僕はボーナス加護で伸し上がりました

根鳥 泰造

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閑話休題 2

俺は狂人なんかじゃないのに

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 俺は駒場生協食堂で一人でランチを食べていた。普段はいつもの友達二人と三人で食事をするのだが、二人はダウンして講義を欠席したので、こうして独り寂しく食事をすることになった。
 うちの大学は、昨日からAセメ(東大で後期)が始まったが、久しぶりに三人で顔を合わせたので、昨日は遊び歩き、朝まで徹夜で飲み明かした。
 それで、二人は今朝、講義をパスすると言い出し、真面目な俺だけが、講義にでたという訳だ。
 正直、凄く眠くて、講義を聴きながら居眠りしてしまい、まともに授業を受けたとは言えないが、午後はちゃんと居眠りしないで、講義を聴くつもりだ。

 その食事中に、隣に三人組の学生がやって来て、訊きたくない嫌な話を始めた。
 最初は犯罪心理学のレポートの話だったのだが、異常者の真理なんて考察したくないとなって、その話へと展開していった。
「そうだ、LOH(レジェンド・オブ・ヒーロー)の頭のいかれたクランの話、知ってるか」
「LOHって、百万円以上もする装置を使う金持ちしか遊べないゲームだろう。俺には縁がないゲームだな」
「俺は一度、ゲームショウで体験してみたが、本当にゲームの中に居る感じで、車を買うくらいなら、そっちの方がいいと思ったな。そのLOHがどうしたんだ」
「俺も実際に遊んでないから、詳しくは知らないんだが、先日、NPCに対するとんでもない集団レイプ猟奇殺人事件が起きたんだって」
「なんだNPC相手かよ。そんなもの遊びの範疇だろう」
「LOHって、フルダイブ装置ばかりが噂になってるけど、一番の売りはNPCが個別AIで、人間と全く同じに感情を持っていることなんだよ。その人間の感情を持つNPCを何十人もで凌辱した挙句、乳房を切り取り、膣にナイフを刺して殺したんだって。ゲームの中だと言っても、頭がいかれてるよな」
「確かに、これはレポートに使えそうな話題だな」
「製作会社は、そんな事態が起きない様に対策してないのかよ」
「当然、対策してたらしいが、頭の行かれた男が扇動して、他のプレーヤー達に淫行や残虐行為をさせ、ニヤニヤながめていたらしい」
「そいつが一番最低だな。でも、そいつ結構頭がいい奴に違いないな」
「東大生だという噂まででている」
「東大生を語る変態だろう。そんな奴が東大生なんて、もし見つけたら只じゃおかない」
「とても興味深い話なので、それをレポートにまとめたいんだが、どう調べればいいんだ」
「ツイターで、ハッシュタグLOHで検索していけば、たどり着ける」
「どれどれ」
 俺は気分が悪くなって退散したが、俺が一体何をした。

 一昨日も、運営からプレーヤー全員に通達があった。人型NPCに対する淫行は、討伐対象であっても禁止で、NPCの合意があったとしても、厳しく処罰すると徹底された。

 あの後、このことは内緒にしておこうと約束したのに、あの時に参加していたうちのメンバーの誰かが、運営に、確認したらしく、プレイヤーログを確認して、事件が明るみにでて、大事になってしまった。
 確かに、禁止事項を再確認すると、『人族、亜人等、人型NPCに対する淫行、及び、犯罪行為は……』と記載されていて、俺の誤解だった。だが、魔獣はもともと狩るべき対象なんだから、その位、大目に見ろといいたい。
 それなのに、俺は皆から、嘘つき呼ばわりされて、折角の俺の楽しい時間を台無しされた。
 確かに、俺があの時、篠崎健斗に屈辱を与えたい一心で、「殺すな」と言った所為で、討伐失敗となり、皆、頭にきていたのは理解する。だが、あんなことしたのは、ロク、マッチ、権助の三人で、俺とは無関係だ。
 それなのに、俺ばかりが悪者みたいに言われなければならない。
 それに、一度もLOHを遊んだことがない貧乏学生に、あれこれ非難される言われはない。

 午後の授業は、居眠りこそしなかったが、そんな訳で不愉快極まりなく、講義内容が全く頭に入ってこなかった。
 こんな事になるのなら、今日は講義をさぼって、家で寝ていればどんなに良かったかと、思ってしまったほどだ。

 帰りの電車では、つい居眠りして、降車駅を乗り過ごしてしまい、今日は本当に散々な一日だった。
 帰宅して、課題のレポートを纏め、夕食を食べると、今日は随分と早い時間だったが、レジェンド・オブ・ヒーローに、ログインした。

 すると、メールボックスに、『メグミン。』からの、赤字の緊急呼び出しのメールが届いていた。
 昨夜に送られていたメールで、「ログイン次第、ビヒダスの根城に顔をだせ」との短い文面だ。
 ビヒダスの根城とは、われわれクランが拠点する王都プレーヤー住宅街にあるハウスの名前で、メグは最強クラン『ビヒダス』のリーダーだ。
 どうやら、またあの件での呼出しらしい。
 正直無視したいところだが、クラン長の呼び出しは無視できない。

 仕方なく、その住宅街に移動して、ハウスに入ると、今日も、クランの仲間が俺に冷たい視線を向けてきた。
「メグは、もうログインしてるのかな」
「ああ、ついさっき来て、自室で、お前の件で、頭をかかえていたぜ」
 除名処分という嫌な言葉が頭に浮かんだが、あいつがそんなことを言い出す訳はないと、自分にいいきかせ、彼の部屋の扉番号を押してから、ノックして、扉を開けた。

「ローラか。昨日はログインしなかったみたいだから、このゲームから足を洗ったのかと思ったが、ちゃんと来たみたいだな」
「すまん、昨日はちょっと野暮用で、徹夜したんでな。明日からの大規模クエストが控えているのに、ゲームをやめるわけないだろう」
 明日の金曜の夜から土日の3日間を掛けて、ドワーフの里と、エルフの里との中間に位置するリットという街の侵攻作戦が予定されている。全プレーヤ参加型の大量の経験値が手に入るクエストだ。
 リットは、亜人領内で最も栄えた貿易都市で、様々な種族の亜人が、店を構えて生活しており、そこを占領できれば、亜人領の流通を滞らせることができるだけでなく、エルフの里を攻略する大きな足掛かりになる。
 勿論、エルフ、妖精、獣人の美女も多くいて、彼女たちが恥辱に塗れ、泣き叫ぶ姿を眺めることができるというご褒美もある。プレーヤーによる彼らへの暴行・淫行はできないが、NPC間は何をしてもいいことになっているので、彼らをけしかけ、それを眺めることができるというわけだ。
 明日は、その第一弾として、リットの防衛のために、築かれた砦を陥落する作戦になっている。

「なら、言いにくいが、国生ローラ、お前に伝えなければならないことが有る」
 やはり、除名らしいが、俺が一体なにをしたという。
「その前に、運営の管理局から通達がきた。フィストファックした権助は厳重注意だけで済んだみたいだが、ロクとマッチの二人は、NPCへの傷害罪で、アカウント削除処分になったそうだ。それと、今回の事件を重く見て、三か月間のクランペナルティーも課せられた。極悪クラン登録されなかったのは幸いだが、三か月間は勧誘、公式活動への参加、イベント参加、一切なにもできない。お蔭で、早速、脱会申請者が二名もでた。明日からのイベントは、作戦に支障がでるので、参加させてもらえるが、お前のあの一言の所為で、頭がいたいよ」
 二名のアカウント削除処分とは重い処分だが、あんな破廉恥行為をしたのは、あいつら自身で、俺の所為ではない。俺は少し誤解して、魔獣は対象外だと言ってしまっただけだ。
 三か月間のクランペナルティーだって、誰も止めずに、ニヤニヤ見ていたんだから、俺だけの所為じゃない。

「それで、本題だが、お前程の錬金術師を失うのは本当に痛いが、お前を除名処分することに決めた」
「なんで、『ビヒダス』を首にならなきゃいけない。確かに、誤解して間違った事を伝えたかもしれないが、皆が勝手に盛り上がっただけだろう」
「ああ、皆を止めれなかった俺の責任だ。だが、お前、このゲームの国生ローラでエゴサしたことないだろう。とんでもない悪の親玉みたいに書いてあり、炎上しているぞ。ただでさえ、きついペナルティーを受け、悩ましいのに、そんなプレーヤが所属しているクランだとなると、再起不能となる。お前は開設初期からのメンバーで、頭も良く、錬金術師の腕も最高で、手放したくはないが、分かってくれ」
 リーダーに頭まで下げられると、これ以上、ごねることもできず、大人しくやめざるを得ない。
 だが、こうなったのは全て、篠崎健斗の所為だ。
 あいつは、俺の楽しみをことごとく奪っていく。

「まさか、明日からのクエストにも参加できないってことじゃないよな」
「それは、問題ない。もともとどこのクランにも所属しない個人参加もみとめられているからな。作戦どおり、個人として俺たちといっしょのチームで活動してもらうことになる」
 それなら、問題ないので、脱会することにし、今日は何もしていないが、気分が悪いので、直ぐにログオフした。

 そして、スマホで、#LOHで検索して、俺を非難しているツイートを探し、そこにかいてあった『#LOH国生ローラ』で再検索すると、確かに炎上していた。
 最初の投稿は、チームの誰かが書き込んだらしく、篠崎健斗に復讐をするため、彼の彼女を拉致して拘束し、俺の嘘で、皆がおかしくなり、あんなことやこんなことをしたと、事実が書いてあっただけなのだが、そこからが酷かった。
 俺が如何にも、扇動したように書かれていて、東大生のやりそうなことだとなり、いつのまにか、全裸にして淫行したのまで、俺がしたかのようになり、それに対する非難で盛り上がっていた。
 ほとんどが勝手な憶測による誹謗中傷で、俺の性格をけなすだけでなく、一体どうやって、調べたのか謎だが、山際武という本名や経歴、叔父が国会議員であることまで、全て暴露されていた。
 それに対しても、派生していろいろと性格がどうやってねじれたかとか勝手な想像がかかれていて、篠崎健斗の女を寝取って自分の女にしたとかまで書いてある。
 幸い、水谷咲の名前まではバレていないようだが、彼女に被害が及んでいるではと、心配になった。

 そんな訳で、咲にラインを入れた。
「大学で嫌な目にあってないかい?」
 でも、何時まで経っても既読にならない。
 気になって、電話を入れてみたが、「お掛けになった電話番号への通話は、お客さまのご希望によりお繋ぎできません」と返ってきた。
 あんなに俺の事を愛している様にいっていたのに、着信拒否された。

 まだ夜の九時なので、急いで、彼女の実家に行き、咲を呼び出したら、何故か母親が顔をだし、「娘は、会いたくないと言っているので、申し訳ないですが帰っていただけませんか」と門前払いされた。

 先日、俺と付き合っている事が皆にしられてたと、言っていたので、あのデマの所為で、彼女も変な中傷をうけ、俺との交際を続けていけないと考えたのだろう。
 そうだとしても、いきなり、絶縁とは酷すぎる。

 ゲームの世界での出来事が、現実世界にまで波及して、俺の人生をことごとく崩壊させていく。
 そういえば、昼間の奴ら、俺を見つけたら、許さないと言っていたっけ。
 なら、明日、大学に顔をだしたら……。
 俺は明日、大学にいくのすら、嫌になってきた。
 俺は、少し誤解して失言しただけだだのに、なんで俺のした事でないことまで俺がしたように非難されなければならないんだ。
 ふと何をされても、ニヤニヤとわらっていた篠崎健斗の顔が浮かび、それが俺への復讐だと笑っている様に思えた。
 あいつも同じような目に遭ったのかもしれないが、あいつにさえ関わりさえしなければ……。
 俺のエリート人生が、ガラガラと崩れ落ちていくような気がしてきて、怖くてならなかった。

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