31 / 43
第四章 魔王討伐が終わった後は
勝利はしたものの
しおりを挟む
転送が終わると直ぐ、ローラは包帯の様な布を取り出し、ユリの窪んだ眼を隠すように、顔に巻き始めた。
瞼を開けると気持ち悪い顔になるので、一応瞼を閉じるようにしてくれているのだが、それでもユリの顔が見るに堪えられない程醜いのだ。
「ここは何処だ」 ブリットが当たりをきょろきょろと見渡す。
「プルキナス王国のS級ダンジョンよ。何かの際に、ローラの転送魔法でここに戻ってこられるようにしていたの」ユリは包帯を結わいてもらいながら、説明した。
「そんな便利な魔法があったのか。この魔法陣がその鍵になってるのか」
「よく気づいたわね。魔法陣さえ、正確に描ければ……」
ユリの処理を終えたローラは、今度は眼帯を出してブリットに渡し、自慢げに古代魔法の講義を始めた。
講義は、長くなるに決まっているので、その間に、僕はフレイアの声帯を修復することにした。
「これで治ったと思う。声を出してみて」
「ありがとう。でも……」
低音のしゃがれ声ではなく女性の声になったが、別人の様な声だった。
声帯は厚さや硬さで、声が全く異なってしまうので、声が違ってしまうのだ。
壊すのは簡単でも、声帯を元に戻すのは至難だった。何回トライしてもうまく行かない。
「アイウエオアオ、カキクケコカコ、サシスセソサソ、うんいい感じ」
「よかった、なにか唄ってみて」
「神の~恵みよ♪ 恐れ~を払い♪ 心~を解いて♪ ……」
元の声にかなり近づけることはできたが、唄ってもらうとすこし違うと分かる。支援魔法を発動していた時のあの澄んだ心地よいソプラノではなかった。歌声は以前より明らかに劣る。
「綺麗な歌声だけど、もう魔力は感じないわね」
講義が終わったのか、ローラが歩み寄ってきた。
「どうすればいいんだろう。もう一回」
「ユウスケ、ありがとう。もういい。支援魔法は使えなくても、綺麗な声で歌える」
そう言ってくれたが、僕は自分が情けなくて仕方がなかった。
「ブリット、これからどうするんだ」
向うではアーロンがブリットに話しかけていた。僕らも彼らの許に歩み寄る。
「そうだな、片目だと戦闘はもう無理だからな。牧師にでもなって、リブルス、ミシェル、ボルドー、ダニエルを弔って過ごすかな。まだ、ダニエルは異空間で生きてる可能性はあるけどな」
「私たちの国で、一緒に暮らさない」
「いや、遠慮しておくよ。トルスタンに帰れば、自由の身は保証されているし、莫大な金がもらえる。これでも知り合いも結構いるんでね」
「そう。折角仲良く分かりあえたのに残念ね。で、ボルドーさんの御遺体はどうするつもり?」
「悪いが火葬してくれ。俺たちの国では、貴族以外は埋葬しないんだ」
プルキナスでは、死者を火炙りの刑に掛けるのかと、火葬を忌み嫌っていたので、広大な土地を持つトルスタンが火葬を採用している事は意外だった。
そんな訳で、ボルドーを火葬するための準備をすることになったが、ほとんどはローラがしてくれた。
ローラがボルドーに化粧を施し、ローラが出した花畑に彼を寝かせて、皆で別れの挨拶をしてから、ローラが防火防壁で覆う。
防火防壁は、業火の熱が辺り漏れないようにするためだが、焼かれて行く様子を見えなくする意味もある。
「では、火葬を開始します」 ローラが杖を構えて、今日は呪文も詠唱した。
皆が黙祷したり、手を合わせたりして、火葬が終わるのを待つが、防火防壁を展開していてもかなり熱い。
フレイアは、僕の知らない讃美歌を唄い始めた。心が落ち着いていく心地よい歌だが、ローラは爆炎魔法を発動しながら、悲しそうな目を向けていた。
「ユウスケは気にする必要ない。この綺麗な歌声なら、夢は叶えられると思うから」
僕が申し訳なさそうにしていたのを見て、ユリが慰めてくれた。
その後、防火防壁を解除したが、火力が強すぎたのか骨が残っていなかった。これじゃ収骨できない。
「御免。これじゃ骨を持ち帰れないね」
「そんなものは必要ない。火葬した証拠さえあればいいんだ」
灰になってしまっボルドーを一握りして、ブリッドは祈りを捧げるようにしてから布袋にいれた。
「いろいろと、ありがとうな。じゃあ俺は行く」
「落ち着いたら、必ず、連絡頂戴ね。プルキナス王国王城宛、勇者ユリで届くはずだから」
「ああ、必ず、連絡するよ。お前らも元気でな」
ブリッドは、そう言って、魔界ゲートを潜って行った。
「じゃあ、私たちもいきましょうか」
「ユリ、その前に……。これ作ってみたんだけど、どうかな」
ローラがローブのポケットから、箱を取り出し、その蓋を開けた。
その箱に中には、黒い瞳のガラス製の眼球が二つあった。火葬の際もずっと働いていたので、何時作ったのだろうと疑問が湧いたが、いいアイデアだ。目の上に包帯をして、かなりましになったが、それでも、その包帯が窪んでいて、眼球がない状態がまるわかりで、見た目が悪い。
だが、僕がそれに触れて、これではだめだと分かった。折角作ってくれたのに、ガラス製だと変形困難のため、目の中に入れるができないのだ。
通常の義眼は、眼球に当たるものが残存している場合が多く、コンタクトレンズの様に、白目を含むカバーゴムをその上に被せる。眼球毎喪失した場合は、眼球部にあたる義眼台と呼ばれる球体型ゴムを先にいれ、その上に、義眼のカバーゴムを被せる。眼球は、眼窩という目の窪みよりわずかに大きく、変形可能な素材でないと入れられないのだ。
「ローラ、流石にこんな硬いガラスだと、押し込むことはできないよ」
「ユウスケなら可能。心霊手術のスキルが増えてる」フレイアがそんなことを言った。
魔王に止めを刺したのは、ユリの勇者の力だったので、強欲のスキルは発動しないと思っていたが、僕が止めを刺したことになっていたみたいだ。
「他のスキルは?」
「それだけ。使い方はわからないけど、ユウスケならできるはず」
「いきなりは……」
どう使うかが全く分からないし、そもそも、心臓や眼球を取り出したのが、心霊手術スキルによるものかすら分からない。
「ユウスケ、お願い。私を実験体にしていから、これを入れて見てくれる」
スキル発動方法の見当すらつかないが、ユリを昔の様な顔に戻せるならと、頑張ることにした。
とりあえず、魔王ファセルがしていたように、眼球を親指と人差し指で挟んで、包帯を取った彼女の窪んだ瞼に押し付けるようにして、元々の彼女の顔をイメージして、そうなってくれと念じてみた。
すると、指で掴んでいた筈の眼球が消え、瞼が目を閉じている時の様に膨らんだ。
「やればできるじゃない」 ローラに褒められた。
ユリが目を開けると、右目はちゃんとしていたが、左目の瞼も開くので、何とも不気味だ。
僕は再び目をとじてもらい、左目も無事きちんと中に入れることができた。
「ローラ、ユウスケ、ありがとう。これで、皆に心配かけずに済むわ」
その笑顔は、あの可愛いユリに戻っていて、僕もとても嬉しかったが、やはり不自然だ。
片方だけが動かない片目義眼よりは、気づかれずに済むのは確かだが、視線が固定されているので、真正面の人と話しながら、こっちを向いて話しかけたりすると、視線がこっちを向かないのだ。眼球が動かないだけで、かなり不自然になる。
それに、目が見えないのは、代わらない。気配感知スキルで、目が見えている様に振舞ってはいるが、彼女は一生、美しい景色を眺めることも、読書をすることもできないのだ。
僕が魔王に見つからないようにゆっくりと動いたために、両目を代償に二人を助ける選択をさせてしまった。そう思うと、辛くてならなかった。
「じゃあ、王城に、報告に帰りましょうか」
僕が落ち込んで後悔している事を悟ったのか、笑顔を向けてそう言ってくれ、僕らは王都に向かって戻ることになった。
気配感知は、トラップ位置だけでなく、段差や障害物等も分かるのか、普通に目が見えているかのように、歩いていたが、静止物は完全には把握できないのか、時々、行動が慎重になり、何回か躓いて、転びそうになった。
それでも、僕が手を貸そうとすると睨まれる。負けず嫌いなので、素直に助けてもらうのができないのだ。
ダンジョンからリットまでは徒歩での移動だったが、ダンジョン内よりも躓くことが多くなった。平地だと安心して気配感知の注意がまわらなくなっているのか、ちょっとしたでっぱりの石があると、必ずというほど、躓くのだ。
「そこに石」 流石に自分でも、助けが必要だと悟ったのか、僕が指示をだしても睨まなくなった。
でも、ユリは絶対に僕に感謝はしない。僕にだけは素直にならない。
リットの街に帰還すると、管理局職員を名乗るローリエという名の若い女性が、息を切らして駆け寄ってきた。
「勇者さま、ミッシェル国防大臣から、至急連絡を欲しいと、通信機を預かっております」
彼女は目の前に、両手で通信魔具を差し出した。スマホ程コンパクトではないので、両手で差し出したのだが、ユリはそれをつかみ損ねた。
大きさは昔の電話の受話器位だが、その端っこを掴み、そのまま落として割れ、壊れてしまったのだ。
「申し訳ありませんでした」
「気にしなくても、いい。私のミスだから」
はやり目が見えないと、問題が起きる。
「ユリ、大丈夫よ。私が元に戻して見せるから」
ローラが魔法を発動すると、壊れた通信魔具が元通りに戻った。こんな便利な魔法もあるのかと感心したが、また延々と自慢して講義してくると思って、褒めないことにした。
通話回線選択くらいは、ユリでも手探りでできそうだが、ローラは回線を繋いでから、ユリに手渡した。
「うん、もう大丈夫。全滅の危機だったけど、ユウスケが頑張ってくれて、何とか討伐できたから。…………。うん、魔物が溢れない程度に討伐しておけば、もう心配ないと思う。…………。分かった。それじゃ、詳細は帰還してからということで」
ユリが電話を切ると、ローリエという管理局職員が満面の笑みを浮かべた。
「勇者さま、魔王討伐に成功したんですか」
「こっちも被害甚大だったけど、なんとかね」
「今晩は、ここに泊って行ってください。祝勝会の準備をしますので」
「直ぐに戻らないとならないから……」 ローリエは話も聞かずに駆け出して行った。
「ところで、大臣からは何だったんだ」 アーロンが尋ねる。
「ルクナス近郊に、S級ダンジョンと思われる巨大ダンジョンが出現したんだって」
ルクナスとは、王国の南西に位置するミリアミス共和国国境付近の都市だ。
「確かに、そんなのが出現したら、どう対処すべきか大騒ぎするわよね」
「もう魔王はいない。魔人が進行してくることはないはず」
「うん、でも魔物は内部で勝手に増えていくから、討伐しないと魔物が溢れ出てくることには変わらない。今後、S級も各地にどんどん出現するから、当分気を抜けない」
「やれやれ、当分、勇者一行としての活動は終わらないという事か」
「ボク、もう役立たず。どうしよう」
「フレイヤは支援魔法が使えなくても、十分な戦力よ」
魔王討伐が終わっても、まだまだ、ダンジョンに潜る必要があるみたいだ。
やれやれと思うと同時に、まだまだ皆と離れ離れにならなくて済むという安堵も感じていた。
瞼を開けると気持ち悪い顔になるので、一応瞼を閉じるようにしてくれているのだが、それでもユリの顔が見るに堪えられない程醜いのだ。
「ここは何処だ」 ブリットが当たりをきょろきょろと見渡す。
「プルキナス王国のS級ダンジョンよ。何かの際に、ローラの転送魔法でここに戻ってこられるようにしていたの」ユリは包帯を結わいてもらいながら、説明した。
「そんな便利な魔法があったのか。この魔法陣がその鍵になってるのか」
「よく気づいたわね。魔法陣さえ、正確に描ければ……」
ユリの処理を終えたローラは、今度は眼帯を出してブリットに渡し、自慢げに古代魔法の講義を始めた。
講義は、長くなるに決まっているので、その間に、僕はフレイアの声帯を修復することにした。
「これで治ったと思う。声を出してみて」
「ありがとう。でも……」
低音のしゃがれ声ではなく女性の声になったが、別人の様な声だった。
声帯は厚さや硬さで、声が全く異なってしまうので、声が違ってしまうのだ。
壊すのは簡単でも、声帯を元に戻すのは至難だった。何回トライしてもうまく行かない。
「アイウエオアオ、カキクケコカコ、サシスセソサソ、うんいい感じ」
「よかった、なにか唄ってみて」
「神の~恵みよ♪ 恐れ~を払い♪ 心~を解いて♪ ……」
元の声にかなり近づけることはできたが、唄ってもらうとすこし違うと分かる。支援魔法を発動していた時のあの澄んだ心地よいソプラノではなかった。歌声は以前より明らかに劣る。
「綺麗な歌声だけど、もう魔力は感じないわね」
講義が終わったのか、ローラが歩み寄ってきた。
「どうすればいいんだろう。もう一回」
「ユウスケ、ありがとう。もういい。支援魔法は使えなくても、綺麗な声で歌える」
そう言ってくれたが、僕は自分が情けなくて仕方がなかった。
「ブリット、これからどうするんだ」
向うではアーロンがブリットに話しかけていた。僕らも彼らの許に歩み寄る。
「そうだな、片目だと戦闘はもう無理だからな。牧師にでもなって、リブルス、ミシェル、ボルドー、ダニエルを弔って過ごすかな。まだ、ダニエルは異空間で生きてる可能性はあるけどな」
「私たちの国で、一緒に暮らさない」
「いや、遠慮しておくよ。トルスタンに帰れば、自由の身は保証されているし、莫大な金がもらえる。これでも知り合いも結構いるんでね」
「そう。折角仲良く分かりあえたのに残念ね。で、ボルドーさんの御遺体はどうするつもり?」
「悪いが火葬してくれ。俺たちの国では、貴族以外は埋葬しないんだ」
プルキナスでは、死者を火炙りの刑に掛けるのかと、火葬を忌み嫌っていたので、広大な土地を持つトルスタンが火葬を採用している事は意外だった。
そんな訳で、ボルドーを火葬するための準備をすることになったが、ほとんどはローラがしてくれた。
ローラがボルドーに化粧を施し、ローラが出した花畑に彼を寝かせて、皆で別れの挨拶をしてから、ローラが防火防壁で覆う。
防火防壁は、業火の熱が辺り漏れないようにするためだが、焼かれて行く様子を見えなくする意味もある。
「では、火葬を開始します」 ローラが杖を構えて、今日は呪文も詠唱した。
皆が黙祷したり、手を合わせたりして、火葬が終わるのを待つが、防火防壁を展開していてもかなり熱い。
フレイアは、僕の知らない讃美歌を唄い始めた。心が落ち着いていく心地よい歌だが、ローラは爆炎魔法を発動しながら、悲しそうな目を向けていた。
「ユウスケは気にする必要ない。この綺麗な歌声なら、夢は叶えられると思うから」
僕が申し訳なさそうにしていたのを見て、ユリが慰めてくれた。
その後、防火防壁を解除したが、火力が強すぎたのか骨が残っていなかった。これじゃ収骨できない。
「御免。これじゃ骨を持ち帰れないね」
「そんなものは必要ない。火葬した証拠さえあればいいんだ」
灰になってしまっボルドーを一握りして、ブリッドは祈りを捧げるようにしてから布袋にいれた。
「いろいろと、ありがとうな。じゃあ俺は行く」
「落ち着いたら、必ず、連絡頂戴ね。プルキナス王国王城宛、勇者ユリで届くはずだから」
「ああ、必ず、連絡するよ。お前らも元気でな」
ブリッドは、そう言って、魔界ゲートを潜って行った。
「じゃあ、私たちもいきましょうか」
「ユリ、その前に……。これ作ってみたんだけど、どうかな」
ローラがローブのポケットから、箱を取り出し、その蓋を開けた。
その箱に中には、黒い瞳のガラス製の眼球が二つあった。火葬の際もずっと働いていたので、何時作ったのだろうと疑問が湧いたが、いいアイデアだ。目の上に包帯をして、かなりましになったが、それでも、その包帯が窪んでいて、眼球がない状態がまるわかりで、見た目が悪い。
だが、僕がそれに触れて、これではだめだと分かった。折角作ってくれたのに、ガラス製だと変形困難のため、目の中に入れるができないのだ。
通常の義眼は、眼球に当たるものが残存している場合が多く、コンタクトレンズの様に、白目を含むカバーゴムをその上に被せる。眼球毎喪失した場合は、眼球部にあたる義眼台と呼ばれる球体型ゴムを先にいれ、その上に、義眼のカバーゴムを被せる。眼球は、眼窩という目の窪みよりわずかに大きく、変形可能な素材でないと入れられないのだ。
「ローラ、流石にこんな硬いガラスだと、押し込むことはできないよ」
「ユウスケなら可能。心霊手術のスキルが増えてる」フレイアがそんなことを言った。
魔王に止めを刺したのは、ユリの勇者の力だったので、強欲のスキルは発動しないと思っていたが、僕が止めを刺したことになっていたみたいだ。
「他のスキルは?」
「それだけ。使い方はわからないけど、ユウスケならできるはず」
「いきなりは……」
どう使うかが全く分からないし、そもそも、心臓や眼球を取り出したのが、心霊手術スキルによるものかすら分からない。
「ユウスケ、お願い。私を実験体にしていから、これを入れて見てくれる」
スキル発動方法の見当すらつかないが、ユリを昔の様な顔に戻せるならと、頑張ることにした。
とりあえず、魔王ファセルがしていたように、眼球を親指と人差し指で挟んで、包帯を取った彼女の窪んだ瞼に押し付けるようにして、元々の彼女の顔をイメージして、そうなってくれと念じてみた。
すると、指で掴んでいた筈の眼球が消え、瞼が目を閉じている時の様に膨らんだ。
「やればできるじゃない」 ローラに褒められた。
ユリが目を開けると、右目はちゃんとしていたが、左目の瞼も開くので、何とも不気味だ。
僕は再び目をとじてもらい、左目も無事きちんと中に入れることができた。
「ローラ、ユウスケ、ありがとう。これで、皆に心配かけずに済むわ」
その笑顔は、あの可愛いユリに戻っていて、僕もとても嬉しかったが、やはり不自然だ。
片方だけが動かない片目義眼よりは、気づかれずに済むのは確かだが、視線が固定されているので、真正面の人と話しながら、こっちを向いて話しかけたりすると、視線がこっちを向かないのだ。眼球が動かないだけで、かなり不自然になる。
それに、目が見えないのは、代わらない。気配感知スキルで、目が見えている様に振舞ってはいるが、彼女は一生、美しい景色を眺めることも、読書をすることもできないのだ。
僕が魔王に見つからないようにゆっくりと動いたために、両目を代償に二人を助ける選択をさせてしまった。そう思うと、辛くてならなかった。
「じゃあ、王城に、報告に帰りましょうか」
僕が落ち込んで後悔している事を悟ったのか、笑顔を向けてそう言ってくれ、僕らは王都に向かって戻ることになった。
気配感知は、トラップ位置だけでなく、段差や障害物等も分かるのか、普通に目が見えているかのように、歩いていたが、静止物は完全には把握できないのか、時々、行動が慎重になり、何回か躓いて、転びそうになった。
それでも、僕が手を貸そうとすると睨まれる。負けず嫌いなので、素直に助けてもらうのができないのだ。
ダンジョンからリットまでは徒歩での移動だったが、ダンジョン内よりも躓くことが多くなった。平地だと安心して気配感知の注意がまわらなくなっているのか、ちょっとしたでっぱりの石があると、必ずというほど、躓くのだ。
「そこに石」 流石に自分でも、助けが必要だと悟ったのか、僕が指示をだしても睨まなくなった。
でも、ユリは絶対に僕に感謝はしない。僕にだけは素直にならない。
リットの街に帰還すると、管理局職員を名乗るローリエという名の若い女性が、息を切らして駆け寄ってきた。
「勇者さま、ミッシェル国防大臣から、至急連絡を欲しいと、通信機を預かっております」
彼女は目の前に、両手で通信魔具を差し出した。スマホ程コンパクトではないので、両手で差し出したのだが、ユリはそれをつかみ損ねた。
大きさは昔の電話の受話器位だが、その端っこを掴み、そのまま落として割れ、壊れてしまったのだ。
「申し訳ありませんでした」
「気にしなくても、いい。私のミスだから」
はやり目が見えないと、問題が起きる。
「ユリ、大丈夫よ。私が元に戻して見せるから」
ローラが魔法を発動すると、壊れた通信魔具が元通りに戻った。こんな便利な魔法もあるのかと感心したが、また延々と自慢して講義してくると思って、褒めないことにした。
通話回線選択くらいは、ユリでも手探りでできそうだが、ローラは回線を繋いでから、ユリに手渡した。
「うん、もう大丈夫。全滅の危機だったけど、ユウスケが頑張ってくれて、何とか討伐できたから。…………。うん、魔物が溢れない程度に討伐しておけば、もう心配ないと思う。…………。分かった。それじゃ、詳細は帰還してからということで」
ユリが電話を切ると、ローリエという管理局職員が満面の笑みを浮かべた。
「勇者さま、魔王討伐に成功したんですか」
「こっちも被害甚大だったけど、なんとかね」
「今晩は、ここに泊って行ってください。祝勝会の準備をしますので」
「直ぐに戻らないとならないから……」 ローリエは話も聞かずに駆け出して行った。
「ところで、大臣からは何だったんだ」 アーロンが尋ねる。
「ルクナス近郊に、S級ダンジョンと思われる巨大ダンジョンが出現したんだって」
ルクナスとは、王国の南西に位置するミリアミス共和国国境付近の都市だ。
「確かに、そんなのが出現したら、どう対処すべきか大騒ぎするわよね」
「もう魔王はいない。魔人が進行してくることはないはず」
「うん、でも魔物は内部で勝手に増えていくから、討伐しないと魔物が溢れ出てくることには変わらない。今後、S級も各地にどんどん出現するから、当分気を抜けない」
「やれやれ、当分、勇者一行としての活動は終わらないという事か」
「ボク、もう役立たず。どうしよう」
「フレイヤは支援魔法が使えなくても、十分な戦力よ」
魔王討伐が終わっても、まだまだ、ダンジョンに潜る必要があるみたいだ。
やれやれと思うと同時に、まだまだ皆と離れ離れにならなくて済むという安堵も感じていた。
21
お気に入りに追加
165
あなたにおすすめの小説
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
異世界転移の……説明なし!
サイカ
ファンタジー
神木冬華(かみきとうか)28才OL。動物大好き、ネコ大好き。
仕事帰りいつもの道を歩いているといつの間にか周りが真っ暗闇。
しばらくすると突然視界が開け辺りを見渡すとそこはお城の屋根の上!? 無慈悲にも頭からまっ逆さまに落ちていく。
落ちていく途中で王子っぽいイケメンと目が合ったけれど落ちていく。そして…………
聞いたことのない国の名前に見たこともない草花。そして魔獣化してしまう動物達。
ここは異世界かな? 異世界だと思うけれど……どうやってここにきたのかわからない。
召喚されたわけでもないみたいだし、神様にも会っていない。元の世界で私がどうなっているのかもわからない。
私も異世界モノは好きでいろいろ読んできたから多少の知識はあると思い目立たないように慎重に行動していたつもりなのに……王族やら騎士団長やら関わらない方がよさそうな人達とばかりそうとは知らずに知り合ってしまう。
ピンチになったら大剣の勇者が現れ…………ない!
教会に行って祈ると神様と話せたり…………しない!
森で一緒になった相棒の三毛猫さんと共に、何の説明もなく異世界での生活を始めることになったお話。
※小説家になろうでも投稿しています。
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
スキルを極めろ!
アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作
何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める!
神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。
不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。
異世界でジンとして生きていく。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる