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第一章 復活編
遊園地テート
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「ねぇねぇ、私達って、どうやって知り合ったの?」
ゴミ出しから部屋に戻ると、美唯が笑顔で質問した。
少し説教するつもりでいたバーンだが、彼女の笑顔を見ると、その気力も萎えてしまう。
「政略結婚。お前の父親のロドリゲス・エステ国王が十三歳になったばかりのお前を差し出して来たんだ」
「私、お姫様だったの? 十三歳で結婚? 嘘?」
貧乳のお子様体系だったので、抱いて欲しいと言われるまでの五年間、肉体関係がなかった事実は内緒にした。
「実は、今朝、あなたと過ごしていた時の夢をみたの。よく覚えてないし、どんな顔だったのかも思い出せないけど、あなたの事を本当に愛していた気がした。でも、夢だから……。それでね、今日はデートしない? 東京ディズニーランド。楽しい思い出ができるかもしれないでしょう」
『きっと記憶が蘇り始めている。デートすれば、更に……。だが、この姿では期待できないか』
そうは思ったが、バーンは素直にその提案を受け入れた。
金曜日の平日とはいえ、東京ディズニーランドは混雑している。その人の多さや、大人しく我慢して喧嘩もせずに行列に並ぶ行為に感心しながら、バーンは美唯とのデートを満喫した。
美唯が楽しそうなのが、嬉しかったのは勿論だが、バーンの居た世界には、遊園地等のリゾート施設は存在しないので、東京ディズニーランドのアトラクションはどれも驚きの連続だった。
我が国にも、この様な娯楽施設を造りたいなと思いながらアトラクションを楽しんでいたが、この身体では、やはりデートにはならいと直ぐに実感する。
「かわいいお子さんですね。何歳ですか?」
清掃員のキャストが、話しかけてきたからだ。
それからも、売店の店員、案内キャスト、並んでいた若い女性グループ等から、頻繁に声を掛けられた。
野球帽は捨てたので、頭に角が生えていて目立つこともあるが、美形で本当に可愛いいので、良く話しかけられる。
「五歳です。生意気で、本当に困った子なんですけど……」
美唯も、すっかり母親面して喜んでいる。
バーンも、彼女が喜んでいるならまあいいかと、デートにならなくても構わないと割り切って楽しむことにした。
だが、午後二時以降は、様子が一転する。
少し遅めの一時半頃に、お昼を取ろうとレストランに入ったのだが、食べ終えて、店を出ようとした時だった。
「美唯じゃないか。君の子供?」
店内に入ってきた女性連れの知らない男に話しかけられた。
「親戚の子。私はまだ結婚もしてないから」
美唯の表情が急に暗くなったのを、バーンは見逃さなかった。
「あなたの知り合い?」 隣にいた美女が、その男に尋ねる。
同じ指輪を嵌めているので、どうやら彼の細君らしい。
「うん、大学の時の同級生。それじゃ、また」
そう言って、その夫婦は擦れ違う様に、店内に入って行った。
「なにが同級生よ。一人だけ幸せになっちゃって……」
聞き取れないぐらいの小声で、囁いただけだが、地獄耳のバーンはしっかり聞き取っていた。
『恐らくミユイのこの世界での元カレなんだろう。どういう経緯で別れることになったのかは知らないが、彼に恨みを抱いているのは間違いなさそうだ。きっと酷い別れを経験したに違いない。そっと抱きしめてあげたいところだけど、この体格じゃ何もできない』
その後の美唯は、再び明るく振舞っていたが、バーンはそれが空元気に過ぎないと分かっていたので、楽しい気分にはなれなかった。
それでも、夜の打ち上げ花火の迫力には感動する。彼の世界では、火薬が発明されていないので、花火を見るのは初めてだったからだ。
バーンは、その夜空の大輪の花火を見上げ、火薬は武器だけでなく、こんな鮮やかで感動的な芸術まで生み出すのだと、感心していた。
そして、東京ディズニーランドを後にし、美味しいもんじゃ焼きを食べさせてあげると美唯言われ、月島に寄り道する。
「もんじゃ焼きを美味しくするには、コツがあるのよ」
できたものを食べれると思ったのに、自分達で焼いて作るようで、美唯がボールにウスターソースを流し込んだ時にはぞっとした。
コツと言うのは、具材を鉄板の上で、細かく刻んで、土手を造るというものだった。
しかも、食べ方にも、五月蝿い決まりごとがあり、皿に取るのは禁止で、鉄板からしゃもじで掬って直接食べる等の独特な風習を美唯から教わり、恐る恐る口にした。
でも、今回は、本当においしいかった。
「どう、美味しいでしょう」
味付けの大半は、ボールが出て来た時点で、既に済んでいたからに違いないが、自慢気に誇る美唯を見て、漸く元気になってくれたと嬉しかった。
だが、その幸せは、ほんの数分だった。
「さっきの人、私の元カレなの」
その食事の途中で、美唯が突如告白し始め、再び暗い顔になってしまった。
きっとあの彼氏と一緒に、もんじゃ焼きを食べたに違いないとバーンは推察した。
「五年も付き合って、結婚するものと確信していたのに、突然、別れて欲しいと言ってきて……」
その時の事を思い出したのか、今度はボロボロ涙まで流し始めた。
『ミユイを悲しませたあの男は許せない』
バーンの中に、激しい怒りが込み上げたが、魔法は使えない。
『こういう時、どう慰めればいいんだろう。今日は楽しかったねと、話を逸らすのも違う気がするし、何も言わなくていいよと言うのもやはり違う』
バーンは、結局、黙って彼女を見つめているしかなかった。
「ごめんね、変な事話しちゃって……。あなたとの楽しい思い出を作るためのデートだったのに、何してるんだろう」
涙を手の甲でぬぐい笑顔を作って見せる美唯のことが、痛々しくてならなかった。
ゴミ出しから部屋に戻ると、美唯が笑顔で質問した。
少し説教するつもりでいたバーンだが、彼女の笑顔を見ると、その気力も萎えてしまう。
「政略結婚。お前の父親のロドリゲス・エステ国王が十三歳になったばかりのお前を差し出して来たんだ」
「私、お姫様だったの? 十三歳で結婚? 嘘?」
貧乳のお子様体系だったので、抱いて欲しいと言われるまでの五年間、肉体関係がなかった事実は内緒にした。
「実は、今朝、あなたと過ごしていた時の夢をみたの。よく覚えてないし、どんな顔だったのかも思い出せないけど、あなたの事を本当に愛していた気がした。でも、夢だから……。それでね、今日はデートしない? 東京ディズニーランド。楽しい思い出ができるかもしれないでしょう」
『きっと記憶が蘇り始めている。デートすれば、更に……。だが、この姿では期待できないか』
そうは思ったが、バーンは素直にその提案を受け入れた。
金曜日の平日とはいえ、東京ディズニーランドは混雑している。その人の多さや、大人しく我慢して喧嘩もせずに行列に並ぶ行為に感心しながら、バーンは美唯とのデートを満喫した。
美唯が楽しそうなのが、嬉しかったのは勿論だが、バーンの居た世界には、遊園地等のリゾート施設は存在しないので、東京ディズニーランドのアトラクションはどれも驚きの連続だった。
我が国にも、この様な娯楽施設を造りたいなと思いながらアトラクションを楽しんでいたが、この身体では、やはりデートにはならいと直ぐに実感する。
「かわいいお子さんですね。何歳ですか?」
清掃員のキャストが、話しかけてきたからだ。
それからも、売店の店員、案内キャスト、並んでいた若い女性グループ等から、頻繁に声を掛けられた。
野球帽は捨てたので、頭に角が生えていて目立つこともあるが、美形で本当に可愛いいので、良く話しかけられる。
「五歳です。生意気で、本当に困った子なんですけど……」
美唯も、すっかり母親面して喜んでいる。
バーンも、彼女が喜んでいるならまあいいかと、デートにならなくても構わないと割り切って楽しむことにした。
だが、午後二時以降は、様子が一転する。
少し遅めの一時半頃に、お昼を取ろうとレストランに入ったのだが、食べ終えて、店を出ようとした時だった。
「美唯じゃないか。君の子供?」
店内に入ってきた女性連れの知らない男に話しかけられた。
「親戚の子。私はまだ結婚もしてないから」
美唯の表情が急に暗くなったのを、バーンは見逃さなかった。
「あなたの知り合い?」 隣にいた美女が、その男に尋ねる。
同じ指輪を嵌めているので、どうやら彼の細君らしい。
「うん、大学の時の同級生。それじゃ、また」
そう言って、その夫婦は擦れ違う様に、店内に入って行った。
「なにが同級生よ。一人だけ幸せになっちゃって……」
聞き取れないぐらいの小声で、囁いただけだが、地獄耳のバーンはしっかり聞き取っていた。
『恐らくミユイのこの世界での元カレなんだろう。どういう経緯で別れることになったのかは知らないが、彼に恨みを抱いているのは間違いなさそうだ。きっと酷い別れを経験したに違いない。そっと抱きしめてあげたいところだけど、この体格じゃ何もできない』
その後の美唯は、再び明るく振舞っていたが、バーンはそれが空元気に過ぎないと分かっていたので、楽しい気分にはなれなかった。
それでも、夜の打ち上げ花火の迫力には感動する。彼の世界では、火薬が発明されていないので、花火を見るのは初めてだったからだ。
バーンは、その夜空の大輪の花火を見上げ、火薬は武器だけでなく、こんな鮮やかで感動的な芸術まで生み出すのだと、感心していた。
そして、東京ディズニーランドを後にし、美味しいもんじゃ焼きを食べさせてあげると美唯言われ、月島に寄り道する。
「もんじゃ焼きを美味しくするには、コツがあるのよ」
できたものを食べれると思ったのに、自分達で焼いて作るようで、美唯がボールにウスターソースを流し込んだ時にはぞっとした。
コツと言うのは、具材を鉄板の上で、細かく刻んで、土手を造るというものだった。
しかも、食べ方にも、五月蝿い決まりごとがあり、皿に取るのは禁止で、鉄板からしゃもじで掬って直接食べる等の独特な風習を美唯から教わり、恐る恐る口にした。
でも、今回は、本当においしいかった。
「どう、美味しいでしょう」
味付けの大半は、ボールが出て来た時点で、既に済んでいたからに違いないが、自慢気に誇る美唯を見て、漸く元気になってくれたと嬉しかった。
だが、その幸せは、ほんの数分だった。
「さっきの人、私の元カレなの」
その食事の途中で、美唯が突如告白し始め、再び暗い顔になってしまった。
きっとあの彼氏と一緒に、もんじゃ焼きを食べたに違いないとバーンは推察した。
「五年も付き合って、結婚するものと確信していたのに、突然、別れて欲しいと言ってきて……」
その時の事を思い出したのか、今度はボロボロ涙まで流し始めた。
『ミユイを悲しませたあの男は許せない』
バーンの中に、激しい怒りが込み上げたが、魔法は使えない。
『こういう時、どう慰めればいいんだろう。今日は楽しかったねと、話を逸らすのも違う気がするし、何も言わなくていいよと言うのもやはり違う』
バーンは、結局、黙って彼女を見つめているしかなかった。
「ごめんね、変な事話しちゃって……。あなたとの楽しい思い出を作るためのデートだったのに、何してるんだろう」
涙を手の甲でぬぐい笑顔を作って見せる美唯のことが、痛々しくてならなかった。
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