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第二章 勇者一行としての旅
勇者ユリは卑怯者でした
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万事屋宅を日の出前に出発する予定だったので、朝食はいらないと話しておいたのだが、奥様は朝食を準備していて、無碍にも断れず、村長宅に着くのが、少し遅くなってしまった。
「ユウスケ、遅い。これじゃ、間に合わない」
「まさか、本気で、昼までに攻略するつもりなの」
「当たり前でしょう。丁度、車も来たみたいだから、私たちは出発する。ローラ、ユウスケの面倒をみてね」
昨晩のチーム分けで、ゴブリン砦攻略は、僕とローラの二人に決まった。
ゴブリンは腐敗臭がするし、血も嘔吐物臭がするので、皆が嫌がり、一時は僕一人で退治することなりかけた。だが、ユリが「流石に独りでは心配ね」と、フレイアとローラのどちらが僕と組むことになり、じゃんけんで負けたローラが、僕と一緒にゴブリン退治することになったのだ。
車を準備したという話だかったが、僕らの車はなく、それほど遠くないからと、徒歩でゴブリン達のアジトに乗り込むことになった。
その途中、僕の目の下の隈を指摘され、エッチしたんでしょうと問い詰められ、すべて正直に話したら笑われた。
二人も村長宅で、大歓迎されて、かなり困ったことになったらしい。サウナで汗を流して出ると、マッサージ師を呼んでくれていて、断ったが、既にお金を貰っているので困ると言われ、仕方なくマッサージをうけることになったのだそう。全裸にバスタオルを巻いたままの姿で、アロマオイルマッサージを受けたという話で、変な事にはならなかったからというが、僕は、エッチなAVのマッサージを妄想してしまって、ローラをからかった。すると、真っ赤になって、「たしかに、気持ち良くて興奮したけど、本当にエッチはしていないから」と否定してきた。きっとそれが本当なのだと確信したが、いつも虐めてくる仕返しに「そういうことにしといてあげるよ」と言ってやった。
それにしても、勇者一行というだけで、なにかと苦労が多いものだ。
村から近いといっても、片道一時間半も歩きつづけることになったが、漸く、ゴブリンのアジトにたどり着いた。
アジトといっても、山裾野の洞窟だった。見張りのゴブリンが二匹いて、奥に多数のゴブリンがいるようだ。
僕は隠密スキルと不可視スキルとで、ゆっくりとその二匹に近づき、先ずはその二匹を片付けた。
洞窟の奥に進むと、少し広い場所があり、そこに二十体位のゴブリンが屯していた。ローラは少し離れて、後方から見つからないように着いてくる。
洞窟内のその場所には、奥側の左右に二つ小さめの穴がある。おそらく、この奥にもゴブリンがいるはずだ。
さて、どうすべきか。僕だけなら、まず奥の穴にいき、そこのゴブリンを殺すが、ローラを残していくと、彼女が見つかりかねない。かといって、ここで戦闘を始めると、奥からゴブリンが湧き出てくるし、その数も不明だ。
僕は、ローラを信じることにして、前衛の僕がタンク役となって、敵を引きつけることに決めた。
スキル解除して姿を晒し、基礎能力アップの全スキルを発動し、大声をだして、一人で軍勢に飛び込んでいった。敵視はとれたが、二十体が一斉に襲い掛かってきた。しかも、奥からも次々とゴブリンがやって来る。
新たに出て来たゴブリンの大半は、ローラが火炎魔法で焼き払ってくれたが、それでも、左右同時にはふせぎきれず、僕の周りのゴブリンの数は増えていく。
周囲範囲攻撃スキルでもあれば、周囲の敵にダメージを与え、攻撃力を低下させることができるが、僕の剣技スキルで範囲攻撃できるのは、サイラスから奪い取った五月雨切りの前方左右十五度範囲の放射状範囲攻撃のみ。しかも、殺せる威力があるのは本太刀のみで発動にも時間がかかり、効率が悪い。
僕は剣を素早く振るって、仕留めていく方が結果的に早いと判断して、次々と倒すことにしたが、防御力や体力の低い僕が、タンク役をやるのは無理がある。これだけ多数のゴブリンに一斉攻撃されると、幾ら俊敏性を上げていても、全ては交わしきれず、ダメージを受ける。しかも、ノーダメージの敵の攻撃なので破壊力もあって、リジェネを掛けて回復させていても、攻撃ダメージの方が遥かに勝るので、どんどん体力を削られていく。
ヒールで回復させたいが、そんな魔法を発動する時間の猶予は皆無だ。
あの時、あの竜を仕留めて、防御力アップスキルを取得していればと思ったが、今更愚痴を言っても仕方がない。
「火傷のリジェネを掛けなさい」
まさか僕ごと焼き払うつもりなのかと思っていると、その通りで僕の周りに業火の炎が吹きあがった。
ローラを揶揄ったりしたからだと後悔したが、もう遅い。
一応、直前に火炎耐性の魔法を掛けてもらったみたいだが、それでも手や顔は水ぶくれができる程に熱いし、苦しむゴブリンに掴まれると大火傷してしまう。
それでも、剣で次々とゴブリンを倒し続け、ローラの業火魔法もあって、ボクは体力が尽きる前に、敵を全滅できた。ゴブリン討伐、達成だ。
「ちょっと、臭いからこっちに来ないで」
ローラの許に戻ろうとすると、そんな酷いことをいってきた。
既に鼻が麻痺していて、臭いは分からなくなっていたが、身体中、ゴブリンの血にまみれていたので、かなり匂うのかもしれない。
「奥にいって、まだゴブリンがいないか、確認してきなさい」
仕方なく、一人で身体をかがめて、小さな穴の中に入って行ったが、そこ食糧庫で、ゴブリンはいなかった。
でも、もう一つの穴は、すこし広い場所にでて、強奪された村娘が二人いた。かなり、衰弱していたがまだ生きている。
僕は必死にヒールを掛けて治療し、一旦外に出てゴブリンの服をはいで戻り、その二人を助け出した。ローラに一人を背負う様にお願いしたが臭いから嫌と断られ、仕方がないので、天使の輪で落ちないよう背中に固定して、二人を背負い、帰路についた。
でも、ローラは、終始距離をとり、僕に近づこうとしなかった。
「おお、勇者様が、お戻りになられた」
村の傍までいくと、村長と村人が待っていてくれて、村人が三人駆け寄ってきたが、直ぐに顔を背けられた。
強奪された娘の親だったようで、娘との再会に涙して喜んでいて、僕は勇者として善行ができたのが嬉しかった。
「村の娘子まで助けて頂き、感謝の言葉もありません。急いでお風呂を準備しますので、汗を流されて、お召し替えしてください」
村長は、臭そうな顔は見せなかったが、僕の身体は相当にくさいらしい。
太陽は既に真上にあり、ミミウスさんとの約束の時刻が迫っていたが、ユリ達も戻って来てなさそうなので、お風呂を借りることにした。
準備してくれた新品の服に着替えて戻ると、ダンジョン組みの三人が、丁度戻ってきたところだった。
「これで、暫くは平和になると思います。王宮に戻りましたら、私からダンジョン攻略隊を派遣する様に指示しておきますので、ご安心下さい」
僕は、四人の許に行き、ユリに尋ねた。
「本当に、半日で攻略したんだ。C級ダンジョンだったの?」
「三十二階層までのA級だ。速攻でボスを狩りまくったので、階層探索すらしていないがな」
二十五階層を超えると階層ボスはかなり強くなる。特にA級ダンジョンの階層ボスになると、初見攻略だと一時間はかかる。それを半日で攻略するなんで、どんなに強くても信じられない。
車の往復でどれだけロスがあったのか分からないが、一時間のロスだとしても、僅か五時間。一階層に平均十分も掛けずに、攻略していった計算になる。
「B級程度だと思ってたから、A級と分かった時には、正直、焦ったけど」
「ダンジョン内を走り回って、本当に大変だった」
改めて勇者一行の化け物振りを思い知ることになった。
「勇者様、こんなお礼しかできませんが、お受け取り下さい」
僕にではなく、なぜかユリに、分厚い封筒を渡した。
真の勇者が誰なか、僕らの言動をみていれば、誰だって気づくよなと思っていたら、ローラが耳打ちした。
「昨晩、ユリが全てを話したの。一応、ユウスケも一緒に召喚された勇者ってことにはなってるけどね」
勇者ユリは、ズルい女だ。僕を勇者にして矢面に立たせておいて、いい所は全て持っていく。
「お金は頂けません。勇者として当然の事をしただけですし、そのために、食事や宿泊をさせて頂いたのですから」
なるほど、こうなることまで予想して、昨晩野宿するのを取りやめたのかと、理解した。
既に、出発時刻を過ぎていたが、ローラがもう少しだけ待っていて欲しいとお願いしたらしく、ミミウスさんは出発せずに待っていてくれた。改めてお礼を言って、彼の軽トラックでリットに向かう事になった。
ミミウスさんも、真の勇者が誰か知ったみたいで、ユリだけは助手席に座らせてもらい、僕ら四人は荷台に乗って、リットに向け出発した。
リットに向かう軽トラックの荷台で、勇者パーティーと名乗らない理由を改めて確認すると、ローラとフレイアが教えてくれた。
昔は、名乗っていたのだが、勇者なら何でも引き受けてもらえると、いろいろな面倒事をもちかけられるのだとか。最初の頃は、全てを引き受けて熟したが、どんどん増えてきて、とてもじゃないが熟せない量になった。
そこで、勇者でなくても熟せる簡単な依頼は断ることにしたら、依怙贔屓だと陰口をたたかれた。
その時、前ヒーラーの司教のマシュウスが「勇者一行であることは隠しましょう。それでも知られたら、私が勇者だと名乗り、誹謗中傷を引き受けますから」と言ったのだそう。
昨日の様な状況でも、マシュウスが適当な嘘で誤魔化していたので、とっさになんといえば分からず、沈黙してしまったということだった。
「これからはユウスケがマシュウスの代わり。よろしく」
フレイアにそう言われたが、聖職者でもない僕に、そんな役割を押し付けるなといいたかった。だが、それ位しか貢献できないのも確かだ。今日は僕なりに頑張ったが、ローラの助けがなければ、ゴブリン討伐なんてできず、死んでいた。
「ところで、ゴブリン退治の方はどうだったんだ」
四十匹ほどだが、タンク役は初めてだったので、殺されそうになったが、ローラが僕ごと焼き払って、全滅させ、村娘二人を救出したと説明した。
「タンク役は、大変だろう。こいつらは感謝すらしないから」
「そんなことない。いつも頼りにしてる」
「アーロンがいないとダンジョン攻略は無理だもの。昨日だって、ユウスケのお守は、フレイアか私のどちらだったでしょう」
「すまん。分かってる。口が過ぎた」
「でも、今日は少し見直した。あのまま、洞穴に潜っていくものだと思ってたのに、タンク役を買ってでてくれたでしょう。男らしかったよ。まあ、私のことなんて気にせずとも、近寄れないようにする方法はあったんだけどね」
それなら、早く言えと言いたくなかったが、男らしいと言ってもらえたのは少しうれしかった。
「ユウスケ、遅い。これじゃ、間に合わない」
「まさか、本気で、昼までに攻略するつもりなの」
「当たり前でしょう。丁度、車も来たみたいだから、私たちは出発する。ローラ、ユウスケの面倒をみてね」
昨晩のチーム分けで、ゴブリン砦攻略は、僕とローラの二人に決まった。
ゴブリンは腐敗臭がするし、血も嘔吐物臭がするので、皆が嫌がり、一時は僕一人で退治することなりかけた。だが、ユリが「流石に独りでは心配ね」と、フレイアとローラのどちらが僕と組むことになり、じゃんけんで負けたローラが、僕と一緒にゴブリン退治することになったのだ。
車を準備したという話だかったが、僕らの車はなく、それほど遠くないからと、徒歩でゴブリン達のアジトに乗り込むことになった。
その途中、僕の目の下の隈を指摘され、エッチしたんでしょうと問い詰められ、すべて正直に話したら笑われた。
二人も村長宅で、大歓迎されて、かなり困ったことになったらしい。サウナで汗を流して出ると、マッサージ師を呼んでくれていて、断ったが、既にお金を貰っているので困ると言われ、仕方なくマッサージをうけることになったのだそう。全裸にバスタオルを巻いたままの姿で、アロマオイルマッサージを受けたという話で、変な事にはならなかったからというが、僕は、エッチなAVのマッサージを妄想してしまって、ローラをからかった。すると、真っ赤になって、「たしかに、気持ち良くて興奮したけど、本当にエッチはしていないから」と否定してきた。きっとそれが本当なのだと確信したが、いつも虐めてくる仕返しに「そういうことにしといてあげるよ」と言ってやった。
それにしても、勇者一行というだけで、なにかと苦労が多いものだ。
村から近いといっても、片道一時間半も歩きつづけることになったが、漸く、ゴブリンのアジトにたどり着いた。
アジトといっても、山裾野の洞窟だった。見張りのゴブリンが二匹いて、奥に多数のゴブリンがいるようだ。
僕は隠密スキルと不可視スキルとで、ゆっくりとその二匹に近づき、先ずはその二匹を片付けた。
洞窟の奥に進むと、少し広い場所があり、そこに二十体位のゴブリンが屯していた。ローラは少し離れて、後方から見つからないように着いてくる。
洞窟内のその場所には、奥側の左右に二つ小さめの穴がある。おそらく、この奥にもゴブリンがいるはずだ。
さて、どうすべきか。僕だけなら、まず奥の穴にいき、そこのゴブリンを殺すが、ローラを残していくと、彼女が見つかりかねない。かといって、ここで戦闘を始めると、奥からゴブリンが湧き出てくるし、その数も不明だ。
僕は、ローラを信じることにして、前衛の僕がタンク役となって、敵を引きつけることに決めた。
スキル解除して姿を晒し、基礎能力アップの全スキルを発動し、大声をだして、一人で軍勢に飛び込んでいった。敵視はとれたが、二十体が一斉に襲い掛かってきた。しかも、奥からも次々とゴブリンがやって来る。
新たに出て来たゴブリンの大半は、ローラが火炎魔法で焼き払ってくれたが、それでも、左右同時にはふせぎきれず、僕の周りのゴブリンの数は増えていく。
周囲範囲攻撃スキルでもあれば、周囲の敵にダメージを与え、攻撃力を低下させることができるが、僕の剣技スキルで範囲攻撃できるのは、サイラスから奪い取った五月雨切りの前方左右十五度範囲の放射状範囲攻撃のみ。しかも、殺せる威力があるのは本太刀のみで発動にも時間がかかり、効率が悪い。
僕は剣を素早く振るって、仕留めていく方が結果的に早いと判断して、次々と倒すことにしたが、防御力や体力の低い僕が、タンク役をやるのは無理がある。これだけ多数のゴブリンに一斉攻撃されると、幾ら俊敏性を上げていても、全ては交わしきれず、ダメージを受ける。しかも、ノーダメージの敵の攻撃なので破壊力もあって、リジェネを掛けて回復させていても、攻撃ダメージの方が遥かに勝るので、どんどん体力を削られていく。
ヒールで回復させたいが、そんな魔法を発動する時間の猶予は皆無だ。
あの時、あの竜を仕留めて、防御力アップスキルを取得していればと思ったが、今更愚痴を言っても仕方がない。
「火傷のリジェネを掛けなさい」
まさか僕ごと焼き払うつもりなのかと思っていると、その通りで僕の周りに業火の炎が吹きあがった。
ローラを揶揄ったりしたからだと後悔したが、もう遅い。
一応、直前に火炎耐性の魔法を掛けてもらったみたいだが、それでも手や顔は水ぶくれができる程に熱いし、苦しむゴブリンに掴まれると大火傷してしまう。
それでも、剣で次々とゴブリンを倒し続け、ローラの業火魔法もあって、ボクは体力が尽きる前に、敵を全滅できた。ゴブリン討伐、達成だ。
「ちょっと、臭いからこっちに来ないで」
ローラの許に戻ろうとすると、そんな酷いことをいってきた。
既に鼻が麻痺していて、臭いは分からなくなっていたが、身体中、ゴブリンの血にまみれていたので、かなり匂うのかもしれない。
「奥にいって、まだゴブリンがいないか、確認してきなさい」
仕方なく、一人で身体をかがめて、小さな穴の中に入って行ったが、そこ食糧庫で、ゴブリンはいなかった。
でも、もう一つの穴は、すこし広い場所にでて、強奪された村娘が二人いた。かなり、衰弱していたがまだ生きている。
僕は必死にヒールを掛けて治療し、一旦外に出てゴブリンの服をはいで戻り、その二人を助け出した。ローラに一人を背負う様にお願いしたが臭いから嫌と断られ、仕方がないので、天使の輪で落ちないよう背中に固定して、二人を背負い、帰路についた。
でも、ローラは、終始距離をとり、僕に近づこうとしなかった。
「おお、勇者様が、お戻りになられた」
村の傍までいくと、村長と村人が待っていてくれて、村人が三人駆け寄ってきたが、直ぐに顔を背けられた。
強奪された娘の親だったようで、娘との再会に涙して喜んでいて、僕は勇者として善行ができたのが嬉しかった。
「村の娘子まで助けて頂き、感謝の言葉もありません。急いでお風呂を準備しますので、汗を流されて、お召し替えしてください」
村長は、臭そうな顔は見せなかったが、僕の身体は相当にくさいらしい。
太陽は既に真上にあり、ミミウスさんとの約束の時刻が迫っていたが、ユリ達も戻って来てなさそうなので、お風呂を借りることにした。
準備してくれた新品の服に着替えて戻ると、ダンジョン組みの三人が、丁度戻ってきたところだった。
「これで、暫くは平和になると思います。王宮に戻りましたら、私からダンジョン攻略隊を派遣する様に指示しておきますので、ご安心下さい」
僕は、四人の許に行き、ユリに尋ねた。
「本当に、半日で攻略したんだ。C級ダンジョンだったの?」
「三十二階層までのA級だ。速攻でボスを狩りまくったので、階層探索すらしていないがな」
二十五階層を超えると階層ボスはかなり強くなる。特にA級ダンジョンの階層ボスになると、初見攻略だと一時間はかかる。それを半日で攻略するなんで、どんなに強くても信じられない。
車の往復でどれだけロスがあったのか分からないが、一時間のロスだとしても、僅か五時間。一階層に平均十分も掛けずに、攻略していった計算になる。
「B級程度だと思ってたから、A級と分かった時には、正直、焦ったけど」
「ダンジョン内を走り回って、本当に大変だった」
改めて勇者一行の化け物振りを思い知ることになった。
「勇者様、こんなお礼しかできませんが、お受け取り下さい」
僕にではなく、なぜかユリに、分厚い封筒を渡した。
真の勇者が誰なか、僕らの言動をみていれば、誰だって気づくよなと思っていたら、ローラが耳打ちした。
「昨晩、ユリが全てを話したの。一応、ユウスケも一緒に召喚された勇者ってことにはなってるけどね」
勇者ユリは、ズルい女だ。僕を勇者にして矢面に立たせておいて、いい所は全て持っていく。
「お金は頂けません。勇者として当然の事をしただけですし、そのために、食事や宿泊をさせて頂いたのですから」
なるほど、こうなることまで予想して、昨晩野宿するのを取りやめたのかと、理解した。
既に、出発時刻を過ぎていたが、ローラがもう少しだけ待っていて欲しいとお願いしたらしく、ミミウスさんは出発せずに待っていてくれた。改めてお礼を言って、彼の軽トラックでリットに向かう事になった。
ミミウスさんも、真の勇者が誰か知ったみたいで、ユリだけは助手席に座らせてもらい、僕ら四人は荷台に乗って、リットに向け出発した。
リットに向かう軽トラックの荷台で、勇者パーティーと名乗らない理由を改めて確認すると、ローラとフレイアが教えてくれた。
昔は、名乗っていたのだが、勇者なら何でも引き受けてもらえると、いろいろな面倒事をもちかけられるのだとか。最初の頃は、全てを引き受けて熟したが、どんどん増えてきて、とてもじゃないが熟せない量になった。
そこで、勇者でなくても熟せる簡単な依頼は断ることにしたら、依怙贔屓だと陰口をたたかれた。
その時、前ヒーラーの司教のマシュウスが「勇者一行であることは隠しましょう。それでも知られたら、私が勇者だと名乗り、誹謗中傷を引き受けますから」と言ったのだそう。
昨日の様な状況でも、マシュウスが適当な嘘で誤魔化していたので、とっさになんといえば分からず、沈黙してしまったということだった。
「これからはユウスケがマシュウスの代わり。よろしく」
フレイアにそう言われたが、聖職者でもない僕に、そんな役割を押し付けるなといいたかった。だが、それ位しか貢献できないのも確かだ。今日は僕なりに頑張ったが、ローラの助けがなければ、ゴブリン討伐なんてできず、死んでいた。
「ところで、ゴブリン退治の方はどうだったんだ」
四十匹ほどだが、タンク役は初めてだったので、殺されそうになったが、ローラが僕ごと焼き払って、全滅させ、村娘二人を救出したと説明した。
「タンク役は、大変だろう。こいつらは感謝すらしないから」
「そんなことない。いつも頼りにしてる」
「アーロンがいないとダンジョン攻略は無理だもの。昨日だって、ユウスケのお守は、フレイアか私のどちらだったでしょう」
「すまん。分かってる。口が過ぎた」
「でも、今日は少し見直した。あのまま、洞穴に潜っていくものだと思ってたのに、タンク役を買ってでてくれたでしょう。男らしかったよ。まあ、私のことなんて気にせずとも、近寄れないようにする方法はあったんだけどね」
それなら、早く言えと言いたくなかったが、男らしいと言ってもらえたのは少しうれしかった。
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