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第一章 凡庸で悪いか

僕は治癒剣士の創始者でもあります

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 クリフト病院の皆に惜しまれながらも、僕は管理局の緊急特務課に行き、ダンジョン攻略の新規登録をすることにした。
 名前は、ユウスケだけにして、ランクはBC。職種は治癒魔導士、特技はヒール、リジェネ。備考は「剣術が得意なので、前衛希望」と書いて、『強欲』は敢えて隠して提出しようとしたが、その時、ふと職種「治癒魔導士」でいいのかと、考えてしまった。
 備考欄に、前衛希望と書いたとしても、治癒魔導士は、支援職なので後衛に陣取り、戦闘参加しないのが基本。折角の大罪スキルが全く生かせない。『強欲』は止めを刺した敵のスキルを自分のスキルにできる能力なので、止めを刺すことのできる戦闘職でないと、基礎能力をかさ上げするスキルは習得できないのだ。

 なら、「剣士」として登録し、備考欄に、治癒魔法も使えますと書くことにした方がいいのか。
 一番の適正は剣士で、僅か一月ではあるが、剣士としての厳しい修業もしてきて、それなりの腕があると自負している。勿論、基礎能力がBランクなので、A級剣士より、能力が明らかに劣るが、俊敏性はあると思うし、リジェネでダメージ回復しながら戦えば、その能力不足を補え、剣士として戦える気もする。
 かといって、BCランクの剣士では、なかなかパーティーに入れてもらえない可能性が高い。

 暫く悩んで、もう一枚、申込書を貰って、職種「治癒剣士」と記載して受付のシーナさんに提出した。
「治癒剣士。得意の二つをまとめた面白い職業ですね。でも、基本は既存の職種から選んで登録することになりますので、治癒魔導士で括弧書きで、治癒剣士とさせて頂きますね」
 結局、職種は、「治癒魔導士(治癒剣士)」となったが、職種だけで、治癒魔法もつかえる剣士と分かることになる。

「おい、スーキユウスケ。ちょっと来い」
 登録のついでに、攻略済みC級ダンジョン攻略への参加希望をだし、帰ろうとした所で、課長のカールさんに、また呼ばれた。
 まあ、カールさんのお蔭で、強欲スキルの本当の意味を知り、治癒剣士になれたようなものなので、事務所内に入らせてもらい、窓際というか壁際の席に向かった。
「治癒剣士か。考えたな。お前の事を静観させてもらっていたが、お前やっぱり只者ではないな。たった一年で治癒魔法を蘇生魔法以外全て習得し、リジェネという治癒魔法まで編み出して、医学に革命まで起こした。この分だと、もうこちらの世界にもどってこないだろうと、諦めていたが、医師にならずに戻ってきてくれて感謝している。本当にありがとう」
「確かに悩みましたが、僕の使命は、勇者一行として恥じない男になり、魔王討伐することですから」
「いうね。でもその心意気、気に入った。直ぐに推薦状を書いてやると言いたいが、いかんせん実績がない。一年程、経験を積んだら、A級クランに推薦状を書いてやるから、それまではB級以下のクランから勧誘されても、加入なんかするなよ。そのクランを脱会して転属する事も可能ではあるが、お前は例のスキルの絡みもあるからな」
「B級クランでも、A級ダンジョンに潜ることは可能ですよね。それにまだA級ダンジョンは出現していないんですよね」
「ああ、この周辺にはまだA級ダンジョンが見つかっていない。だが、先週、新たなダンジョンが出現した。まだ二十五層までしか調査できていないが、各地でA級ダンジョンが見つかり始めているので、A級の可能性が高い。今後は積極的にA級ダンジョンに潜る必要があるという訳だ。それに、B級クランだと、三十階層より先に進むのはリスクが高すぎると諦めるに違いないし、クラン転属可能といっても、いろいろとややこしいことになりかねないからな」
 カール課長の指示に従い、僕は、紹介状を書いてもらうまでは、フリーの治癒剣士としてダンジョンに潜ることにした。

 だが、クラン勧誘どころか、パーティ招待も来なかった。緊急特務課の方で、僕をB級クランのパーティーに混ぜてくれて、ダンジョンに潜ることはできたが、引く手あまたというのは、全く嘘っぱちだった。
 治癒魔導士が少ないと言っても、大量にポーションを持っていけば、必ずしも治癒魔導士は必要ないし、経験のない胡散臭い男とは組みたがらないのだ。
 それでも、一度パーティを組むと、その後は必ず僕の名前を見つけると誘ってくれるようになる。剣士としての実力もあり、リジェネの便利さを実感するからだ。
 直ぐに優秀な治癒剣士だとの噂も広がり、ひと月もすれば、引っ張りだこになった。B級クランからもしきりにメンバーになって欲しいと勧誘される。
 お蔭で、お金もかなり貯まり、ちゃんとした浴槽のある風呂つきのマンションに引っ越すことができ、三年振りに、お湯につかって、身体の疲れを取ることもできた。
 B級以下のダンジョンだと、基礎能力を上げる有用スキルはあまりなく、攻撃魔法の魔力消費を低減するスキルとか、範囲物理攻撃の威力をアップさせるスキルとか、僕には意味のないスキルばかりが増えて行ったが、『剣乱舞』という、一回の斬撃に、複数の小斬撃を重畳して、通常の四十パーセント増しの斬撃を繰り出せるようになったのが、唯一の収穫だ。
 
 それでも、一年経つと、治癒剣士ユースケの名前は有名となり、治癒剣士も正式職種に登録され、括弧書きも外れ、正式に治癒剣士として登録されるに至った。
 そして、クリフト近郊に、二つ目のA級ダンジョンも発見され、カール課長は、A級クラン『マナイクシオン』への紹介状を書いてくれることになった。

 早速、それを持参し、クランに入会に行った。面会して話を聞いてくれたが、入会できなかった。知らなかったが、A級クランの加入条件は、基礎能力A級以上のものとの取り決めがあったのだ。
 それでも、パーティーには加えてもらえ、A級ダンジョンには潜れるようになったが、扱いはあくまで治癒魔導士しての支援職で、有効そうなスキルを持っているボスと出会えても、スキルは増えなかった。

 『パレンティオン』は、門前払いでパーティーにすら加えてくれず、『女神の剣』は好感触だったが、ルールを破ると、他のA級クランに睨まれるからと、やはり入会は断ってきた。
 それでも、『女神の剣』だけは、積極的にパーティーに誘ってくれて、雑魚戦では前線で戦わせてくれた。
 その結果、戦闘能力は、クランの剣士に劣ると判断され、ボス戦ではやはり後衛。このままではA級ダンジョンに潜っても、熟練ランクは上がるが、有効のスキル習得ができない。

 そこで、僕はB級クランのリーダー達を説得し、攻略済みA級ダンジョンに果敢に挑戦してもらうようにした。
 僕は、既に対戦経験があるので、攻略方法を指示することができ、攻略法さえわかれば、B級クランでも、十分に戦える。
 カール課長からは、どこどこダンジョンの何階層のボスは、こんなスキルを持っている可能性が高いとアドバイスもしてくれた。
 お蔭で、効率よく基礎能力を底上げできるスキルを獲得でき、熟練ランクも急上昇することとなった。
 
 ダンジョン攻略隊加入後三年が過ぎた頃には、基本能力はBランクでも、A級なみの基本性能に底上げでき、大ダメージを与えられるスキルもかなり保有することになった。
 こうなると、A級クランのパーティー内でも、見劣りせずに、活躍できるようになる。『女神の剣』のリーダーも剣士として認めてくれ、ボス戦でも戦闘参加もさせてもらえるようになった。
 そして、ついに、メンバー採用ルールを破って、僕をクランメンバーとして勧誘してくれたのだ。

 その時、即答していれば、僕は今『女神の剣』のメンバーとなっていた筈だが、勇者パーティーに入りたかったし、女神の剣はA級クランのなかでは最弱クランだ。カール課長と相談してからにした方が良いだろうと、回答を保留してしまった。
 その話を聞きつけた『マナイクシオン』や『パレンティオン』のリーダーは、黙っていない。A級クランリーダー会議を緊急開催し、改めてAランク能力者以外を加入させ、A級クランの質を低下させないようにすることを徹底し、僕がどこかのクランに所属することが無いようにする協定ができてしまった。

 そんな訳で、僕は未だに、どこのクランにも所属していないフリーの治癒剣士として、ダンジョンに潜り続けているという訳だ。

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