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第四章 僕が神様なんかになっていいのかな

4-9 とんでもない失敗を犯してしまいました

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「私はもう大丈夫」
 フェンが立ち上がると、「私も歩くらいならできます」とビッチも立ち上がった。
 造血剤を飲んでから、三時間以上も掛かってしまったが、これで漸く出発できる。
 そう思った矢先、僕の気配感知レーダーが謎の赤い点をとらえた。
 その点はものすごい速度で、僕らの方に走り寄って来る。まるで、フェンリルが移動している様な速度だ。
 貧血が改善したといっても、フェンはまだ戦える状態でない。
 僕はフェンにバフだけ掛けてもらい、僕一人でその魔物を撃退することにした。

 その魔物は、一分程で姿を現したが、なんと空を飛んでいた。鳥ではなく翼が生えた四つ足の魔獣だ。
 身体中、傷だらけの血まみれ状態で、頭上を飛び去って行ったが、急に停止し、こっちに向き直った。
 ライオンの身体に、鷲の顔をもつキメラのような魔物だ。
 その魔物は、ピッチ目掛けて急降下してきた。
 体力を回復するため、ピッチを食べようとしているらしい。
 フェンが彼女の守りに入り、僕もその魔物に攻撃して、なんとかピッチを守ることには成功した。

 鑑定結果は、以下でとんでもない化け物だ。

   分類   魔獣 グリフォン
   レベル  95
   名前   なし
   年齢   42歳
   性別   雄
   HP:1383/1894
   MP:  10/ 10
   SP:  71/100


   攻撃力 20577
   防御力 11533
   耐久力 18943
   精神力   100
   機動力 18173
   知力   1007
   創造力   100


   毒耐性    レベルMax
   熱耐性    レベル3
   痺れ耐性   レベルMax
   極寒耐性   レベル3
   痛覚鈍化   レベル2
   暗闇耐性   レベル2
   物理攻撃耐性 レベルMax
   魔法攻撃耐性 レベルMax

 攻撃力がとんでもなく高く、物理攻撃耐性も魔法攻撃耐性も上限なので、防御力も実質数値の倍と考えていい。
 これは持久戦になりそうだが、間違いなく勝て、かなりの経験値を獲得できる。
 だが、SPが低く、敵は警戒して、戦うのを躊躇している。飛んで逃げる可能性が高い。

 僕は高速思考で一瞬のうちに、データを分析をして、作戦を構築した。

 僕は渾身の一撃の振りをして、隙だらけで力を押さえた攻撃を繰り出した。そして、ジャブの様な前足での引っ掻き攻撃を交すのではなく、斧で受け、大きく吹き飛ばされる。
 そして火球を単発で放ち、この程度の中級魔法しか持っていないかのようにアピールしてみせた。
 
 これで敵は、僕の実力を見誤り、SPがどんどん上昇してきて、二人を無視して、僕に向かって攻撃を集中させてきた。
 それでも、手加減した攻撃を繰り出し、斧で受けて後退するを繰り返す。
 重力魔法の射程は半径二メートルあるので、二人から三メートル程度は、引き離したかったのだ。
 そして、僕は今度は踏み込んで攻撃しながら、並列思考の三人が同時に重力魔法を高速詠唱。
 レベル32にとなったことで、並列思考スキルもレベル3にあがり、最大四つの魔法を同時発動できるようになっている。
 グリフォンの嘴と前足の同時攻撃が厄介で、同時には防げず攻撃を食らってしまうが、先ずは八倍重力に成功。
 身体が急に重くなったことで、SPが減り出したが、逃がしはしない。
 並列の一人がリジェネを掛け、残り二人が再度重力魔法を掛け、僕自信は翼の破壊に取り掛かった。
 だが、翼の強風で僕の態勢をくずして、嘴や前足で攻撃してくるので、簡単には攻撃させてもらえない。
 それなら斧無双による石礫の範囲攻撃で、羽を少しずつ削り取っていくだけだ。
 そう思って、斧を振り上げた瞬間、敵は三十二倍重力下だというのに、一気に飛び込んで近接し、渾身の引っ掻き攻撃を出して来た。
 こんなに素早く動けるとは予想しておらず、攻撃中だったので、もろに食らってしまった。
 二万越えの攻撃力での渾身の一撃なので、僕の防御力や金剛による防御力底上げスキルがあっても、大ダメージを負う。
 だが、踏み込んできたことで、敵も斧無双の直撃を右翼に受けることになった。
 上腕骨を折るまでには至らなかったが、皹を入れるくらいはできた筈で、痛み分けだ。

 僕はヒールを掛けながら、右翼を黄龍脚で更に蹴り、真空斬も同時に繰り出す。
 SPが急激にさがり、飛び上がろうとしているが、今の翼の状態で三十二倍重力下なら、身体を浮かせる程度しかできない。
 フェンが、今だとばかりに、敵の背後から飛び込んできたが、『ピッチの護衛に徹していろ』と止めさせ、僕は断頭脚を首に当てた。そして敵が態勢を崩したところに、ショルダーアタック。
 そして、今度は前足を警戒しながら、大きく振りかぶり、再び右翼に渾身の斧無双。
 敵は態勢を完全に崩していたので回避できず、もろに受けて、右翼の上腕骨をポキリと折ることに成功した。
 これでもう逃げることはできないし、強風攻撃も怖くない。後は前足と嘴とに注意しながら、体力を削っていくだけだ。

 それでもグリフォンの攻撃力は高く、僕が攻撃中だと、上下二か所の同時攻撃は交わすことができない。
 そんな訳で、敵にダメージを与えても、僕もダメージを負うという、両者、互角の体力の削り合いとなった。
 だが、僕は体力回復できるが、敵は回復することができない。僕との体力差はどんどん広がっていく。

 十五分程経った頃には、敵のHPをほとんど削る所にまでこぎつけた。
 そろそろ、止めをさすかと思った時、背後に視線を感じた。
 気配感知では、何もいないことになっているか、何かが居るのは間違いない。
 もしかして、ポイズンタラテクトか。
 敵の射程から離れる様に、少し後方に飛び退いて、振り向くと、やはり蜘蛛の魔物が木陰に潜んいた。
 木陰に隠れているので、はっきりとは確認できなかったが、五匹程が固まっていた。
 恐らく、このグリフォンは、奴らに襲われて逃げて来たのだ。
 そして追いかけてきて、僕が戦っていたので、それをずっと観察していたに違いない。
 でも、十五分間も、手だしてこなかって、どういうことだ?
 僕が強いと判断して、僕の体力が大きく消耗するのを待っていたに違いない。
 なら、グリフォンを仕留めると同時に仕掛けてくる。

 僕はグリフォンを仕留めると同時に先制攻撃できるように、戦闘位置を奴らに近づけていくことにした。
 この位置だと、重力魔法の射程外だからだ。

 グリフォンは、もう勝てないと分かっていても、逃げることも、人質を取ることもできず、僕と戦うしかないと覚悟を決めていて、僕が後退すると、ちゃんと僕を追いかけて攻撃してくれる。
 お蔭でどんどん彼らの方に移動することができ、そろそろ重力魔法の射程範囲に入っている筈だ。
 僕は、グリフォンに止めの一撃を浴びせながら、同時に、蜘蛛の一団に三重の重力魔法を発動した。

「この人族はやはり敵だ。やるぞ」この蜘蛛の魔物も言葉を話せた。
 そして、重力魔法を更に発動するまえに、蜘蛛たちは、さっと散開し、僕は彼らに包囲されていた。

『能力レベルが33に上昇しました。スキル「動態予測レベル1」を習得しました。耐性「物理攻撃耐性レベル4」が「物理攻撃耐性レベルMax」に上がりました。魔法「チェンジング レベル1」を習得しました』
 先の親熊の繰り越しがあったのかもしれないが、レベル95をたった一匹しか倒していないのに、レベルアップすることができた。あと二つ上がれば、僕のアソコを戻すことができる筈だが、こいつらの実力は……。

 鑑定しようと思ったが、蜘蛛がすかさず背後から襲ってきた。敵を蹴り飛ばし、右の蜘蛛に真空斬を飛ばして、同時に左の蜘蛛に、火球を放ち、背後の敵には指を突き上げ、雷撃を放つ。
 だが、蜘蛛は魔法の盾を出して、火の玉や雷を防いでみせた。

「ちがうの、やめて」ピッチが何か叫んでいる。
 僕は、今のうちにと、正面の蜘蛛を鑑定してみた。
 ピッチが戦いをやめさせようとした理由が分かった。『魔蜘蛛 ルーンタラテクト(アクネル眷属)』とあり、あの守り神の眷属の蜘蛛だったのだ。
「やはり敵だ」と言っていたのは、僕が敵か味方が判断できずに、様子を見ていただけだった。
 それなのに、僕が勘違いして、攻撃を仕掛けてしまって、こんな事態になってまった。
 今からでも、停戦したいが、蜘蛛は既にSP100で、僕を仕留めにきているし、彼らをなだめる術をしらない。
 しかも、レベル92だが、総合的な戦闘力はグリフォン以上で、機動力は僕以上。それが五匹もいるので、勝てるかすら怪しい。手加減して殺さない様するなんて、到底できない。

 僕は、持てる全てを出しきって、彼らと死闘を繰り広げた。
 並列思考は本当に最高のスキルで、僕がどんなに切られても、直ぐに再生してくれる。状態異常無効化マイティガードがあるので、毒牙で噛まれても、毒状態にならないし、魔法無効化マジックキャンセルで、魔法攻撃も利かない。
 粘糸だけは、動きを止められるので、受けない様にしたが、万一掛けられても、火球で燃やせば、火傷も同時治療できる。
 攻撃しながら、重力魔法を発動できるし、レベル14で習得した光拘束ホーリーバインドを始めて使ってみたが、これも相手の動きを止めるのに効果的だ。こっちは、指差しという発動アクションが必要なので、ほとんどが回避されてしまったが、二体の動きを止める事には成功した。
 
 五匹同時だと、僕の三人分の回復速度より、被ダメージの方が上回り、徐々に体力を削られることになったが、一人を拘束できたことにり、体力が減らなくでき、二人拘束してからは、徐々に体力回復できるようになっていった。
 それでも、一時間も戦い続けていると、出血はかなりだし、HPは十分にあっても、気力や集中力、筋力はもう限界。僕の動きも鈍ってきた。
 それでも、僕が何とか体力勝ちして、五匹全てを倒しきり、経験値も大きく獲得でき、僕は二段階もレベルアップした。
『能力レベルが35に上昇しました。スキル「動態予測レベル2」が「動態予測レベル3」に上がりました。耐性「痛覚鈍化レベル4」が「痛覚鈍化レベルMax」に上がりました。魔法「チェンジングレベル2」が、「チェンジングレベル3」に上がりました。能力レベルが35になったことにより、肉体増強進化が可能です。直ちに進化しますか?』
『一時保留』
 既に、蜘蛛を全て殺し、気配感知でも、半径一キロ圏内に敵はいないが、進化保留した。
 いつものように、鑑定でどのパラメータが多く上昇するのか知りたいという意図もあることはあるが、今は酷く疲れ切っているし、高速移動可能な強敵ばかりなので、進化途中に襲われる危険が十分にあるからだ。
 だが、またレベル95の様な魔物が数匹あらわれれば、進化機会を失う。
 フェンの空間跳躍テレポで、一旦、魚人族の里に戻ってとも考えたが、貧血で体力のないフェンに無理はさせられず、悩ましいところだ。
 暫く考え、ここは進化機会を失い、立ちションができない状態がもう暫く続くことになっても、フェンが全快になるまでは、進化すべきでないと、結論をだした。
 だが、昨日からの僕の選択は裏目にでてばかりだ。

 僕は進化するかを、二人の判断に委ねることにした。
「なぁ、今進化した方がいいと思うか」
「一昨日、進化したばかりなのに、もう進化なの。健斗ばかりレベルアップして狡い」
 確かに、一人だとこんなに早くレベルアップするとは、僕自身も思わなかった。
「でも、進化すべきだと思う。服をあの妖精に作ってもらわなくちゃならなくなると思うと嫌だし、健斗には、もう少し、男に戻らずにいて欲しい。でも、ここの魔物、とんでもなく強いから、保留してると、直ぐにレベルアップして進化の機会を失っちゃうよね。更に大きくなって強くなるのが正解だとおもう」
「ビッチはどう思う?」
「私も、より強くなれるなら、進化すべきだと思います。もうすぐ日が暮れますし、夜になると更に強い魔物が襲ってくる危険もありますから」
「でも、大きくなると、健斗にまた襲われちゃうかもしれないよ。しかも、あっちもとんでもなく大きくなるよ」
「私、どんなに大きくても、ちゃんと受け入れて見せますから」
 おいおいと思ったが、二人の選択は、『今すぐ進化する』だ。僕の決断とは逆なだけに、ここは進化するのが正しいと判断した。

 今度進化すると、服が締め付けてくる気がしたので、もう一度気配感知で問題ない事を確認してから、服と下着を脱いで、進化することにした。

 二人とも生えてくるのか興味深々で見つめていて、恥ずかしかったが、『進化したいんだけど』と神に念じて、『ハイ』と応えて進化を始めた。
 いつものように身体が熱くなり、痛み出したが、今回は耐えられるほどの痛みで、なぜか身体が光を放ちだした。全身がオーラの様な不思議な気につつまれ、それがうっすらと光を放っている。
 そして、身体が大きくならずに、股間だけがすごく熱くなり、猛烈に痛みだした。
 何かがいつもと違うが、少しずつ盛り上がって生えてきた。
 痛みは三分程で終了となったが、なぜか僕の身体は、オーラの様な光に包まれ、不気味な光を放ち続けたままだ。
「どうやら、進化は終わったみたいだが、変なオーラってみえるか?」
「うん、まだ進化が続いてると思ったけど、終わったんだ。なら、随分とちっちゃくなっちゃったね」
 確かに僕のナニに違いないが、前回よりかなり小さい。
「そんなことありません。勃起してないからそう見えるだけです」
 フェンが「じゃあ大きくしてみよう」と扱こうとしてきて、慌てて止めさせた。とんでもない女だ。
 だが、僕の膨張率がかわらないとすると、勃起してもかなり小さいことになるが、185センチの時くらいなので、前世と較べればかなり大きい。
 もしかして、大きすぎると困ると考え、フェイとしていた時くらいが丁度良かったのにと思っていたので、それが反映されたのかもしれない。

 そんな事よりも、僕の身体がなんか変だ。進化が続いている様な不思議なオーラを放ち続けている。
 僕は服を着てみたが、服の上からもオーラを発していて、僕自身が発光している様な雰囲気だ。

「もしかして、人神様になられたんではありませんか? 私、人神様は知りませんが、後光が差しているって聞いたことがあります」
 鑑定したくても顔を映すものがないが、ふと水たまりを作ればいいだけだと気づいた。
「ちょっとこの辺一帯が大雨になるから、木陰に隠れていてくれるかな」
 そういって、二人に林の木陰に隠れさせ、大雨ヘビィレインを発動した。
 これは五分間、土砂降りが続くので、消火等にしか使い道がないと思っていたが、どこに居ても水たまりを作り出せる優れた魔法だったのだと漸く気が付いた。
 因みに、僕は鑑定阻害スキルを持っているが、他人が鑑定できないだけで、自分の鑑定には影響しない。

「なんじゃこりゃ」

   分類   人神
   レベル  --
   名前   篠崎健斗
   年齢   20歳
   性別   雄
   HP:3058/9999
   MP:1275/9999
   SP:  50/100

 人族から本当に神に進化してしまっていた。レベルもなく、HPやMPは9999で、基本能力タグもなくなっている。
 もうこれ以上進化しないということかもしれないが、以前より段違いに強くなっているのは間違いない。

「フェン。悪いが、俺の腕にかみついてみてくれないか」
「わかった」 
 がぶりと噛みつくと思ったが、僕のオーラで歯を僕の身体に当てることすらできない。
「どうなってるの。変な身体。もう一度行くよ」
 勢いをつけると、歯が一瞬肌に食い込んだが、直ぐに弾かれて噛みつけなくなった。
「どりゃあ」 
 僕は何も指示していないのに、フェンは僕に、気孔波を放って来て、僕は内臓に衝撃を受け、ぶっ飛ばされることになった。だが、当たる瞬間の衝撃力はかなり抑えられていた。
 このオーラは神級防具を身に付けているような効果があるらしい。

 その後、変化魔法チェンジングの使い方や内容を確認してみた。
 敵に発動すると、敵を幼児に変えたり、虫や蛙といった特定のものに変えたりできるという魔法だが、自身に発動すると、自分も変化へんげさせることができる。今は、幼児化や、虫、蛙等の特定のものにしかなれないが、レベルMaxまであげれば、何にでも変身できるのではないかと予想する。
 なら、どんどん使ってその状態で敵を倒して、レベル上げすればいいだけだ。

 早速、変身してみるかと思っていると、気配感知には全く映っていなかったのに、アクネルが上から降って来たかのように、現れた。

「うむ? お前、篠崎健斗だよな。身体が一回り大きくなっているし、その光輝く身体はなんだ。まさか神に進化したとでもいうのか」
「ああ、進化したら、人族から人神に変わってた。その所為か、身体からオーラが出て、後光を放っている状態になったんだ。それより、こんなところに飛んできたということは、やはり、君の眷属のルーンタラテクトの件だよね。御免、謝っても許してもらえないと分かっているけど、君の眷属だとは知らずに攻撃してしまった。直ぐに君の眷属だと分かったけど、既にあいつら僕を殺す気満々で、引いてくれないから、殺さざるを得なかったんだ」
「緊急事態の知らせを貰って、直ぐに飛んできたが、わらわがくるまで持ちこたえられなかったあ奴らが未熟だっただけだ。それに、あ奴らも死の覚悟はできている。貴様が気にする必要はない」
 そう言われて一安心したが、次の一言で僕は凍り付くことになった。
「じゃが、人神と言う存在には興味がある。貴様の今の力、一体どれくらいなのか、真剣勝負で試させてもらう」
「そんな無体な。どうか私たちをお見逃し下さい」 ビッチが土下座して頭を下げた。
「これは敵討ちではない。ピッチごときが、口を挟むな」
 アクネルが睨みつけると、ビッチはお漏らしして身動きできなくなった。
「私も参戦する」 フェンが戦闘態勢を取る。
「お前も、更に大きくなって強くなったみたいだが、まだまだ役不足だ。大人しくしていろ」
 アクネルは瞬間移動したかのように、フェンの腹に体当たりして吹っ飛ばし、口から粘糸を何度も吐き出して、全く動けない様に拘束した。

「もう邪魔者はいない。一対一での真剣勝負をはじめようではないか」
「いや、ここでは二人を巻き込んでしまう。場所を変えたい」
「その必要はない。わらわが絶対防御結界を敷く」
 前足の鎌を交差させ、何かの呪文を物々と暫く唱え続けると、僕と彼女とを覆う半透明のドームが現れ、彼女の「アブソリュートシェル」という叫び越えとともに、そのドームが広がっていく。寝転んで動けないビッチは勿論、地面に拘束されていたフェン、木々等も全て、そのドームの壁に押されて遠ざかっていき、半径50メート程の球体の何もない戦闘空間ができあがった。
「この結界は何者も外部から侵入できず、妾が解除するか死ぬまで、壊れることはない。思う存分、全力で挑むがよい。先制攻撃は、貴様に委ねる。それを合図に始めようぞ」
 こうして、僕は、守り神アクネルと戦う事になってしっまった。
 人神と蜘蛛神による神同志の決闘だ。

 鑑定できないので、弱点等は全く分からないが、フェンリルパパ同様に魔法は利かないに違いない。
 でも、並列思考があるので、まずは魔法を無効化ししても効く魔法を使って様子をみることにした。

 僕の周囲の大地が液状化していき、アクネルはさっと飛び退いたが、その位置も射程圏内だ。
 巨大に持ち上がった土の山が、土石流となって、蜘蛛神毎押し流していく。
 僕は、その土砂の津波を追いかけるように連続瞬歩で近づき、光拘束ホーリーバインドで動きを止め、振り上げた斧を振り下ろす。
 だが、アクネルはその光の輪すら引きちぎり、前足の鎌を交差して、斧無双を受け止めた。
 僕の斧無双が受け止められたのははじめだ。
「考えたな。魔法を使った物理攻撃か。久しぶりに楽しめそう。では今度は妾の番じゃ。受けて見よ」
 どうやら魔法攻撃するみたいで、物々とつぶやき始めたので、僕は連続瞬歩で、空中に舞い上がり、大急ぎで距離を取った。
 だが、かなり逃げたにも関わず、僕の周りに何かの結界が現れ、上下左右前後六カ所から、高速な弾丸の様にな石礫が発射された。
 でも、動態予測がレベル3になったからか、その弾丸の奇跡が見える。なら交わすのみだ。
 そう思った途端、弾丸が遅くなった。並列思考の4人で集中すると動きを遅くできる効果があるみたいだ。
 でも身体は自由に動かせない。並列思考の一人を、時間鈍化ヘイストに使うと、弾が少し早くなった。
 代わりに、身体は少し軽く動けるようになり、必死に交わしたが、それでも全てを避けきることはできない。
 やられたと思ったが、僕は軽傷ですんだ。僕の身体の周りのオーラで失速し、弾丸は僕の身体に少し食い込んだ程度で貫通する程の威力を失っていたのだ。
 回避した玉の軌道が、次の跳弾後の軌道に変わる。
 これが延々と続くのかと思うと、いっその事、全て受け止めてしまった方が良い気がした。
 そんな訳で、並列思考を継続治癒リジェネ治癒回復ヒールに回し、全弾を受けることにしたが、蜘蛛神は、ちゃんと次の手も打っていた。
 僕のいる空中の頭上に、アクネルが、鎌を振りかぶって、思いっきり振り下ろして来たのだ。
 僕は斧で防いだが、そのまま地面に思いっきり叩きつけられることになった。

 やはり、今までの敵とは格が違う。守り神と言われるだけはある。
 
 その後も、延々と一進一退の攻防が続く。魔法を使った物理攻撃と、実際の物理攻撃を組み合わせた熾烈な戦闘だ。
 僕は、前回の蜘蛛5匹との戦闘や、進化により、疲労困憊していて、徐々に身体を思う様に動かせなくなっていく。
 それでも、頑張って持久戦をつづけていれば、回復できる僕の勝だと考えていた。だが、アクネルもまた回復手段を持っていた。
 切り取った筈の足が、徐々に生えて復元してきたのだ。背中と言うか腹の傷もいつの間にか塞がっている。
 治癒速度はかなり遅いが、こんな回復手段を持っていると僕の負けだ。
 
 そう考えていたが、蜘蛛神の攻撃も単調になり、威力や速度が急速に落ち始めた。
 考えてみれば、眷属蜘蛛の救援に全速力で駆けつけて来たので、彼女もまたかなり疲労困憊していたのだ。
 僕は動態予測で、敵の攻撃動作がフェイントか本気かの判断がつくが、蜘蛛神は面白いようにフェイントで大きく回避する。それで、僕より遥かに無駄に動き回り、体力消耗したことも大きい。
 二時間経った頃には、両社とも気力も体力も尽き果てて、HPに余裕があっても、へろへろの攻撃しかできなくなっていた。
 魔法なんて高度な技を織り込むこともできず、鈍い攻撃しか出せなくなる。なのに、それすら交わせず、ダメージを負う。
 とても神同志の戦いとは思えない、気力だけでなんとか身体を動かし攻撃をつづけているだけの酷い戦いだ。
 鑑定できないので分からないが、HP、MPは十分にあるのに、SPが1しかない二人の戦いだ。
 そのSPがまさに尽きかけていて、僕は、もう斧を振り上げる気力もない。

「妾の負けじゃ。この世界で最強と自負していたが、そちの様な男がおったとはな」
 そういって、アクネルは、ガクリと力尽きて、地面に崩れる様に伏せた。
 同時に結界も解除されたみたいで、フェンとビッチが駆け寄ってきた。
 僕は、勝ったのかと、そのまま斧を落とし、大の字に寝転がった。
 いつの間にか、空には満天の星が輝いている。

「健斗さん、大丈夫ですか」 ビッチが大きな胸を押し付ける様に圧し掛かってきた。
「健斗をこんなにして、この蜘蛛、こうしてやる」フェンは力尽きた蜘蛛神の腹に蹴りを入れ始めた。
「やめろ。死者を甚振るような真似はするな」

「だれが死者じゃ。妾はもう動けぬが、ちゃんと生きておるぞ」
 SPがゼロになって死んだと思っていたが、確かに塵になってはいなかった。

「そうじゃ、妾をお前の女にせぬか。お主なら、性奴隷にでもなんでもなるぞ」
「ははは。蜘蛛神様を嫁にできるなんて、嬉しい限りですが、遠慮させていただきますよ。亜人種とならならまだしも、蜘蛛の魔物とじゃ、セックスできませんから」
「そんなことを心配しておったのか。それなら、心配いらぬ。魔王の王妃をしていた時は、魔人形態で過ごしておったからな。魔人の女なら、存分にセックスできるであろう」
「アクネル様は、魔王の王妃だったんですか。それに人型にもなれるだなんて、驚きで一杯です」
「ちょっと、人型になれても、セックスはだめ。健斗とエッチしていいのは、ピッチと私だけだから」
「なら、妾は三号でもよいぞ。強い男の精子を蓄えると、身体か強くなる故な」
 おいおい、勘弁してくれ。
「ねぇ、三号って何。精子を蓄えるって、どうすればいいの」
 ビッチのフェンの質問攻めに苦しんでいるが、僕はこれからどうすればいいんだと頭がいたい。
 それに、こんなところを魔物に襲われたら、僕らは全滅だ。
 その時、天頂に流れ星が流れ、「頑張ってね、あなた」とフェイの声が聞こえたような気がした。

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