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第五章 平和を目指して頑張って来ただけなのに
5-6 また独りぼっちになりました
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テディがこのリットにきて、一月半が経った頃、漸く僕らの城というか豪邸に毛が生えた程度の屋敷が完成した。
高い建築技術をもつドワーフ達が、少しでも僕の役に立ちたいと、頑張ってくれて、予想より大幅に工期を短縮し、こんな短期間で、完成してくれたのだ。
病院の方も、とんでもなく早いベースで進んでいて、あと数日で完成しそうな勢いだ。
そんなわけで、新居の引っ越しや病院の開業準備で、ピッチはまたも大忙し。
新居へ引っ越しや家財道具の準備等は、フェンを除く家族全員どころか眷属達にも手伝わせて、ピッチの負担を最小限にするように協力した。
フェンは自分も手伝うと主張したが、万が一流産でもすると大変なので、重い物は持たせない様にしたわけだ。
そんなこともあり、テディもすっかり、僕の妃の一員になり、ピッチ、フェンは勿論、蜘蛛神や龍神とも怖がらずに話すようになり、明るくなった。
リットが貿易の拠点になった理由は、この近くに温泉があり、温泉を利用しに人々が集まったからで、この城にも、その源泉から温泉を引き、源泉かけ流しの大浴場がある。
そんな訳で、この日は、アクネルもルネーラも人型形態になって、全員でわいわい大騒ぎして、入浴した。
テディの裸体は、この日、初めて見たが、僕が思い描いていたような理想的な肉体美で、しかも一人だけ恥ずかしそうに隠しているから、ますます興奮した。
といっても、今の僕は昔とはちがう。大きくはなるが勃起はしない。
いつものようにぶらぶらと見せていたので、テディは真っ赤になった。本当に可愛い。
でも、彼女にだけは手をだしてはならない。エッチな行為は何もなくなくお風呂をあがった。
だが、そこで誰が今日のお相手をするかで揉めはじめた。
新居での姫始めだったので、皆が最初にしたいと譲らなかったのだ。
ジャンケンという意見も出たが、フェンが久しぶりに皆でしようと恐ろしいことを言い出した。
結局、この日は、真新しい寝室の巨大ベッドで、久しぶりの5P。
僕の憧れていた異世界ハーレム生活ではあるが、全員が化け物級の体力を持つとんでもない淫乱揃いなので、彼女たち全員を満足させるのは、本当に大変で、完全に搾り取られ、制も痕も尽き果てた。
そして、その五日後、リット病院も開業するにいたった。
この地には病院はもとより医療施設が一切なかったので、皆が心待ちにしていてくれて、ここで働く予定の看護士はもとより、有志の方々も協力してもらえ、入れ物が完成してわずか一日で、開業に至った。
病院といっても、診察室、病室以外にも、大きな食堂や男女別の風呂場、運動施設等があり、湯治場やリハビリ施設の様な役割も兼ねている。
早速、長年の持病に苦しむ患者や、捻挫等の怪我をした人たちが押し寄せてきて、今日もビッチは大忙しだ。
僕やテディも極力手伝ったが、守り神の三人は暇そうにしていて、なんかビッチばかり忙しくなってしまい申し訳けなくて仕方がない。
その夜、そのビッチの労いも兼ねて、彼女にたっぷりとサービスしていると、緊急の呼び出しがあった。
既に、交番制度が浸透し、何かが起きると、直ぐに僕に連絡が来るようになっているが、ドワーフの里の巡査から、プレーヤを率いる人族軍が攻めてきたとの連絡があった。
和平条約締結してまだ五十日目で、こんなに早く条約破棄されるとは予想もしていなかった。
といっても、詳細を訊くと、プレーヤーは一人で、兵は三十弱と言う。
国王は、裏切っておらず、一人のプレーヤーが人族の溢れ者を雇って、勝手に暴走しただけなのかもしれない。
これなら、僕が出向くまでもないと、フェンに狼、蜘蛛、飛竜からなる警備隊員八名程をドワーフの里に運んでもらうことにして、僕は再び、ビッチとの愛の営みの続きをすることにした。
そして、再結合して直ぐ、フェンが、『大変なの健斗も至急来て』と以心伝心で伝えて来た。
『大変って、何があったんだ』
『御免。できるだけ多くの警備隊員を送り込まないとならないから』
転送より先に、状況説明くらいしろとも思ったが、八人でも足りないとなると、かなりの緊急事態なのは間違いない。もしかして、プレーヤー軍の伏兵が居て挟撃してきたのかもしれない。
僕は、ビッチに謝罪して、今日はこれで終わりにして、慌てて服を着て、警備隊本部へといそいだ。
『戻って来たよ。あのね、状況は最悪になってる。最初は兵士の数人が突如巨人になって、家を壊したり、ドワーフ達を踏みつぶしたりしてたんだけど、さっき行くと、三十体もの巨人が大暴れして、八人の警備隊員が圧倒されていた』
人が、突然、家を壊す程の巨人になるなんて、信じられないが、何かのアイテムでそんなことが可能なのかもしれない。
『あと一分で行くから、勝手にテレポしないで待ってろよ』
そして、フェンと合流して、僕が五分遅れで、ドワーフの里に着くと、そこは既に地獄絵だった。
家が燃えていて、女の子供の悲鳴が響き渡り、十メートルもある大巨人が約三十体、家を踏みつぶして歩いている。
僕らの警備隊員も重傷者多数で、フェンの配下の狼も、その巨人に捕まり、首をかみ切られて、僕の目の前で絶命した。
僕の居た世界の漫画『進撃の巨人』の惨劇が、まさしく繰り広げられた。
その巨人と目が合い、鑑定してみると、レベル25の『人族 巨人化形態』となっていて、その能力値は、一万越えのとんでもない化け物だった。
幸い、魔法耐性はなかったので、僕の魔法攻撃を主体に、遠距離攻撃して足をつかせて動けなくして、魔法を込めた魔斧攻撃で、次々と仕留めて行った。
五体目の巨人と格闘していた時、背後のその巨人の肩に、プレーヤーらしき人物を見つけた。
ネカマらしき、少女が、金髪をなびかせて立っていた。
こいつが、この巨人を操っているらしい。
僕は、まだ巨人と対戦中だったが、再度重力魔法で動けない様にして放置し、連続瞬歩で、そのプレーヤーの方へと近づいていった。
「篠崎、ようやく現れたか」
金髪になっていたが、そいつは国生ローラこと、山際武だった。どうやら鬘を被っているらしい。
「お前の所為で、俺の人生はめちゃめちゃになり、お前に復讐する為だけに生きてきた。お前の愛する者をことごとく、壊してやる。お前にはこいつらが死んでいくのが最もつらいだろう」
僕が彼に蹴りを入れようとしたが、その寸前、笑いながら、転送アイテムを使って消えてしまった。
あの男だけは、絶対に許せない。
そう思ったが、今の僕にはこの惨劇を少しでも食い止めるのが先決だ。
その後も、巨人を頑張って倒していったが、あんな巨大な化け物が、三十体もいたので、その被害は甚大だ。
死者十一名、行方不明者十三名、重傷者百名以上と言う、とんでもない被害をだしてしまった。
壊れた瓦礫の下に、生存者がいないか、確認しながら救出したので、行方不明者とは巨人に食べられた者たちだ。
僕は、平和な世界を構築できたと思っていたが、僕の所為で、こんなテロ行為を許してしまった。
あれほどの大巨人を簡単に生み出せるアイテムを持っているとすると、これからもこのテロ行為は繰り返される。
僕は、病院への重傷者の移送に従事していたフェンに、一時中断してもらい、僕を人族の王都アッシムの王宮内に転送してもらった。
国王は、何が起きたのかも知らず、一人で寝ていたが、僕は彼を叩き起こした。
「よくも、条約違反してくれたな。ドワーフの里が、人族の奇襲を受け、死者二十四名を出すことになった」
「待ってくれ。儂は何も知らん。亜人領への侵攻は絶対にするなとちゃんと徹底している。嘘じゃない」
「それでも、テロが起こった。国生ローラというプレーヤが、三十人の人族を引き連れてきて、その三十人全員を十メートルもある巨人に変えたんだ。その所為で、ドワーフの里は壊滅だよ」
「巨人? そうか。巨人化の薬を完成させた奴がいたのか。実は、二日ほどまえ、巨大鼠がプレーヤー居住区で大暴れする事件が起きたんだ。その討伐の際、五メートルほどの子供の巨人まで現れた。大人だと、十メートルサイズになってもおかしくない。その錬金術師の仕業で間違いない。儂の方で、その男をとらえる様に手配して、二度とそんなことがおきないように対処する。それで許してくれ」
「いいだろう。男ではなく、国生ローラというネカマだがな。プレーヤーなので、捕えても無駄だし、殺しても直ぐに復活する。だが、国生ローラに何もさせないため、見つけ次第、直ちに殺せと勅令をだせ。そして、国生ローラに協力したものは、直ちに局刑に処するとの命令もだせ。今回は、それで許してやるが、もし、次に何らかの侵略行為があれば、問答無用で首を取る。命が惜しければ、国生ローラの暴走を必死で止めることだ」
そう言って、国王の寝室を颯爽と後にしたが、僕は王宮の庭で、不信な目で皆から見つめられ、ひそひそと陰口をたたかれつづけることになった。
フェンに、恰好をつけて、「ここに戻ってくるのは、怪我人の転送が終わってからでいい」なんていってしまったため、一時間以上もこの場で彼女が迎えにきてくれるのを待つことになった。本当に情けない。
そして、ドワーフの里の様子を見に顔を出し、改めて今回のテロを許してしまった失態を詫び、リットの城に戻ったが、大変な事になっていた。
「テディさんが、警備隊に連行されていったの。引き留めようとしたけど、私には何もできなくて」
ピッチが、青い顔してそんなことを言ってきた。
確かに、あんな悲劇を出したので、人質となっている彼女を処刑しようとする気運は理解できる。だが、これは山際が国王の命に背き、勝手に行った行為だ。
国王は裏切ったわけではないのだから、テディに報復するのは間違っている。
僕は、急いで本部に向かったが、ルネーラとアクネルも来ていて、すっかの処刑するムードになっていた。
「よく聞いてくれ。国王は裏切った訳じゃない。さっき確認しにいったが、ちゃんと僕らの国に侵略行為しないように徹底していた。一人のプレーヤーが、僕がした行為に腹を立て、仕返しのためにテロを起こしただけなんだ」
「健斗、理由はどうあれ、我が国に人族が戦争を仕掛けた事には変わらない。条約に違反した以上、処刑する」
「しっかりするのじゃ。前世で離れ離れになった彼女と似ているとはいえ、こ奴は別人じゃ。まさか、助けるとはいわんよな」
確かに、国王にその意志はなかったとはいえ、条約では我が国のいかなる侵略行為も禁止するとなっていて、条約違反には変わらない。そして、その条約を破った以上、それ相応の罰を下すのが法を順守する国王の立場だ。
「お前たちの言い分は分かる。こっちも、二十四名もの尊い命を失い親族等の怒りを鎮める意味からも、見せしめの処刑は必要かもしれない。だが、もう少しだけ、考えさせてくれ。テディと話をさせてくれ。それで僕も結論をだすから」
そういって、牢に閉じ殺られているテディに会わせてもらった。
「御免。僕のいない間に、こんなところに閉じ込めてしまって」
「ううん。何人もの犠牲者を出したと聞いて、私が処刑されるのは覚悟しているから」
「違うんだ。国王は何もしていない。ちゃんと国民には侵略行為をするなと勅令をだしていた。俺を苦しめるために、山際武が、彼は俺と水谷咲さんとの関係を引き裂いたいじめっ子なんだが、そいつが勝手にやったことなんだ」
「でも、どうであれ、人族が戦争を仕掛けて、沢山の犠牲者を出した事実は変わらない。私もこれでも一国の姫よ。その事実が起き、条約を破った以上、私を処刑しない訳にはいかないの。それを敗れは、国王としての信頼は失墜することになるのよ」
そんなことは分かっているが、僕の感情としては、彼女をどうしても助けたい。
「健斗に出会えて、私は新たな世界を知ることができた。この世界は、人族だけのための世界じゃない。獣人を奴隷にしてこき使うなんて、間違ってるし、それを正して、この世界に平和をもたらそうと動いている健斗さんの事が、大好きになった。本当の意味での妃になれなかったのだけは、残念だけど、私を処刑することで、貴方の国民の心の痛みを少しでも軽減させてあげて。私は、それで十分満足だから」
僕はその彼女の言葉で、何も言えなくなってしまった。僕は彼女のためにも、国王としての義務を果たさなければならない。
こうして、翌々日の昼、テディの公開処刑が決まった。
その日、僕は彼女の死を見届ける義務があったが、断頭の直前、目を背け、その最後を見どける事すらできなかった。
翌日、僕は入れ墨の道具を手に、国生ローラ探しに動き回った。
強制ログオフしても、髪型はそのまま維持されたことから、入れ墨もまたそのまま維持される可能性が高い。
だから、あいつに落書きされた時の様に、入れ墨で落書きして、二度とこの世界に足を踏み入れられなくすることにした。
国王は、約束通り、国生ローラを指名手配し、見つけ次第直ちにころせと、勅令をだしていた。
事実、二回、彼を殺そうとして、突然消えてしまったという話だった。以来、彼は姿を見せていないそうだが、王都アッシム以外に移動しただけの可能性もある。
僕は、プレーヤーが現れるという場所を全て周って、彼を見つけ出すことにした。
ただ、そうすると、フェンのテレポは使えない。暫く、リットの街にも帰れなくなる。
少し悩んだが、国生ローラというゲームプレーヤーが居る限り、テロ行為の危険は付きまとう。
僕は、一週間、執務をビッチに代行させ、国生探しの旅にでることにした。
王都では、僕を恐れて、誰も襲ってはこなかったが、他の都市や、ダンジョンなんかでは、結構、プレーヤーが無謀な戦いを挑んできた。
勿論、アイテムを使えない様に拘束し、武者落ちカットにするだけでなく、顔にオマンコの入れ墨までいれ、二度と街を歩けなくしてやった。
そして、プレーヤーが集まるダンジョンボス攻略戦にも乱入し、それに参加しているプレーヤーの顔を確認して廻った。大人しくしていれば、何もしないが、歯向かってきたものには、武者落ちカットとオマンコ刺青の罰を与えた。
プレーヤーが出現すると言われる場所は、一通り周り、その居住地と言う場所にも足を運んだが、それでも国生ローラを見つけることができなかった。
そして、再び王都に戻って来て、明日、リットに帰るとと言う日の夜、突然頭の中に、知らない男の声がした。
『私、ゲームディレクターの秋川英二と言うものです。貴方が篠崎健斗さんで間違いありませんか』
『ああ、そうだが、ゲームディレクターって、運営側のトップだよな。丁度いい。国生ローラのログイン状況を教えてくれ』
『そう言われても、個人情報は教えられませんが、要求に応じてもらえるなら、お教えします。どうですか?』
『要求にもよるが、善処する。どうしても知りたいんだ。頼む』
『わかりました。もうしばらくお待ちください』
漸く、奴の情報が得られると期待したたが、その間も彼は延々と話し続けてきた。
『貴方は、我々が作り出したNPCとは違うので、我々からは何もできないし、連絡を取りたくても、動き回られると、連絡が取れないんです。アッシムの宿屋に宿泊してくれて、本当に助かりました。それにしても、貴方、一体何者なんですか。貴方の所為で、ゲームプレーヤー離れが加速し、ゲームバランスが無茶苦茶なクソゲーとの悪評までたち、採算が全くとれなくなってしまっいました。外部から侵入したバクである貴君を、最初に除去できなかった我々の失敗ですが、まさか、人神なんて無茶苦茶な存在になるとは予想もしていませんでした。あっ、調査結果がでました。国生ローラというキャラの保有者は、三日前の深夜二時にログオフして以来、そのキャラではログインしておりません。別のキャラに変更して、ほとんど一日中、レベルリングに勤しんでいるみたいですね』
なるほど、キャラを変更して、見つからない様にしてやり直していると言う訳か。
『そのキャラ名は何というんだ』
『その前に、我々の要求を呑んでください。そのうえで、回答します』
『要求って言うのはなんだ』
『それでは、要求は告げます。貴方は討伐不可能対象になってしまったので、自殺してもらいたい。そうしてもらえれば、今度のイベントや、ご褒美要素の前倒しにて、もう一度、プレーヤー数を回復できると考えています。高いゲーム装置を買ったので、それを眠らせたくない筈で、暫くは赤字続きで苦しいでしょうが、徐々に回復し、一年でとんとんに持っていける見込みです。そういう訳で、死んでくれませんか』
死んだら、また山際が好き勝手にあばれる。そんな要求はのめるはずない。
『いやだね。僕には娘が生まれるんだ。その娘の顔を見るまでは絶対に死なない。それに僕が死んだら、魔族やら人族やからが、僕の国に一斉に攻め込んでくるんだよな。そんなことさせられるか』
『そうですか。分かりました。そうなると、このゲームは閉鎖せざるを得ません。そうなれば、この世界は終わります。あなたの大切な人も皆死ぬんです。そう選択したのはあなたです。それでも、自殺してもらえませんか』
『卑怯だぞ。この世界の全員を殺す気か』
『これちらも商売です。あなたの為の慈善事業でサーバーを動かし続けている訳ではありませんから』
『分かった考えさせてくれ』
『こちらも、判断を迫られています。今から四時間以内、そちらの時間で八時間以内に、生命活動を停止してください。その時点で貴殿の生命活動が継続していれば、LOHの閉鎖を決定します。それでは』
とんでもないことになってしまった。八時間後といえは、午前七時だ。
皆が死ぬくらいなら、僕が自殺した方がずっといいが、その前に皆に会いたい。
僕はそのままチェックアウトして、リットの街に急いだ。
僕の最大速度で走り続けたが、リットまでは遠い。朝日が昇り、どんどん太陽が昇っていく。七時になったら、サーバー停止して、全てが消えるので、その前にどうしても、フェンに会いたい。
『フェン、聞こえたら、何かいってくれ』
以心伝心の範囲外だとわかっていても、僕は何度も心の中で語り掛け、走り続けた。
『健斗、帰ってきたの。お帰り』
リットの街が見えて来たと思ったら、漸くフェンの声が聞こえてきた。この太陽の角度だと既に七時はとっくに回っていると思われるが、ちゃんと生きていた。僕はほっと安堵した。
自宅に戻った時は、既に七時四十分だったが、何もかわっていなかった。皆、普通に生きている。
僕に自殺させようと、あんな脅迫めいたことをいっただけだった。
それからは、平和な日々が続き、四か月が過ぎ、フェンのお腹も目立つ様になり、時々動いたりするようになった。
だが、ゲームの閉鎖が決まっても、即時実行できず、暫く、継続運用されていただけだった。
ある日、突然、夜が明けなくなり、空気の流れもとまり、川の水も流れなくなくなった。
虫や魚、動物等の食糧源も全て一斉に姿を消し、日光が当たらないので気温はどんどん低下していく。
川も汚れ、植物までも枯れ、保存していた食料も底をつき、病気が蔓延するようになる。
仲間がつぎつぎと死んでいき、国民の不満が爆発し、人々は食料を求め、醜く争い始め、それを加速する。
フェンも飢えと寒さから、流産してしまい、必死に治療したが、栄養失調だったこともあり、亡くなってしまう。
暖房のため、酸素を消費し続けたためか、酸素も薄くなって酸欠になり、ルネーラ、アクネルも続くように息を引き取った。
不思議な事に最後まで生き残ったのはビッチだったが、その彼女も程なく息を引き取り、僕以外の全ての者が息絶えた。
あの時、僕が直ぐに自殺してさえいれば、彼らは生き続けられたのに、全て僕の所為だ。
そして、その二日後、僕もついに力尽きて、死ぬことになった。
目覚めると、僕はまたあの天国の様なふわふわの雲の床の上に居た。
「私は転生を司る女神。あなたを転生させて……。えっ、篠崎健斗さんだったんですね。随分大きく立派な身体になって、名簿を見るまで、気づきませんでした。でも、一年もしないでまた死んだんですか。本当に運のない人ですね。それで、楽しい生活は送れましたか」
「いつも、僕の事を見てたのは知ってるんだ。あんたの声は、頻繁に聞いていたからな」
「私はこう見えてもとても忙しんです。一日に日本で死亡する人の数は、四千四百人もいるんです。人間担当の女神は、四人いて並列処理していますが、一人一分しか掛けられないんです。声の主は、私のクローン体の山内麗子だと思います。彼女、貴方が転送した先のゲームを作っている会社のゲームプロデューサーなんです。ゲーム世界は私にどうにもできないので、彼女に全てを委ねたんですが、そういえば、赤ちゃんではなく、そのからだも変ですね。彼女に遊ばれたんじゃないですか。彼女、あのゲーム世界の次のゲームを担当しているので……。時間がありません。あなたの転生先は何にしますか。ゴキブリ、ダンゴムシ、フナ虫のいずれからが選択可能です」
無茶苦茶な話で、女神を殺してやりたい気持ちだが、もう人間をやり直したいとは思わなかった。
「ダンゴムシで」僕は素直の彼女選択を受け入れ、そう応えていた。
(了)
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最後までお読みいただいた方、ありがとうございます。
今後の参考にさせていただきますので、感想を頂けると幸いです。
高い建築技術をもつドワーフ達が、少しでも僕の役に立ちたいと、頑張ってくれて、予想より大幅に工期を短縮し、こんな短期間で、完成してくれたのだ。
病院の方も、とんでもなく早いベースで進んでいて、あと数日で完成しそうな勢いだ。
そんなわけで、新居の引っ越しや病院の開業準備で、ピッチはまたも大忙し。
新居へ引っ越しや家財道具の準備等は、フェンを除く家族全員どころか眷属達にも手伝わせて、ピッチの負担を最小限にするように協力した。
フェンは自分も手伝うと主張したが、万が一流産でもすると大変なので、重い物は持たせない様にしたわけだ。
そんなこともあり、テディもすっかり、僕の妃の一員になり、ピッチ、フェンは勿論、蜘蛛神や龍神とも怖がらずに話すようになり、明るくなった。
リットが貿易の拠点になった理由は、この近くに温泉があり、温泉を利用しに人々が集まったからで、この城にも、その源泉から温泉を引き、源泉かけ流しの大浴場がある。
そんな訳で、この日は、アクネルもルネーラも人型形態になって、全員でわいわい大騒ぎして、入浴した。
テディの裸体は、この日、初めて見たが、僕が思い描いていたような理想的な肉体美で、しかも一人だけ恥ずかしそうに隠しているから、ますます興奮した。
といっても、今の僕は昔とはちがう。大きくはなるが勃起はしない。
いつものようにぶらぶらと見せていたので、テディは真っ赤になった。本当に可愛い。
でも、彼女にだけは手をだしてはならない。エッチな行為は何もなくなくお風呂をあがった。
だが、そこで誰が今日のお相手をするかで揉めはじめた。
新居での姫始めだったので、皆が最初にしたいと譲らなかったのだ。
ジャンケンという意見も出たが、フェンが久しぶりに皆でしようと恐ろしいことを言い出した。
結局、この日は、真新しい寝室の巨大ベッドで、久しぶりの5P。
僕の憧れていた異世界ハーレム生活ではあるが、全員が化け物級の体力を持つとんでもない淫乱揃いなので、彼女たち全員を満足させるのは、本当に大変で、完全に搾り取られ、制も痕も尽き果てた。
そして、その五日後、リット病院も開業するにいたった。
この地には病院はもとより医療施設が一切なかったので、皆が心待ちにしていてくれて、ここで働く予定の看護士はもとより、有志の方々も協力してもらえ、入れ物が完成してわずか一日で、開業に至った。
病院といっても、診察室、病室以外にも、大きな食堂や男女別の風呂場、運動施設等があり、湯治場やリハビリ施設の様な役割も兼ねている。
早速、長年の持病に苦しむ患者や、捻挫等の怪我をした人たちが押し寄せてきて、今日もビッチは大忙しだ。
僕やテディも極力手伝ったが、守り神の三人は暇そうにしていて、なんかビッチばかり忙しくなってしまい申し訳けなくて仕方がない。
その夜、そのビッチの労いも兼ねて、彼女にたっぷりとサービスしていると、緊急の呼び出しがあった。
既に、交番制度が浸透し、何かが起きると、直ぐに僕に連絡が来るようになっているが、ドワーフの里の巡査から、プレーヤを率いる人族軍が攻めてきたとの連絡があった。
和平条約締結してまだ五十日目で、こんなに早く条約破棄されるとは予想もしていなかった。
といっても、詳細を訊くと、プレーヤーは一人で、兵は三十弱と言う。
国王は、裏切っておらず、一人のプレーヤーが人族の溢れ者を雇って、勝手に暴走しただけなのかもしれない。
これなら、僕が出向くまでもないと、フェンに狼、蜘蛛、飛竜からなる警備隊員八名程をドワーフの里に運んでもらうことにして、僕は再び、ビッチとの愛の営みの続きをすることにした。
そして、再結合して直ぐ、フェンが、『大変なの健斗も至急来て』と以心伝心で伝えて来た。
『大変って、何があったんだ』
『御免。できるだけ多くの警備隊員を送り込まないとならないから』
転送より先に、状況説明くらいしろとも思ったが、八人でも足りないとなると、かなりの緊急事態なのは間違いない。もしかして、プレーヤー軍の伏兵が居て挟撃してきたのかもしれない。
僕は、ビッチに謝罪して、今日はこれで終わりにして、慌てて服を着て、警備隊本部へといそいだ。
『戻って来たよ。あのね、状況は最悪になってる。最初は兵士の数人が突如巨人になって、家を壊したり、ドワーフ達を踏みつぶしたりしてたんだけど、さっき行くと、三十体もの巨人が大暴れして、八人の警備隊員が圧倒されていた』
人が、突然、家を壊す程の巨人になるなんて、信じられないが、何かのアイテムでそんなことが可能なのかもしれない。
『あと一分で行くから、勝手にテレポしないで待ってろよ』
そして、フェンと合流して、僕が五分遅れで、ドワーフの里に着くと、そこは既に地獄絵だった。
家が燃えていて、女の子供の悲鳴が響き渡り、十メートルもある大巨人が約三十体、家を踏みつぶして歩いている。
僕らの警備隊員も重傷者多数で、フェンの配下の狼も、その巨人に捕まり、首をかみ切られて、僕の目の前で絶命した。
僕の居た世界の漫画『進撃の巨人』の惨劇が、まさしく繰り広げられた。
その巨人と目が合い、鑑定してみると、レベル25の『人族 巨人化形態』となっていて、その能力値は、一万越えのとんでもない化け物だった。
幸い、魔法耐性はなかったので、僕の魔法攻撃を主体に、遠距離攻撃して足をつかせて動けなくして、魔法を込めた魔斧攻撃で、次々と仕留めて行った。
五体目の巨人と格闘していた時、背後のその巨人の肩に、プレーヤーらしき人物を見つけた。
ネカマらしき、少女が、金髪をなびかせて立っていた。
こいつが、この巨人を操っているらしい。
僕は、まだ巨人と対戦中だったが、再度重力魔法で動けない様にして放置し、連続瞬歩で、そのプレーヤーの方へと近づいていった。
「篠崎、ようやく現れたか」
金髪になっていたが、そいつは国生ローラこと、山際武だった。どうやら鬘を被っているらしい。
「お前の所為で、俺の人生はめちゃめちゃになり、お前に復讐する為だけに生きてきた。お前の愛する者をことごとく、壊してやる。お前にはこいつらが死んでいくのが最もつらいだろう」
僕が彼に蹴りを入れようとしたが、その寸前、笑いながら、転送アイテムを使って消えてしまった。
あの男だけは、絶対に許せない。
そう思ったが、今の僕にはこの惨劇を少しでも食い止めるのが先決だ。
その後も、巨人を頑張って倒していったが、あんな巨大な化け物が、三十体もいたので、その被害は甚大だ。
死者十一名、行方不明者十三名、重傷者百名以上と言う、とんでもない被害をだしてしまった。
壊れた瓦礫の下に、生存者がいないか、確認しながら救出したので、行方不明者とは巨人に食べられた者たちだ。
僕は、平和な世界を構築できたと思っていたが、僕の所為で、こんなテロ行為を許してしまった。
あれほどの大巨人を簡単に生み出せるアイテムを持っているとすると、これからもこのテロ行為は繰り返される。
僕は、病院への重傷者の移送に従事していたフェンに、一時中断してもらい、僕を人族の王都アッシムの王宮内に転送してもらった。
国王は、何が起きたのかも知らず、一人で寝ていたが、僕は彼を叩き起こした。
「よくも、条約違反してくれたな。ドワーフの里が、人族の奇襲を受け、死者二十四名を出すことになった」
「待ってくれ。儂は何も知らん。亜人領への侵攻は絶対にするなとちゃんと徹底している。嘘じゃない」
「それでも、テロが起こった。国生ローラというプレーヤが、三十人の人族を引き連れてきて、その三十人全員を十メートルもある巨人に変えたんだ。その所為で、ドワーフの里は壊滅だよ」
「巨人? そうか。巨人化の薬を完成させた奴がいたのか。実は、二日ほどまえ、巨大鼠がプレーヤー居住区で大暴れする事件が起きたんだ。その討伐の際、五メートルほどの子供の巨人まで現れた。大人だと、十メートルサイズになってもおかしくない。その錬金術師の仕業で間違いない。儂の方で、その男をとらえる様に手配して、二度とそんなことがおきないように対処する。それで許してくれ」
「いいだろう。男ではなく、国生ローラというネカマだがな。プレーヤーなので、捕えても無駄だし、殺しても直ぐに復活する。だが、国生ローラに何もさせないため、見つけ次第、直ちに殺せと勅令をだせ。そして、国生ローラに協力したものは、直ちに局刑に処するとの命令もだせ。今回は、それで許してやるが、もし、次に何らかの侵略行為があれば、問答無用で首を取る。命が惜しければ、国生ローラの暴走を必死で止めることだ」
そう言って、国王の寝室を颯爽と後にしたが、僕は王宮の庭で、不信な目で皆から見つめられ、ひそひそと陰口をたたかれつづけることになった。
フェンに、恰好をつけて、「ここに戻ってくるのは、怪我人の転送が終わってからでいい」なんていってしまったため、一時間以上もこの場で彼女が迎えにきてくれるのを待つことになった。本当に情けない。
そして、ドワーフの里の様子を見に顔を出し、改めて今回のテロを許してしまった失態を詫び、リットの城に戻ったが、大変な事になっていた。
「テディさんが、警備隊に連行されていったの。引き留めようとしたけど、私には何もできなくて」
ピッチが、青い顔してそんなことを言ってきた。
確かに、あんな悲劇を出したので、人質となっている彼女を処刑しようとする気運は理解できる。だが、これは山際が国王の命に背き、勝手に行った行為だ。
国王は裏切ったわけではないのだから、テディに報復するのは間違っている。
僕は、急いで本部に向かったが、ルネーラとアクネルも来ていて、すっかの処刑するムードになっていた。
「よく聞いてくれ。国王は裏切った訳じゃない。さっき確認しにいったが、ちゃんと僕らの国に侵略行為しないように徹底していた。一人のプレーヤーが、僕がした行為に腹を立て、仕返しのためにテロを起こしただけなんだ」
「健斗、理由はどうあれ、我が国に人族が戦争を仕掛けた事には変わらない。条約に違反した以上、処刑する」
「しっかりするのじゃ。前世で離れ離れになった彼女と似ているとはいえ、こ奴は別人じゃ。まさか、助けるとはいわんよな」
確かに、国王にその意志はなかったとはいえ、条約では我が国のいかなる侵略行為も禁止するとなっていて、条約違反には変わらない。そして、その条約を破った以上、それ相応の罰を下すのが法を順守する国王の立場だ。
「お前たちの言い分は分かる。こっちも、二十四名もの尊い命を失い親族等の怒りを鎮める意味からも、見せしめの処刑は必要かもしれない。だが、もう少しだけ、考えさせてくれ。テディと話をさせてくれ。それで僕も結論をだすから」
そういって、牢に閉じ殺られているテディに会わせてもらった。
「御免。僕のいない間に、こんなところに閉じ込めてしまって」
「ううん。何人もの犠牲者を出したと聞いて、私が処刑されるのは覚悟しているから」
「違うんだ。国王は何もしていない。ちゃんと国民には侵略行為をするなと勅令をだしていた。俺を苦しめるために、山際武が、彼は俺と水谷咲さんとの関係を引き裂いたいじめっ子なんだが、そいつが勝手にやったことなんだ」
「でも、どうであれ、人族が戦争を仕掛けて、沢山の犠牲者を出した事実は変わらない。私もこれでも一国の姫よ。その事実が起き、条約を破った以上、私を処刑しない訳にはいかないの。それを敗れは、国王としての信頼は失墜することになるのよ」
そんなことは分かっているが、僕の感情としては、彼女をどうしても助けたい。
「健斗に出会えて、私は新たな世界を知ることができた。この世界は、人族だけのための世界じゃない。獣人を奴隷にしてこき使うなんて、間違ってるし、それを正して、この世界に平和をもたらそうと動いている健斗さんの事が、大好きになった。本当の意味での妃になれなかったのだけは、残念だけど、私を処刑することで、貴方の国民の心の痛みを少しでも軽減させてあげて。私は、それで十分満足だから」
僕はその彼女の言葉で、何も言えなくなってしまった。僕は彼女のためにも、国王としての義務を果たさなければならない。
こうして、翌々日の昼、テディの公開処刑が決まった。
その日、僕は彼女の死を見届ける義務があったが、断頭の直前、目を背け、その最後を見どける事すらできなかった。
翌日、僕は入れ墨の道具を手に、国生ローラ探しに動き回った。
強制ログオフしても、髪型はそのまま維持されたことから、入れ墨もまたそのまま維持される可能性が高い。
だから、あいつに落書きされた時の様に、入れ墨で落書きして、二度とこの世界に足を踏み入れられなくすることにした。
国王は、約束通り、国生ローラを指名手配し、見つけ次第直ちにころせと、勅令をだしていた。
事実、二回、彼を殺そうとして、突然消えてしまったという話だった。以来、彼は姿を見せていないそうだが、王都アッシム以外に移動しただけの可能性もある。
僕は、プレーヤーが現れるという場所を全て周って、彼を見つけ出すことにした。
ただ、そうすると、フェンのテレポは使えない。暫く、リットの街にも帰れなくなる。
少し悩んだが、国生ローラというゲームプレーヤーが居る限り、テロ行為の危険は付きまとう。
僕は、一週間、執務をビッチに代行させ、国生探しの旅にでることにした。
王都では、僕を恐れて、誰も襲ってはこなかったが、他の都市や、ダンジョンなんかでは、結構、プレーヤーが無謀な戦いを挑んできた。
勿論、アイテムを使えない様に拘束し、武者落ちカットにするだけでなく、顔にオマンコの入れ墨までいれ、二度と街を歩けなくしてやった。
そして、プレーヤーが集まるダンジョンボス攻略戦にも乱入し、それに参加しているプレーヤーの顔を確認して廻った。大人しくしていれば、何もしないが、歯向かってきたものには、武者落ちカットとオマンコ刺青の罰を与えた。
プレーヤーが出現すると言われる場所は、一通り周り、その居住地と言う場所にも足を運んだが、それでも国生ローラを見つけることができなかった。
そして、再び王都に戻って来て、明日、リットに帰るとと言う日の夜、突然頭の中に、知らない男の声がした。
『私、ゲームディレクターの秋川英二と言うものです。貴方が篠崎健斗さんで間違いありませんか』
『ああ、そうだが、ゲームディレクターって、運営側のトップだよな。丁度いい。国生ローラのログイン状況を教えてくれ』
『そう言われても、個人情報は教えられませんが、要求に応じてもらえるなら、お教えします。どうですか?』
『要求にもよるが、善処する。どうしても知りたいんだ。頼む』
『わかりました。もうしばらくお待ちください』
漸く、奴の情報が得られると期待したたが、その間も彼は延々と話し続けてきた。
『貴方は、我々が作り出したNPCとは違うので、我々からは何もできないし、連絡を取りたくても、動き回られると、連絡が取れないんです。アッシムの宿屋に宿泊してくれて、本当に助かりました。それにしても、貴方、一体何者なんですか。貴方の所為で、ゲームプレーヤー離れが加速し、ゲームバランスが無茶苦茶なクソゲーとの悪評までたち、採算が全くとれなくなってしまっいました。外部から侵入したバクである貴君を、最初に除去できなかった我々の失敗ですが、まさか、人神なんて無茶苦茶な存在になるとは予想もしていませんでした。あっ、調査結果がでました。国生ローラというキャラの保有者は、三日前の深夜二時にログオフして以来、そのキャラではログインしておりません。別のキャラに変更して、ほとんど一日中、レベルリングに勤しんでいるみたいですね』
なるほど、キャラを変更して、見つからない様にしてやり直していると言う訳か。
『そのキャラ名は何というんだ』
『その前に、我々の要求を呑んでください。そのうえで、回答します』
『要求って言うのはなんだ』
『それでは、要求は告げます。貴方は討伐不可能対象になってしまったので、自殺してもらいたい。そうしてもらえれば、今度のイベントや、ご褒美要素の前倒しにて、もう一度、プレーヤー数を回復できると考えています。高いゲーム装置を買ったので、それを眠らせたくない筈で、暫くは赤字続きで苦しいでしょうが、徐々に回復し、一年でとんとんに持っていける見込みです。そういう訳で、死んでくれませんか』
死んだら、また山際が好き勝手にあばれる。そんな要求はのめるはずない。
『いやだね。僕には娘が生まれるんだ。その娘の顔を見るまでは絶対に死なない。それに僕が死んだら、魔族やら人族やからが、僕の国に一斉に攻め込んでくるんだよな。そんなことさせられるか』
『そうですか。分かりました。そうなると、このゲームは閉鎖せざるを得ません。そうなれば、この世界は終わります。あなたの大切な人も皆死ぬんです。そう選択したのはあなたです。それでも、自殺してもらえませんか』
『卑怯だぞ。この世界の全員を殺す気か』
『これちらも商売です。あなたの為の慈善事業でサーバーを動かし続けている訳ではありませんから』
『分かった考えさせてくれ』
『こちらも、判断を迫られています。今から四時間以内、そちらの時間で八時間以内に、生命活動を停止してください。その時点で貴殿の生命活動が継続していれば、LOHの閉鎖を決定します。それでは』
とんでもないことになってしまった。八時間後といえは、午前七時だ。
皆が死ぬくらいなら、僕が自殺した方がずっといいが、その前に皆に会いたい。
僕はそのままチェックアウトして、リットの街に急いだ。
僕の最大速度で走り続けたが、リットまでは遠い。朝日が昇り、どんどん太陽が昇っていく。七時になったら、サーバー停止して、全てが消えるので、その前にどうしても、フェンに会いたい。
『フェン、聞こえたら、何かいってくれ』
以心伝心の範囲外だとわかっていても、僕は何度も心の中で語り掛け、走り続けた。
『健斗、帰ってきたの。お帰り』
リットの街が見えて来たと思ったら、漸くフェンの声が聞こえてきた。この太陽の角度だと既に七時はとっくに回っていると思われるが、ちゃんと生きていた。僕はほっと安堵した。
自宅に戻った時は、既に七時四十分だったが、何もかわっていなかった。皆、普通に生きている。
僕に自殺させようと、あんな脅迫めいたことをいっただけだった。
それからは、平和な日々が続き、四か月が過ぎ、フェンのお腹も目立つ様になり、時々動いたりするようになった。
だが、ゲームの閉鎖が決まっても、即時実行できず、暫く、継続運用されていただけだった。
ある日、突然、夜が明けなくなり、空気の流れもとまり、川の水も流れなくなくなった。
虫や魚、動物等の食糧源も全て一斉に姿を消し、日光が当たらないので気温はどんどん低下していく。
川も汚れ、植物までも枯れ、保存していた食料も底をつき、病気が蔓延するようになる。
仲間がつぎつぎと死んでいき、国民の不満が爆発し、人々は食料を求め、醜く争い始め、それを加速する。
フェンも飢えと寒さから、流産してしまい、必死に治療したが、栄養失調だったこともあり、亡くなってしまう。
暖房のため、酸素を消費し続けたためか、酸素も薄くなって酸欠になり、ルネーラ、アクネルも続くように息を引き取った。
不思議な事に最後まで生き残ったのはビッチだったが、その彼女も程なく息を引き取り、僕以外の全ての者が息絶えた。
あの時、僕が直ぐに自殺してさえいれば、彼らは生き続けられたのに、全て僕の所為だ。
そして、その二日後、僕もついに力尽きて、死ぬことになった。
目覚めると、僕はまたあの天国の様なふわふわの雲の床の上に居た。
「私は転生を司る女神。あなたを転生させて……。えっ、篠崎健斗さんだったんですね。随分大きく立派な身体になって、名簿を見るまで、気づきませんでした。でも、一年もしないでまた死んだんですか。本当に運のない人ですね。それで、楽しい生活は送れましたか」
「いつも、僕の事を見てたのは知ってるんだ。あんたの声は、頻繁に聞いていたからな」
「私はこう見えてもとても忙しんです。一日に日本で死亡する人の数は、四千四百人もいるんです。人間担当の女神は、四人いて並列処理していますが、一人一分しか掛けられないんです。声の主は、私のクローン体の山内麗子だと思います。彼女、貴方が転送した先のゲームを作っている会社のゲームプロデューサーなんです。ゲーム世界は私にどうにもできないので、彼女に全てを委ねたんですが、そういえば、赤ちゃんではなく、そのからだも変ですね。彼女に遊ばれたんじゃないですか。彼女、あのゲーム世界の次のゲームを担当しているので……。時間がありません。あなたの転生先は何にしますか。ゴキブリ、ダンゴムシ、フナ虫のいずれからが選択可能です」
無茶苦茶な話で、女神を殺してやりたい気持ちだが、もう人間をやり直したいとは思わなかった。
「ダンゴムシで」僕は素直の彼女選択を受け入れ、そう応えていた。
(了)
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最後までお読みいただいた方、ありがとうございます。
今後の参考にさせていただきますので、感想を頂けると幸いです。
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