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第四章 魔王討伐が終わった後は

別れの告白

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 ミハエル殿下と婚約する方がユリにはいいと頭では分かっていても、なぜかイライラしてしまい、その夜は、なかなか寝付けずにいた。

「コンコン」 僕の客間のドアがノックされた。
「はい。どうぞ」 こんな夜中になんだろうと、身体を起こしたが、一向にドアが開かない。
 しかなく、扉まで歩いていき、ドアを開けるとユリだった。しかも、寝間着というかネグリジェ姿。
「明日で、もう会えなくなると思うと、寝られなくて」
「こんなところではなんだから、中に入って」
 僕は、彼女を招き入れ、応接スペースのソファに向かい合う様に腰かけた。
 でも、ユリは用件を話さず、黙っているので、変な雰囲気になってしまい耐えられない。
「何か飲み物を持ってこようか」 僕が立ち上がるとパジャマを掴んできた。
「いい。座ってて」 仕方なく、再び腰を下ろす。
「ミハエル第三王子からブロポーズされたと聞いて、どう思った」
「そりゃ、おめでとうって思ったよ。王族になれば、きっと幸せになれるだろう」
「そうなんだ。私、魔王討伐直後は、結婚なんて全く考えてなかったんだよね。でも、最近、真剣に結婚して、子供を産んで、その子を育てて齢とっていくのも悪くないなと考えるようになった。本当をいうと、ブロポーズされるまでは、ユウスケに告白しようかなと考えていたんだ」
 僕は、嫉妬したと正直に話すべきだったのに、回答を誤ってしまったと気づいた。今からでも訂正しようと、どう話そうかと考えていると、ユリがまくし立てるように話し始め、思考がまとまらない。
「でも、ミハエル王子からブロポーズされて、ユウスケと家庭を持つのが本当に私の幸せなのかと考えるようになったんだよね。もう勇者としての仕事は終わったと思っていたけど、まだやるべきことがあるんじゃないかって。人間って強欲でしょう。ダンジョンが出現し始めて、プルキナス王国は戦争を止めたけど、フレイアの生まれ故郷のミリアミス共和国を侵略しようとしていた。トルスタン合衆国は世界制覇を狙っている。魔王という標的が無くなれば、また人間同士で争いあうに決まっている。征服戦争が再び起こる」
「まさか、回答を保留した理由って」
「ううん、回答保留したのは、ユウスケの顔が浮かんだから。でも、その後いろいろと考えて、今は王族になれれば、侵略戦争を抑えることができるのではないかと思ってる。国王は私の話はよく聞いてくれるし、リムナント殿下もきっと聞いてくれると思う。プルキナス王国だけが侵略戦争しなくても、世界は平和にならないのは分かってる。それでも隣国に侵略戦争を仕掛けないだけでも、絶対にいいでしょう。だから、今はプロポーズは受けようと思っている。ユウスケとの楽しかった時ももう御終い。これからは、ミハエル王子の妻として、一人で頑張っていくつもり」
 ユリはそう言って笑顔を向けて来た。真剣に考えての結論なら、もう僕が告白しても、覆ることはないだろう。

「初めて会った時の祐介って、実は死んだ私の兄貴にそっくりだったんだよね。兄がストラップを差し出してきたような気までして、まじまじと見つめちゃった」
「あのひよこのストラップって、お兄さんの思い出の品だったんだ」
「うん、思い出の品という程ではないけど、兄貴がくれたもの。私が高三のとき、ヒマラヤのメラピーク登山にいって、帰らぬ人になっちゃったけどね。だから、祐介のことは、最初から意識していたし、仲良くしたいと思ってた。まあ、召喚されてマッパだった時は、思わず、引っぱたいちゃったけど……。そういえば、恥ずかしくて謝ってなかったけど、あの時、ごめんなさい」
 その後も、一緒に訓練していて、兄みたいに何でもできる人だったので、どんどん好きになっていったとか、はしたないと思われたくなくて、大人しくしてたらストレスが溜まっていたとか、サイラス先生が虐め始めたと気づいて、首を絞めてやりたくなったとか、話してくれた。
「でも、その時はまだ日本から一緒に召喚された仲良しの友達位に思っていて、祐介に恋しているとは思ってなかったんだ。気づいたのは、雄介が、サイラス先生の特訓に耐えられなくなって、いなくなってから。手紙を見せられて、サイラス先生が追い出したんだと直ぐに分かったけど、その時は、逃げ出すなんて最低と失望した。だって、短時間で強くなるには厳しい特訓は不可欠だし、打ち身程度で、骨折したわけでもなかったでしょう。ユウスケなんて、さっさと忘れてしまおうと思ったくらい。でも、その日の夜辺りから私はおかしくなっていった。兄がヒマラヤで行方不明になったと聞いた時と同じに、胸が締め付けるように痛く苦しくなった。その時に漸く、あなたに恋をしているんだと自覚した。すると悲しくなって、それから数日泣き明かした。国王陛下に貴方の捜索もお願いした。といっても、真剣には探してくれなかったみたいで、見つかったと連絡が来たのは、一年以上も経ってからなんだけどね。それで、クリフト病院に飛んで行ったんだ。雄介を見た時は、思わず涙が溢れ出る程嬉しかった。でも、あなたは夢を叶えて、医師になっていて、生き生きとした目で働いていていた。それをみたら声を掛けられなくなった。だから、あなたの事はきっぱり諦めていたんだ」
 ユリがクリフト病院に、僕と会いに来ていたなんて、全く知らなかった。
「勇者一行のヒーラー候補に、あなたの名前を見つけた時は驚いた。医者ではなく、治癒剣士になってとして頑張っていて、しかも熟練度S。一緒に魔王討伐しようという私との約束を守るため、必死に頑張っていてくれたんだと思うと、嬉しくて涙が出た。まあ、詳細調査したら、暗殺者なんかもしていて、驚いたけどね。でも、一緒に旅をして、あなたは昔の儘だと分かった。鈴木祐介、私、あなたが大好きでした。一緒に旅ができ、一緒に魔王討伐でき、本当にうれしかった。ありがとう」
 再び、静寂が降り、変な雰囲気になったが、ユリの大好きという言葉が過去形になっていので、僕も大好きたったとは、もう言えなかった。

「変な告白しちゃって、ごめんなさい」ユリが立ち上がった。
「これからは、医者として頑張ってね。あなたのの活躍を耳にするのを楽しみにしているから」
 ここは抱き着いて、行かないでくれと引き留めるべきなのかもしれないが、僕には何もできなかった。


「ユウスケ、起きて」
 いろいろと考えて、なかなか眠れず、漸く眠れたと思ったら、早朝、僕はユリにたたき起こされた。
「国王が毒殺されたらしいの。あなたの治癒魔法が必要なの。早く来て」
 急いで着替えて、僕は国王の寝所へと向かったが、王城内はどこも大騒ぎだった。

 既に、宮廷医師も駆けつけていて、僕なんて必要なかったが、それでも国王の胃洗浄等を手伝った。
 発見された時には心肺停止状態だったという話だが、なんとか蘇生に成功し、一命はとりとめた。
 だが、心肺停止から発見されるまで、それなりの時間が経っていたみたいで、意識不明のままだ。

「ユウスケ、国王陛下の状態はどう」
 四人が、ずっと宮廷医師の手伝いをしていた僕の許にやってきた。
 僕は、席を離れる許可を貰い、人のいない所まで行ってから話した。
「言いづらいけど、もう意識は戻らないと思う。多分、脳死している。そっちはどう」
 ユリ達は、犯人探しに行っていたのだ。
 四人の話によると、毒は冷水ポットに仕込まれていて、そのボットを置いていったのは王妃だったのだが、王妃は「私の所為で国王陛下が死んでしまった」と半狂乱になって、話を聞ける状態ではなくなってしまったらしい。仕方なく、王妃付きの侍女から話を聞くと、そのポットに薬を入れたのは彼女だった。
 王妃は最近心配事から不眠症を患っていて、女官長から、よく効く睡眠薬だからと錠剤を手をされていて、冷水ポットにそのカプセル錠剤を入れるように指示され、その通りに従っただけだった。
 そこで、そのファエル女官長の許に出向いたのだが、既に彼女は部屋で自害していて、国王の暗殺だったのか、王妃の暗殺だったのかすら、分からず仕舞い。
 でも、王妃が国王の寵愛を受ける日だったことより、おそらく国王暗殺を企てたのだろうという見解で、ファエル女官長はこの国の上級貴族の出身であることより、王宮内の権力争いが原因とみているのだとか。
 
 魔王という脅威に怯えていた時は、一致団結していたのに、その脅威が去ると早速権力闘争とは、人間は本当に醜い生き物だ。
 
「ローラ、フレイア、ユウスケ。後は私達で何とかするから、気にしないで旅立って。私は、見送りにいけないので、これでお別れしましょう」
「でも、こんな状態なのに……」
「王族内の醜い権力争いを見せてしまってごめんなさいね。アーロンも国王親衛隊の一員となって、傍にいてくれるし、心配しないでも大丈夫。それじゃさようなら」

 そんな訳で、僕ら三人は王城から追い出され、僕は午前の便で、観光都市クラウスに向かう事にした。

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