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第一章 のんびり異世界ライフをおくれるんじゃなかったのか

1-4 冒険者になりました

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 朝起きると、彼女が独りで、昨晩作り置きしていた治癒薬を小瓶に詰めていた。
 今は僕は服を着たまま、マットの上で、毛布をかぶって寝ているので、毛布を畳めば直ぐに働ける。
「寝坊しました。直ぐに手伝います」
「今日は、プリッツの街までいくから、その箱を荷台に乗せといて」
 荷台って何だろうと思って、扉を開けると、外に小型のリアカーの様な手押し車が置いてあった。
 折り畳み式になっているので、畳んで物置に隠してあったらしい。
 その荷台に、薬瓶がぎっしりと入った箱を載せることにした。
 でも、ずっしりと重い。箱一つで四十キロ近い重さがあり、その箱が四箱もある。
 それでも、頑張って載せていったが、「それ位、軽々と持てないなんて本当に情けないわね」とまた馬鹿にされた。
 事実、彼女の方が遥かに力持ちで、僕が必死になって運んだ薬箱を軽々と持ち上げて、最後の箱を積み上げた。
 
 朝食はおかずとスープだけで、蒸しパンやパンケーキ、麦飯、ジャガイモのガレットといった主食に当たるものがなかった。
 僕が調子に乗ってお代わりばかりした所為で、小麦、大麦、芋といった主食を作る材料を食べつくしてしまったらしい。四日前に買い出しに街に出かけたばかりだのに、また行商に行く理由は、僕の所為だった。
 それが分かって、申し訳なく思ったが、今日も残さず全て平らげだ。

 その後直ぐ出発したが、普段の四倍の荷物を積んでいるため、街道までの獣道や小道では、泥濘に車輪が埋まってしまったり、上り坂で、逆行しそうになって轢き殺されそうになったりと大変だった。
「かなり重いわね。こんなに沢山、運んだのはじめてだけど、積み過ぎたかしら」
 坂道を押しながら、彼女もそう口にしたほど、大変だった。

 リットへと続く街道は地面が固く、楽にはなったが、それでもかなりの道のりで、長い坂もあって、コバエの群れやスライムの群れに追いかけられて、大変だったことには変わりない。
 始めてスライムに出会ったが、最弱だと言われても、魔物は魔物だ。身体ごとアタックしてきて、何でも消化して食べてしまう。魔法に弱いらしいが、物理攻撃には強い耐性があり、顔なんかに取り付かれると、死んでしまうことだってある。
 初めてみたスライムだったので、可愛いと近づこうとすると「近づいちゃダメ」とフェイに怒られた。一匹だと思っていたが、傍に隠れていた仲間が次々と現れ、群れになって襲って来た。
 慌てて躓いて転び、一匹が僕の顔を面目掛けて、飛びかかってきた。その時は、死を覚悟したほどだ。
 間一髪のところで、フェイがナイフで防いでくれ、その後、バーナーの炎でやっつけてくれたが、敵討ちかのように、残りの五匹が襲って、なんとか必死に逃げ伸びたけど、こんな怖い体験は初めてだった。

 道中そんな苦労もあったが、三時間半を掛け、漸く、プリッツに到着した。
 この街はユークリッド王国の街の中ではかなり小さな町と言う話だが、人が沢山いて、活気があり、かなり大きな街だった。
 薬をいつも買い取ってもらっているという薬屋の前に荷車をとめ、荷台の箱を次々と搬入した。
「いらっしゃい」 四十歳位の店主が奥からでてきた。
「こんな若いツバメと一緒に暮らしてるんだ。今日はまた随分と多いな」
「まだ彼とは何もないわ。一週間前に拾って、面倒をみていただけ」
 まだ何もないと言ったので、僕と次のステップに進むつもりだということになる。
 二人の会話を聞きながら、僕は店の薬を見て回った。
 異世界語がネイティブに読めるのではなく、日本語の文字が書いてあった。やはりこの世界の言葉は日本語だった。一瞬どういう事だろうと考えてしまったが、深く考えても仕方がない。
 通貨単位は円ではなく、Gに二本の縦線を引いたもので、さっき通った店の店員の売り込み文句から推察するに、ギルと読むらしい。
 フェイが作ったらしい治癒薬や、万能毒消しが置いてあったが、治癒薬は1本で200ギル、毒消しは400ギルもする。この世界の通貨価値が分からないが、風邪薬が60ギルで売っているので、かなり高い金額だ。やはり高級品らしく、これを八十本も卸せば、かなりの額になり、十分すぎる食材が買えるなと安心した。

「健斗は、外で待っていて」
 僕も取引の仕方を勉強したかったが、仕方なく店主と売買交渉を始めた彼女を残し、外に出て、取引が終わるのを待つことにした。

 この街の人たちは、皆ロシア系の白人で、女性は皆色白だ。フェイ程の美女には出会わなかったが、綺麗な女性も沢山いた。
 そんな中、黄色人種で黒髪、黒い瞳は珍しいみたいで、皆が僕をじろじろと見てきて、恥ずかしかった。

 暫くして、沢山の空箱を抱えて、不機嫌そうな顔でフェイが戻って来た。
 しかも、一つの箱には、十本程の小瓶が残ったままだ。
「売れ残ったの?」
「ケントを見て嫉妬したのかもしれないけど、いつもの半値で叩かれた。断らずに抱かせてあげればよかったかな」
「ええっ」 枕営業を要求するなんて、信じられないエロ店主だ。
「冗談よ。そんなこと言う訳ないじゃない。大量に持ち込んだから足元見られただけ。嫌なら持って帰れと言われたけどね」
「他に卸せるような薬屋はないの?」
「あるんだけど、いろいろとあってね」
 聞くと、他に薬屋は三軒あって、そのうち一軒はこの店のライバル店で、その店には卸さない契約になっているのだそう。他の二軒に卸すことは可能だが、安売りの店で、高級治癒薬は扱っていないし、おそらく同じ程度の額でしか買い取ってもらえない。しかも、治安が悪い場所にあるから行きたくないという話だった。
「でも、普段の二倍のお金になったんだから、良いじゃない」
「良くないわよ。たったの二千ギルよ。この額じゃ、ろくなものが買えない」
 七十本も卸したのに、たったの二千ギルとは、売価からしておかしすぎる。普段も一本六十ギル以下で卸している計算になる。それを三、四倍もの値で売るとは、なんという悪徳商売してるんだ。
 次は、僕も売買交渉に立ち会って、フェイにもっと楽な生活をさせてあげようと決めた。

「なにか、買いたい物でもあったの」
「はぁ? あなたの装備一式に決まってるでしょう。これ以上、あなたをうちには置いとけないから、健斗は今日から冒険者として、独りで生きていくのよ。そのために、頑張って大量の薬を作ったんでしょう。でも、これじゃ、鎖帷子とナイフくらいしか買えないわね」
 昨日、僕がフェイに変なことしたからからかなとも思ったけど、毎日大量に薬作りしてきたので、初めから、僕の独り立ちを考えていたのだと結論付けた。
 僕は、彼女と二人でずっと生活する気でいたが、彼女にとっては僕がお荷物だったんだと改めて気づいた。

 その後に訪れた冒険者ギルドは、それなりに立派な建屋で、中も広く、待合所のような広い共有スペースもある。
 その窓口で冒険者登録に来たと話すと、冒険者登録用紙というのを渡された。
 フェイの言う通りに記載して、登録料の200ギルと共に提出し、僕はこの異世界の冒険者となった。
 無料ではなく、登録料を取られるとは思わなかったが、止むを得ない。

 因みに、登録名はケントで、役職はシーフだ。
 能力適正から、当初は剣術士で登録する予定だったらしいが、お金の関係で、剣や鎧は買えないので、ナイフ使いのシーフで登録した。
 シーフには俊敏性が必要で、鈍間な僕には向いていないと思ったが、創造性というトラップ製作能力はあるので、何とかなるのだとか。
 念のため受付嬢のローラさんにも、確認してみたが、初心者なら強い魔物とも戦わないから、シーフ位の方がいいと賛成してくれた。
 冒険者ランクを更新する際、職種を変更することも可能だそうで、剣や鎧が買えるくらいになったら、剣術士に登録変更すればいいとも教えてもらった。

 冒険者ランクを現わす鉄のネックレスを貰う際、ローラからここのシステムについて教えてもらえた。
 冒険者ランクはS、A、B、C、Dの五ランクあり、冒険者ポイントを貯めていくことで、冒険者ランクが上がっていく。
 冒険者ポイントは、クエストを熟すと獲得でき、受注したクエストに記されている獲得ポイントを討伐パーティー人数で均等割りして分配される。
 討伐達成は、クエストの達成条件に記されており、記載されている物をギルドに納品し、職員に納品完了を認めらた時点で達成となり、冒険者ポイント加算と、報奨金の支払いがなされる。
 報奨金の分配は、討伐パーティー内の裁量に任されていて、均等でない場合も多々あるらしい。
 冒険者クエストには、特殊クエストという冒険者指定型の非公開クエストもあるらしいが、ほとんどは掲示板に張り出されていて、冒険者ランクとは無関係に受注できる。
 だが、冒険者ポイントが高いクエストは困難度も高いということなので、それなりに強い冒険者とパーティーを組む必要があるということだ。
 パーティーメンバーの募集の仕方は、個人勧誘やクランというチームに加入する他に、コミュニテー掲示板に詳細条件を書いて掲示して募集する方法もあるらしい。
 だが、適当なクラン加入するか、個人勧誘して気の合う仲間を見つけるのがお勧めらしい。
 クランメンバー募集もコミュニティー掲示板に張り出してあるのだそう。

 受注に際しての注意としては、美味しいクエストほど、早いクエスト達成を心掛け、受注内容を知られないようにすること。
 受注して納品になった際、既にそのクエストが完了しているというクエストの横取りが有るのだとか。
 受注していても、先に納品したものに、クエスト報酬が支払われる。受注者が大怪我したり、死亡したりした際を考慮して、システムとしてはこうなっている。
 二重受注等の混乱が起きないように、受注済みクエストは掲示板から外すことになっているが、そのシステムを逆手にとって、受注者より先にクエストを熟し、報奨金を受け取ってしまう輩もいる。
 だから、困難度が低く報奨金の高いクエストは要注意で、受注の際、他の冒険者も掲示板前にいる時はいち早くクエスト完了しないとならないというわけだ。

 冒険者を襲撃したり、成果物を強奪したりすることもあるのかと訊いてみると、そういう事もあるのだそう。
 一応、そういう犯罪防止として、ペナルティーポイント制度というのがあり、犯罪が行われたと判断されると、そのものに犯罪度に応じたペナルティーポイントが加算され、蓄積ペナルティーポイントにより、賠償金支払い、受注一時停止等の制裁がある。最悪になると冒険者資格剥奪の厳しい制裁もある。
 だが、証拠を残さないように巧妙に犯罪を犯す要注意クランもあるという話だ。
 冒険者は、魔物と戦闘するだけでなく、そんな犯罪者からも身を守る様にしなければならなず、大変な仕事だった。

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