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第二話 ライムライトの灯
待宵の影も交わるハネムーン
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九月二日の二十時頃、家の固定電話が鳴り始めた。
十日前に、来夢と話したばかりなので、今回は早い気もするが、この時間に固定電話に電話してくるのは、娘の来夢しかいない。
出ると、やはり、来夢だった。ニューヨークは、朝の七時だ。
「来週、新婚旅行でヨーロッパ行くんだってね。お熱いことで何よりです」
「どうして知ってるの。未来から聞いた?」
私達は、八月二十二日、戸籍上でも夫婦となった。
もう入籍しなくてもいいと考えていたが、これも夫婦喧嘩が切っ掛け。私が腹を立てて、暫く伽に行かずにいると、昴が私の部屋にやってきた。謝るのかと思ったら、謝らずに、「明日、入籍して、正式に夫婦になろう」と言ってきた。謝罪するまで、させないつもりでいたのに、なし崩し的に許してしまった。
来夢には二月に入籍したと言ってあったので、どうしようかと悩んだけど、入籍直後に来夢から電話してきたので、今までの経緯を全て正直に話した。
でも、その時は、新婚旅行は考えていなかったので、イタリア旅行の事は伝えていなかった。
未来が、思い出になるから、新婚旅行に行けと五月蝿く言ってきて、急遽仕事の日程を調整して、イタリア旅行に行くことにしたばかりだ。
だから、未来と電話で話した以外、知り得ないのだ。
「ダッド。メールしてくれた」
二か月前は、来夢のメールか怪しいと言って、私に連絡を取らせたほどだったのに、いつの間にか、そんな親しい関係になっていた。
来夢が昴を父として認めて、慕ってくれるのは嬉しいけど、二人で何を話しているのか気になって仕方がない。
「よく、連絡を取りあってるの?」
「ううん。あの後、相談のメールを一回送っただけ。その返信のついでに、教えてくれた」
それを聞いて、一安心したけど、例の趣味の件が再び気になってきた。
「この間のメールなんだけど、何で昴にあんなメールしたの?」
「友達が、いかにも凄い技術で、これでゲームを作れば当たると言って来たから、その真偽を確かめただけ。きっと昴なら分かると思って」
「で、あの人はなんて言ってたの」
「裕ちゃん、ccに入ってたよ。うんと、ほら、入ってる」
「それは見たけど、何を話してるのか、意図不明だったから」
「技術系は、てんでだめだね。まぁ、クソ論文だとけなしてあっただけ。ちゃんともっと良い提案まで書いてあって、最高に痛快だった」
「それじゃ、わかんないわよ」
「だから、仲間にさせてくれって、自慢気に論文を添付してきて、これでAVエロゲーを作ったら、大儲けできるって提案してきた奴がいたのよ。でも、まわりにロボットの専門家が居なかったから、その真偽を昴にお願いしたってわけ。ダッドの指摘を提示して、実験もしないで理論だけで論文書いてるアホは、要りません、そんな奴はお断り。例えば、こんな提案でもしてみろって、昴の提案を出したのよ。そしたら、なんか私は天才だみたいになって。仲間内でヒーローになっちゃった。でも流石に気が引けて、『実は、私の父は神野昴って言う、アシモの開発責任者で、本当は彼の意見です』って、白状したら、神野昴の娘なのって、また、凄い人気者になっちゃって」
「へぇっ、あのメールのやり取りって、そんな深い意味のやり取りが隠されてたのね」
「ダッドは、ちゃんと気づいて、ネットゲームの新たな提案をしてきたんだと思う。流石は裕ちゃんが選んだ上玉だよね」
「バカ。で、そのお仲間さんって、犯罪組織じゃないわよね。あの人、秘密だって、きちんと話してくれないのよ。あなたが、高校か大学の頃から、ずっとのめりこんでた趣味で、渡米して本格的活動をはじめたみたいだって、勿体ぶって話すから、余計心配なのよ」
「へぇっ。ダッドって、意外と口も堅いんだね。心配ない。悪の組織ではないし、どっちかというと正義の味方の方。そもそも、犯罪とは無関係だし」
「そう。ならいいけど。人の趣味は、どうこう言えないし、いいわ。で、昴のこと本当に好きになってくれたと、考えていいんだよね」
「最初の時から、認めてたでしょう。何を心配してるんだか」
「パパと昴とどっちが好き?」
「何? 変だよ。裕ちゃん。でも、まぁいいか。両方とも大好き。でも、どっちかと言うとパパかな。昴は、信頼できる仲間みたいなところがある。私の周りには、ダッドみたいなオタク人間ばっかだから。パパの様な紳士に、やっぱり軍配があがるよね」
「私とは逆なのね。まぁ、いいわ」
「じゃあ、新婚旅行、楽しんで来てね。お土産はいらないから」
「ちょっと、来夢」
私は、まだ話したいことが有ったのに、電話を切られてしまった。
最近の来夢の声が、電話する度に明るくなっているので、彼氏ができたのかを、それとなく確認したかった。
あの子は、男を見る目が無いので、少し心配だけど、恋をするのは、例えつらい失恋となっても、本人の糧になる。沢山、恋をして、人間として成長していき、最後に幸せになれればいいだけの事。
三十一歳なんて、まだまだこれから。
私なんて、五十六歳になってから、運命の人に巡り合えた。
その運命のお相手の昴と、明日から初めての旅行。
美術館巡りが主の余裕のある計画にしていて、ローマとフィレンツェのホテルで、三泊する。
私としては、毎晩でも大歓迎だけど、問題は昴。
以前、つい嬉しい事が続いて、その報告も兼ねて、三日連続で夜伽にいった時、あからさまに嫌な顔をした。
そりゃ、六十三歳という年齢なら、三連日がきついのは分かるけど、昴の分析によれば、今の昴は四十一歳。毎晩できるほど元気だし、私が一週間以上、行かないでいると、彼が夜這いを掛けてくるほど、セックス好き。私を抱きたいのは間違いないのに、本当に素直じゃない。
そりゃ、私から迫れば、間違いなく抱いてくれるけど、それは私のプライドもあって、したくない。
新婚旅行という特別な日だし、一つベッド寝るんだから、彼から誘ってくると信じているけど、もし誘ってこなかったらと思うと悩ましい。それとなく彼をその気にさせないとならない。
それと、もう一つ危惧がある。私の身体も、三十七歳に若返っているが、先々月から遂に生理が再開してしまったのだ。病院で調べてもらったら、月経で間違いないという話。閉経後、生理が再開するのは珍しい事ではないのだそうで、私の場合、女性ホルモン濃度が異常に高かったので、それで再開したのだろうと先生から言われた。
私は本来二十八日周期なんだけど、先月は三十日周期だったので、一日前倒しできたりすると、三泊目に月経がはじまる可能性もある。
身体が若がっえったのは嬉しいけど、生理なんて不要なものまで再開してしまい、困ったもの。
折角昴が、その気になっているのに、生理でできないなんて事態だけは避けたい。
こんなことを真剣に悩んでいる自分に気づき、凄く恥ずかしくなった。
けど、こんなことを悩むのも、大好きな男がいるからこそ。
来夢も、早くこんなバカげたことで悩む女になって欲しい。
それが、母としての唯一の願い。
十日前に、来夢と話したばかりなので、今回は早い気もするが、この時間に固定電話に電話してくるのは、娘の来夢しかいない。
出ると、やはり、来夢だった。ニューヨークは、朝の七時だ。
「来週、新婚旅行でヨーロッパ行くんだってね。お熱いことで何よりです」
「どうして知ってるの。未来から聞いた?」
私達は、八月二十二日、戸籍上でも夫婦となった。
もう入籍しなくてもいいと考えていたが、これも夫婦喧嘩が切っ掛け。私が腹を立てて、暫く伽に行かずにいると、昴が私の部屋にやってきた。謝るのかと思ったら、謝らずに、「明日、入籍して、正式に夫婦になろう」と言ってきた。謝罪するまで、させないつもりでいたのに、なし崩し的に許してしまった。
来夢には二月に入籍したと言ってあったので、どうしようかと悩んだけど、入籍直後に来夢から電話してきたので、今までの経緯を全て正直に話した。
でも、その時は、新婚旅行は考えていなかったので、イタリア旅行の事は伝えていなかった。
未来が、思い出になるから、新婚旅行に行けと五月蝿く言ってきて、急遽仕事の日程を調整して、イタリア旅行に行くことにしたばかりだ。
だから、未来と電話で話した以外、知り得ないのだ。
「ダッド。メールしてくれた」
二か月前は、来夢のメールか怪しいと言って、私に連絡を取らせたほどだったのに、いつの間にか、そんな親しい関係になっていた。
来夢が昴を父として認めて、慕ってくれるのは嬉しいけど、二人で何を話しているのか気になって仕方がない。
「よく、連絡を取りあってるの?」
「ううん。あの後、相談のメールを一回送っただけ。その返信のついでに、教えてくれた」
それを聞いて、一安心したけど、例の趣味の件が再び気になってきた。
「この間のメールなんだけど、何で昴にあんなメールしたの?」
「友達が、いかにも凄い技術で、これでゲームを作れば当たると言って来たから、その真偽を確かめただけ。きっと昴なら分かると思って」
「で、あの人はなんて言ってたの」
「裕ちゃん、ccに入ってたよ。うんと、ほら、入ってる」
「それは見たけど、何を話してるのか、意図不明だったから」
「技術系は、てんでだめだね。まぁ、クソ論文だとけなしてあっただけ。ちゃんともっと良い提案まで書いてあって、最高に痛快だった」
「それじゃ、わかんないわよ」
「だから、仲間にさせてくれって、自慢気に論文を添付してきて、これでAVエロゲーを作ったら、大儲けできるって提案してきた奴がいたのよ。でも、まわりにロボットの専門家が居なかったから、その真偽を昴にお願いしたってわけ。ダッドの指摘を提示して、実験もしないで理論だけで論文書いてるアホは、要りません、そんな奴はお断り。例えば、こんな提案でもしてみろって、昴の提案を出したのよ。そしたら、なんか私は天才だみたいになって。仲間内でヒーローになっちゃった。でも流石に気が引けて、『実は、私の父は神野昴って言う、アシモの開発責任者で、本当は彼の意見です』って、白状したら、神野昴の娘なのって、また、凄い人気者になっちゃって」
「へぇっ、あのメールのやり取りって、そんな深い意味のやり取りが隠されてたのね」
「ダッドは、ちゃんと気づいて、ネットゲームの新たな提案をしてきたんだと思う。流石は裕ちゃんが選んだ上玉だよね」
「バカ。で、そのお仲間さんって、犯罪組織じゃないわよね。あの人、秘密だって、きちんと話してくれないのよ。あなたが、高校か大学の頃から、ずっとのめりこんでた趣味で、渡米して本格的活動をはじめたみたいだって、勿体ぶって話すから、余計心配なのよ」
「へぇっ。ダッドって、意外と口も堅いんだね。心配ない。悪の組織ではないし、どっちかというと正義の味方の方。そもそも、犯罪とは無関係だし」
「そう。ならいいけど。人の趣味は、どうこう言えないし、いいわ。で、昴のこと本当に好きになってくれたと、考えていいんだよね」
「最初の時から、認めてたでしょう。何を心配してるんだか」
「パパと昴とどっちが好き?」
「何? 変だよ。裕ちゃん。でも、まぁいいか。両方とも大好き。でも、どっちかと言うとパパかな。昴は、信頼できる仲間みたいなところがある。私の周りには、ダッドみたいなオタク人間ばっかだから。パパの様な紳士に、やっぱり軍配があがるよね」
「私とは逆なのね。まぁ、いいわ」
「じゃあ、新婚旅行、楽しんで来てね。お土産はいらないから」
「ちょっと、来夢」
私は、まだ話したいことが有ったのに、電話を切られてしまった。
最近の来夢の声が、電話する度に明るくなっているので、彼氏ができたのかを、それとなく確認したかった。
あの子は、男を見る目が無いので、少し心配だけど、恋をするのは、例えつらい失恋となっても、本人の糧になる。沢山、恋をして、人間として成長していき、最後に幸せになれればいいだけの事。
三十一歳なんて、まだまだこれから。
私なんて、五十六歳になってから、運命の人に巡り合えた。
その運命のお相手の昴と、明日から初めての旅行。
美術館巡りが主の余裕のある計画にしていて、ローマとフィレンツェのホテルで、三泊する。
私としては、毎晩でも大歓迎だけど、問題は昴。
以前、つい嬉しい事が続いて、その報告も兼ねて、三日連続で夜伽にいった時、あからさまに嫌な顔をした。
そりゃ、六十三歳という年齢なら、三連日がきついのは分かるけど、昴の分析によれば、今の昴は四十一歳。毎晩できるほど元気だし、私が一週間以上、行かないでいると、彼が夜這いを掛けてくるほど、セックス好き。私を抱きたいのは間違いないのに、本当に素直じゃない。
そりゃ、私から迫れば、間違いなく抱いてくれるけど、それは私のプライドもあって、したくない。
新婚旅行という特別な日だし、一つベッド寝るんだから、彼から誘ってくると信じているけど、もし誘ってこなかったらと思うと悩ましい。それとなく彼をその気にさせないとならない。
それと、もう一つ危惧がある。私の身体も、三十七歳に若返っているが、先々月から遂に生理が再開してしまったのだ。病院で調べてもらったら、月経で間違いないという話。閉経後、生理が再開するのは珍しい事ではないのだそうで、私の場合、女性ホルモン濃度が異常に高かったので、それで再開したのだろうと先生から言われた。
私は本来二十八日周期なんだけど、先月は三十日周期だったので、一日前倒しできたりすると、三泊目に月経がはじまる可能性もある。
身体が若がっえったのは嬉しいけど、生理なんて不要なものまで再開してしまい、困ったもの。
折角昴が、その気になっているのに、生理でできないなんて事態だけは避けたい。
こんなことを真剣に悩んでいる自分に気づき、凄く恥ずかしくなった。
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