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第一話 蜘蛛の糸見つけた
春の夜の名推理 薄き胸すら逞しく
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私と昴の関係は、ちょっと複雑で、二年前の十二月に同棲を始め、翌二月二十五日に入籍した。
否、その前日、家族皆の前で、「明日、入籍します」と宣言し、磯川さん夫婦には、その日に入籍したことになっている。
でも、実際に戸籍上の夫婦になったのは、去年の八月二十三日。
昴といるといつも喧嘩になって、何度も、婚姻届けを破き、こんな事態になってしまった。
でも、あっちの方は仲良しで、未だに毎週の様に愛し合っている。
これにも、いろいろと訳があるのだけど、彼と初めて情交した際、互いに前世の記憶が降りてきて、肉体が若返ったのだ。
昴の分析によると、その前世の肉体と融合して平均化されたみたいで、今の私の肉体年齢は三十八歳。昴は四十二歳になっているのではないかと言う話。
事実、昴は白髪に近い髪だったのに、今は黒々した髪になったし、私は閉経していたのに、生理が復活した。
そんな訳で、私としては、毎日でもしたいのだけど、あまり頻度が多いと昴が、また変態行為に走りかねないので、休みの日の前日の夜だけで、我慢してあげている。
今は、水曜日だけが休みなので、火曜日がセックス日で、生理が重ならない限り、二人の愛を確かめ合っているというわけ。
そして、今日はそのセックス日。
でも、正直、今日はやめようかと迷っている。
本日、夜の八時頃、二人が帰宅したので、私が知りうる安君の事を全て話し、彼を雇用したいと相談した。
安君は、中学二年の秋まで、両親と家族三人で幸せな家庭に暮らしていた。かなり貧乏だったみたいだけど、一人っ子だったこともあり、大切に育てられてきたらしい。
なのに、その年の秋、暴走ダンプが両親営業するお弁当屋に突っ込んでくる事故が起きた。両親は死亡。
その後の経緯は分からないけど、彼は、父方の姉、バツ一で子供のいない叔母の許に引き取られることになる。
叔母が何をしてる女性かは、彼自身、知らないそうだが、かなり忙しい人で、土日祝日以外は、残業が当たり前の生活をしていたらしい。だから、夕食は一人で食べることが多かったらしい。
でも、子供がいなかったので、大切に可愛がられた。
ただ、彼女はかなり神経質で、機嫌が悪いと、ちょっとしたことで怒りをあらわにし、安君に躾と称する折檻を強いた。
食事抜き、長時間の正座、ベランダに全裸で立たされたこともあったのだそう。
そして、高校一年のある日、何があったか不明だが、その叔母を刺し、少年刑務所送りに。
そこから、彼の人生は一変する。
保護司さんに斡旋してもらった工場でも、人間関係になじめず、仲間に虐められ、窃盗の罪まで着せられる。
人間不信になって、一人やけになって遊び歩いていた時に、声を掛けて優しくしてくれたのが、当時池袋の半ぐれ集団のリーダーで、後に暴力団の三下ヤクザとなる健さんだ。
イケメンだったので、女を引っかけるために釣り餌にする意図で声を掛けたみたいだが、彼は兄貴としたい、健さんと共にヤクザになった。
でも、その健さんも亡くなったみたいで、今は足を洗い、一文無しで困っている。
よく気が付く、いい子で、頭の回転も速く、きっといい戦力になるから、うちに雇いたいとお願いした。
昴は、何も言わなかったけど、磯川さんは乗り気で、五月末までの約三か月間は、日当五千円の丁稚奉公扱いとし、真面目に頑張れる男だったら、正式に雇用契約しようと決まった。
昴に確認すると、普段なら「社長は裕子なんだから、好きにしろ」と言ってくれるのに、今になって嫌だとごねだした。
「やっぱり、仕事を一緒にするなら、気の置けない人と一緒にしたい」
「何をいってるのよ。今更。まだ根に持ってるの」
「あれは、あいつらの所為じゃないから、気にしてない。それに裕子が、意外にできる子で、真面目で優しい子と感じたのなら、そうなんだろう。少刑あがりだって気にしていない。周りの環境が、その人の人生を大きく左右することがあり、特に多感な中高生時代につらい目にあうと、道を踏み外す事も有ると理解している。だから、そんな事じゃないんだ。安田が、お金持ちのボンボンで、学もあり、成績優秀なエリートであったとしても、雇うのは嫌なんだ」
「また、親父さんの我儘か。そう言われちゃうと、なんも言えなくなっちまう」
「どうすれば、雇ってもいいといってくれるの」
「社長の強権発動すれば、良いじゃん」
「あなたは黙ってなさい。もう」
「一緒に働きたいと思えたら。ただそれだけ」
「わかったわ。五月末時点で、貴方がそう思えなければ、安君には悪いけど、辞めてもらいます。でも、それまでは、私の好きにさせて頂きます。貴方には一切迷惑を駆けない様にしますから」
なのに、磯川さんが安君をここに連れてくるなり、「ここに住むのは認めていない」とか、「悪いが君を信用してない」とか平気で言う。
人に信用してもらえず人間不信になってる人に向って、口に出していい言葉じゃない。
それに「短気で、危険な性格を隠しもっている」なんて言われたら、どんな気になるか。
でも、安君には、昴の性格は理解されたみたいだし、まぁいいか。
それに、今日の昴は、凄く頼もしく恰好良かった。
磯川さんとの伝説の腕相撲の話は、姪で、義理の娘で、私の腹心の部下でもある未来から伝聞で聞いていたけど、あんなプヨプヨした普通の腕なのに、あんな力持ちだったなんて、未だに信じられない。
「お前が勝てると思うなら、毎日でも相手してやる」なんて、父親みたいに見えて、本当に頼もしく思えた。
そういう訳で、今日もネグリジェ姿にガウンを羽織った姿のまま、彼の部屋に行ってしまった。
この家は、私の前夫の神谷が建てた家で、私と一緒に寝るのが嫌だった見たいで、夫婦の寝室が存在しないのだ。
だから、エッチのために、彼が私の所に夜這いするか、私から行くかだけど、彼が私の部屋にやってきたのは二回だけで、いつも、私から夜伽にいく。
「今日は来ないかと思った。さぁ、おいで」
私は、ガウンを脱いで、言われたままに、セミダブルのベッドにもぐりこむ。
「ねぇ、あなたのこのプヨプヨした腕で、どうしてあんなに強いの?」
これは、人物確認を兼ねた質問。
実は、あの時、植物人間になることも覚悟して下さいと言われるほどの重態だったのだそうで、私は二月になるまで、一か月半以上、意識を失っていた。
なのに実際にはクリスマスの日、入院一週間程で、奇跡的に目を覚ましていた。
協調性運動障害や、注意障害という後遺症を患い、退院してからは、かなり大変だったらしいが、彼と夫婦生活を送っていた。
性格は私とは全く違い、社長や顧問の仕事を辞することになったと知っても何も責任を感じず、我儘放題で、人前でも彼に甘え、二人きりになると直ぐ、抱き着いたりする別人だったらしい。
昴は、前頭葉の脳細胞の大半が壊死したので、感情の制御ができなくなって、こんなになり、もう一生戻らないと思っていたらしい。
そんな訳で、本当の私が、覚醒した時、昴は涙を流して大喜びしてくれた。
でも、それが切っ掛けで、私は多重人格に、なってしまった。
意識が眠っていた時に昴と夫婦生活していた彼女は、前世の私ではなく、どうも、私が封印した主人が交通事故で無くなる前の私自身だったみたいで、私の身体の乗っ取り方を覚えてしまった事で、出てこれるようになったみたい。
主格である私が、疲れていたり、気がゆるんでたりすると、突如、私の身体を乗っ取ってしまう。
既に、二回、彼女に私の身体を奪われた。
私は泥酔すると、記憶をなくし、本能のまま大胆な行動をしてしまうけど、それとも明らかに違う。
酔って記憶をなくしても、何とかなく断片的に覚えているし、人から指摘されれば、そう言えばと思い出したりもする。
けど、多重人格で乗っ取られると、完全にその間の記憶が飛ぶ。
昴から、こんなことをしただろうと、とんでもなく恥ずかしいことをしたと言われても、そんなこと私がするわけないと思ってしまうほど。
でも、彼女は、昴に話していなかった前夫、徹真の生活や、趣味等も話していて、以前の私で間違いなく、当時の私は、今振り返れば、徹真に甘え切っていて、確かにそんな最低な女だった。
娘の手が掛からなくなってからの私は、専業主婦で何もすることがなく暇だったこともあるけど、主人に愛されようと美容と体系の維持ばかり考え、主人とエッチすることしか考えていなかった。
でも、神谷の両親からあれこれ責められ、借金まで背負い、一人で娘を育てていかなければならないとなって、今の自分ではだめだと、そんな自分を封印し、仕事一筋に生きる仕事人間の女へと転身した。
今の私も、本当は色欲が強い肉食系だけど、それでも理性でできるだけ抑えている。
一方、封印したもう一人の私は、昴とエッチをすることしか考えていない。
隙あらば、私の身体を乗っ取り、昴と楽しもうとする。
一度目の後、合言葉を決めて対策したのだけど、本能の私の方は、私の記憶を共有している様子で、ちゃんと合言葉を応えて、彼との愛の営みを勝ち取った。
だから、もう一人の私なら、絶対に言わない様な質問をして、今の私が本物の裕子だと確信してもらってから、愛撫を始めてもらうことにしたというわけ。
あの女は、こんなことには興味を抱かないはずだから、こんな会話をするのは私と言う事になる。
「火事場の馬鹿力の原理って知ってる?」
「知らない」
「人間の筋肉は、普通、三分の一しか使われず、力がでないんだ」
「あっ、それは知ってる。じゃあ、全部の筋肉が力を出す状態が火事場の馬鹿力ね」
「そう。でも自分は、なぜか、腕に関しては、それが出せるみたいなんだ。だから持久力は三分の一でも、力は三倍。見た目より、ずっと力がでる。さすがに磯川の太い腕の三分の一にはかなわなかったがな」
彼は、そういって、愛撫を始め、気持ちよくなってきたところで、彼は意地悪にも質問をしてきた。
「安が、叔母さんを刺した理由を、君はどう考えている?」
彼が私の乳首を舐めまわしているので、そんなの答えられない。
「やっぱり、君はもう一人の裕子だね」
「違うってば」
絶対に態とだ。今度は、次第に下にずれていく。
「ちょっと中止。言わせて」
彼の動きがとまって、這い上がってきて、私の顔を見つめたが、手は首筋を責めてくる。
私は彼の腕を振り払った。
「安君、本当に酷い目にあってたらしいの。それが蓄積して溜まって行って、ある日、遂に切れた。そう思ってる。だから、何時もなら我慢できたはずなのに、なぜ我慢できなかったのかが判らず、刺した動機を言えないんだと思う」
「自分が突然切れる時みたいな?」
「そう」
「でも、それなら、墓場まで誰にも言わないで持っていこうとは思わないよね」
「じゃあ、あなたは、どう予想してるの」
そう言うと、また私の乳首をいじり始めた。
「叔母さんは、もう一人の裕子みたいな人なんじゃないかな」
私は、意識をしっかり保とうとしたが、無理だった。
「セックスしたくて、したくてたまらない人。それに安はあの美形だ。叔母さんは、毎日、安を玩具にして、セックスを楽しんでた」
私の興奮が、その言葉で一瞬に覚めた。彼を、私の上から跳ね退けて、私は彼の右脇に添い寝して、顔を近づけた。
「どういう推理で、そうなるわけ」
「外に立たせるとき、普通なら裸にしないだろ。わざわざ、服を脱げなんて命じない。つまり、裸の関係の時、腹が立って、外に出したんだと思う」
「でも、寒い方が身に染みると思って、服を脱げって言ったのかもしれないわ」
「そうだとしても、高校生になってたんだろ。もう大人のペニスだ。パンツまで脱げって命じるのは、裕子みたいに、アソコを見てみたい人だよね。もしかして、裕子の憧れの偏差値70のがついてるかも」
「バカ」
でも、安君のアソコを確認したい衝動に駆られた。そう思ったとたん、あの女が、そんな愚行に出るのじゃないかと言う嫌な予感に駆られた。
「そうだとして、刺そうとした動機は何」
「自分もそうだったけど、裕子と毎日セックスしていると、次の禁断なステージに進みたくなってくる」
私が意識を取り戻した日の事を言っている。
「手足を拘束して、射精して敏感になった鬼頭に更に刺激を与えて、苦悩する表情を見ようとしたのかもしれない。いや、手足の拘束だと、刺せないか。アソコにピアスを取り付けようとか、いろいろあるけど、なんか性奴隷のペットを、次のステップに調教しようとして、それが嫌で刺したんじゃないかな」
話の筋は通る。安君は心の優しい子だから、その事実をあえて裁判で言わなかった。どんなに憎くても、お世話になった叔母さんの変態を晒すことができなかった。
叔母さんも、自分の愚行を知られたくなくて、でたらめな事を言ってごまかそうとした。そう理解すると全てが繋がる。
やっぱり、昴はすごい。
私が彼の上から降りて横になると、また彼が覆いかぶさってきて、本格的なエッチがはじまった。
安君、そんな酷い事をされ続けて来たんだと、考えていたけど、途中から、何も考えられなくなった。
否、その前日、家族皆の前で、「明日、入籍します」と宣言し、磯川さん夫婦には、その日に入籍したことになっている。
でも、実際に戸籍上の夫婦になったのは、去年の八月二十三日。
昴といるといつも喧嘩になって、何度も、婚姻届けを破き、こんな事態になってしまった。
でも、あっちの方は仲良しで、未だに毎週の様に愛し合っている。
これにも、いろいろと訳があるのだけど、彼と初めて情交した際、互いに前世の記憶が降りてきて、肉体が若返ったのだ。
昴の分析によると、その前世の肉体と融合して平均化されたみたいで、今の私の肉体年齢は三十八歳。昴は四十二歳になっているのではないかと言う話。
事実、昴は白髪に近い髪だったのに、今は黒々した髪になったし、私は閉経していたのに、生理が復活した。
そんな訳で、私としては、毎日でもしたいのだけど、あまり頻度が多いと昴が、また変態行為に走りかねないので、休みの日の前日の夜だけで、我慢してあげている。
今は、水曜日だけが休みなので、火曜日がセックス日で、生理が重ならない限り、二人の愛を確かめ合っているというわけ。
そして、今日はそのセックス日。
でも、正直、今日はやめようかと迷っている。
本日、夜の八時頃、二人が帰宅したので、私が知りうる安君の事を全て話し、彼を雇用したいと相談した。
安君は、中学二年の秋まで、両親と家族三人で幸せな家庭に暮らしていた。かなり貧乏だったみたいだけど、一人っ子だったこともあり、大切に育てられてきたらしい。
なのに、その年の秋、暴走ダンプが両親営業するお弁当屋に突っ込んでくる事故が起きた。両親は死亡。
その後の経緯は分からないけど、彼は、父方の姉、バツ一で子供のいない叔母の許に引き取られることになる。
叔母が何をしてる女性かは、彼自身、知らないそうだが、かなり忙しい人で、土日祝日以外は、残業が当たり前の生活をしていたらしい。だから、夕食は一人で食べることが多かったらしい。
でも、子供がいなかったので、大切に可愛がられた。
ただ、彼女はかなり神経質で、機嫌が悪いと、ちょっとしたことで怒りをあらわにし、安君に躾と称する折檻を強いた。
食事抜き、長時間の正座、ベランダに全裸で立たされたこともあったのだそう。
そして、高校一年のある日、何があったか不明だが、その叔母を刺し、少年刑務所送りに。
そこから、彼の人生は一変する。
保護司さんに斡旋してもらった工場でも、人間関係になじめず、仲間に虐められ、窃盗の罪まで着せられる。
人間不信になって、一人やけになって遊び歩いていた時に、声を掛けて優しくしてくれたのが、当時池袋の半ぐれ集団のリーダーで、後に暴力団の三下ヤクザとなる健さんだ。
イケメンだったので、女を引っかけるために釣り餌にする意図で声を掛けたみたいだが、彼は兄貴としたい、健さんと共にヤクザになった。
でも、その健さんも亡くなったみたいで、今は足を洗い、一文無しで困っている。
よく気が付く、いい子で、頭の回転も速く、きっといい戦力になるから、うちに雇いたいとお願いした。
昴は、何も言わなかったけど、磯川さんは乗り気で、五月末までの約三か月間は、日当五千円の丁稚奉公扱いとし、真面目に頑張れる男だったら、正式に雇用契約しようと決まった。
昴に確認すると、普段なら「社長は裕子なんだから、好きにしろ」と言ってくれるのに、今になって嫌だとごねだした。
「やっぱり、仕事を一緒にするなら、気の置けない人と一緒にしたい」
「何をいってるのよ。今更。まだ根に持ってるの」
「あれは、あいつらの所為じゃないから、気にしてない。それに裕子が、意外にできる子で、真面目で優しい子と感じたのなら、そうなんだろう。少刑あがりだって気にしていない。周りの環境が、その人の人生を大きく左右することがあり、特に多感な中高生時代につらい目にあうと、道を踏み外す事も有ると理解している。だから、そんな事じゃないんだ。安田が、お金持ちのボンボンで、学もあり、成績優秀なエリートであったとしても、雇うのは嫌なんだ」
「また、親父さんの我儘か。そう言われちゃうと、なんも言えなくなっちまう」
「どうすれば、雇ってもいいといってくれるの」
「社長の強権発動すれば、良いじゃん」
「あなたは黙ってなさい。もう」
「一緒に働きたいと思えたら。ただそれだけ」
「わかったわ。五月末時点で、貴方がそう思えなければ、安君には悪いけど、辞めてもらいます。でも、それまでは、私の好きにさせて頂きます。貴方には一切迷惑を駆けない様にしますから」
なのに、磯川さんが安君をここに連れてくるなり、「ここに住むのは認めていない」とか、「悪いが君を信用してない」とか平気で言う。
人に信用してもらえず人間不信になってる人に向って、口に出していい言葉じゃない。
それに「短気で、危険な性格を隠しもっている」なんて言われたら、どんな気になるか。
でも、安君には、昴の性格は理解されたみたいだし、まぁいいか。
それに、今日の昴は、凄く頼もしく恰好良かった。
磯川さんとの伝説の腕相撲の話は、姪で、義理の娘で、私の腹心の部下でもある未来から伝聞で聞いていたけど、あんなプヨプヨした普通の腕なのに、あんな力持ちだったなんて、未だに信じられない。
「お前が勝てると思うなら、毎日でも相手してやる」なんて、父親みたいに見えて、本当に頼もしく思えた。
そういう訳で、今日もネグリジェ姿にガウンを羽織った姿のまま、彼の部屋に行ってしまった。
この家は、私の前夫の神谷が建てた家で、私と一緒に寝るのが嫌だった見たいで、夫婦の寝室が存在しないのだ。
だから、エッチのために、彼が私の所に夜這いするか、私から行くかだけど、彼が私の部屋にやってきたのは二回だけで、いつも、私から夜伽にいく。
「今日は来ないかと思った。さぁ、おいで」
私は、ガウンを脱いで、言われたままに、セミダブルのベッドにもぐりこむ。
「ねぇ、あなたのこのプヨプヨした腕で、どうしてあんなに強いの?」
これは、人物確認を兼ねた質問。
実は、あの時、植物人間になることも覚悟して下さいと言われるほどの重態だったのだそうで、私は二月になるまで、一か月半以上、意識を失っていた。
なのに実際にはクリスマスの日、入院一週間程で、奇跡的に目を覚ましていた。
協調性運動障害や、注意障害という後遺症を患い、退院してからは、かなり大変だったらしいが、彼と夫婦生活を送っていた。
性格は私とは全く違い、社長や顧問の仕事を辞することになったと知っても何も責任を感じず、我儘放題で、人前でも彼に甘え、二人きりになると直ぐ、抱き着いたりする別人だったらしい。
昴は、前頭葉の脳細胞の大半が壊死したので、感情の制御ができなくなって、こんなになり、もう一生戻らないと思っていたらしい。
そんな訳で、本当の私が、覚醒した時、昴は涙を流して大喜びしてくれた。
でも、それが切っ掛けで、私は多重人格に、なってしまった。
意識が眠っていた時に昴と夫婦生活していた彼女は、前世の私ではなく、どうも、私が封印した主人が交通事故で無くなる前の私自身だったみたいで、私の身体の乗っ取り方を覚えてしまった事で、出てこれるようになったみたい。
主格である私が、疲れていたり、気がゆるんでたりすると、突如、私の身体を乗っ取ってしまう。
既に、二回、彼女に私の身体を奪われた。
私は泥酔すると、記憶をなくし、本能のまま大胆な行動をしてしまうけど、それとも明らかに違う。
酔って記憶をなくしても、何とかなく断片的に覚えているし、人から指摘されれば、そう言えばと思い出したりもする。
けど、多重人格で乗っ取られると、完全にその間の記憶が飛ぶ。
昴から、こんなことをしただろうと、とんでもなく恥ずかしいことをしたと言われても、そんなこと私がするわけないと思ってしまうほど。
でも、彼女は、昴に話していなかった前夫、徹真の生活や、趣味等も話していて、以前の私で間違いなく、当時の私は、今振り返れば、徹真に甘え切っていて、確かにそんな最低な女だった。
娘の手が掛からなくなってからの私は、専業主婦で何もすることがなく暇だったこともあるけど、主人に愛されようと美容と体系の維持ばかり考え、主人とエッチすることしか考えていなかった。
でも、神谷の両親からあれこれ責められ、借金まで背負い、一人で娘を育てていかなければならないとなって、今の自分ではだめだと、そんな自分を封印し、仕事一筋に生きる仕事人間の女へと転身した。
今の私も、本当は色欲が強い肉食系だけど、それでも理性でできるだけ抑えている。
一方、封印したもう一人の私は、昴とエッチをすることしか考えていない。
隙あらば、私の身体を乗っ取り、昴と楽しもうとする。
一度目の後、合言葉を決めて対策したのだけど、本能の私の方は、私の記憶を共有している様子で、ちゃんと合言葉を応えて、彼との愛の営みを勝ち取った。
だから、もう一人の私なら、絶対に言わない様な質問をして、今の私が本物の裕子だと確信してもらってから、愛撫を始めてもらうことにしたというわけ。
あの女は、こんなことには興味を抱かないはずだから、こんな会話をするのは私と言う事になる。
「火事場の馬鹿力の原理って知ってる?」
「知らない」
「人間の筋肉は、普通、三分の一しか使われず、力がでないんだ」
「あっ、それは知ってる。じゃあ、全部の筋肉が力を出す状態が火事場の馬鹿力ね」
「そう。でも自分は、なぜか、腕に関しては、それが出せるみたいなんだ。だから持久力は三分の一でも、力は三倍。見た目より、ずっと力がでる。さすがに磯川の太い腕の三分の一にはかなわなかったがな」
彼は、そういって、愛撫を始め、気持ちよくなってきたところで、彼は意地悪にも質問をしてきた。
「安が、叔母さんを刺した理由を、君はどう考えている?」
彼が私の乳首を舐めまわしているので、そんなの答えられない。
「やっぱり、君はもう一人の裕子だね」
「違うってば」
絶対に態とだ。今度は、次第に下にずれていく。
「ちょっと中止。言わせて」
彼の動きがとまって、這い上がってきて、私の顔を見つめたが、手は首筋を責めてくる。
私は彼の腕を振り払った。
「安君、本当に酷い目にあってたらしいの。それが蓄積して溜まって行って、ある日、遂に切れた。そう思ってる。だから、何時もなら我慢できたはずなのに、なぜ我慢できなかったのかが判らず、刺した動機を言えないんだと思う」
「自分が突然切れる時みたいな?」
「そう」
「でも、それなら、墓場まで誰にも言わないで持っていこうとは思わないよね」
「じゃあ、あなたは、どう予想してるの」
そう言うと、また私の乳首をいじり始めた。
「叔母さんは、もう一人の裕子みたいな人なんじゃないかな」
私は、意識をしっかり保とうとしたが、無理だった。
「セックスしたくて、したくてたまらない人。それに安はあの美形だ。叔母さんは、毎日、安を玩具にして、セックスを楽しんでた」
私の興奮が、その言葉で一瞬に覚めた。彼を、私の上から跳ね退けて、私は彼の右脇に添い寝して、顔を近づけた。
「どういう推理で、そうなるわけ」
「外に立たせるとき、普通なら裸にしないだろ。わざわざ、服を脱げなんて命じない。つまり、裸の関係の時、腹が立って、外に出したんだと思う」
「でも、寒い方が身に染みると思って、服を脱げって言ったのかもしれないわ」
「そうだとしても、高校生になってたんだろ。もう大人のペニスだ。パンツまで脱げって命じるのは、裕子みたいに、アソコを見てみたい人だよね。もしかして、裕子の憧れの偏差値70のがついてるかも」
「バカ」
でも、安君のアソコを確認したい衝動に駆られた。そう思ったとたん、あの女が、そんな愚行に出るのじゃないかと言う嫌な予感に駆られた。
「そうだとして、刺そうとした動機は何」
「自分もそうだったけど、裕子と毎日セックスしていると、次の禁断なステージに進みたくなってくる」
私が意識を取り戻した日の事を言っている。
「手足を拘束して、射精して敏感になった鬼頭に更に刺激を与えて、苦悩する表情を見ようとしたのかもしれない。いや、手足の拘束だと、刺せないか。アソコにピアスを取り付けようとか、いろいろあるけど、なんか性奴隷のペットを、次のステップに調教しようとして、それが嫌で刺したんじゃないかな」
話の筋は通る。安君は心の優しい子だから、その事実をあえて裁判で言わなかった。どんなに憎くても、お世話になった叔母さんの変態を晒すことができなかった。
叔母さんも、自分の愚行を知られたくなくて、でたらめな事を言ってごまかそうとした。そう理解すると全てが繋がる。
やっぱり、昴はすごい。
私が彼の上から降りて横になると、また彼が覆いかぶさってきて、本格的なエッチがはじまった。
安君、そんな酷い事をされ続けて来たんだと、考えていたけど、途中から、何も考えられなくなった。
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