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第二章 勇者一行としての旅

一番怖いのは人間です

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「このままでは、効率が悪すぎる。捜索が遅れれば、助かる命も助からない。ぺセププではなかったんだし、分散して捜索すべきだ」
「確かにぺセププはいないと分かったけど、五人がそれそれ違う殺され方をしていたということは、魔人も五人以上いる可能性が高い。四天王級でない弱い魔人だとしても、一人で精鋭五人相当よ。分散すると逆に狩られるだけになるわ」
 朝、目を覚ますと、ローラントとユリが喧嘩していた。
「勇者様にとっては、我ら単なる支援部隊かもしれないが、あいつらは大事な仲間なんだ。なんと言われようが、二手に分かれて捜索させてもらう」
「ローラントは何も分かっていない。私たちにとっても大切な仲間。だから、無謀な作戦で、命を失って欲しくない」
「なにを言っても無駄だ。どうしてもダメだというのなら、勇者一行とは別行動をとらせてもらう」
「このわからず屋」
 ユリは、困った様に悩み始めた。
 昨日あたりから、ローラントは感情を露わにするようになっていたが、今は完全に別人だ。
 窮地に追い込まれると、人は理性を失い、本能のままに行動しようとして、輪を乱す。それを纏めるのがリーダーの仕事だが、慈愛の加護を持っていても、ローラントを説得するのは容易でないみたいだ。
 さて、どうするのかなと、ユリの手腕を楽しみに、僕は傍観していた。

「分かった。今回はあなたに従ってあげる。でも、あなたの考えは危険すぎるから、私がリーダーとして、付き添わせてもらうから」
 おいおい、勇者と言えども、魔人五人を同時に相手にするのは無茶過ぎる。砦を守る魔人軍団を撃破してきたといっても、そのほとんどは眷属の魔物で、魔人は砦のボス一人。魔人は群れたがらず、共闘することがないからだが、今回はその魔人が、複数一緒に居る可能性が高い。
 ばらばらに行動していたが、たまたま、ここで一緒になって、それぞれ惨殺ショーを楽しんだ可能性も否定はできないが、その確率は極めて低い。
 いくら、いう事を利かないからといって、二手に分かれる選択は、最悪な事態を招きかねない。ローラの緊急脱出の空間転移術式も、ローラがいない隊では使えない。

 僕らは、ユリに反対の意を唱えたが、一度口にしてしまったら撤回はできないし、四天王格の魔人が相手なら、何とかして見せると、ユリが主張し譲らなかった。
 そんな訳で、全員で捜索する方針から、二班に分かれて捜索する方針に変更し、何かあれば、直ちに連絡を取りあって、最優先で合流することとなった。
 A班は、隊長がユリ、副長がローラントで、ローラと隊員十九人の合計二十二人。B班は、隊長がアーロン、副長が精鋭部隊で副長を務めるシュミットで、ボクとフレイアと隊員十八人の合計二十二人だ。

 第二斥候部隊は、第一左翼砦偵察後、問題なしとの連絡を貰っていて、その時、帰還命令をだしたが、もう少し周囲を偵察して帰還しますと返事したまま、その後、連絡が取れなくなっているのだそう。
 だから、どこに向かったのかが全く不明だが、A班は、とりあえず第一左翼砦に向かい、そこからゲートに戻る途中を探ることにし、僕らB班は、欲をだして、第二左砦の偵察に向かったことも危惧し、第二左砦に向かってから、第一左翼砦への途中を捜索することになった。

 第二左砦へと暫く歩いていると、遠方からかすかに悲鳴が聞こえて来た。
「ぎゃあ」 砦らしき囲いの中から、悲鳴が聞こえる。
「シュミット、A班に連絡」
 そういって、砦に向かったが、A班も大変なことになっていた。
「A班も交戦中とのことで、合流は困難だということですが、どうしましょう」
「しかたない。この勢力のみで、救出に向かう」
 僕は全員につぎつぎとリジェネを掛けていき、フレイアはその場で立ち止まり、勇気の歌を唄い始めた。

 アーロンを先頭に砦の中に飛び込むと、その入り口付近に、斥候第二部隊と思われる遺体が、五体転がっていた。今度はちゃんと鎧兜を着て、剣も持っていて、爆裂魔法や落雷魔法でやられたらしい傷だった。
「ぎゃあ」 
 さらに奥に男達が屯していて、一人の男を、ナイフで刺したり、熱した油を身体に掛けたりして、遊んでいた。魔人は黒人と聞いていたが、虐められているのが黒人で、虐めているは白人五人だ。

「我らの仲間を惨殺したのは、お前達か」 アーロンが駆け寄りながら、声を張り上げる。
「まだ、プルキナスの兵がいたか。今回は人数が多いな」 坊主頭のチビが立ち上がりこっちをみる。
「だが、大した事ない。二十人位なら、簡単にやれる」 金髪がサバイバルナイフの様な巨大ナイフを舐め、口角をあげ、こっちを見渡す。
「それよりこの魔人どうする」 二メートル以上は有りそうな大男が、黒人の頭が地面に減り込むくらいの勢いで、踏みつけた。
「こいつ、再生するから、虐め甲斐があるんだよな。俺に頂戴」 柄杓で熱した油を掛けていたモヒカンの髪型の男は、しゃがんだまま、流れる涎を手でふき取った。
 そして、もう一人、顔に斜めに大きな傷のある杖をもった男は、無言のまま、何かの詠唱を始めた。
 五人の身体にオーラが漲り始めるのを感じるので、どうやら強化魔法を発動しているらしい。

 悲鳴を上げていたのは、斥候の兵士ではなく魔人の方だったが、第一斥候隊の五人をやったのは、この五人の人間で間違いない。魔人以下の残虐非道の悪魔の様な人間の犯行だった。

「お前たちは、どこの国の勇者だ」
「勇者だってさ。笑っちゃうね。俺らはトルスタン合衆国の死刑囚さ。魔王討伐すれば、無罪放免の上、莫大なお金をもらえることになっててな。それで、こんな荒野まで、遣って来たという訳だ」
 トルスタン合衆国は、別の大陸を統一したこの世界一の強国だ。
 考えてみれば、ダンジョンは何処にでもランダムに出現しているので、他国にも出現していることになる。S級ダンジョンを攻略し、魔法討伐隊を送り込む国があっても、おかしくはなかった。
 あんな惨たらしい惨殺をするのは、魔人だと僕は思い込んでいたが、ユリが昨日言っていた魔人は正々堂々と戦うというのが正しいのかもしれない。僕が暗殺してきた人間は本当に最低な魔人以下の者ばかりだったし、人間の鬼畜の狂人の方が、残忍で冷酷だ。
「なら、同じ目的を抱く同志となるが、英雄を目指すなら、非道行為は慎みたまえ」
「はぁっ。英雄ごっこも大概にしろよ。おっさん」
 ナイフ男は、そう言うと、アーロンに向かって踏み込んで一気に近接し、巨大ナイフで目を狙って襲ってきた。勿論、アーロンはそれを交したが、なぜか反撃しない。しかも、斧で顔を隠すように構え、棒立ちになった。
 
 僕はその意図が分からずにいたが、とりあえずアーロンに再びリジェネを掛けた。だが、直後、急に息苦しくなってきた。はぁはぁ、呼吸をするも、まるで酸素がとりこめない。兵士も全員、苦しみ出し、倒れていく。
「一番チビのスキル。空気遮断」
 それでアーロンの意図が理解できた。目を守りつつ、酸素消費を最大限抑え、敵の隙を伺っていたのだ。
 もっと早く教えろと文句を言いたいが、敵が五人もいるので、全員を鑑定した訳で、やむを得ない。

 このスキルが怖い点は、血中の二酸化炭素濃度がある程度高くなるまで、気づかない点だ。
 恐らく、顔を合わせた瞬間に空気遮断スキルを発動していたのだろうが、攻撃されていることも気づかず、話をつづけ、時間を無駄に費やしてしまった。
 そして、苦しくなり始め、気づいた時は、既に遅く、動けば動く程酸素消費して、苦しくなり、動けなくなるというとんどもスキルだ。

「こいつ、亀かよ」
 ナイフ男は、そういって、今度はシュミットに駆け寄って、通信魔道具を持つ手を切り落とした。
 そして、シュミットの目を切り、他の精鋭部隊の目を次々と失明させていく。

ドカン。ものすごい轟音がして、次の瞬間、呼吸ができるようになった。
 フレイアが、手榴弾の様な爆裂魔具を魔人の周りに屯していた箇所に投げ込んでいたのだ。

「くそっ、このガキが」 今度はナイフ男がフレイアに襲い掛かる。僕もスキル発動して、飛び込んだが、距離があったので、すこし届かない。
 だが、フレイアはナイフを出して、その二本のナイフで、巨大ナイフを挟む様に防いでいた。
「こいつは能力Sプラスだけど怖いスキルはない。向うの四人のスキルが怖い。顔に傷のある男から」
 支援無用と言うように、敵本隊に向かへと指示をだしてきたが、やはり心配だ。何でもこなすオールマイティーと言っても、彼女は白兵戦が苦手な後衛だからだ。
 アーロンも駆け寄って来て、ナイフ男と対戦し始めたので、僕は姿を消して、爆発で生じた砂塵に向け走った。

 砂塵が治まると、チビが怪我して倒れていて、魔導士と思われる顔傷男がチビにヒールを掛けて治療をしていた。
 魔人は既に絶命して、肉体が塵になり骸骨になり始めていて、魔人を甚振っていた筈の大男とモヒカンの二人の姿は既になかった。
 とりあえず、フレイアが最優先に指名した顔傷男の背後に回る。空気遮断より怖いスキルってなんだろうと思いつつ、ユリなら敢えて発動して体験するのかなと苦笑いして、心臓目掛けて剣を突き立てた。

「グホッ。くそっ、どこだ」 
 心臓を突いたつもりだったが、貫けなかったらしい。きょろきょろと僕をさがしている。
 そして、今度は、範囲攻撃魔法の火炎放射を繰り出して来た。僕の剣は猛毒毒性だのに、暫く火炎放射を出し続けて、僕も大火傷を負う事になった。
 だが、それでも数分で倒れ、動かなくなった。漸く毒が効いたらしい。
「リブルス! まさか、死んでないよな」チビが目を覚まし、慌てて倒れた顔傷男に駆け寄った。
 僕は位置を気づかれないように、ゆっくりと背後にまわり、チビの背後から、剣を突き刺した。
 今度は心臓を貫いたようで、うっと一声上げて、直ぐにその場に倒れた。
 これで、フレイアが一番脅威視したスキルも、酸素遮断のスキルも、封じた事になる。
 残りは、あと三人。怖いスキルも封じ、三対三なら、ユリが居なくても互角に戦える。
 僕は、その時は、まだ少し楽観視していた。

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