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102:ざまぁ・ラスト・プリンス

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 ――ゲスダーが最悪の海の魔物と融合し、数分後の旗艦の一室にヴァルマークは居た。

 彼の足元には多数の死体が転がっており、その中には船長の姿も見える。
 そして最後に残った、震える女性士官へ向き直ると、剣を向けて話す――。





「ひっぃ、殿下……どうか……お許しを」
「今から十分前の事だ。キサマはどこにおった? なぁ答えてはくれぬか?」
「そ、それは……」
「んん。聞こえないのか? ならその耳は要らぬな」

 言いワケがましいクズが。まずは剣を一振りし、女性士官ゴミの右耳を落とす。

「ぎゃあああああ!? お、お許しを!!」
「今からニ十分前の事だ。キサマは何をしておった?」
「ヴァ、ヴァルマーク様を案じておりました! ですから聖女が逃げ出さないように、私はあの娘の足に魔法を放って転ばせたのです!!」

「ほぉ……我が妹の足にか。ならキサマもその足を捧げてみよ!」

 骨を断ち切る鈍く硬い音がひびき、女性士官は口から泡を吹き倒れる。

「そもそもオレを見捨てた事で死罪確定だ、タワケめが!!」
「や、やめ、やめてくだギャアアアア!!」

 ヤメルわけがなかろうが馬鹿め。
 両目を剣で突かれた気分はどうだ? いや、まだ甘いな。さらにそれを押し込みコロス。
 みっともなく暴れおって下民が。

「フン、逆賊めが。どいつもコイツも役に立たない。ここからどう脱出する? クソ、なぜこうなった!? 俺は皇帝ぞ? アスガルド帝国の皇帝ぞ!? それがなぜこんな目に! それもこれもアリシアのヤツが、こんな島を見つけたから……ん?」

 剣を転がる死体へ何度も突き刺して苛つきを抑えていた時、背後の扉がきしみながら開く。
 そこを見ると、ゾンビに似た肉の塊が、這いずりながら部屋へと入ってきたのが見える。

「なッ!? なんだキサマは!! ひッひぃぃぃ」

 その肉塊は両手を死体へと伸ばし、それを口に似たナニカで喰らいつく。
 恐ろしい肉をすする音と、咀嚼音そしゃくおんにゾっとして尻もちを付き後ずさる。

 その音に気がついたのか、ゆっくりと手らしきモノをオレへと向けて来る。気色が悪すぎるぞ!?
 奥の部屋へと扉を開き、急いで鍵を締めてやり過ごす。

「な、なんなのだあの化け物は……だ、だれぞある!? オレを守れ! オレを守り、帝城へもどる事が出来たあかつきには、好きな褒美をくれてやるぞ! 誰ぞ名乗り出ぬか!!」

 返事を待つ事数十秒。
 威勢のよい部下の返事は聞こえず、それに苛立ち周囲を見渡すが、違和感を感じる。
 
 ここは先程まで下級兵がおり、その中から船長などを連れ出したのだ。
 ならば複数人がいていいはずだが、誰もオレの命に反応をしない。

 苛つきながら部屋のすみをよく見れば、兵士が集まっていた。そう……死体となって。

「あひゃああああ!? な、なぜ死んでいるのだッ?! 先程まで普通にしていたではないか!!」

 その一部がモゾリと動き、頭らしきものがムクリとオレを見る。

「ぬ?! 生きていたのなら返事をせぬか!! まぁよい、今すぐ脱出をするぞ! 付いて参れ!! だが向こうはダメだ、右の通路から脱出せよ!」

 そういいながら足を動かそうとするが、左足を誰かに掴まれて倒れてしまう。

「何や……ひぁあああああ?! き、キサマは船長?! なぜ生きてお……る?」

 よく見れば船長の胴体が長い。
 その先にあるのは、壁を壊して来た先程の白い肉片みたいなナニカだ。

 それに寄生されたのか、船長は虚ろな瞳でオレへと話す。

「でんが……一人で……逃げ……る……なんて……ゆるさ……ない」
「は、離さぬか馬鹿者がッ!!」

 クソ、化け物! 汚い手を離すのだ! なぜ皇帝の俺がこんな目に。
 何とか逃げ切り、次の部屋の扉へと手をかけた瞬間、先程の生き残りが覆いかぶさってきた。

「殿がぁぁ……ハラが減りました……」
「馬鹿者! 今はそれどころじゃ――ヒアアアアアアアア?!」

 左耳をそいつに噛みちぎられ、熱くぬるい感覚で痛み認識したときには、もう遅い。

「オ、オレの左耳がああああああ?! くそぉどけえええ!!」

 強引に押しのけ、なんとか廊下まで逃げる。

「ハァハァハァ……救命艇の場所までいけば……」

 途中であちこちから湧いてくる白い肉片に、左ふくろはぎを噛みちぎられ、さらに角を曲がった所で右小指を噛み砕かれ、ほうほうのていで目的地である、救命艇の格納庫へと到着した。

「ぐぅぅ……痛い。痛すぎる……皇帝に即位したら、禁軍を引き連れてこの恨み必ずはらしてやるッ」

 絶対にあの島は消し去ってやる。あのクソ生意気なガキも全部だ。
 だがまずはこの痛みを何とかしたい。クソクソクソオオオオオオ!!

「絶対に……絶対に許さん……ハァハァ……ん? あれは……アリシア!! この兄を救いに来たのか?!」

 救命艇の上にうずくまる、見慣れた聖女の証たる〝セイント・ローブの頭巾〟を被った娘がいた。
 そうだ。あれは紛れもないオレの最愛の妹、アリシア!!
 
 これで助かる! ヤツの戦闘力もさることながら、回復魔法は絶大だからな!!

「ハッハッハ! よく兄の窮地に駆けつけた!! まずはオレの傷を癒す栄誉をやろう…………どうした、なぜ黙っておる?」

 なんだ? むくれておるのか? ふん、生意気な。

「何をしておる、早くせぬか!!」
「…………」
「チッ、なればオレがそこまで行ってやるからありがたく思え!!」

 そう言いながらアリシアの元へと向かい、ヤツの眼の前にきた時にアリシアが静かに話す。

『今から十分前の事だ。キサマはどこにおった? なぁ答えてはくれぬか?』

 なんだ……どこかで聞いたことのあるセリフ……?

「キサマ! 兄にむかってなんと言う口を利く!! 兄上様と呼ばぬか!! それより早く直せ!! 痛くてかなわんのだ!!」
『今からニ十分前の事だ。キサマは何をしておった?』

 また何を言い出す? ん……まて、まてよ。これは俺が先程言った事か?

「いい加減にせぬかアリシア! なぜ俺が先程言った事を真似する?! 早く回復しろ!」
『……んん。聞こえないのか? ならその耳は要らぬな』

 フザケタ事を言うアリシアに、怒りのまま拳を叩き込む寸前、右耳に〝ざりっ〟とした音と共に、またもや暖かくぬめりとした感覚で気がつく。

 そして、そっと右耳をさわると、そこには歯型があり耳が無くなっていた。

「ぎゃああああああ?! あ、アリシアなにをッ――――ひぃあああああああ?! なんだキサマはあああ?!」

 そこに居たのはアリシアだった。
 が、髪は血管でできており、目は漆黒にくぼみ、衣服は無いが、セイントローブだけはかぶっていた。
 
 あの被り物に騙された?! 
 そう思ったときには既に遅く、アリシアの化け物は俺の体に喰らいつく。

「やめ゛え゛え゛! 痛た゛い゛痛た゛い゛痛た゛い゛痛た゛い゛痛た゛い゛!!」
『兄上様兄上様兄上様兄上様兄上様兄上様兄上様兄上様……』
「おねが……ギャアアアア?! 腕をちぎるなああああああ!! ごふぉ……ノ……ド……が……」

 い、息が出来ぬ?!
 この仕打ちは何だ?! こんな化け物にオレは喰われるのか?!
 いやだ、いやだ、死にたくな――――――。



 船倉にひびく生々しい咀嚼音そしゃくおんで、俺は喰われている事に恐怖しか感じれない。
 一秒が一年に感じるほどに長く辛い苦しい時間。
 それをどうする事も出来ず、オレは次第に痛みに耐えきれなくなり気が狂う事しか出来なかった。
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