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第二話 ライムライトの灯
ウィルスか 増える窓窓 春暮るる
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一寝入りして、栄養補給すると、『ジャック・オブ・スペード』の私生活を暴く作業に取り掛かった。
ジャックのメールの送信ルートを遡り、彼のアドレスを探し出し、彼のPCへのアクセスを試みる。
その時だった。私のPCが攻撃されている警告が表示された。
ジャックに気づかれたのかと、必死に対抗策を講じていると、ほどなくしてメールの着信が始まった。次々と、信じられない数の迷惑メールが送られてくる。何が起きているのか分からないが、新着メールの着信が止まらず、あっという間に、メール蓄積容量限界になり、先ずはメールがパンク。
ネットワークアクセスの方も、いろんな場所から、このPCアドレスに向け、何かの巨大なパケットを送り続けていて、通信トラフィック障害が発生。
極端なネットワーク遅延が起き、遂にはうちのネットワークがダウンしてしまった。
なにが、起きたのか分からないが、世界各地のハッカーが一斉に私に攻撃を仕掛けて来たとしか思えない。
「いったい、私が何をしたというのよ。これじゃ、今晩の集会にも出席できないじゃない。どうしよう」
私は、必死にネットワーク接続環境の修復を試みたが、全く復旧のめどが立たない。
結局、ネットカフェにまで出かけて行って、そこから、チャット参加することにした。
「ライムライトすごいね。七時間五十三分は、最短記録だよ。僕はアポロ21号。略称アポロ。ライムライトのことは何と呼べばいい?」
十四名もが、私のログインを待っていてくれて、次々と歓迎コメントが送られ来て、自己紹介してくれた。
私が名前を知っているハッカーは八人で、六人は名前も聞いたことが無かったけど、全員、凄腕のハッカーなのだそう。
「今日は、ライムが、これからのネットワーク事業の在り方と、会社設立に意義に関して、話があるそうだ。忌憚ない意見をぶつけてやって、彼の甘い考えを叩きのめしてやってくれ」
ジャックが、私の事を男だと思っているのは別段気にしないけど、偉そうに仕切っていているのは、気に入らない。「叩きのめしてやってくれ」って何よ。
私はジャックに対する激しい怒りを抱いたが、私は、思いの丈の全てをぶつけた。
これからのネットワーク技術を一緒に考え、開発してくれる人を探している事。次世代ネットワークビジネスのサービス会社の設立を考えている事。銀行からもお墨付きがもらえた利益もきちんと出せる現実的な計画である事。我々で十五万ドル以上を集めることができれば、銀行で二十万ドル融資してもらえそうなこと。
その全てを、銀行に提出した起業企画者や、中長期計画書もアップして、熱弁を振るった。
途中、質疑が沢山飛び交い、その後も、賛否両論の白熱した議論が交わされたが、次第に反対派の勢力がつよくなり、私が皆から叩かれそうになってきた。一度、流れがそうなると、もう何を言ってもだめ。
「ちょっと、皆、冷静になろう。ルークの主張も尤もだが、ここはハッカーの立場ではなく、ビジネスとして考えるとどうだろう。俺は、悪くない話のような気がするがな」
そんな嬉しい発言をしてくれたのは、意外にも、ジャックだった。
それで、再び、賛成派が盛り返してきて、時間も遅くなったので、決を採ると、賛成七名、反対七名と全くの同数となった。
結論としては、ハッカー仲間を集めて、会社を作ろうとするのは、良い事とも悪い事とも言えないとなったが、多くの賛同者を得ることができた。
その日は、そこまでで解散となったが、金曜日の夜と、土曜日の夜に、私を含む賛同者八名で、どんなネットワーク技術を開発していくかを議論することになった。
その別れ際、またジャックが、私をまた馬鹿にしてきた。
「ライム。お前、別のアドレスからアクセスしてるみたいだな。俺のPCにアクセスしようとした馬鹿は、まさかお前じゃないよな」
「そうよ。貴方が勝手に私の個人メールアドレスを読み取ってたから、仕返してやろうとしただけ。悪い」
「悪かった。謝る。だが、誰にも知られずに、連絡を取りたかったんだ。メールアドレスを確認しただけで、プライベートを覗く趣味はないから、安心しろ」
私が男だと思っていた時点で、写真等の情報は盗んでいないと分かってたけど、素直に謝ってきたので、ハッキングしたことは、許してあげることにした。
「ジャックさん、士郎正宗原作のアニメ『甲殻機動隊』のファンで、攻性防壁を真剣に実現しようと研究しているのです」
「ジャックのPCにアクセスしたなんて、ご愁傷様」
攻性防壁というのは、電脳アクセスが当たり前になった近未来漫画の中で使われているハッキング対策技術。違法に電脳アクセスを試みると、その者の電脳を逆に攻撃して電脳を焼くというもの。
私も攻殻機動隊は原作漫画まで熟読してるけど、それに近い技術を既に開発していたとは驚かされた。
私の事を、小馬鹿にしてきて、本当にむかつく男だけど、ハッキング技術だけでなく、そんなネットワーク技術まで開発していたなんて、本当に凄い。
ちゃんと自分の非を認め、謝罪してくるし、人の考えも優れていれば素直に賞賛する紳士的な面もあるし、率先して皆を引っ張ってく頼りになる人。
そう思うと、勝手にジャックが私の脳に姿を現し、尊敬すべき素敵な紳士に思える様になっていった。
会ったこともない人なので、交際なんて考えてはいないけど、どんな人なのか会ってみたいという興味は、日に日に強くなっていった。
ネットワーク環境の復旧にはなんと五日以上も掛かってしまったけど、復旧して直ぐ、また私のPCに外部アクセスしている者がいると、アラートが発生した。
今度は、一人だったので、必死に、侵入を阻害して撃退したら、やはり侵入しようとしたのはジャックだった。
「御免。ライムは女のような気がして、少し興味が湧いてハッキングを試みた。もうしない。それで本題だが、俺も共同経営者に混ぜて欲しい。だが、銀行の融資は受けず、縛りなしに、自由に活動したい。研究所にて、皆で議論し、世間をあっと言わせるハッキング技術も開発してみたいんだ。そんなもの、銀行には決して報告できない。だから、融資は受けずに、自分たちの資金だけで、会社を作りたい。幸い、俺の伝手で、自動車修理工場を僅か十八万ドルで入手できそうなんだ。リフォーム費用は嵩むが、一人、三万ドル出せれば、八人で、二十四万ドルになり、融資を受けなくても何とかなる。明日のチャットでは、その方向に誘導したいが、どうだろう」
そんなメールが送られて来た。
確かに、ハッカーが集まる研究所なら、ハッカーの秘密基地の様な役割をもつことになり、その詳細を銀行には報告できない。
全てを自前の資金で、間に合わせておけば、後々なんかが起きた時の際に銀行融資をとっておける。
「賛成だけど、本当にみんな、参加してもらえるのかな。私としては、ジャックと二人でもいいんだけど」
「さては、俺に惚れたな。それは冗談だが、お前の資料、熟読してみたが、なかなか説得力があり、確実に利益が見込めそうだ。こんなおいしい話に乗らない奴はいないと思う。学生もいるから、全員参加とはならないかもしれないが、後三人は、出資表明してもらえるはずだ。その場合、俺とお前を含めて五人。一人、五万ドルなら、個人で工面できる額で済む」
そういう訳で、金曜日の夜は、ジャックから、この際、研究所をハッカーの秘密基地にしたい意向を示した。勿論、皆、そのつもりだったと言い出し、銀行融資は受けず、自分たちで持ち寄った資金だけで、会社を設立する方向で方針が決まった。
ついでに、社名も決めることにして、新会社は『フューチャーネットラボ』とすることが決まった。
その後は、当初の予定どおりに、どんなネットワーク技術を開発していくかを議論した。
電脳アクセスなんて、漫画の様な話もでたけど、全員真剣に問題を指摘して、解決策を模索し、真の光ネットワーク社会のための技術を探った。
やはり、ハッカー仲間と技術論を交すのは楽しい。
私の考えていなかったアイデアも沢山出て、そこには私が長年憧れていた技術者同士の戦場があった。
「じゃあ、今日はここまでにして、明日また続きを議論しよう」
「ねぇ、私達八人で、一度、顔を合わせない?」
「お前、本当に馬鹿だな。ハッカーが身バレしてどうする。まだ全員参加するとは決まっていないんだぞ。いずれは、顔合わせしなくちゃならないが、そんなものは、会社の全ての手続きが終わったからに決まってるだろう。少しは、考えてから、発言しろ」
本当に頭にくる。でも、彼の言うのは尤もで、ハッカーはその素性がバレてはならない。
それからも、八人でのネット集会はしばらく続き、具体的な開発計画も、各自のやりたい仕事の内容も決まり、具体的にいくら、出資金が必要になるかの詳細を詰めることになった。
すると、二人が、実際に会社経営までする気はないと、辞退を表明。
それでも、会社を経営したいと考える同志は、六人も残った。
私は、光ルーター開発のため、フォトン単位のシミュレーションをする必要から、量子コンピュータを設備として希望。もっとも、そんなものリース等はないので、そのコンピュータを使わせてもらうアニーリングサービスの一年契約を希望した。
皆も、スーパーコンピュータG1のリースや、並列処理研究用の8GPUサーバー二台の購入を主張した。
予算見積もりも、ジャックがやってくれたが、初期投資総額は、なんと76万ドル。とてもじゃないが、我々だけでは出資困難な額になってしまった。
内訳を訊いてみると、私の所為。量子コンピュータの月額使用料が、4万ドルと予想外に高額だった。
そんな訳で、量子コンピュータは諦め、私も8GPUサーバーにてシミュレーションすることにした。
それでも、30万ドルと予想以上に高額となり、六人だと、一人五万ドルという見積もりになる。
それを聞いて、もう一人が辞退を表明、これで、今度は一人六万ドルに負担がアップ。
「是非参加したかったが、そんな額はむりだ」と、もう一人も降りると言い出し、遂に『ライムライト』『ジャック・オブ・スペード』『AIイブ』『アポロ21号』の四人だけになってしまった。
各人の負担額は、なんと七万五千ドルにもなる。
「私、どう頑張っても、七万ドルが限界。それだって集められるか自信ない。私、何が何でも参加するつもりだったけど、そんな高額になると、参加できない。当初予定通りに、銀行の融資受けられないかな」
「イブまで抜けられると、この計画は終わりになる。それでどうだろう。俺が八万ドル出すので、イブは七万ドルで参加させてやってくれないか」
「待ってよ。私が八万ドルだす。言い出しっぺは私だから」
「まあまあ、少し話を訊いてくれないか。実は、俺の大学の工学部の学生が、新たなネットワークビジネスの会社を立ち上げるのなら、仲間にいれて欲しいといっているんだ。ハッカーじゃなくても、かまわないか?」
アポロがそんなことを言ってきた。
ハッカー仲間でない人を入れると、後々、ややこしくなりそうだけど、出資者は多いに越したことがない。既に断念を表明した二人も、出資金額が下がれば、再び参加表明してもらえる可能性もある。
「会社の利益につながるネットビジネスなら、ハッカーでなくても経営陣に加わってもらってもいいじゃないかしら」
「ああ、FBIの回し者じゃないと確証がとれるなら、歓迎だが、そいつの実力が分からない。ハッカーでないと、実力確認のテストも思いつかんしな」
確かに、初期投資してくれても、利益に繋がらないアイデアに無駄な出資はできない。
その後は、ハッカー以外にも、フューチャーネットラボの利益に繋がるエンジニアを募集をかけてみるとか、資金不足を補うため、クラウドファンディングでお金を集めるとか、様々な経営に繋がる話をして、幅広く資金集めする方法を探ることになった。
ジャックのメールの送信ルートを遡り、彼のアドレスを探し出し、彼のPCへのアクセスを試みる。
その時だった。私のPCが攻撃されている警告が表示された。
ジャックに気づかれたのかと、必死に対抗策を講じていると、ほどなくしてメールの着信が始まった。次々と、信じられない数の迷惑メールが送られてくる。何が起きているのか分からないが、新着メールの着信が止まらず、あっという間に、メール蓄積容量限界になり、先ずはメールがパンク。
ネットワークアクセスの方も、いろんな場所から、このPCアドレスに向け、何かの巨大なパケットを送り続けていて、通信トラフィック障害が発生。
極端なネットワーク遅延が起き、遂にはうちのネットワークがダウンしてしまった。
なにが、起きたのか分からないが、世界各地のハッカーが一斉に私に攻撃を仕掛けて来たとしか思えない。
「いったい、私が何をしたというのよ。これじゃ、今晩の集会にも出席できないじゃない。どうしよう」
私は、必死にネットワーク接続環境の修復を試みたが、全く復旧のめどが立たない。
結局、ネットカフェにまで出かけて行って、そこから、チャット参加することにした。
「ライムライトすごいね。七時間五十三分は、最短記録だよ。僕はアポロ21号。略称アポロ。ライムライトのことは何と呼べばいい?」
十四名もが、私のログインを待っていてくれて、次々と歓迎コメントが送られ来て、自己紹介してくれた。
私が名前を知っているハッカーは八人で、六人は名前も聞いたことが無かったけど、全員、凄腕のハッカーなのだそう。
「今日は、ライムが、これからのネットワーク事業の在り方と、会社設立に意義に関して、話があるそうだ。忌憚ない意見をぶつけてやって、彼の甘い考えを叩きのめしてやってくれ」
ジャックが、私の事を男だと思っているのは別段気にしないけど、偉そうに仕切っていているのは、気に入らない。「叩きのめしてやってくれ」って何よ。
私はジャックに対する激しい怒りを抱いたが、私は、思いの丈の全てをぶつけた。
これからのネットワーク技術を一緒に考え、開発してくれる人を探している事。次世代ネットワークビジネスのサービス会社の設立を考えている事。銀行からもお墨付きがもらえた利益もきちんと出せる現実的な計画である事。我々で十五万ドル以上を集めることができれば、銀行で二十万ドル融資してもらえそうなこと。
その全てを、銀行に提出した起業企画者や、中長期計画書もアップして、熱弁を振るった。
途中、質疑が沢山飛び交い、その後も、賛否両論の白熱した議論が交わされたが、次第に反対派の勢力がつよくなり、私が皆から叩かれそうになってきた。一度、流れがそうなると、もう何を言ってもだめ。
「ちょっと、皆、冷静になろう。ルークの主張も尤もだが、ここはハッカーの立場ではなく、ビジネスとして考えるとどうだろう。俺は、悪くない話のような気がするがな」
そんな嬉しい発言をしてくれたのは、意外にも、ジャックだった。
それで、再び、賛成派が盛り返してきて、時間も遅くなったので、決を採ると、賛成七名、反対七名と全くの同数となった。
結論としては、ハッカー仲間を集めて、会社を作ろうとするのは、良い事とも悪い事とも言えないとなったが、多くの賛同者を得ることができた。
その日は、そこまでで解散となったが、金曜日の夜と、土曜日の夜に、私を含む賛同者八名で、どんなネットワーク技術を開発していくかを議論することになった。
その別れ際、またジャックが、私をまた馬鹿にしてきた。
「ライム。お前、別のアドレスからアクセスしてるみたいだな。俺のPCにアクセスしようとした馬鹿は、まさかお前じゃないよな」
「そうよ。貴方が勝手に私の個人メールアドレスを読み取ってたから、仕返してやろうとしただけ。悪い」
「悪かった。謝る。だが、誰にも知られずに、連絡を取りたかったんだ。メールアドレスを確認しただけで、プライベートを覗く趣味はないから、安心しろ」
私が男だと思っていた時点で、写真等の情報は盗んでいないと分かってたけど、素直に謝ってきたので、ハッキングしたことは、許してあげることにした。
「ジャックさん、士郎正宗原作のアニメ『甲殻機動隊』のファンで、攻性防壁を真剣に実現しようと研究しているのです」
「ジャックのPCにアクセスしたなんて、ご愁傷様」
攻性防壁というのは、電脳アクセスが当たり前になった近未来漫画の中で使われているハッキング対策技術。違法に電脳アクセスを試みると、その者の電脳を逆に攻撃して電脳を焼くというもの。
私も攻殻機動隊は原作漫画まで熟読してるけど、それに近い技術を既に開発していたとは驚かされた。
私の事を、小馬鹿にしてきて、本当にむかつく男だけど、ハッキング技術だけでなく、そんなネットワーク技術まで開発していたなんて、本当に凄い。
ちゃんと自分の非を認め、謝罪してくるし、人の考えも優れていれば素直に賞賛する紳士的な面もあるし、率先して皆を引っ張ってく頼りになる人。
そう思うと、勝手にジャックが私の脳に姿を現し、尊敬すべき素敵な紳士に思える様になっていった。
会ったこともない人なので、交際なんて考えてはいないけど、どんな人なのか会ってみたいという興味は、日に日に強くなっていった。
ネットワーク環境の復旧にはなんと五日以上も掛かってしまったけど、復旧して直ぐ、また私のPCに外部アクセスしている者がいると、アラートが発生した。
今度は、一人だったので、必死に、侵入を阻害して撃退したら、やはり侵入しようとしたのはジャックだった。
「御免。ライムは女のような気がして、少し興味が湧いてハッキングを試みた。もうしない。それで本題だが、俺も共同経営者に混ぜて欲しい。だが、銀行の融資は受けず、縛りなしに、自由に活動したい。研究所にて、皆で議論し、世間をあっと言わせるハッキング技術も開発してみたいんだ。そんなもの、銀行には決して報告できない。だから、融資は受けずに、自分たちの資金だけで、会社を作りたい。幸い、俺の伝手で、自動車修理工場を僅か十八万ドルで入手できそうなんだ。リフォーム費用は嵩むが、一人、三万ドル出せれば、八人で、二十四万ドルになり、融資を受けなくても何とかなる。明日のチャットでは、その方向に誘導したいが、どうだろう」
そんなメールが送られて来た。
確かに、ハッカーが集まる研究所なら、ハッカーの秘密基地の様な役割をもつことになり、その詳細を銀行には報告できない。
全てを自前の資金で、間に合わせておけば、後々なんかが起きた時の際に銀行融資をとっておける。
「賛成だけど、本当にみんな、参加してもらえるのかな。私としては、ジャックと二人でもいいんだけど」
「さては、俺に惚れたな。それは冗談だが、お前の資料、熟読してみたが、なかなか説得力があり、確実に利益が見込めそうだ。こんなおいしい話に乗らない奴はいないと思う。学生もいるから、全員参加とはならないかもしれないが、後三人は、出資表明してもらえるはずだ。その場合、俺とお前を含めて五人。一人、五万ドルなら、個人で工面できる額で済む」
そういう訳で、金曜日の夜は、ジャックから、この際、研究所をハッカーの秘密基地にしたい意向を示した。勿論、皆、そのつもりだったと言い出し、銀行融資は受けず、自分たちで持ち寄った資金だけで、会社を設立する方向で方針が決まった。
ついでに、社名も決めることにして、新会社は『フューチャーネットラボ』とすることが決まった。
その後は、当初の予定どおりに、どんなネットワーク技術を開発していくかを議論した。
電脳アクセスなんて、漫画の様な話もでたけど、全員真剣に問題を指摘して、解決策を模索し、真の光ネットワーク社会のための技術を探った。
やはり、ハッカー仲間と技術論を交すのは楽しい。
私の考えていなかったアイデアも沢山出て、そこには私が長年憧れていた技術者同士の戦場があった。
「じゃあ、今日はここまでにして、明日また続きを議論しよう」
「ねぇ、私達八人で、一度、顔を合わせない?」
「お前、本当に馬鹿だな。ハッカーが身バレしてどうする。まだ全員参加するとは決まっていないんだぞ。いずれは、顔合わせしなくちゃならないが、そんなものは、会社の全ての手続きが終わったからに決まってるだろう。少しは、考えてから、発言しろ」
本当に頭にくる。でも、彼の言うのは尤もで、ハッカーはその素性がバレてはならない。
それからも、八人でのネット集会はしばらく続き、具体的な開発計画も、各自のやりたい仕事の内容も決まり、具体的にいくら、出資金が必要になるかの詳細を詰めることになった。
すると、二人が、実際に会社経営までする気はないと、辞退を表明。
それでも、会社を経営したいと考える同志は、六人も残った。
私は、光ルーター開発のため、フォトン単位のシミュレーションをする必要から、量子コンピュータを設備として希望。もっとも、そんなものリース等はないので、そのコンピュータを使わせてもらうアニーリングサービスの一年契約を希望した。
皆も、スーパーコンピュータG1のリースや、並列処理研究用の8GPUサーバー二台の購入を主張した。
予算見積もりも、ジャックがやってくれたが、初期投資総額は、なんと76万ドル。とてもじゃないが、我々だけでは出資困難な額になってしまった。
内訳を訊いてみると、私の所為。量子コンピュータの月額使用料が、4万ドルと予想外に高額だった。
そんな訳で、量子コンピュータは諦め、私も8GPUサーバーにてシミュレーションすることにした。
それでも、30万ドルと予想以上に高額となり、六人だと、一人五万ドルという見積もりになる。
それを聞いて、もう一人が辞退を表明、これで、今度は一人六万ドルに負担がアップ。
「是非参加したかったが、そんな額はむりだ」と、もう一人も降りると言い出し、遂に『ライムライト』『ジャック・オブ・スペード』『AIイブ』『アポロ21号』の四人だけになってしまった。
各人の負担額は、なんと七万五千ドルにもなる。
「私、どう頑張っても、七万ドルが限界。それだって集められるか自信ない。私、何が何でも参加するつもりだったけど、そんな高額になると、参加できない。当初予定通りに、銀行の融資受けられないかな」
「イブまで抜けられると、この計画は終わりになる。それでどうだろう。俺が八万ドル出すので、イブは七万ドルで参加させてやってくれないか」
「待ってよ。私が八万ドルだす。言い出しっぺは私だから」
「まあまあ、少し話を訊いてくれないか。実は、俺の大学の工学部の学生が、新たなネットワークビジネスの会社を立ち上げるのなら、仲間にいれて欲しいといっているんだ。ハッカーじゃなくても、かまわないか?」
アポロがそんなことを言ってきた。
ハッカー仲間でない人を入れると、後々、ややこしくなりそうだけど、出資者は多いに越したことがない。既に断念を表明した二人も、出資金額が下がれば、再び参加表明してもらえる可能性もある。
「会社の利益につながるネットビジネスなら、ハッカーでなくても経営陣に加わってもらってもいいじゃないかしら」
「ああ、FBIの回し者じゃないと確証がとれるなら、歓迎だが、そいつの実力が分からない。ハッカーでないと、実力確認のテストも思いつかんしな」
確かに、初期投資してくれても、利益に繋がらないアイデアに無駄な出資はできない。
その後は、ハッカー以外にも、フューチャーネットラボの利益に繋がるエンジニアを募集をかけてみるとか、資金不足を補うため、クラウドファンディングでお金を集めるとか、様々な経営に繋がる話をして、幅広く資金集めする方法を探ることになった。
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