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第二章 勇者一行としての旅
魔王討伐も競争でした
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「ぎゃあ」 声がして、そちらを見ると、B班の精鋭部隊が、モヒカンに襲われていた。
目が見えないので、精鋭とはいえ、たった一人になす術がない。
モヒカンは、長いアイスピックの様なものを武器に、次々と甲冑の隙間から、止めを刺していく。
アーロンとフレイアの二人は、ナイフ男と大男と乱戦中だ。大男はタンク役ではなく、拳とキックとで攻撃する格闘型だった。
僕は、不可視状態のまま、急いでモヒカンの許に駆け寄ったが、やはり揺らぎで、気づかれ警戒された。
「くそ、姿を消すスキル持ちか。どこにいる」
今は、静止しているので見えない筈だが、こっちを見ているので、動けば気づかれる。
この不可視スキルには、素早く動くと見つかる以外に、魔法を発動できなくなることや、隠密スキル以外のスキル重畳ができない欠点もある。リジェネやステータス底上げスキルを発動している状態で、不可視発動すると、リジェネ等も解除されてしまうし、天斬撃や金剛突きを発動すると不可視が解除されてしまう。
それでも、一撃で致命傷を与えられるスキルが当たるなら、反撃されずに済むのでかまわないのだが、交わされると最悪だ。だから、攻撃スキルを発動するタイミングを見極める必要がある。
僕は、モヒカンが横を向いた瞬間に、天斬撃を放ったが、男の反応速度も素早く、致命傷を避けられてしまった。
でも、怪我を負わせることができ、猛毒特性の剣なので、アイスピック攻撃を交わして居れば、僕の勝ちだ。
そう思っていたのに、このモヒカンも、さっきの魔導士と同じで、攻撃が衰えない。毒耐性がものすごく高いみたいだ。リブルスという魔導士が、全員に毒耐性を付与したのかもしれない。
僕が大きく後ろに飛んで回避した隙に、毒消しを飲んだので、やはり少しは効いていたようだが、遣り難い相手だ。
一応、いくつかの基本能力アップスキルは発動できたが、一気に飛び込んでピックで突いてきたので、半分はスキル未発動のままで、リジェネも掛けることができなかった。
それからは、剣とアイスピックとの格闘になり、基礎能力の低い僕の方が押されていく。しかも、奴のアイスピックも毒効果があるみたいで、次第にこちらの意識が遠のいてきた。
毒消し魔法を発動したいが、途中中断させられて発動できない。リジェネの方も発動させてもらえず、体力が削られる一方だ。
僕は、少しづつ後退し、アーロンの方に近寄っていく。アーロンはその意図に気づき、斧無双を発動してくれた。
僕はとっさに跳躍スキルを発動して、高くジャンプして衝撃波を交すが、ナイフ男とモヒカンは、ものの見事に巻き込まれる。
その隙に、僕は毒消しを掛け、続けざまにハイヒールを発動。更に続けてリジェネを掛けて、未発動だった基本能力アップスキルも発動した。体力も戻り、僕の基本能力も限界まで底上げできたことになり、ほぼ同等に戦える。
「空気遮断野郎を倒してくれて助かった」
「こちらこそ、回復できるタイミングを作ってもらえ、感謝です」
「どうする? 三対三でも、向こうの方が基本性能はずっと高い」
「有効スキルで優位に進めるしかないが、挑発も利かないし、さてどうしたものか」
すると、フレイアが勇気の歌を唄い始めた。
「耳を塞げ」 ナイフ男が素早く指示を出した。
なにかの歌攻撃と判断したみたいで、敵に隙を作れ、暫く時間稼ぎもできた。
僕とアーロンがその隙をついて攻撃を開始したら、大男が耳をふさぐの止め、「歌を中断させちまえばいいんだよ」とフレイアにメリケンを嵌めた拳で殴りかかった。フレイアは歌を止めることなく、紙一重でかわした。
それを見て、他の二人も、フレイアを攻撃し始めた。僕とアーロンが必死に攻撃を防いで彼女を守り、フレイアも息が切れて歌が乱れない範囲で、素早く動いて攻撃を交わす。
なんとか、無事、歌を唄い終わって、基礎性能はこっちの方が上になった筈だ。
「少しはましになったと思うけど、まだ、向かうが上」
僕の心の声が聞こえたかのように、フレイアが言った。僕はBランクなので、基本性能をかなり底上げしていても、三人の合計はまだこっちが低いらしい。
その後はリジェネによる回復魔法の効果で、互角の戦えていたが、時間と共に押され始めた。
敵が僕らの連携を学習して、効果的に回復中断するようなり、鉄壁のアーロンを潰すべく、アーロンの右足を集中攻撃しはじめたのだ。超硬化で防御力を爆上げし、リジェネで体力回復しているので、ダメージを与えて倒すのは困難と判断し、動けなくする作戦に出たのだ。
長時間戦い続けているので、このまま戦い続けていると、やられてしまう。
毒消しを頻繁に発動しなければならないので、僕の魔力は既に半分以上消費しているし、フレイアも既に攻撃魔道具を使い切っていて、アーロンの右足は立っているのも辛い状態で、味方を助けに入ることもできなくなってきた。
アーロンの足を何とか元の状態に戻したいのだが、切り傷、打撲、刺し傷と、三種類の異なる怪我で、毒まで受けているので、十分なヒール効果を発揮できず、足の回復が追いついていかないのだ。
敵のヒーラーは既に死んだので、回復はポーションだけとなり、敵もかなり体力消耗しているはずだが、フレイアの歌の効果も切れてきて、ますますこちらが押され出した。
フレイアは、再び歌を唄い出したが、守ろうとするアーロンの足を集中攻撃して、遂にアーロンが膝をつく。
足にエクストラヒールを掛けたいが、僕の発動タイミングも完全に読まれていて、発動させてもらえない。フレイアも途中で息が乱れてしまい、歌も不発に終わり、最悪となった。
それでも、何とかアーロンの足にエクストラヒールをかけたが、足のダメージは深刻で、なんとか立てる程度にしか回復しなかった。それでも、全員に再びリジェネを掛け、ヒーラがいる利点で有利に進めるつもりだったが、その隙に、敵はエクストラポーションを取り出して飲み、体力を完全回復してしまった。
僕の魔力も尽きかけていて、フレイアも補助魔法を発動できず、アーロンも右足が回復困難なまでに壊されていて、敗戦濃厚だ。
それでも、頑張って、戦い続けたが、フレイアがモヒカンのピック攻撃回避に集中している時、大男の蹴りが頭に当たり、脳震盪を起こし倒れてしまった。
アーロンは、意識をなくし無防備になったフレイアを必死に守るが、防御するだけになり、一方的に攻撃を受け、急速に体力を削られていく。
僕も必死にアーロンを守りつつ、ハイヒールを発動していたが、遂に魔力が底をついた。
「ぐわっ」 声すら立てたことのないアーロンが、首をアイスピックで深く突かれ、うめき声をあげた。
剣で何とか助けたいが、僕も大男に殴られ、吹き飛ばされてしまった。
朦朧とする意識の中で、アーロンが三人に集中攻撃されている。希望は捨てたくないが、もう全滅必至だ。
「おりゃ」 そこに魔人と交戦中だった筈のユリが、キックで飛び込んできて、ナイフ男を吹き飛ばした。
A班はここから徒歩で二時間以上離れた第一左翼砦で交戦中だったはずたが、救援要請を受け、走って駆けつけてくれたのだった。
ローラも一緒で、モヒカンも高圧放水を受けて、吹き飛ばされ、三人をばらばらに引き離した。
「勇者、待ってくれ。降参だ」 ナイフ男が頭の後ろに手をまして、膝をついた。
「お前らも、武器を捨てろ」
どうやらナイフ男は、鑑定スキルの保有者らしい。敵わないと分かると、掌返しだ。
「俺はブリット、トルスタン合衆国から魔王討伐に派遣された。同じ目的なんだ、仲良くしようぜ」
「私の仲間をこんなにしておいて、何をいってるの」
「勇者のお仲間だとは知らなかったんだ。プルキナス王国の支援兵だと誤解していてな」
「プルキナス王国の兵なら、殺していい訳?」
「こんな雑魚なんか、魔王討伐では役立たずだ。それに魔王を倒した国が、この世界の覇権を握れる。勇者とは協力した方が得だが、雑魚は倒しておいた方が利益になるんだよ」
世界制覇をするうえで、この世界を救った国という要素は確かに大きな後押しになる。漁夫の利を得る為に、支援部隊を潰して、勇者一行を疲弊させてから、魔王を叩こうという作戦らしいが、魔王を甘く見過ぎだ。
「あなたたちと共闘する気もないし、仲間を殺したことは許せないけど、見逃してあげる。さっさと消えなさい」
「俺たち、魔王六大将軍の内の四人を倒してるんだ。俺たちと共闘した方がいいとおもうぜ」
六大将軍と言うのは初めて聞いたが、砦は六個あるので、その呼び名の方がしっくりくる。
「勘違いしているようだけど、私たちは、最終砦以外の五つの砦を先月既に陥落させているの。砦にいた魔人は、砦の修理かなにかに来ていた弱い魔人ばかりよ」
「ちっ、ダニエル、ボルドー、行くぞ」
ブリット、ダニエル、ボルドー、リブルスと、トルスタンの勇者一行は、全員濁音の名前だった。プルキナス人は、濁音が苦手だが、トルスタンは平気なのかと、どうでも良いことを考えてしまった。
「アーロン、酷い怪我。大丈夫」
「助かった。こんな怪我、気合いで直す。それより魔人との戦闘は?」
「魔人じゃないの。人間の軍人。おそらく、トルスタン合衆国軍の支援部隊だとおもう。敵は砦に陣取っていて、突然、発砲してきた。連絡を貰った時は、まだ戦闘中だったけど、こちらが優勢だったから、問題なく勝つと確信して、こっちに飛んできた。もう戦闘は終わってると思うから、心配しないで」
向こうにも支援部隊がいたが、囚人勇者と同じ考えらしい。世界の危機なのに、トルスタンは何を考えている。
そんなことを考えていると、ローラが僕にマナポーションを渡して来た。僕がマナ切れなのに気づいてくれ、貴重なマナポーションを分けてもらえた。ありがたい。
その後、魔王討伐隊の残存兵を確認したが、シュミットを含め九名がまだ生きていた。
だが、切れた手首は病院に行かないと繋がないし、眼球まで切られているので、病院で治療しても、再び視力が戻るとは言い切れない。いずれにせよ。直ぐに帰還し、入院しないとならない状態だ。
左翼第一砦まで、彼らを連れて戻ってもいいが、この場で、第二斥候隊を埋葬する為の穴を掘って待つことにした。
「この人たち、ブリットたち五人に捕まって、ここに連れてこられてた」
遺体を綺麗にする係をしていたローラが突然、そんなことを言ってきた。
「やはり、あの人たちに使われてたのね」
「そう。この砦攻略の際の隙を作るための囮にされ、魔人の軍団に殺されてた」
僕も、恐らくそうだとは思っていたが、なんでそんなことが言い切れるのか疑問だった。
「今回は眼球が無事だったから、直前の記憶を再生できたみたいね」
不思議そうにしていたのに気づいたユリが教えてくれた。直前の記憶を再生する魔法があるらしい。
ローラの再生した死体の兵士の記憶によると、ブリット達五人が「お前たちは勇者一行か」と近づいて来て、一緒に砦攻略しようと持ち掛けたのだそう。勇者一行は別にいて、今回は偵察が任務だからと断り、帰ろうとすると、皆が苦しみだし、隊長に連絡しようと通信魔道具を取り出すと、奪われ壊された。そして、第一攻略隊を嬲り殺す動画を見せて、協力しないとこうなるぞと脅した。了承すると、呼吸ができるようにしてもらえ、魔人たちもこのスキルを使えば楽勝だからと説明した。
そして、ここに連れてきて、五人だけで、正面から突入させたということだった。
「攻略してまだ二十日しか経っていないのに、もう魔人の軍団がいたの?」
「ええ。あの後、直ぐに新四天王を決めたんじゃないかしら。かなりの魔法を使いこなす魔人がいて、眷属の魔物も沢山いた」
「なら、ブリットが言ってたのはあながち勘違いではなかったということね。共闘した方が良いのかもしれないけど、個人的に好きになれない。御免、我儘なのはわかってるけど」
「ああ、俺たちも、賛成だ。あんな考え方をする奴とは組めない」
「ボクらを囮に使うだけにきまってる」
「私は、ユリの判断に従う。ユウスケは?」
「僕は、保留。感情としては組みたくないし、やつら、僕らが相打ち近くなってからしか、参戦しない気もするけど、あの三人が強いのは間違いないから」
「反対ではないなら、今は多数決で、積極的に共闘はしないということで。再び、出会って共闘を持ちかけられたら、再検討しましょう」
そんな訳で、僕の発言の所為で気まずくなって、静寂が降りたが、沈黙したまま、A班の到着を待った。
それから十分程して、ローランドを含む十名やってきた。負傷者が出たので、護衛の意味も兼ねて、十名を残してきたという話だった。
フレイアがレクリエムを唄って、第二攻略隊五名とB班の九名を埋葬し、その墓をお花で飾った。
「勇者様、二班捜索などという愚策を押し通してしまい大変申し訳ありませんでした。全員で行動していれば、これほどの被害がでることはなかったと深く反省しています。折角、勇者様一行を支援するという大任を担っておきながら、何もできずに、撤退すること御許し下さい」
「気にしないで、この作戦を承認したのは私だから、私への謝罪は不要。それより、戦死した仲間たちに、良くがんばったと、手向けの声を掛けてあげて」
ローランドは、もう一度、墓標代わりの剣の前で、黙祷してから、改めて「御武運をお祈りします」とユリに敬礼した。
そして、ローランド達十名は、B班の生き残り九名を介助しながら、左翼第一砦へと向かった。このまま、魔界ゲートを通り、王都に撤退するとのことだった。
目が見えないので、精鋭とはいえ、たった一人になす術がない。
モヒカンは、長いアイスピックの様なものを武器に、次々と甲冑の隙間から、止めを刺していく。
アーロンとフレイアの二人は、ナイフ男と大男と乱戦中だ。大男はタンク役ではなく、拳とキックとで攻撃する格闘型だった。
僕は、不可視状態のまま、急いでモヒカンの許に駆け寄ったが、やはり揺らぎで、気づかれ警戒された。
「くそ、姿を消すスキル持ちか。どこにいる」
今は、静止しているので見えない筈だが、こっちを見ているので、動けば気づかれる。
この不可視スキルには、素早く動くと見つかる以外に、魔法を発動できなくなることや、隠密スキル以外のスキル重畳ができない欠点もある。リジェネやステータス底上げスキルを発動している状態で、不可視発動すると、リジェネ等も解除されてしまうし、天斬撃や金剛突きを発動すると不可視が解除されてしまう。
それでも、一撃で致命傷を与えられるスキルが当たるなら、反撃されずに済むのでかまわないのだが、交わされると最悪だ。だから、攻撃スキルを発動するタイミングを見極める必要がある。
僕は、モヒカンが横を向いた瞬間に、天斬撃を放ったが、男の反応速度も素早く、致命傷を避けられてしまった。
でも、怪我を負わせることができ、猛毒特性の剣なので、アイスピック攻撃を交わして居れば、僕の勝ちだ。
そう思っていたのに、このモヒカンも、さっきの魔導士と同じで、攻撃が衰えない。毒耐性がものすごく高いみたいだ。リブルスという魔導士が、全員に毒耐性を付与したのかもしれない。
僕が大きく後ろに飛んで回避した隙に、毒消しを飲んだので、やはり少しは効いていたようだが、遣り難い相手だ。
一応、いくつかの基本能力アップスキルは発動できたが、一気に飛び込んでピックで突いてきたので、半分はスキル未発動のままで、リジェネも掛けることができなかった。
それからは、剣とアイスピックとの格闘になり、基礎能力の低い僕の方が押されていく。しかも、奴のアイスピックも毒効果があるみたいで、次第にこちらの意識が遠のいてきた。
毒消し魔法を発動したいが、途中中断させられて発動できない。リジェネの方も発動させてもらえず、体力が削られる一方だ。
僕は、少しづつ後退し、アーロンの方に近寄っていく。アーロンはその意図に気づき、斧無双を発動してくれた。
僕はとっさに跳躍スキルを発動して、高くジャンプして衝撃波を交すが、ナイフ男とモヒカンは、ものの見事に巻き込まれる。
その隙に、僕は毒消しを掛け、続けざまにハイヒールを発動。更に続けてリジェネを掛けて、未発動だった基本能力アップスキルも発動した。体力も戻り、僕の基本能力も限界まで底上げできたことになり、ほぼ同等に戦える。
「空気遮断野郎を倒してくれて助かった」
「こちらこそ、回復できるタイミングを作ってもらえ、感謝です」
「どうする? 三対三でも、向こうの方が基本性能はずっと高い」
「有効スキルで優位に進めるしかないが、挑発も利かないし、さてどうしたものか」
すると、フレイアが勇気の歌を唄い始めた。
「耳を塞げ」 ナイフ男が素早く指示を出した。
なにかの歌攻撃と判断したみたいで、敵に隙を作れ、暫く時間稼ぎもできた。
僕とアーロンがその隙をついて攻撃を開始したら、大男が耳をふさぐの止め、「歌を中断させちまえばいいんだよ」とフレイアにメリケンを嵌めた拳で殴りかかった。フレイアは歌を止めることなく、紙一重でかわした。
それを見て、他の二人も、フレイアを攻撃し始めた。僕とアーロンが必死に攻撃を防いで彼女を守り、フレイアも息が切れて歌が乱れない範囲で、素早く動いて攻撃を交わす。
なんとか、無事、歌を唄い終わって、基礎性能はこっちの方が上になった筈だ。
「少しはましになったと思うけど、まだ、向かうが上」
僕の心の声が聞こえたかのように、フレイアが言った。僕はBランクなので、基本性能をかなり底上げしていても、三人の合計はまだこっちが低いらしい。
その後はリジェネによる回復魔法の効果で、互角の戦えていたが、時間と共に押され始めた。
敵が僕らの連携を学習して、効果的に回復中断するようなり、鉄壁のアーロンを潰すべく、アーロンの右足を集中攻撃しはじめたのだ。超硬化で防御力を爆上げし、リジェネで体力回復しているので、ダメージを与えて倒すのは困難と判断し、動けなくする作戦に出たのだ。
長時間戦い続けているので、このまま戦い続けていると、やられてしまう。
毒消しを頻繁に発動しなければならないので、僕の魔力は既に半分以上消費しているし、フレイアも既に攻撃魔道具を使い切っていて、アーロンの右足は立っているのも辛い状態で、味方を助けに入ることもできなくなってきた。
アーロンの足を何とか元の状態に戻したいのだが、切り傷、打撲、刺し傷と、三種類の異なる怪我で、毒まで受けているので、十分なヒール効果を発揮できず、足の回復が追いついていかないのだ。
敵のヒーラーは既に死んだので、回復はポーションだけとなり、敵もかなり体力消耗しているはずだが、フレイアの歌の効果も切れてきて、ますますこちらが押され出した。
フレイアは、再び歌を唄い出したが、守ろうとするアーロンの足を集中攻撃して、遂にアーロンが膝をつく。
足にエクストラヒールを掛けたいが、僕の発動タイミングも完全に読まれていて、発動させてもらえない。フレイアも途中で息が乱れてしまい、歌も不発に終わり、最悪となった。
それでも、何とかアーロンの足にエクストラヒールをかけたが、足のダメージは深刻で、なんとか立てる程度にしか回復しなかった。それでも、全員に再びリジェネを掛け、ヒーラがいる利点で有利に進めるつもりだったが、その隙に、敵はエクストラポーションを取り出して飲み、体力を完全回復してしまった。
僕の魔力も尽きかけていて、フレイアも補助魔法を発動できず、アーロンも右足が回復困難なまでに壊されていて、敗戦濃厚だ。
それでも、頑張って、戦い続けたが、フレイアがモヒカンのピック攻撃回避に集中している時、大男の蹴りが頭に当たり、脳震盪を起こし倒れてしまった。
アーロンは、意識をなくし無防備になったフレイアを必死に守るが、防御するだけになり、一方的に攻撃を受け、急速に体力を削られていく。
僕も必死にアーロンを守りつつ、ハイヒールを発動していたが、遂に魔力が底をついた。
「ぐわっ」 声すら立てたことのないアーロンが、首をアイスピックで深く突かれ、うめき声をあげた。
剣で何とか助けたいが、僕も大男に殴られ、吹き飛ばされてしまった。
朦朧とする意識の中で、アーロンが三人に集中攻撃されている。希望は捨てたくないが、もう全滅必至だ。
「おりゃ」 そこに魔人と交戦中だった筈のユリが、キックで飛び込んできて、ナイフ男を吹き飛ばした。
A班はここから徒歩で二時間以上離れた第一左翼砦で交戦中だったはずたが、救援要請を受け、走って駆けつけてくれたのだった。
ローラも一緒で、モヒカンも高圧放水を受けて、吹き飛ばされ、三人をばらばらに引き離した。
「勇者、待ってくれ。降参だ」 ナイフ男が頭の後ろに手をまして、膝をついた。
「お前らも、武器を捨てろ」
どうやらナイフ男は、鑑定スキルの保有者らしい。敵わないと分かると、掌返しだ。
「俺はブリット、トルスタン合衆国から魔王討伐に派遣された。同じ目的なんだ、仲良くしようぜ」
「私の仲間をこんなにしておいて、何をいってるの」
「勇者のお仲間だとは知らなかったんだ。プルキナス王国の支援兵だと誤解していてな」
「プルキナス王国の兵なら、殺していい訳?」
「こんな雑魚なんか、魔王討伐では役立たずだ。それに魔王を倒した国が、この世界の覇権を握れる。勇者とは協力した方が得だが、雑魚は倒しておいた方が利益になるんだよ」
世界制覇をするうえで、この世界を救った国という要素は確かに大きな後押しになる。漁夫の利を得る為に、支援部隊を潰して、勇者一行を疲弊させてから、魔王を叩こうという作戦らしいが、魔王を甘く見過ぎだ。
「あなたたちと共闘する気もないし、仲間を殺したことは許せないけど、見逃してあげる。さっさと消えなさい」
「俺たち、魔王六大将軍の内の四人を倒してるんだ。俺たちと共闘した方がいいとおもうぜ」
六大将軍と言うのは初めて聞いたが、砦は六個あるので、その呼び名の方がしっくりくる。
「勘違いしているようだけど、私たちは、最終砦以外の五つの砦を先月既に陥落させているの。砦にいた魔人は、砦の修理かなにかに来ていた弱い魔人ばかりよ」
「ちっ、ダニエル、ボルドー、行くぞ」
ブリット、ダニエル、ボルドー、リブルスと、トルスタンの勇者一行は、全員濁音の名前だった。プルキナス人は、濁音が苦手だが、トルスタンは平気なのかと、どうでも良いことを考えてしまった。
「アーロン、酷い怪我。大丈夫」
「助かった。こんな怪我、気合いで直す。それより魔人との戦闘は?」
「魔人じゃないの。人間の軍人。おそらく、トルスタン合衆国軍の支援部隊だとおもう。敵は砦に陣取っていて、突然、発砲してきた。連絡を貰った時は、まだ戦闘中だったけど、こちらが優勢だったから、問題なく勝つと確信して、こっちに飛んできた。もう戦闘は終わってると思うから、心配しないで」
向こうにも支援部隊がいたが、囚人勇者と同じ考えらしい。世界の危機なのに、トルスタンは何を考えている。
そんなことを考えていると、ローラが僕にマナポーションを渡して来た。僕がマナ切れなのに気づいてくれ、貴重なマナポーションを分けてもらえた。ありがたい。
その後、魔王討伐隊の残存兵を確認したが、シュミットを含め九名がまだ生きていた。
だが、切れた手首は病院に行かないと繋がないし、眼球まで切られているので、病院で治療しても、再び視力が戻るとは言い切れない。いずれにせよ。直ぐに帰還し、入院しないとならない状態だ。
左翼第一砦まで、彼らを連れて戻ってもいいが、この場で、第二斥候隊を埋葬する為の穴を掘って待つことにした。
「この人たち、ブリットたち五人に捕まって、ここに連れてこられてた」
遺体を綺麗にする係をしていたローラが突然、そんなことを言ってきた。
「やはり、あの人たちに使われてたのね」
「そう。この砦攻略の際の隙を作るための囮にされ、魔人の軍団に殺されてた」
僕も、恐らくそうだとは思っていたが、なんでそんなことが言い切れるのか疑問だった。
「今回は眼球が無事だったから、直前の記憶を再生できたみたいね」
不思議そうにしていたのに気づいたユリが教えてくれた。直前の記憶を再生する魔法があるらしい。
ローラの再生した死体の兵士の記憶によると、ブリット達五人が「お前たちは勇者一行か」と近づいて来て、一緒に砦攻略しようと持ち掛けたのだそう。勇者一行は別にいて、今回は偵察が任務だからと断り、帰ろうとすると、皆が苦しみだし、隊長に連絡しようと通信魔道具を取り出すと、奪われ壊された。そして、第一攻略隊を嬲り殺す動画を見せて、協力しないとこうなるぞと脅した。了承すると、呼吸ができるようにしてもらえ、魔人たちもこのスキルを使えば楽勝だからと説明した。
そして、ここに連れてきて、五人だけで、正面から突入させたということだった。
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「ええ。あの後、直ぐに新四天王を決めたんじゃないかしら。かなりの魔法を使いこなす魔人がいて、眷属の魔物も沢山いた」
「なら、ブリットが言ってたのはあながち勘違いではなかったということね。共闘した方が良いのかもしれないけど、個人的に好きになれない。御免、我儘なのはわかってるけど」
「ああ、俺たちも、賛成だ。あんな考え方をする奴とは組めない」
「ボクらを囮に使うだけにきまってる」
「私は、ユリの判断に従う。ユウスケは?」
「僕は、保留。感情としては組みたくないし、やつら、僕らが相打ち近くなってからしか、参戦しない気もするけど、あの三人が強いのは間違いないから」
「反対ではないなら、今は多数決で、積極的に共闘はしないということで。再び、出会って共闘を持ちかけられたら、再検討しましょう」
そんな訳で、僕の発言の所為で気まずくなって、静寂が降りたが、沈黙したまま、A班の到着を待った。
それから十分程して、ローランドを含む十名やってきた。負傷者が出たので、護衛の意味も兼ねて、十名を残してきたという話だった。
フレイアがレクリエムを唄って、第二攻略隊五名とB班の九名を埋葬し、その墓をお花で飾った。
「勇者様、二班捜索などという愚策を押し通してしまい大変申し訳ありませんでした。全員で行動していれば、これほどの被害がでることはなかったと深く反省しています。折角、勇者様一行を支援するという大任を担っておきながら、何もできずに、撤退すること御許し下さい」
「気にしないで、この作戦を承認したのは私だから、私への謝罪は不要。それより、戦死した仲間たちに、良くがんばったと、手向けの声を掛けてあげて」
ローランドは、もう一度、墓標代わりの剣の前で、黙祷してから、改めて「御武運をお祈りします」とユリに敬礼した。
そして、ローランド達十名は、B班の生き残り九名を介助しながら、左翼第一砦へと向かった。このまま、魔界ゲートを通り、王都に撤退するとのことだった。
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僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

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