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第三章 魔王討伐という名の試練

四天王ぺセププはやはり強かった

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 右第二砦から徒歩で、一時間程、北西に進むと、次第に気温があがり、断崖絶壁にたどり着いた。絶壁の遥か下には、どろどろの溶岩が流れている。魔王城は、その溶岩で囲まれた絶壁の先端部にあるのだそう。

 絶壁に沿って、更に二時間ほど歩くと、その魔王城が見えて来た。岬の先端にオーロラの様なベールに包まれた魔王城が聳えている。
 その岬の入り口にも城のよう砦があった。四天王ぺセププの守る最終砦だ。他の砦とは異なり、左右の断崖絶壁に繋がる巨大城壁を備え、中央に閉ざされた巨大な門がある。
 城壁は十メートルの高さがあり、門を開けてもらわないと、不可視スキルで潜入調査することもできない。
「これじゃ、偵察もできない」
「ぺセププに開けてもらえばいいのよ」
 ユリはそう説明して、すたすたと門の前まで進んでいく。皆も当然だとばかりに歩みをすすめ、僕も皆についてくしかなかった。

 すると、門が勝手に少し開き始め、なんとブリット達、トルスタン合衆国魔王討滅隊の三人が飛び出してきた。
「はぁはぁ、とんでもない化け物だ。お前たち、あんなぺセププと互角にやりあったのか。はぁはぁ」
 全員、無傷に思えたが、こっ酷くやられてきたらしい。
「ポーションが底をついた。悪いが、分けてくれないか。お前らが、リブルスをやった所為でこんなになったんだから、かまわないだろう」
 仕方がないので、三人に順番に万能リジェネを掛けてやった。五分もすれば、体力全開する筈だ。
 フレイアも、三人にポーションを二つずつ分けてあげていた。
「俺たちも、体力回復してから、再戦するつもりだが、ここはお前たちに先を譲る。眷属の魔人は俺たちが倒しておいたらか、感謝しろよ」
 魔人が眷属となることはないとの話なので、バンパイアの様な人型魔物だと思うが、そんなことはどうでも良い。
「ぺセププは私達で必ず倒すから安心しなさい。じゃあ、乗り込むわよ」
 門は、再び締まり始めていたが、僕たち五人は、三人をその場に残し、最終砦の中に入って行った。

 僕は直ぐに全員に万能リジェネを掛け、フレイアも歩きながら歌を唄い戦闘準備を済ませた。
 その通路上に、骸骨が二体転がっていた。
「人の骸とは違う。魔人の亡骸」
「あいつら、本当に魔人二体をほふってたか」
「ぺセププが他の魔人と手を組むなんて信じられないけど、これを見るとね」
「空気遮断のスキルのお蔭で、勝ってきたと思っていたけど、相当な実力の持ち主ね」
 ローラは彼ら三人との死闘を経験してないので、その強さを信じていなかったらしい。
 だが、僕らと戦った時の実力からすると、少しおかしい気がする。
 新四天王になれなかった弱い魔人だとしても、魔人は魔人。精鋭五人に匹敵する。その魔人二人を同時に相手して、たったの三人で、無傷で倒している。僕とアーロンとフレイア三人で戦ったら、おそらく互角、むしろ押されるくらいの状態になるだろう。どうやって倒したのかは痕跡が残っていないので分からないが、僕らとの戦いではみせていない必殺技を隠しているのかもしれない。
 そんなどうでもいいことまで考えてしまった。

 通路を更に進むと、コロシアムの様な円形闘技場にでた。奥側にも出口があり、鉄格子の門で閉ざされていて、その門に向かってゆっくりと歩みを進めていた男が、僕らに気づいて、振り向いた。
「おや、誰かと思えば、あなた達でしたか」
 ぺセププは、黒革のベストに黒ズボン、黒ブーツに、襟を立てた黒マントを羽織った黒ずくめだった。黒人には違いないが、服が真っ黒で、肌はそれほど黒くないので、日焼けした普通の人間にしか思えない。
 僕は、早速、そのぺセププに向け、空気遮断を発動した。
「ええっと名前は……」
「勇者ユリ」
「そうそうユリさんでした。名前は忘れないと口にしたのに失礼しました。でも、今度こそ忘れません。あれほどこっ酷く叩きのめしてあげたのに、性懲りもなく再戦に来るんですから、見上げたものです。そういう人間は大好きですよ」
「前回は不覚にも、退散せざるを得なくなったけど、今日はマシュウスの仇をとって、ここを通してもらうから」
「ああ、あの時の治癒士ですか。殺すつもりはなかったんですが、予想以上に脆くてね。でも今度の治癒士は、もっと脆そうですね。殺さないように注意してあげます」
 僕を見て、そう言ってきたので、この魔人も鑑定スキルを持っているのかもしれない。
「では、全力で行きます」
 ユリが作戦通りに、猛攻撃をしかけ、フレイアと、アーロンが僕の前に立って、防御態勢をとる。
 魔人はユリの攻撃を余裕で交わしていたが、急に僕に視線を向け、動きが鈍り、ユリの剣を浴び始める。ローラも今だとばかりに、雷撃範囲魔法攻撃を仕掛けて、ダメージを与える。
「空気遮断だと。油断した」
 次の瞬間、僕は吹っ飛ばされていた。高速移動で、盾役のフレイアとアーロンとの間をすり抜けて、僕の鳩尾に正拳突きを当てたのだ。事前に聞いてはいたが、信じらない程の移動速度で、その一撃も巨大ハンマーで殴られたように重く、苦しくて眩暈がして、意識を保っていらない程だ。

 でも、酸欠状態で、あんな酸素消費の激しい攻撃を繰り出したので、ぺセププの方も膝をついて、ハァハァと激しい息遣いになる。
 今だとばかりに、アーロンの新必殺技がさく裂した。斧無双の進化版で、地面をたたく点は同じだが、地面から上空に向け、無数の石礫が打ち上がり、飛び上がって回避した魔人をその礫が銃弾爆撃するという業だ。
 ぺセププは、床からの礫の連打を浴び、血まみれになって、落下していく。
 
 そして、落下した魔人に、アーロンの会心の一撃。魔人も慌てて飛び退いたが、左足首を切断することに成功した。
「一気に畳み込むよ」
 ローラも新必殺技の範囲魔法を出したが、魔人はそんな足の状態でも逃れ、その後も逃げに専念して、攻撃を浴びないように努めた。
 それでも、ユリの剣や、フレイアの投げナイフをその身に受けることになったが、片足の状態にもかかわらず、致命傷を避け続けた。
 しかも切断した足首が徐々に生え始めている。魔人は自己回復能力も持っているので、身体の傷が塞がって行くのは理解できるが、まさか切断した足まで復元できるとは驚きだ。逃げに徹していたのは、このための時間稼ぎだった。
 僕も、漸く回復し、再び空気遮断をと考えたが、今は、仲間を巻き込みかねない状態で、発動できない。
 そこで、細胞変質を試すことにしたが、動きが速く、これも困難だった。
 フレイアが後方に下がり、歌を唄いはじめ、アーロンの合図で、ユリも距離を取ったので、今なら発動可能だ。魔人だけに範囲が及ぶ様に視線位置を調整し、空気遮断を発動した。魔人はアーロンの斧無双改で再び傷を負い、酸欠も始まったのか動きが鈍り、飛び込んだユリの剣も食らい、腕に深手を負う。
 ぺセププは当然の様に、僕を潰しに来て、今度は蹴りで吹き飛ばされたが、来ると予想していたので、その前に、猛毒の剣で刺してやった。
 酸欠で動けなくなっている魔人に、再び、アーロンの新必殺技がきまり、ローラの爆炎魔法も見事に決まる。
 ぺセププは体中に、火傷と切り傷を負う事になったが、失った足は完全に蘇生されていて、落下と共に飛び込んだユリの剣を素早く交わし、今度はぺセププの反撃が始まった。

 ローラを集中攻撃し始めたのだ。こうなるとアーロンの斧無双は使えない。アーロンはショルダーアタックや、斧攻撃でローラを守るが、全く当たらず、ローラばかりが吹っ飛ばされ、ダメージを蓄積していき、遂に壁際まで吹っ飛ばされてしまった。
 僕は打撲対応のスーパーヒールやリジェネを掛けて回復させ、ユリとフレイアも、剣とナイフで、攻撃を続けて、ローラを助けようとするが、ローラは壁に挟まれ逃げ場がない状態なので、どんどん衰弱していく。
 エクストラヒールまで掛けたが、彼女は意識を失い、その場に倒れてしまった。
「まず一人」

 次の瞬間、フレイアが殴り倒されていた。そして、今度はフレイアを集中攻撃し始める。僕も彼女に打撲に有効なリジェネを掛けてから、剣で彼女の援護に入ったが、足が全快したぺセププは化け物だ。刺した筈が残像で、次の瞬間、フレイアを別の方向から殴る蹴るする。フレイアの身体は空中に浮いたまま、落ちてこない状態だ。
 僕はエクストラヒールを発動して、体力回復させたが、それでもみるみる体力が削られ行く。
 アーロンが体当たりに行き、回避した場所にユリが突っ込んで、漸くフレイアが地面に落ちたが、彼女が身体を起こした瞬間、彼女の後頭部にぺセププの回し蹴りがさく裂する。
 頸椎を骨折したんじゃないかと思う程、首が湾曲し、フレイアは、口から泡を吹いて、失神した。
「あと三人」

 次は僕だと、思っていたが、なぜか、今度はユリと真っ向から戦い始めた。あのユリですら、魔人の打撃を貰って吹き飛ばされているが、ユリの場合は、アーロンも斧無双を発動でき、魔人も範囲攻撃とユリの素早い剣技を同時に回避することはできず、切り傷を負っていて、ほぼ互角に戦ってくれている。
 これなら、リジェネだけで大丈夫なので、フレイアの治療に専念することにした。

 幸い頸椎骨折はしていなかったが、頚髄という神経は損傷していそうだ。手足に痺れが残るようなら、頸椎の精密検査して病院で治療するしかないが、神経回復系のハイヒールは掛けておいた。脳震盪にはほとんど効果がないので、暫くは目を覚まさないが、僕にできる最善を尽くした。

 そして、魔人と二人の戦いに、どうやって参戦するかを考えた。僕が下手に突っ込むと、アローンの斧無双が発動できなくからだ。タイミングさえわかれば、僕もユリの様に回避することができるので、そのタイミングを見定めようとしていると、魔人の動きの規則性が分かった。
 攻撃は多彩で、何を繰り出すのかは分からないが、その攻撃の直前に、ユリの正面で身をかがめるのだ。必ずしもそうしない時もあるが、八割以上の攻撃では、一瞬ユリの正面で停止する。
 
 僕は、これならばと、ユリの動きに合わせて、停止するであろう位置に意識を集中させ、ゆっくりとタイミングを見計りながら、柔軟で柔らかな筋細胞がカチカチの筋細胞に変質するイメージを抱き、魔人の足がそこに入った瞬間に細胞変質を発動させた。
 次の瞬間、魔人は深く飛び込めずに攻撃が届かなくなり、反撃したユリの剣も回避できずに食らった。
「くそ。何をした」
 一か八かの賭けだったが、見事に成功し、魔人の右足が動かなくなった。

 こうなると形勢は逆転だ。アーロンが斧無双改を発動させ、片足でなんとか浮上した所に、ユリが切りつける。僕も飛び込んでいき、金剛突きをベゼブブに当てた。
 魔人は再び、回避だけに専念して時間稼ぎして、回復を計ろうとしたが、さっきの様に回避できない。足首がない左足でも地面を蹴る様にして、両足で回避できたが、今回は右足が完全にお荷物になっていて、素速い程度の動きしかできないのだ。
 アーロンの場合は右太ももの一部の筋肉だけが変質していたが、ベゼブブは太もも全体の筋肉が硬質筋細胞に変質したので、ほとんど右足が動かせない。
 だから、僕ら三人の攻撃をかわしきれずに受け続けているが、その体力も化け物級だった。あんなに攻撃をくらいながらも、回避速度は変わらず、大したダメージを受けていないようにも見える。
 でも、このまま攻撃していれば、必ず倒せるに違いない。幸い、ローラも何とか立ち上がり、氷礫の範囲攻撃で、魔人にダメージを負わせ始めた。
 フレイアは戦闘不能な状態だが、これなら勝てる。
 全員がそう確信したが、次の瞬間、左足一本で、ローラの許に移動し、ローラの鳩尾に渾身の正拳突きをくらわした。
「一度、沈んだんだから、でしゃばるじゃない」
 ローラは血反吐を穿いて、そのまま前のめりに倒れ、再び失神した。

 ベゼブブは、回復させようと近づいた僕を集中攻撃し始めた。
 この程度の動きなら、僕の剣も当たり、アーロンとユリも攻撃して、僕を救出しようとするが、魔人は完全回避は諦めて、致命傷を受けない方針に切り替え、僕をひたすら攻撃してくる。
 右足での踏ん張りがないので、最初の一撃程の威力はないが、それでもリジェネだけでは回復が追い付かず、体力をドンドン削られる。エクストラヒールを掛けたいがそんな余裕もなく、体力は残り僅かで、意識が遠のいていき、僕は膝をついて、そのまま倒れた。
 魔人はとどめと言わん限りに、僕の頭を蹴りに来たが、ユリが飛び込んできて、その蹴りを自らの身体で受けて、助けてくれた。
「アーロン、一時退却して立て直すよ」
 魔人は既にボロボロで、二人ならなんとか倒せるかもしれないのに、ユリは撤退を決めた。僕なんかの命を助けるために、撤退を決断させてしまうなんて、情けなくてならない。
 
 ユリはローラを肩に担ぎ、アーロンはフレイアを右手に抱え、僕のことも抱えようとしたが、最後の魔力で、既に体力回復させ、動けるようになっていた。
「大丈夫。一人で歩けるから」 僕ら三人は、その場から走って逃げ出した。

 撤退する僕らを、ぺセププは追撃せず、見逃してくれた。


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