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第二話 ライムライトの灯
注連飾る 両親横目に部屋籠る
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東京の冬は、ニューヨークよりも温かい。天気が良く陽光が降り注いでいるからかもしれないけど、身体は温かく感じる。
でも私の心は、雨はやんだけど、曇り空で寒々と冷え込んだまま。
この角を曲がると、大きな塀に囲まれた我が家だといのに、このままではいけない。
私は引っ張っていた小さなキャリーケースを引き寄せて手を放し、顔を両手でパチンと叩いた。
今年の夏、父の十三回忌の為帰国した時、「もう四年になるんだから、あなたも恋人を作りなさい」と母から言われた。
「実はね。私、彼氏ができたんだ」そう一瞬、言おうとして、言えなかった。
「私は仕事が生き甲斐だから、ほっといて。裕ちゃんこそ、また若いんだから、再婚相手を探しなさい」
一人で寂しそうな母を前に、幸せそうにしてはいけないという気もあったけど、彼が私を本当に愛しているのか自信がなかったからだ。
でも、内緒にしていたお蔭で、今日は失恋の報告をしなくても済む。
ダニエルと出会ったのは、今年の正月。
私はここ三年、年末・年始は帰省せず、一年間頑張ったご褒美として、世界各地を旅することにしていた。
今年は、エジプト旅行に出かけ、一人旅なので、当然のようにナンパされた。
彼は、本当か嘘かは分からないけど、友達と二人で来る予定だったのに、その一人が突然これなくなったとかで、ツアーの間中、ずっと私に付きまとってきた。
背は高く、年齢は私より二つ年下で普面だけど、とても面白い人で、旅の間だけならと、私も彼と友達になり、楽しい時間を共にした。
しかも、彼は、同じニューヨークのフォレスト・ヒルズだった。
私としては、あくまで旅行中だけの友達のつもりが、連絡先交換を拒むわけにもいかず、それから彼が猛アタックを掛けてきた。
この齢になって贅沢言えないのは分かっているけど、私は面食いだし、ダニエルは大学を中退して、二流企業にしか就職できなかった落ちこぼれのサラリーマン。
私としては、交際するつもりはなかった。
けど、強引に迫られると嫌とは言えず、三月には恋人同士になっていた。
私というか、女は誰でもそうだと思うけど、一度寝てしまうと、盲目になる。彼のためならと食事代や交際費は全て年上の私か出すようになり、彼は私一筋に愛を注いでくれていると妄信するようになる。
しかも、母が今月、「あの人、運命の人だったの。そういう訳で、私達、結婚することにして、同棲をはじめることにしたから」なんて嬉しそうに言うから、私も負けたくないと、交際一年も経っていないのに、彼とセックスする度に、「私の事、どう思ってるの」とか、「母にあってくれない」とか迫ってしまった。
それがきっと重かったのだろう。
クリスマスイブの夜のデートもしてくれず、別れ話を切り出して来た。
きっと次の彼女を作ったに違いないと、ちょっとした裏技で、彼のデートの場所を突き止め、彼女の目の前で、「二股掛けていたのね。最低」と、彼の頬を平手打ちして、こちらから振ってやった形にした。
その彼女は、二十代前半の若い金髪の子だったけど、自慢じゃないけど、容姿は私がずっと上だと思う。
私は三十歳なので、焦って、あんなことを言った所為で、重い女だと思われ、嫌われたのだ。
だから、今年も、年末年始は傷心旅行にアマゾンにでも行こうかと考えた。
けど、母と同棲を始めたという運命の人が、どんな男なのかと会ってみたかったこともあり、母に会いに来てしまった。
でも、こんな落ち込んでいると、母に心配を掛けてしまう。
だから、明るく元気に振舞えるように、私は気合をいれなおしたという訳。
角を曲がると、うちの門の前に、人影が見えた。どんな人なのか、ここからは良く分らないけど、おそらく今月から母と同居を始めた母の恋人に違いない。
一体どんな人物なのか、見極めて遣ろうと近づいた。
キャリーバックがゴロゴロと音を立てているが、彼は夢中になって門松を設置していて、私に気づかない。
白髪の多いぼさぼさ頭に、水色のダウンのジャンパーを着ていて、正直、父とは全く違うやぼったい男で、がっかりだった。
「こんにちは、お義父さん」
驚いて振り向いたその顔も、大きな獅子鼻に、左右非対称の顔で、正直、不細工顔だ。母の嗜好は理解できない。
「あれ、四時頃って聞いていたのに早かったね。裕子が待っているから、先に行ってて」
丁度、スカイライナーがあり、最短時間で帰宅できた。
この神谷邸は、歯科医をしていた父がバブル崩壊直後に立てた豪邸で、私の歴史と重なっていて、今年で築三十年だけど、未だに素敵な洋館を保っている。
何がいいたいかと言うと、私も三十歳だけど、まだまたイケてるいい女だということ。若さではまけているかもしれないけど、あんな女より私の方がずっと、いい女だし、見た目だって若いつもり。
でも、彼は、私より彼女を選んだ。
いけない、いけない。また、空元気が萎れてしまう。
母によると、父は株式投資以外に、土地開発事業やIT開発事業等にも幅広く事業展開していた実業家だったとの話で、十三年前、ドライブが趣味だった父が、峠で転落事故死した際、莫大な有価証券や、別荘、豪邸、駅前ビルを残してくれた。
けど、相続税は莫大なうえ、父が拡張し続けた事業の為の銀行からの借金もかなりあった。債券や別荘、会社等を全て売却しても、八千万円もの莫大な借金が残った。
駅前ビルも売却すればいいのに、このビルは父と過ごした思い出のビルだからと、手放さなかったので、高校生だった私を抱え、専業主婦だった母は、多額な借金の返済に、死に物狂いで働くことになった。
「今日から、ママではなく、裕ちゃんと呼びなさい」
四十九日が終わり、突然、そんなことを言ってきた日の母の顔は、今でもハッキリと覚えている。
以前のお節介なくらいに口うるさく、笑顔を保ち続けた母はすでになく、目に隈ができ、顔がやつれ、笑顔すらない真剣な疲れ切った顔になっていた。
もう、私の面倒は見てあげられないから、姉・妹として、共に頑張って生活していきましょうと言う宣言に思えた。
それからの母は、まさに別人。三つも仕事を掛け持ちして、ほとんど寝る間もなく頑張る母を見て、私も今までの自分ではいけないと、これからの事を真剣に考える様になった。
私も高校を出て働こうかと考えたけど、母は大学だけは出なさいと言ってくれ、私はそのままスライドで大学に入り、奨学金で通い、母に金銭的負担は掛けない様に務めてきた。
「只今」
靴を脱いでいると、母が顔を出した。
「随分と早かったわね。あの人に会った?」
「今、挨拶した。裕ちゃんが好きなら構わないけど、趣味悪くない?」
「あら、外見で人を判断するなんて、あなたらしくもない。どうしちゃったの? 失恋でもした?」
母は察しが良い。あれ程注意していたのに、彼氏への怒りが、母の恋人への八つ当たりになっていたのかもしれない。
「私が男に興味が無いのは、裕ちゃんも知ってるでしょう」
私が、ニューヨーク勤務を希望したのは、五年間も付き合い結婚すると信じていた男が、二股を掛けていて、その女性を妊娠させ、責任を取って彼女と結婚すると言い出したからだ。
だから、私は仕事一筋に生きると宣言し、女性でも一人で生きていけるアメリカで働くことを決めた。
「そうよね。でも仕事ばかりしてないで、婚活しなさい。子孫を残すのは義務だし、彼がいるってだけで、人生は変わるから」
何とか誤魔化せたけど、その仕事ですら、今は夢中になれない。
失恋の痛みからではない。以前から、自分の仕事に疑問を抱いていて、私はこんな仕事をしたかったんじゃないと思い続けていた。
彼に相談しても今の仕事を続けろというし、彼の為にも、その感情を抑え頑張ってきた。
でも、それも必要なくなった。
「今、お茶をいれるわね。珈琲の方が良い?」
「ハーブティーにして」
私は、本当に男を見る目がない。
最初の男は大学の時のクラスメイト。付き合うつもりはなかったけど、長身のイケメン男子だったので、ついデートの誘いに応じた。
すると、いきなりキスしてきた。
私が猛烈に怒ったら、反省してその後は普通に友達付き合いになったけど、それでもどんどん恋仲へと進み、その夏、彼に旅行に誘われた。悩んだけど、母に嘘をついて、一緒に出かけ、処女を捧げた。
そして、デートの度にセックスする仲になった。
なのに、彼は私を愛してはいなかった。彼は、私を落とせるかクラスメイトと賭けをしていて、恋人の振りをしたのだ。
後期授業がはじまる、クラスの皆が私をニヤニヤと嫌らしい目で見つめてきて、その事実を知った。
乳房は隠してあるけど、先週仕方くなく撮らせてあげたホテルのベッドで裸で彼と二人でいる証拠写真を、皆にばら撒いていたのだ。
だから、もう二度と恋はしないと、勉強一筋に生き、学生時代は全ての誘いを断り続けた。
そして、二人目が会社のイケメンの先輩。本当にいい人だと思って五年間も付き合ってきたのに、二股掛けていた。
三人目は、セックス以外なんのとりえもない冴えない男だったけど、この齢になるとこの辺で妥協するしかないと、真剣につきあった。なのに、やはり別の女と浮気して、捨てられた。
本当に、私は男運が悪いというか、男を見る目がない。
「はい、どうぞ」
母特製のハーブティー。荒んでいた心が静まって落ち着いていく。
その時、玄関からあの男の声がした。
「裕子、玄関の注連縄は、ここで良いか?」
母は嬉しそうに玄関先に駆けて行った。
お茶を飲み終わり、部屋に荷物を運び入れている時、玄関先の二人を覗いて見た。そこには最近見たことが無かった幸せに満ち溢れた母の笑顔があった。
私と違って、母はすべてに於いて、抜かりなく、幸せを勝ち取っていく。
居間に戻ると、母がきちんと彼を紹介してくれた。
電話で話は聞いていて、元ホンダ自動車のエンジニアとは知っていたけど、まさか、あの世界をあっと言わせた人型ロボット『アシモ』の開発主任の天才技術者とは知らなかった。
「でも今はプータローで、家で小説を書いているの」
「ねぇ、裕ちゃんの最も嫌いなタイプじゃなかったの。自称小説家なんて」
「そうよ。今だって自称小説家なんて大嫌い。でも、この人は自称で終わらない。私が見込んだ男よ」
昔の母では考えられない発言。やはりおかしい。
結婚は、母の自由にすればいいと思っていたけど、今の母はどうも普段の冷静さがない。
褒めた訳でもないのに、でれでれとするこの男が、母を狂わせた。
少し位、エッチが上手なのかもしれないが、母に運命の男と言わせて、狂わせたこの男の正体を見抜いてやる。彼女の恋路を邪魔する気はないけど、場合によっては、結婚すら阻止してやる。
そう強く、思うようになった。
でも私の心は、雨はやんだけど、曇り空で寒々と冷え込んだまま。
この角を曲がると、大きな塀に囲まれた我が家だといのに、このままではいけない。
私は引っ張っていた小さなキャリーケースを引き寄せて手を放し、顔を両手でパチンと叩いた。
今年の夏、父の十三回忌の為帰国した時、「もう四年になるんだから、あなたも恋人を作りなさい」と母から言われた。
「実はね。私、彼氏ができたんだ」そう一瞬、言おうとして、言えなかった。
「私は仕事が生き甲斐だから、ほっといて。裕ちゃんこそ、また若いんだから、再婚相手を探しなさい」
一人で寂しそうな母を前に、幸せそうにしてはいけないという気もあったけど、彼が私を本当に愛しているのか自信がなかったからだ。
でも、内緒にしていたお蔭で、今日は失恋の報告をしなくても済む。
ダニエルと出会ったのは、今年の正月。
私はここ三年、年末・年始は帰省せず、一年間頑張ったご褒美として、世界各地を旅することにしていた。
今年は、エジプト旅行に出かけ、一人旅なので、当然のようにナンパされた。
彼は、本当か嘘かは分からないけど、友達と二人で来る予定だったのに、その一人が突然これなくなったとかで、ツアーの間中、ずっと私に付きまとってきた。
背は高く、年齢は私より二つ年下で普面だけど、とても面白い人で、旅の間だけならと、私も彼と友達になり、楽しい時間を共にした。
しかも、彼は、同じニューヨークのフォレスト・ヒルズだった。
私としては、あくまで旅行中だけの友達のつもりが、連絡先交換を拒むわけにもいかず、それから彼が猛アタックを掛けてきた。
この齢になって贅沢言えないのは分かっているけど、私は面食いだし、ダニエルは大学を中退して、二流企業にしか就職できなかった落ちこぼれのサラリーマン。
私としては、交際するつもりはなかった。
けど、強引に迫られると嫌とは言えず、三月には恋人同士になっていた。
私というか、女は誰でもそうだと思うけど、一度寝てしまうと、盲目になる。彼のためならと食事代や交際費は全て年上の私か出すようになり、彼は私一筋に愛を注いでくれていると妄信するようになる。
しかも、母が今月、「あの人、運命の人だったの。そういう訳で、私達、結婚することにして、同棲をはじめることにしたから」なんて嬉しそうに言うから、私も負けたくないと、交際一年も経っていないのに、彼とセックスする度に、「私の事、どう思ってるの」とか、「母にあってくれない」とか迫ってしまった。
それがきっと重かったのだろう。
クリスマスイブの夜のデートもしてくれず、別れ話を切り出して来た。
きっと次の彼女を作ったに違いないと、ちょっとした裏技で、彼のデートの場所を突き止め、彼女の目の前で、「二股掛けていたのね。最低」と、彼の頬を平手打ちして、こちらから振ってやった形にした。
その彼女は、二十代前半の若い金髪の子だったけど、自慢じゃないけど、容姿は私がずっと上だと思う。
私は三十歳なので、焦って、あんなことを言った所為で、重い女だと思われ、嫌われたのだ。
だから、今年も、年末年始は傷心旅行にアマゾンにでも行こうかと考えた。
けど、母と同棲を始めたという運命の人が、どんな男なのかと会ってみたかったこともあり、母に会いに来てしまった。
でも、こんな落ち込んでいると、母に心配を掛けてしまう。
だから、明るく元気に振舞えるように、私は気合をいれなおしたという訳。
角を曲がると、うちの門の前に、人影が見えた。どんな人なのか、ここからは良く分らないけど、おそらく今月から母と同居を始めた母の恋人に違いない。
一体どんな人物なのか、見極めて遣ろうと近づいた。
キャリーバックがゴロゴロと音を立てているが、彼は夢中になって門松を設置していて、私に気づかない。
白髪の多いぼさぼさ頭に、水色のダウンのジャンパーを着ていて、正直、父とは全く違うやぼったい男で、がっかりだった。
「こんにちは、お義父さん」
驚いて振り向いたその顔も、大きな獅子鼻に、左右非対称の顔で、正直、不細工顔だ。母の嗜好は理解できない。
「あれ、四時頃って聞いていたのに早かったね。裕子が待っているから、先に行ってて」
丁度、スカイライナーがあり、最短時間で帰宅できた。
この神谷邸は、歯科医をしていた父がバブル崩壊直後に立てた豪邸で、私の歴史と重なっていて、今年で築三十年だけど、未だに素敵な洋館を保っている。
何がいいたいかと言うと、私も三十歳だけど、まだまたイケてるいい女だということ。若さではまけているかもしれないけど、あんな女より私の方がずっと、いい女だし、見た目だって若いつもり。
でも、彼は、私より彼女を選んだ。
いけない、いけない。また、空元気が萎れてしまう。
母によると、父は株式投資以外に、土地開発事業やIT開発事業等にも幅広く事業展開していた実業家だったとの話で、十三年前、ドライブが趣味だった父が、峠で転落事故死した際、莫大な有価証券や、別荘、豪邸、駅前ビルを残してくれた。
けど、相続税は莫大なうえ、父が拡張し続けた事業の為の銀行からの借金もかなりあった。債券や別荘、会社等を全て売却しても、八千万円もの莫大な借金が残った。
駅前ビルも売却すればいいのに、このビルは父と過ごした思い出のビルだからと、手放さなかったので、高校生だった私を抱え、専業主婦だった母は、多額な借金の返済に、死に物狂いで働くことになった。
「今日から、ママではなく、裕ちゃんと呼びなさい」
四十九日が終わり、突然、そんなことを言ってきた日の母の顔は、今でもハッキリと覚えている。
以前のお節介なくらいに口うるさく、笑顔を保ち続けた母はすでになく、目に隈ができ、顔がやつれ、笑顔すらない真剣な疲れ切った顔になっていた。
もう、私の面倒は見てあげられないから、姉・妹として、共に頑張って生活していきましょうと言う宣言に思えた。
それからの母は、まさに別人。三つも仕事を掛け持ちして、ほとんど寝る間もなく頑張る母を見て、私も今までの自分ではいけないと、これからの事を真剣に考える様になった。
私も高校を出て働こうかと考えたけど、母は大学だけは出なさいと言ってくれ、私はそのままスライドで大学に入り、奨学金で通い、母に金銭的負担は掛けない様に務めてきた。
「只今」
靴を脱いでいると、母が顔を出した。
「随分と早かったわね。あの人に会った?」
「今、挨拶した。裕ちゃんが好きなら構わないけど、趣味悪くない?」
「あら、外見で人を判断するなんて、あなたらしくもない。どうしちゃったの? 失恋でもした?」
母は察しが良い。あれ程注意していたのに、彼氏への怒りが、母の恋人への八つ当たりになっていたのかもしれない。
「私が男に興味が無いのは、裕ちゃんも知ってるでしょう」
私が、ニューヨーク勤務を希望したのは、五年間も付き合い結婚すると信じていた男が、二股を掛けていて、その女性を妊娠させ、責任を取って彼女と結婚すると言い出したからだ。
だから、私は仕事一筋に生きると宣言し、女性でも一人で生きていけるアメリカで働くことを決めた。
「そうよね。でも仕事ばかりしてないで、婚活しなさい。子孫を残すのは義務だし、彼がいるってだけで、人生は変わるから」
何とか誤魔化せたけど、その仕事ですら、今は夢中になれない。
失恋の痛みからではない。以前から、自分の仕事に疑問を抱いていて、私はこんな仕事をしたかったんじゃないと思い続けていた。
彼に相談しても今の仕事を続けろというし、彼の為にも、その感情を抑え頑張ってきた。
でも、それも必要なくなった。
「今、お茶をいれるわね。珈琲の方が良い?」
「ハーブティーにして」
私は、本当に男を見る目がない。
最初の男は大学の時のクラスメイト。付き合うつもりはなかったけど、長身のイケメン男子だったので、ついデートの誘いに応じた。
すると、いきなりキスしてきた。
私が猛烈に怒ったら、反省してその後は普通に友達付き合いになったけど、それでもどんどん恋仲へと進み、その夏、彼に旅行に誘われた。悩んだけど、母に嘘をついて、一緒に出かけ、処女を捧げた。
そして、デートの度にセックスする仲になった。
なのに、彼は私を愛してはいなかった。彼は、私を落とせるかクラスメイトと賭けをしていて、恋人の振りをしたのだ。
後期授業がはじまる、クラスの皆が私をニヤニヤと嫌らしい目で見つめてきて、その事実を知った。
乳房は隠してあるけど、先週仕方くなく撮らせてあげたホテルのベッドで裸で彼と二人でいる証拠写真を、皆にばら撒いていたのだ。
だから、もう二度と恋はしないと、勉強一筋に生き、学生時代は全ての誘いを断り続けた。
そして、二人目が会社のイケメンの先輩。本当にいい人だと思って五年間も付き合ってきたのに、二股掛けていた。
三人目は、セックス以外なんのとりえもない冴えない男だったけど、この齢になるとこの辺で妥協するしかないと、真剣につきあった。なのに、やはり別の女と浮気して、捨てられた。
本当に、私は男運が悪いというか、男を見る目がない。
「はい、どうぞ」
母特製のハーブティー。荒んでいた心が静まって落ち着いていく。
その時、玄関からあの男の声がした。
「裕子、玄関の注連縄は、ここで良いか?」
母は嬉しそうに玄関先に駆けて行った。
お茶を飲み終わり、部屋に荷物を運び入れている時、玄関先の二人を覗いて見た。そこには最近見たことが無かった幸せに満ち溢れた母の笑顔があった。
私と違って、母はすべてに於いて、抜かりなく、幸せを勝ち取っていく。
居間に戻ると、母がきちんと彼を紹介してくれた。
電話で話は聞いていて、元ホンダ自動車のエンジニアとは知っていたけど、まさか、あの世界をあっと言わせた人型ロボット『アシモ』の開発主任の天才技術者とは知らなかった。
「でも今はプータローで、家で小説を書いているの」
「ねぇ、裕ちゃんの最も嫌いなタイプじゃなかったの。自称小説家なんて」
「そうよ。今だって自称小説家なんて大嫌い。でも、この人は自称で終わらない。私が見込んだ男よ」
昔の母では考えられない発言。やはりおかしい。
結婚は、母の自由にすればいいと思っていたけど、今の母はどうも普段の冷静さがない。
褒めた訳でもないのに、でれでれとするこの男が、母を狂わせた。
少し位、エッチが上手なのかもしれないが、母に運命の男と言わせて、狂わせたこの男の正体を見抜いてやる。彼女の恋路を邪魔する気はないけど、場合によっては、結婚すら阻止してやる。
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