大好きだけど

根鳥 泰造

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第二話 ライムライトの灯

摩天楼 ニューヨークでも桜散る

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[この節の会話は、英語ですが、日本語にて記載してしますのであしからず]

 私は、ニューヨークに戻ると、早速、転職先探しを探し始めた。
 慶桜大学情報システム工学部を主席で卒業したことと、ネットワークセキュリティーに強い点をアピールし、長年、研究開発をしてみたかったことを志望動機にして、研究開発施設のある会社に、片っ端から、履歴書を送った。
 でも、丁重な断りの通知が送られ来るだけ。中途採用は、過去にその分野で実績を出している即戦力となる人材を欲していて、商社勤めしていた私なんかは、問題外。
 私が、どんなに甘かったかを思い知らされた。
 
 そんな中、ニューヨークに本社を持つ、サイエンスティック・ゲームズの担当から、唯一、面接してもいいと連絡が来た。
 丁度、四月から着手する新作ゲーム開発スタッフとして、C++言語が使える女性プログラマーを探していたのだ。
 ゲーム開発も、してみたかった仕事の一つで、開発スタッフとして参加させてもらえるなんて願ったりかなったり。

 そんな訳で、三月中旬の午後、半休を貰い、私は、大喜びで、その人事担当者との面接にいった。
 けど、正直、微妙な感触。
 担当者は、私の能力を強く買ってくれたのだけど、一緒にいた彼の上司の女性が、私の事を毛嫌いしていた。
 彼は、ソフト作りも得意だそうだし、女性としての目線を生かして、新たなゲーム開発の一員になってくれると、採用する方向になっていたのに、上司の彼女は反論ばかり。
「日本の大学じゃ実力は知れている」とか、「ソフト作りの経験があるといっても、実績がなければ、どこまで使えるかわからない」とか、「三十歳を過ぎると新しい技術を吸収する力が低くなる」とか、いかにも、採用する意思がないような発言をしてきた。
 私の容姿が気に入らないのかと思っていたけど、つい反論して言い返すと、「だから日本人は」と独り言を呟いていたので、日本人女性全般が嫌いだった見たい。
 きっと、彼氏を日本人女性に奪わたか何かの嫌な思い出があったのだろう。
 だからと言って、人事部の課長なら、そんな色眼鏡で見るなと言いたいが、文句は言えない。
 後日、採用通知を送ってくることになっているけど、課長が反対している以上、期待薄だ。

「来夢じゃないか。こんなところで何してるんだ」
 会社から出た所で、ばったりダニエルに出会ってしまった。今日は本当に最悪な日。
「転職しようと思って、就職面接を受けに来たの。それじゃ」
「ちょっと待てよ。あの時は本当に悪かった。もう一度だけ、僕の話を訊いて欲しい」

 ダニエルは、あのクリスマスイブの日に、私が仕返してやった所為で、あの若い金髪の彼女からも振られたみたいで、私とよりを戻そうとしている。
 今年の一月にも、何度も私に電話を掛けてきた。
 勿論、即切りして電話に出なかったし、二月の初めの休日に、私のアパートに押しかけて来た時も、「もう、終わったことだから、帰って」と追い返した。
 それで、漸く電話もしてこなくなり、完全に終わったと思っていたのに、こんなところで再会してしまった。

「御免なさい。私、仕事にもどらないとならないから」
「さっき、面接を受けに来たっていったじゃないか。今日は有給休暇を取って来たんだろう。一緒にお茶を飲むくらいいいじゃないか。頼むよ」
「分かった。本当にそれだけよ」
 しかなく、スターバックスに付き合ったけど、無理やりにでも、断るんだったと後悔した。
 もう、彼のことなんか、完全に忘れていたのに、彼の猛アタックで、私の恋が再燃してしまったのだ。
「来夢の事が忘れられないんだ。愛している」
「今は、まだ僕も収入が少ないから、結婚は考えられないけど、それでも、君と結婚を前提につきあいたいと思っている」
「もう二度と、浮気はしない。君一筋に愛するつもりだ」
 そんな熱いラブコールを何度も言われると、彼との楽しい日々が次々と思い出されて、私も好きと言ってしまいそうになる。

 結局、ダニエルは会社に、外出先から直帰すると会社に嘘をついて、そのままデートすることになり、夕食も一緒に仲良く食べ、セントラルパークでは、不覚にも彼にキスを許してしまった。
 必死に、押し返して拒絶したけど、私の身体は正直で、アソコが疼き出し、彼に抱かれたいと訴えていた。
「誤解させてしまったみたいで御免なさい。私はもうあなたと付き合うつもりはないから」
 そうハッキリ告げて、彼と別れた。

 それでも、しつこく電話してきて、「もう私たちは終わったの。電話してこないで」とハッキリと告げ、それからの電話は即切りし続け、彼が諦めるのを待ち続けた。

 なのに、金曜日に残業して帰宅すると、私の部屋の前で、ダニエルがスマホを弄り、私の帰りを待っていた。
 その途端、熱い思いが沸き上がり、彼を許してしまっていた。
 その日、サイエンスティック・ゲームズからの不採用通知を受け取り、少しやけになっていた所為もある。

 彼を部屋に入れ、熱いキスをして、そのまま寝室のベッドに行き、狂った様に愛し合ってしまった。
 彼はどうしようもないダメ男だけど、アソコは大きいし、タフで、セックスだけは最高に上手なのだ。
 私は、三か月振りの彼とセックスして、再びメロメロになっていた。
 けど、最後に一つだけ、どうしても確認しておきたかった。
 その返答次第では、やはり彼とは付き合えない。
「ねぇ、私の母、先月末に再婚したんだけど、その再婚相手の父が、私の人生なんだから、苦労しても、やりたい仕事をすべきだって言ってくれたの。それで、今、真剣に就職先を探している。この齢で、経験がないと、就職も厳しくて、この間のソフト開発会社も、結局採用してもらえなかったんだけどね。でも、ダニエルは応援してくれるよね」
「正直、僕は、一流商社をやめるなんて、馬鹿だとしか思えない。けど、ライムが自分で決めた事なら、応援するよ。愛している」
「ちょっと。まだ話したいことがあるのに、ダメだって」
 結局、二回戦が始まり、その日は、ダニエルは私の所に泊まっていき、久しぶりに五回戦までして、朝もまたして、彼と再び付き合う事になってしまった。

 でも、彼が帰ってから、暫くして、私は怒りで一杯になった。
 彼のスマホの中身を覗くのは最低だと思い、極力見ない様にしていたのだけど、彼の気持ちが本当かを知りたくて、彼のスマホの中身を見てしまったのだ。
 以前にこっそりインストールしておいた覗き見用のアプリが生きていたので、簡単にライン等のやり取りを確認できる。
 すると、あの去年のクリスマスイブに付き合っていたあの金髪娘と、よりを戻して、交際していた。
 二月から、私に電話連絡しなくなったのは、そういう理由だったのだ。
 なのに、今週、私と再会し、脈ありと思ったらしく、心にも思っていないことを平気で言っていた。
 本当に最低の男。私を抱きたい一心でついた嘘を見抜けず、再び彼に抱かれ、これでいいと思ってしまった自分の馬鹿さ加減に呆れるばかり。
 あの確認の時の言葉だってきっと嘘。本命の彼女がいるから、私のことなんてどうでもいいだけだった。
 あれだけ私の中に出しておきながら、今日、その彼女とデートの約束までしていた。

 私は、なんて馬鹿だったんだろう。自分が情けないと思うとともに、エマという彼女のためにも、きっちりダニエルに制裁してやる。そう決めた。

 私は野球帽をかぶって、サングラスをして変装し、ダニエルとエマの待ち合わせ場所へと向かった。
 そして、二人が手を振って再会するとすぐ、彼に電話を入れて意地悪してやる。
「ねぇ、今どこ。私、もう一度あいたいの」
「御免。今はちょっと友達とあっていて」
「まさか、金髪の彼女じゃないよね」
「ばか。そんな訳ないだろう」
「じゃあ、愛してるっていってみて」
「本当に御免。後で電話するから」
 そう言って、切られ、もう一度電話したけど、電源を切られてしまった。
 彼女の目の前で、愛していると言わせる作戦は失敗したので、もうこんなことはしたくはなかったけど、再び彼女の前に顔をだすことにした。
 勿論、帽子も眼鏡も取って、普段の来夢に戻って偶然を装って、彼に近づく。
「ダニエル、どういうこと。彼女と別れていなかったの。昨晩、私を愛していると言って、何度も抱いておいて、どういうこと。私が最高だって言ったよね。私と彼女とどっちが好きなの」
「最低。誰にでもそんなことを言う人だったのね。あなたの事、誤解してしました。もう二度と会いませんから。そんな最低男、貴方にあげるから、二人で仲良くやればいいわ」
 彼女はそんな捨て台詞を残し、気丈に速足で、その場を立ち去った。
 ダニエルはきっと彼女を追いかけると思ったが、予想外の行動に出た。
「来夢、愛してる。君を抱いて、はっきりわかったんだ。だから、今日は彼女に別れを告げるつもりでいた。最後のデートのつもりで会っただけなんだ。本当だよ」
 心が揺らぐが、もう騙されない。きっと彼女とはもう元鞘には戻れないと悟り、私に切り替えただけのこと。
「御免なさい。彼女がいたのに、私を口説き落としたのは事実よね。そんな平気で浮気する男とは付き合えない。貴方を信じてしまった私がバカだった。もう二度と連絡してこないで。顔も見せないで」
 そう言って立ち去ろうとすると、ダニエルは私の腕を掴んできた。
「やめて、離して。もう二度と騙されない。諦めて」

 別れた男のストーカー被害が多発しているけど、彼はそこまでする男ではない。
 私は仕事に生きる。もう男なんていらない。
 ちょっと寄り道してしまうことになったけど、私は自分の道を再び歩み出す決意をした。

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