凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造

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第三章 魔王討伐という名の試練

代償が大きすぎる

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 僕が、魔王ファゼルに襲い掛かると決めた次の瞬間、ブリッドがナイフで、魔王に襲い掛かった。
 ブリッドは、四人を助けるために、降参した振りをしただけだった。
 
 魔王はその攻撃をさっと交したが、その場を動いた。これで、空気遮断は解除される。
 そう思ったが、四人はまだ苦しそうで、フレイアはついに意識を失いその場に倒れてしまった。
 僕は気づかれない様にゆっくりと、フレイアの許に歩み寄る。

「空気遮断のスキルは、その場を動けば解除されますが、私の魔法は、私が解除命令を出さない限り、解除されなんですよ」
「ぎゃあ、目が、目が」 魔王がダニエルの顔に手を当てたと思ったら、ダニエルがわめき出した。
 何をしたのか全く分からないが、魔王の親指と人差し指の間に、目球が一つあった。
「どこにでもある緑色の瞳ですね。降参した振りして、攻撃なんてしてくるから、罰を与えたまでですよ」
 魔王は、その目玉を指で変形させていき、バンと破裂させた。
「でも、皆を助けようという心意気に免じて、魔法は解除してあげましょう」
 その途端、三人は、はぁはぁと荒い息遣いを始めた。
 フレイアの心臓は動いていたので、僕はそのまま人工呼吸すると、ゴホゴホとフレイアも目を覚ました。

「ローラ、アーロン、いける?」
「ああ」「勿論」
 ローラは重力魔法を発動させたのか、魔王は突然、膝をついた。
 すかさず、ユリがホーリーフラッシュで目くらましして、アーロンが兜割りする様に、脳天から斧を振り下ろす。
 だが、その斧は魔王に傷一つ与えられなかった。頭上五センチ程の所で、カキンと金属音がして、斧がはじかれたのだ。どうやら、見えない防壁を展開したらしい。
「見事な連携攻撃ですね。斧攻撃は全く見えませんでしたよ」
 重力魔法も解除したのか、魔王は余裕で立ち上がった。
 ユリは、剣で素早く切りつけ始めたが、やはり紙一重で交わし、攻撃が当たらない。

 それを見て、フレイアが疾風の歌を唄い出したが、その声はいつもと違い、ハスキー声になっていた。
「ああ、なかなかに不気味能力なんでね。声帯を変質させてもらいました」
 細胞変質まで発動していたらしい。声は後で僕の細胞変質でもどせるはずだが、今は歌によるバフ支援は期待できない。
 アーロンが斧無双を発動したが、軽く跳躍して交し、飛び込んだユリの攻撃も、片手で刃を挟む様にして止めた。それを見て、ローラが杖を構えたが、なぜか、彼女はフレイアの方を向く。

「フレイア、逃げて。どうやら魅了に掛かったみたい」
 ローラは、フレイアに対し、氷礫の集中攻撃を始めた。フレイアは、軽業師の様にバク転して、回避するが、範囲攻撃なので、無数の傷を負っていく。
 僕はヒールを発動すべきか悩んだが、何とかしてくれる筈と、仲間を信じた。
「ぐうっ」
 次の瞬間、ユリがローラの鳩尾に拳を打ち込み、フレイアへの攻撃を中断させた。
「しっかりしなさい。もう一発、必要?」
「大丈夫。魅了は解除されたみたい」
「魔王の目には要注意よ」

 次の瞬間、魔王が何かに押されているかのように、壁のない奥の先まで押し込まれて行き、空中に放り出された。ダニエルが念力を発動したらしい。
「私の知らない水平方向への重力魔法だと思っていたら、精神エネルギーでしたか。分からなかった筈だ。実に興味深い」
 彼は浮遊魔法も使えるのか、空中に浮かんだまま落下していかない。
「あとで、解剖して調査したいので、あなたは異次元に収納することにしましょう」
 ブラックホールの様な黒い穴が出現し、ダニエルはその中に吸い込まれて消えた。
「くそ、ダニエルもか」
 ブリッドはナイフで襲い掛かるが、片目だと攻撃は当たらない。死角もできるので、足を掛けられ、転びそうになって、態勢を崩し、そのまま後ろから蹴られ、床から落ちそうになる。そして、止めとばかりに軽く背中を押し、ブリットは落ちたが、なんとか、床を掴んでぶら下がり、落下を免れた。
 魔王は、ぶら下がっているブリッドを上から見落ろす。
「力がでないでしょう。腕の筋肉を変質させました。もう這い上がる力もでないでしょう。そのまま力尽きて、落ちてしまいなさい」
 そういって、ゆっくりと振り向いてきて、僕は動きを止めた。ブリッドを助けようと、ゆっくりと近づいていたからだ。幸い、魔王は僕に気づかなかった。
「面白いので、全員、ぶらさがってもらいましょうか」
 そういって、今度は、アーロンの許に飛び込んで、彼に集中攻撃して、壁のない端に追い込んでいく。
 その間に、僕はブリットに小声で「チャンスが来るまで、ぶら下がっていて」と囁いて、彼の腕の腕の細胞変質を治し、再び透明化する。

 アーロンは既に床の端まで追い詰められていて、中央に戻ろうとするが、させてもらえない。
 そのままお腹を蹴られて、浮き飛ばされてしまった。だが、魔王は、態と植物魔法で作った鞭で引き寄せ、壁にぶら下がる様にして、再び、アーロンを見下ろす。おそらく、アーロンにも細胞変質を掛けたに違いない。

「さて、残りは女性三名ですか」 フレイアが女性だというのも見抜いていた。
「あなたたち二人は、そこで悶絶していなさい」 ローラは急にその場にしゃがみ込み、ハアハアと粗い息をし始めた。ユリも、その場から動けなくなり、足をプルプルと生まれたての小鹿の様に震わせている。
 どうやら、あの官能攻撃を受けてしまったらしい。
 そして、魔王は、フレイアを魔法の礫攻撃で、逃げ場を絞る様にして、どんどん床の端へとおいこんでいく。フレイアは、既に細胞変質を掛けられているのか、腕をだらんと下げたまま、腕を自由に動かせなくなっていた。
 最後は、放水攻撃で、床に掴まれるように圧力調整して、外に落とした。

「あなたは最も扱いやすいですね」 そう言って彼女の顎を持ち上げて目を見つめる。
「さあ、さっさとぶら下がりにいきないさい」
 ローラはまた魅了にかかってしまったのか、自ら歩いて、床にぶら下がった。
「後は、勇者ユリ一人ですね。さあ、どうします。腕の筋肉は細胞変質していてぶら下がることしかできません。いつまで、頑張ってぶら下がっていられるんでしょうね」
「分かった。降参する。だから、皆を助けて」
「懸命な決断です。ですが、助けるには代償を支払ってもらわなければならない。その黒い瞳は始めて見る素晴らしい瞳です。その目と引き換えに一人を助けましょう」
「フレイアとローラを助けて」
 僕が、フレイアの方にゆっくりと移動しているのを気配感知で気づいているのか、そういって、聖剣を僕の方に放り投げてきた。この聖剣で、魔王を殺せと言っているかのようだ。
「いいでしょう」
 魔王は彼女の右目の前に手をかざして触れると、彼女の目が窪み、その眼球は魔王の手に移っていた。
「本当に綺麗な瞳です」 魔王はもう一度その眼球を眺め、小さな黒い空間を作って、その空間内にしまった。もう一つの目玉も、同様に奪われた。

 そして、フレイアとローラを順に植物魔法で助け出している時、僕はそっと聖剣を拾い上げ、魔王の背後から魔王の心臓目掛けて、金剛突きを発動した。
「今だ。魔王を仕留めろ」 ブリッドとアーロンにも、声を掛ける。
「とっくに落ちたものと思っていたが、油断した」
 魔王は、僕の方を振り向いて、物凄い形相で睨みつけた。
 確実に心臓を貫いている筈だが、魔王は、その剣先を持って、物凄い力で、押し返し始めた。
 ブリットとアーロンがよじ登ってきたが、ユリがいち早く僕の許に駆け寄り、剣を握る僕の手に触れて来た。
 次の瞬間、剣がまばゆい光を放った。
「目が見えない筈だのに……。ゴホッ」
 魔王はまだ絶命してはいなかったが、剣が突き刺さった箇所から、塵になって行き、魔王の身体に穴が開き、その穴がどんどん広がっていき、程なく全身が塵となって消え去った。
「ユウスケ、よく我慢したわね。作戦勝ちよ。私たちの勝利。皆、大丈夫?」
 ユリは、笑顔でそういったが、その両目は大きく窪んだままだ。
「ユリ、その目はどうしたの」 ローラも魅了が解けた様で、漸く彼女の眼球がないことに気が付いた。

「ダニエルは? 奴が死んだのに、どうして戻ってこない」
 片目になったブリッドは、必死に辺りを探し回ったが、どこにもその姿が無かった。

 悲願の魔王討伐を成し遂げたのに、被害が大きすぎて、素直に喜べない。

「やっぱり、開かない」
 爆発から免れた魔王の部屋の入り側のドアを開けようとしていたフレイアが、ハスキーボイスでそう告げた。
「まずい、城が崩れ始めた」
 斧を落として、階下をみつめていたアーロンがそんなことを言ってきた。
「今すぐ、魔法陣を書くから」
 ローラは、地面に転送魔法陣をその杖で描き始めた。

 僕も床の端から、階下をながめたが、一階から順に崩落していた。早くしないと、ここも崩落し、僕らは地面に叩きつけられる。
 
「もうすぐ完成する。全員集まって」
 僕とアーロンは、ボルドーの遺体も引っ張って行き、全員が魔法陣に集まった。

 次の瞬間、僕らは光に包まれ、S級ダンジョン五十階層の魔界ゲート前の魔法陣の上に立っていた。

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