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第二話 ライムライトの灯
年の瀬や スマホの母の顔滲む
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私の長年の夢の実現まで、あと一歩。
結局、適当な有能な人材は見つからず、ハッカー仲間四人だけで、起業する。
会社は、ガン・ヒル・ロードの自動車整備工場を買い取って、リフォームする予定。
十二月十六日、十八万ドルという超格安価格で、そこの売買契約をすることになっている。
資本金は、発起人である私が、法人口座を作り、契約日の三日前の金曜日までに、振り込んでもらう事になっている。
私とジャックが八万ドルで、アポロとイブが七万ドルを出資する。
だが、肝心の私の分の八万ドルが実は集まっていない。銀行からの八万ドルの個人融資を受けることになっていたのだが、最終審査で落とされた。
四葉商事の主任と言う信用で、審査もほぼ通ると確約を貰っていたのに、落とされた。
理由は判らないが、きっと日本人の独身女性と言う点で、差別されたと思っている。
アメリカであっても、男女差別はある。私の信用は、その程度だった。
そこで、私の貯金を全て叩き、友達に掛け合って必死にもがき、五万ドル強までは、何とかなったが、残りの三万ドルはどうにもならない。
母にだけは助けを求めたくなかったのに、一晩中、悩み続けて、電話を掛けてしまっていた。
私にとっては、敗北に等しい電話だったけど、そのお蔭で、夢が叶う。
日本は、早朝だと、分っていたけど、一刻も早くお礼をしたくて、家に電話した。
でも、誰も出ない。翌朝にも、もう一度、電話をしたが誰も出ない。
裕ちゃんの携帯電話番号に掛けようかとも思ったが、あとでかけ直そうと、誰も出ない事になんら疑問を抱かなかった。幸せの絶頂にいると、物事が見えなくなってしまう。
その翌朝、日本が夜八時頃、もう一度電話して、ダッドがでた時、漸く、母に何かあったのではと疑問を抱いた。
「あれ、裕ちゃんは」
「来夢、御免。自分が不甲斐無いせいで、裕子に心臓発作を起こさせてしまった。今、病院で意識不明の危篤状態で、入院している。本当に申し訳けない」
心臓発作で危篤?
母に心臓疾患などなく、むしろ心肺機能は強い方。高校時はインターハイ出場までした八百メートルの陸上選手だったし、今年の六月にも、社交ダンスの大会で三位になったと大喜びしていた。
だから、例の運命の絆による呪いが、関係している。二十四時間、触れ合わないと、心臓発作を起こすので、同棲することにしたと母が言っていて、ハイハイと流して半分信用していなかった。けど、本当のことだったらしい。
「直ぐに帰る。お義父さんは悪くないよ」
「本当に、御免。もう少し早ければ、こんなことにはならなかった。君にあれほど、頼まれていたのに」
「もう、そんなのはいいから。裕ちゃんは、母は、明日まで持ちそうなの?」
「いや、健康状態は問題ないんだ。身体は正常に回復している。問題は脳。長時間心肺停止してたので、低酸素脳症を起こし、下手すると一生、植物人間で過ごす事になりかねない状態なんだ」
危篤って、命が亡くなるのでなく、意識の問題なの。
そう思うと、ほっとした自分がいた。意識が一生戻らず、植物人間になるかもしれない大問題なのに、なぜか安心していた。
「お義父さん、悪いけど、冷静に、母に起きた事と、現在の状況を教えてくれない?」
義父によると、暴力団のトップの腕に怪我を負わせ、そのアタッシュケースを盗んで逃走した犯人を見つけ出すため、義父を誘拐したのが事の発端だった。
だが、協力を拒み続けたことで、今度は母を誘拐した。仕方なく協力して、制限時間の二時間半前にその犯人を見つけ出したが、母は、軽井沢の別荘に監禁されていた。このため、再会できたのは、制限時間を二十分も経過した後。既に心肺停止状態だったのだとか。
二人が触れ合うと、母は一瞬目を覚まし、呼吸も心臓も正常になったので、もう、問題ないとのんびりしていたのが失敗。既に脳が酸欠で壊死していて、一旦、脳に壊死した箇所が出来ると、その周辺も連鎖して脳細胞の壊死が広がっていくと知らなかった。
練馬病院に到着した時は、その脳の壊死が相当に進行していて、これを止めるには、低体温療法しかなく、現在、その治療中。
悪ければ、植物人間。うまく行っても、いろいろな後遺症がでて、気長なリハビリが必要になると言う事だった。
それを聞きながら、私は愕然としていた。母をこんな状態に落としいれたのは、私だと気づいたからだ。
あの時、「昴が誘拐されて大変なの」と言っていたのに、それどころではなく、母にお金の送金をお願いしてしまった。
神谷邸はセキュリティーも万全なので、家の中でじっとしていてれば、誘拐されることもなかった。それなのに、私が無理を言った所為で、母は銀行に出かけて行って、誘拐されることになった。
だからと言って、私には何もできない。私に為に多額なお金を出してもらったのに、今更その好意を無駄にはできない。
「お義父さん、薄情な娘で悪いけど、やっぱり、日本には帰らない。私も、今、人生の分水嶺にいるの。ここで離れたら私の負け。もう少し頑張っていたい。母の事は、お父さんにお任せします。そっちに帰っても、何もできそうにないし」
「わかった。人生の岐路にいるなら、悔いの残らない様に頑張るべきだ。裕子の事は、メールで細かく知らせる。その上で、自分で判断すればいい」
ダッドは、やはり、私の気持ちを理解してくれる。
「母は、強い人です。自力で戻ってくるはずです。それまで、母を宜しくお願いします」
「有難う。君も悔いのないように、頑張って。そして、一段落ついたら、顔をだしてやつてくれ。意識がなくても、君が見舞いに来てくれたと、きっと分かる筈だから」
それは、ちょっとずるい言い方。でも、心を鬼にして、自分のすべき事を突き進む選択をした。
新会社となる建物の売買契約が完了したら、帰国するけど、それまでは、帰らない。
それが、母が一番喜ぶはずと信じて。
結局、適当な有能な人材は見つからず、ハッカー仲間四人だけで、起業する。
会社は、ガン・ヒル・ロードの自動車整備工場を買い取って、リフォームする予定。
十二月十六日、十八万ドルという超格安価格で、そこの売買契約をすることになっている。
資本金は、発起人である私が、法人口座を作り、契約日の三日前の金曜日までに、振り込んでもらう事になっている。
私とジャックが八万ドルで、アポロとイブが七万ドルを出資する。
だが、肝心の私の分の八万ドルが実は集まっていない。銀行からの八万ドルの個人融資を受けることになっていたのだが、最終審査で落とされた。
四葉商事の主任と言う信用で、審査もほぼ通ると確約を貰っていたのに、落とされた。
理由は判らないが、きっと日本人の独身女性と言う点で、差別されたと思っている。
アメリカであっても、男女差別はある。私の信用は、その程度だった。
そこで、私の貯金を全て叩き、友達に掛け合って必死にもがき、五万ドル強までは、何とかなったが、残りの三万ドルはどうにもならない。
母にだけは助けを求めたくなかったのに、一晩中、悩み続けて、電話を掛けてしまっていた。
私にとっては、敗北に等しい電話だったけど、そのお蔭で、夢が叶う。
日本は、早朝だと、分っていたけど、一刻も早くお礼をしたくて、家に電話した。
でも、誰も出ない。翌朝にも、もう一度、電話をしたが誰も出ない。
裕ちゃんの携帯電話番号に掛けようかとも思ったが、あとでかけ直そうと、誰も出ない事になんら疑問を抱かなかった。幸せの絶頂にいると、物事が見えなくなってしまう。
その翌朝、日本が夜八時頃、もう一度電話して、ダッドがでた時、漸く、母に何かあったのではと疑問を抱いた。
「あれ、裕ちゃんは」
「来夢、御免。自分が不甲斐無いせいで、裕子に心臓発作を起こさせてしまった。今、病院で意識不明の危篤状態で、入院している。本当に申し訳けない」
心臓発作で危篤?
母に心臓疾患などなく、むしろ心肺機能は強い方。高校時はインターハイ出場までした八百メートルの陸上選手だったし、今年の六月にも、社交ダンスの大会で三位になったと大喜びしていた。
だから、例の運命の絆による呪いが、関係している。二十四時間、触れ合わないと、心臓発作を起こすので、同棲することにしたと母が言っていて、ハイハイと流して半分信用していなかった。けど、本当のことだったらしい。
「直ぐに帰る。お義父さんは悪くないよ」
「本当に、御免。もう少し早ければ、こんなことにはならなかった。君にあれほど、頼まれていたのに」
「もう、そんなのはいいから。裕ちゃんは、母は、明日まで持ちそうなの?」
「いや、健康状態は問題ないんだ。身体は正常に回復している。問題は脳。長時間心肺停止してたので、低酸素脳症を起こし、下手すると一生、植物人間で過ごす事になりかねない状態なんだ」
危篤って、命が亡くなるのでなく、意識の問題なの。
そう思うと、ほっとした自分がいた。意識が一生戻らず、植物人間になるかもしれない大問題なのに、なぜか安心していた。
「お義父さん、悪いけど、冷静に、母に起きた事と、現在の状況を教えてくれない?」
義父によると、暴力団のトップの腕に怪我を負わせ、そのアタッシュケースを盗んで逃走した犯人を見つけ出すため、義父を誘拐したのが事の発端だった。
だが、協力を拒み続けたことで、今度は母を誘拐した。仕方なく協力して、制限時間の二時間半前にその犯人を見つけ出したが、母は、軽井沢の別荘に監禁されていた。このため、再会できたのは、制限時間を二十分も経過した後。既に心肺停止状態だったのだとか。
二人が触れ合うと、母は一瞬目を覚まし、呼吸も心臓も正常になったので、もう、問題ないとのんびりしていたのが失敗。既に脳が酸欠で壊死していて、一旦、脳に壊死した箇所が出来ると、その周辺も連鎖して脳細胞の壊死が広がっていくと知らなかった。
練馬病院に到着した時は、その脳の壊死が相当に進行していて、これを止めるには、低体温療法しかなく、現在、その治療中。
悪ければ、植物人間。うまく行っても、いろいろな後遺症がでて、気長なリハビリが必要になると言う事だった。
それを聞きながら、私は愕然としていた。母をこんな状態に落としいれたのは、私だと気づいたからだ。
あの時、「昴が誘拐されて大変なの」と言っていたのに、それどころではなく、母にお金の送金をお願いしてしまった。
神谷邸はセキュリティーも万全なので、家の中でじっとしていてれば、誘拐されることもなかった。それなのに、私が無理を言った所為で、母は銀行に出かけて行って、誘拐されることになった。
だからと言って、私には何もできない。私に為に多額なお金を出してもらったのに、今更その好意を無駄にはできない。
「お義父さん、薄情な娘で悪いけど、やっぱり、日本には帰らない。私も、今、人生の分水嶺にいるの。ここで離れたら私の負け。もう少し頑張っていたい。母の事は、お父さんにお任せします。そっちに帰っても、何もできそうにないし」
「わかった。人生の岐路にいるなら、悔いの残らない様に頑張るべきだ。裕子の事は、メールで細かく知らせる。その上で、自分で判断すればいい」
ダッドは、やはり、私の気持ちを理解してくれる。
「母は、強い人です。自力で戻ってくるはずです。それまで、母を宜しくお願いします」
「有難う。君も悔いのないように、頑張って。そして、一段落ついたら、顔をだしてやつてくれ。意識がなくても、君が見舞いに来てくれたと、きっと分かる筈だから」
それは、ちょっとずるい言い方。でも、心を鬼にして、自分のすべき事を突き進む選択をした。
新会社となる建物の売買契約が完了したら、帰国するけど、それまでは、帰らない。
それが、母が一番喜ぶはずと信じて。
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