ぐな愛と歪んだ愛

メール無し 女心と秋の空

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 翌日曜、私も、皆と一緒に、便利屋昴の事務所に行き、私の要求スペックを満たすPCを借りることになった。
 今日も、安君はびしっとスーツ姿で格好良く、どう見ても私と同じ位の素敵な紳士にしか見えない。
 しかも、ため口で楽しそうに話してくるから、なおのこと、同年代の男性と思えてしまう。
 昨晩は、母の娘で一回りも年上だと知り、最初は敬語で話していたけど、途中から、ため口になって来て、今は、全く敬語を使わなくなった。
 ゲイリーより二つも、年下なのに、その所為か、安君は弟の様には思えない。

「このパソコンがそうだ。安、手伝ってやれ」ダッドが机の上のPCを指さした。
「ええっ、これを貸すのは勘弁してくださいよ。古いパソコンでいいじゃないですか」
 安君が嫌がって、私を睨みつけてきた。
 このパソコンは、先週起動しばかりの捜索対象の3Dデータを作るPCなんだとか。
 今までの機種より、反応が早くて、快適だったのにと、あからさまに嫌がった。

 素敵な安君の頼みでだとしても、PCに関しては、私としても、譲れない。
「他に、私の要求スペックを満たすパソコンがあるなら、それでもいいけど、一か月以上もここにいるんだから、私としては、どうしても高性能PCが欲しいの。私もこっちで在宅勤務で仕事をする予定なの」
 メモリが16GB、HDDは1TB以上、グラフィックスコア五万以上のグラフィックボードを搭載した機種というのが、私の要求する最低限度のスペック。
 それを満たすPCは、これしかないそうなので、止むを得ない。
「ソフトは同じだから、少し位遅くても、以前の機種で我慢してくれ。諦めろ」
 ダッドも、安君を説得してくれて、安君は渋々梱包作業を手伝ってくれた。
 そのPCの搬送も、安君が台車に積み込み、手伝ってくれた。

 でも、「女性の部屋に二人きりになるのはできないから」と、彼は私の部屋に入るのを遠慮した。
 別に下着が出しっぱなしにしてるわけではないし、見られて困るようなものはないもないのに、部屋の前に荷物を置いて、「もう仕事の時間だから」と、慌てて帰って行った。
 意外と、初心な子で、可愛いと思ったけど、それでも、弟のようには思えないから不思議。

 PCのセッティングが済むと、インストールされているソフトも不要なものは全てアンインストールして、完全クリーンナップした。
 このPCは自由に使っていいとダッドの許可を貰っているので、少しでも性能アップさせたかったのだ。
 そして、私が使うツール群をノートPCから移して、作業環境を整え、先ずは機種の性能を把握するためのベンチマークテストをする。
 無線LANなので、通信速度は必要性能を大幅未達だけど、それ以外は必要性能を満たしていた。
 勿論、私のアパートや職場のPCからすると、物足りないスペックだけど、これなら仕事をする上でも、ハッキングして遊ぶ分にも、十分な性能だ。

 時間も十時となり、ニューヨークは、土曜の夜九時となったので、私は早速、デビットとゲイリーとの連絡を試みた。
 けど、やはり連絡がつかない。
 例の隠れチャットルームにアクセスしてみたけど、誰もおらず、いつものハッカー仲間のチャットルームで、訊いてみたけど、やはり、二人について知ってるものは一人もいなかった。
 二人は、FBIに逮捕されてしまったらしい。流石に刑務所送りにはならないはずだけど、数日間はたっぷりと事情聴取されることになる。
 それに、私達の会社も心配。土日は、休みなので問題ないけど、月曜日までに釈放されないと、従業員達が困惑する。私たちがいなくても、仕事は進められるけど、二人が逮捕されていく所を目撃しているはずで、皆の不安が高まっている筈。ここは副社長として、しっかり管理しないとならない。

 でも、そんなことを冷静に考えられる自分に、少し驚いた。
 つい先日まで、デビッドの事で頭が一杯で、そのデビットが逮捕された大変な事態なのに、今は、全く気にならない。そのうち、ひょっこり、メールが来るはずと、深刻には考えていない。
 きっと、安君に出会ってしまったから。
 もちろん、一回りも年下なので、安君と恋人関係になるつもりはないし、ほとぼりが冷めたらニューヨークに戻り、改めてデビットと真剣に交際を考えるつもりでいる。
 将来は、どうなるかは分からないけど、おそらく私はデビットと結婚すると思う。
 だとしても、日本にいる間は、安君との思い出をつくりたいと思っている。
 デビットには、一旦、関係をリセットしようと伝えてあるし、彼とはキスどころか、手すら繋いだことがない。今の関係は、共同経営者以外のなにものでもないのだから、彼を裏切ってることにはならない。
 日本に居る間、私が何をしようか、私の自由。
 流石にセックスまではする気はないけど、思い出として、キス位はしたいなと思っている。
 あんな素敵な男が現れたんだから、少し位、夢を見させてもらってもばちは当たらない。

 その後、会社のサーバーにアクセスして、研究開発の仕事をしようと思い、ふと仕事できない事実に気が付いた。
 うちの会社のサーバーは、違法アクセスができない様に、徹底的なセキュリティー対策がしてあり、このPCのアドレスがアクセス許可された登録アドレスと異なるため、攻勢防壁に引っかかってしまうのだ。
 デビッドにアクセス許可登録してもらえないと、こっちで仕事ができない事実に、この時点になって、漸く気が付いた。

 なら、ハッキングして遊ぶしかない。
 幸い、便利屋昴と、この家とはローカルエリア接続されているので、事務所のサーバーには簡単にアクセスできる。
 早速、事務所のサーバーにアクセスして、ダッドが作ったという昴システムのプログラムがどんなものかを確認することにした。
 そのサーバー内を調べて回っていると、ムツラというリポジトリ(プログラム管理単位の保管場所)が存在することに気が付いた。
 聞いたことがないので、早速、そのソースプログラムを確認することにしたが、難解な記述で、内容把握しづらい。
 私は、人のソースコードを読むのは好きなのだけど、よく天才が作るプログラムで、全くコメントがない。
 構造そのものはしっかりしていて、何の処理かの大まかな予想はつくけど、その詳細が分からず、何をなそうとしているプログラムなのか見当が付かない。
 なにかのテータベース処理して、要求のデータを検索することまでは分かったが、理解するまで、かなり骨が折れそう。
 でも、そういう事に私は燃えるタイプ。
 その日は、一日中、そのムツラのプログラムと格闘することになった。

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